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第九話 ジェイの魔術具

「ジェイ様、先ほどから何を作っていらっしゃるのですか?」

流転の國のミノリから託された魔術書を広げ、何やら作業を始めたジェイにシャドーレが訊ねる。

「シャドーレ、君は流転の國にいた頃『念話』を使えたよね?」

「はい。最後に玉座の間に呼ばれたのもルーリからの『念話』を受けたからですわ」

そう言ってから、シャドーレは気付く。

「桜色の都に来てから一度も『念話』を使ったことがありませんわね…」

「うん。どうやら『念話』を発動するにもそれなりの魔力が必要みたいだね。しかも、あまりに遠く離れた場所からは届かないらしい」

つまり、シャドーレが今も『念話』を使えたところで、流転の國までは届かないのだ。

「…で、それをどうにかしたいと思ってさ」

一時的に魔力を失ったジェイだが、ミノリの魔術書と魔術具の力を借りて、少しずつ風系統魔術の感覚を取り戻していた。

「ミノリが作ったという『魔術師のシオリ』を活用すれば、僕でも『長距離念話』の為の魔術具を作れるんじゃないかと思って、今試してるところだよ」

ジェイは元々『空間転移』が得意なので、その上位魔術である『長距離転移』の術式を応用することで、遠く離れた場所に『念話』を送ることを目指していた。しかし、風系統魔術だけで『念話』を発動することは出来ないので、流転の國のミノリが作った『魔術師のシオリ』の力を借りている。これを使えば専門以外の魔術でも発動出来るという『魔術師のシオリ』。ジェイは使える物はなんでも使って、自分の手で一からマジックアイテムを作ろうとしているのだ。

「…それにしても、不思議な形の魔術具ですわね。耳に装着するのですか?」

ジェイが作っているのはワイヤレスイヤホン型の魔術具。

彼は元からこの世界にいたわけではなく、2024年の日本から突然『異世界転移』した人物なので、こういう形のマジックアイテムを思い付いたのだ。

出来たらインカムのようにしたかったが、ルーリや他の配下達にバレる可能性があると考えて、足りない部分は魔術で補うつもりで小さなワイヤレスイヤホンにしたのだ。

「これがうまくいったら流転の國のミノリと連絡が取れる。そうすれば、僕達が出来ることも今よりずっと増えるはずだ」

ジェイは話しながらも手を休めることはしない。

「…そうだ。君に聞きたいことがあったんだけど、使い魔って召喚出来る?」

「使い魔にございますか…。召喚出来ないことはございませんが、流転の國に行かせるとなるとなかなか難しいですわね。並の使い魔ではネクロ様の『魔力探知』に引っかかってしまうでしょう」

ネクロは時々、流転の城の最西端で『魔力探知』を行っているという。それによって不穏な気配を察知した場合、すぐに主に知らせることになっている。マヤリィが最高権力者だった頃からそうだった。

「…ジェイ様、少し出かけてきますわ」

シャドーレは何かを思い付いたように席を立つ。

「どこに行くの?」

「レイヴンズクロフト家の書庫にございます。実家に併設されておりますので、有用な魔術書を見つけたら叔母様に言って借りてきますわ」

「…分かった。気をつけてね」

ジェイは彼女の母親もまた黒魔術師だったことを思い出す。結婚後は魔術師としての活動を禁じられたそうだが、今シャドーレが使っている長い槍の形をしたマジックアイテムを作った人物であることを考えると、書庫に黒魔術書を遺していった可能性は十分に有り得る。

「黒魔術書か…。このシオリを使えば、僕も黒魔術が使えるのかな…」

流転の國のミノリが作った『魔術師のシオリ』を見ながら、ジェイは休憩もせずに魔術具の作成を続けた。


「…ミノリ。これを耳に装着して、邸から少し離れたところで待機していてくれないか?魔術の実験をしたいんだ」

とりあえずワイヤレスイヤホン型のマジックアイテムは完成したが、シャドーレが帰ってこないので、ジェイはメイドのミノリに実験の協力を依頼した。

「不思議な形の魔術具にございますね…。付け方は…これで合っていますでしょうか…?」

「うん、大丈夫そうだ。君が邸を出て五分経ったら、僕はこの魔術具を通して話しかける。…もし、十分以上経っても何も聞こえてこなかったら帰ってきてくれ」

ジェイは自分も魔術具を装着しながらミノリに指示を出す。

「畏まりました、ジェイ様。…行って参ります」

ミノリはお辞儀すると、すぐに邸の外へ出た。

(ジェイ様は話しかけるとおっしゃっていたけど…こんな不思議な魔術は初めてだわ)

桜色の都には『念話』を使える者はいないし、その魔術の名前すら知られていないので、ミノリ嬢は半信半疑でジェイの言葉を待つ。

そして、

《こちらジェイ。ミノリ、聞こえるか?聞こえたら返事をしてくれ》

「きゃっ…」

突然頭の中にジェイの声が響いてきたことに驚くミノリ。

《聞こえないか…。失敗かな…》

『念話』を繋いだまま独り言を呟くジェイだが、

《あ、あの!ジェイ様…!》

ミノリ嬢の慌てた声が聞こえてきた。

《こちらミノリにございます。お返事が遅くなりまして申し訳ありません。ジェイ様のお声は確かに聞こえました》

《本当?僕の声、はっきり聞き取れる?》

《はい!お隣にいるかのようにはっきり聞き取ることが出来ます。お邸から随分離れたというのに…不思議でございます…!》

ミノリ嬢の言葉を聞いて、ジェイは嬉しくなった。

《よかった!実験成功だ!ありがとう、ミノリ。そのまま帰ってきてくれ》

《畏まりました、ジェイ様。…えっと、この魔術は何と言うのですか?》

《これは『念話』だ。『念話』を使えば、今みたいに離れた場所にいても話が出来るし、簡単に連絡を取り合える》

ジェイの説明を聞きながら、ミノリ嬢は邸に帰ってきた。

「ジェイ様…!『念話』とは、とても素晴らしい魔術にございますね…!」

ミノリ嬢はジェイの顔を見るなり、目を輝かせてそう言った。

「うん。すごく便利だよね。ここでは使えないかと思ってたけど、君のお陰で発動することが出来たよ。本当にありがとう、ミノリ」

「とんでもございません!わたくしの方こそ、素晴らしい体験をさせて頂き、感謝しております…!」

その後、ジェイはこの小さな魔術具を流転の國に届けるにはどうしたらいいか考えを巡らせるのだった。

『異世界転移』する前は現代日本で働いていたジェイ。彼は手先の器用な理系人間でした。

この世界では風系統魔術の使い手であり、高度な魔術に位置付けられる『空間転移』を容易く発動する力も持っています。

流転の國のミノリから託された魔術書や魔術具に頼っている状態とはいえ、一からマジックアイテムを作り出す才能がジェイにはあるようです。

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