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第十話 クロネ

ルーリ様、今度は何を始めたんですか…?

「さぁ、目覚めるが良い。そして、私の為に働くのだ」

ルーリの言葉を聞いた『彼女』は目を開け、恭しくお辞儀をした。

その様子を見て、ルーリは断定する。

「…ふむ。成功と言って良いだろう」

「はっ。さすがはルーリ様。完璧にございますな」

ルーリの傍で『成功』を喜ぶネクロ。

その時『彼女』は言葉を発する。

「初めまして、私のご主人様~。畏れながら、お名前を伺ってもよろしいでしょうか~?」

綺麗な高い声。甘ったるく間延びした喋り方。ルーリが自分の主であるということをきちんと認識しているようだ。

「私の名はルーリ。お前を造り出した魔術師だ」

「教えて頂きありがとうございます~。ルーリ様、私は貴女様に絶対の忠誠をお誓い申し上げます~」

どうにも締まらないが、一応機能しているのでルーリはこのままいくことにした。

「畏れながら、ルーリ様~。私の名前はなんと言うのでしょうか~?」

「えっ、名前…?」

「親が子に一番最初に与えるのは名前だと存じております~」

どうやらルーリのことを自分の主であり親だと思っているらしい。

「お願い申し上げます~。私に名前を下さいませ~」

「名前か…。全然考えてなかった」

ルーリは『名付け』の概念を持っていなかったので、物凄い難題にぶつかったような顔をして腕を組む。

「ルーリ様にも苦手な分野があったとは知りませなんだ。…しかし、私にも名前(こたえ)は思い付きませぬ」

ルーリと彼女のやりとりを見ていたネクロも『隠遁』のローブの下で難しい顔になる。

「…そういえば、こいつを造る時、お前の血を分けてもらったよな?」

ルーリは製造過程を思い出しながら言う。

「はっ。先日、貴女様に所望されて献血致しましたが…まさかこの為だったのでございますか!?」

「ああ。出来れば黒魔術も使えるホムンクルスを造りたいと思ってな、お前の血を混ぜた」

「!!!???」

あっけらかんと話すルーリに対し、頭を抱えるネクロ。

「だから髪の色と目の色がお前と一緒なのかな…?外見のデザインをしたのも私だが、目の色とかは決めてなかったしな…」

実際、彼女はネクロと同じ藍色の髪、藍色の瞳を持っている。

その時、

「ルーリ様ぁ~お名前を下さいぃ~」

待ち兼ねた彼女が名前を催促する。

さっきよりもかわい子ぶってる感じがする。

「あざといホムンクルスですな…」

ルーリの『子』を叱るわけにもいかず、ネクロは呆れて見ている。

「…分かったよ。決めたよ。だから愚図らないでくれ」

ルーリは駄々っ子を宥めるように彼女の頭を撫でると、

「待たせて悪かったな。…お前の名前はクロネだ」

とても偉そうにそう言った。

「何やら、私と似たものを感じるのですが…」

ネクロは小声で呟くが、クロネは可愛い声で返事をする。

「ありがとうございます~。これより私クロネはルーリ様のお役に立つべく働かせて頂きます~」

「うむ。よろしく頼むぞ、クロネ」

「は~い」

こうして、ルーリの造ったホムンクルスことクロネは流転の國の一員になった。

「それにしても、可愛いと思わないか?ネクロ」

「その格好は…ルーリ様の趣味にございますか?」

「ああ、そうだが?」

「そうですか……」

クロネは身長160cm。髪を縦ロールにし、フリルやリボンといった装飾が施されたピンク色のワンピースを着ているが、年齢的には少女ではなさそうだ。

ルーリ曰く「年齢は19歳くらいで、顔はネクロを参考にしながらデザインした美しくも可愛らしい女性」を目指したらしい。声に関しては「甘く優しく綺麗な高い声」という設定だが、喋り方までは決めていなかった。

…ていうかルーリさん。「綺麗な高い声」の持ち主といえばマヤリィだし、ネクロの顔を参考にしたのなら必然的にマヤリィにも似ているということになりますよ。

「喋り方はともかくとして、可愛らしい声だな」

「ありがとうございます~。しかし、喋り方に関しては私の力では変えられません~。お許し下さいませ~」

「お前が気にすることではない。設計したのは私だからな」

「お優しいお言葉に感謝致します~。ルーリ様、貴女様を愛することをお許し下さいますか~?」

「ああ、勿論だ。今夜はお前を部屋に連れて帰ることにしよう」

すっかり『マヤリィ似』のクロネが気に入ったルーリ。

「ル、ルーリ様…クロネ殿を連れて帰る…のでございますか…!?」

ネクロは思わずクロネに嫉妬した。自分の方がルーリと長く一緒にいるし、自分はルーリの側近だし、どう考えてもホムンクルスより黒魔術師のが偉いのに…!

「何か問題でも?」

「いえ…問題はございませぬが…」

「ならば良いではないか。クロネは目覚めたばかりゆえ、どんな行動を取るか分からないからな。この私が責任を持って見張ることにする」

「はい…」

それにしても、クロネはルーリには話しかけるが、ネクロには全く興味を示さないというか眼中にないようだ。

今更ながらそれに気付いたネクロは、

「ルーリ様。畏れながら、クロネ殿にご挨拶申し上げてもよろしいでしょうか?」

ルーリの前に跪き、許可を求める。

「ああ。そういえば、お前の紹介がまだだったな。話しかけて良いぞ」

わりと大事なことなのに、ルーリも忘れていたらしい。

ネクロは自分と同じ背丈のクロネに向き合う。

「お初にお目にかかります、クロネ殿。私はルーリ様の側近を務めている黒魔術師のネクロと申します。これからよろしく頼みますぞ」

するとクロネは、

「初めまして、ネクロ様~。よろしくお願い致します~」

とても簡単に挨拶を終えた。

「なぜかは分かりませぬが…調子が狂いますな…」

ネクロはあまりクロネと仲良くなれない気がしてきた。

「あ、それと、ネクロ様~」

「な、何でございますかな、クロネ殿?」

クロネの方から話しかけてくるとは思っていなかったので、ネクロは次に何を言うのか期待した。

が、

「私のことはクロネ、と呼び捨てでお願いします~。もしくは、クロネちゃん、とお呼び下さいませ~」

そう言って上目遣いをするクロネ。

あざとすぎる。でも物凄く可愛いのも事実だ。

「か、畏まりました…」

ネクロはそれ以上何も言えず、黙り込んだ。

しかし、クロネにはネクロの心情など分かるはずもなく、ルーリに甘える。

「ルーリ様~。私は黒魔術を使えるのでしょうか~?」

「そうだな、お前次第といったところだ。ネクロの血が入っているから使える可能性は十分にあると思っているんだが」

初めて造ったホムンクルスに黒魔術を使わせようとするルーリ。

「ネクロ様の血ですか~?」

クロネはそこに反応する。

「では、ネクロ様は私の血縁者ということなのですね~?」

名付けの概念だの、血縁者だの、ルーリにもネクロにもよく分からない言葉を使うホムンクルス。

「血縁者…にございますか…?」

「だって~、私の身体にはネクロ様の血が流れているのでございましょ~?」

戸惑うネクロを一瞬で論破するクロネ。

「ということは、ネクロ様は私のお姉様なのですね~?」

「えっ!?」

「改めてよろしくお願い致します、ネクロお姉様~」

そう言って近付いてくるクロネ。思わず構えるネクロ。

(なぜこういうことになるのでしょう…?)

ルーリに目配せして助けを求めようにも『隠遁』のローブを被った状態では無理だ。

『隠遁』のローブは姿だけでなく、時に性別も年齢も曖昧にしてしまう。それに、ネクロは独特の喋り方だし声も低いから、初めて会った頃ミノリに「両性具有かと思ってた」と言われたことがある。

そう、何から何までそっくりなマヤリィとネクロを髪色以外で見分ける方法。それは、声だ。ネクロはうっかり素顔を見られマヤリィと間違われて困った時「よく聞いて下され。ご主人様は私とは全く違う、綺麗な高いお声をされていらっしゃいますぞ」と言ってその場を乗り切ったことがある。まだ、マヤリィが流転の國のご主人様だった頃の話だ。そして、その台詞を突き付けられたのは何を隠そうルーリである。

「ネクロとクロネが姉妹…。髪の色も同じだし、暫定だが魔術適性も同じ。なかなか良い設定だな…」

喜ぶクロネに抱き着かれて困っているネクロの横で、ルーリは満足そうに頷くのだった。

『宙色の魔力』を使い、ホムンクルスを生み出したルーリ。

悪魔種に属するルーリやネクロには『親』が存在しない為、名付けだの血縁者だのと言われてもよく分からなかったようです。

クロネと名付けられた彼女はネクロを若くしたような顔立ちであり甘く優しく綺麗な声をしているという設定で造られました。

髪型と服装こそ違うものの、ネクロよりもマヤリィに似ているといった方が正しいクロネ。

ルーリの心から完全にマヤリィが消えていないのではないかと思ったミノリの予想は当たっているかもしれません。

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