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番外編 『クロス』の特別顧問

シャドーレがレイヴンズクロフト家の別宅に落ち着いてからしばらく経った頃…。

「今日は王宮へ行かれる日にございますね、シャドーレ様。国王陛下はどんなお話をなさるのでしょうか」

メイドのミノリがシャドーレに訊ねる。

最初はぎこちなかった彼女も今ではすっかり慣れ、憧れのシャドーレの傍で仕事が出来ることを喜んでいる。

「そうね…私にも予想がつかないわ。陛下にお会いするのも久しぶりだし…」

別宅の手入れが終わり伯爵夫人とともに王宮を後にした日から、ヒカル王には会っていない。

(この邸に来てから結構時間が経つのに、まだお二人は意識を失ったまま…。ルーリの禁術がそれだけ強力だということね…)

シャドーレがそんなことを考えていると、ミノリが数着の服を持ってきた。

「シャドーレ様、どのドレスになさいますか?」

「ド、ドレス…!?」

「はい。国王陛下に会いに行かれるのですから、お召し物は重要かと存じます」

確かにそれはそうだが、シャドーレはドレスを着ていく気などなかった。

「ミノリ、それはしまっておいて頂戴。この髪にドレスは似合わないわ」

桜色の都に来てから伸ばし始めた髪だが、まだアップスタイルに出来る長さではない。

結局、いつの間に誂えたのか男物の礼服に着替え、シャドーレは出かけていった。


そして、王宮。

「失礼致します、陛下」

「シャドーレ…!よく来てくれましたね」

そう言って嬉しそうな顔をするヒカル王。

「今日は貴女に頼みたいことがあって、来てもらったのです」

ヒカルはそう言いながら、礼服姿のシャドーレを眩しそうに見つめる。

「貴女のドレス姿も見てみたいですが、今日はその服装で来てくれてよかった。…実は、貴女を『クロス』の特別顧問に任命したいと思っているのです」

すぐに本題に入るヒカル。

「特別顧問、にございますか…?それはどのような…?」

「新しく作った役職です。本当は『クロス』の隊長に任命したいところですが、それでは貴女の負担が大きすぎる。無理のない範囲で、貴女の力を貸して欲しいのです」

ヒカルは言う。

「具体的にはまだ決めていないのですが、非常勤講師のような形で『クロス』の者達の指導にあたって欲しいと思っています。貴女が指導してくれれば、彼等のやる気も違ってくると思いますので」

そんなヒカルに、シャドーレは笑顔で答える。

「畏まりました。国王陛下直々のご命令とあらば、お断りする理由はございませんわ。謹んで『クロス』の特別顧問を務めさせて頂きます」

「本当ですか…?」

「はい。私自身もそろそろ訓練を再開したいと思っていましたので。…陛下のご期待に応えられるよう、力を尽くすことをお約束致しますわ」

「ありがとう、シャドーレ…!」

予想以上に早く引き受けてもらえたことをヒカルが喜んでいると、シャドーレが笑顔で言う。

「では、早速参りましょうか。陛下もそのおつもりだったのですよね?」

「えっ…」

「今日、ドレスを着てこなくて正解でしたわね。少し動きづらいですが、この格好なら訓練に参加出来るでしょう」

そう言いながらシャドーレが取り出したのは真っ黒な長い槍だった。ヒカルは思わず距離を取る。

「シャドーレ…それは…?」

「私の魔術具ですわ。ふふ、隊員達がどれほど腕を上げたのか、楽しみですわね」

先ほどとは打って変わって好戦的な表情を浮かべるシャドーレは、どうやら礼服のまま訓練所に行くらしい。別の服を用意させようにも、身長190cmの彼女に合う物を探すのは大変だ。

そして、ヒカルは逃げようにも逃げられなくなる。

「陛下、ぜひご覧になって下さいませ。全力で参りますわよ…!」

ちょっと待って、シャドーレさん。

貴女が全力出したらたぶん訓練所が崩壊する。

「失礼致しますわ!」

立派なマジックアイテムを携えたシャドーレが訓練所に現れると、隊員達が駆け寄ってきた。

「シャドーレ様!お疲れ様にございます!」

「ここにお越しになったということは…指導して下さるということですよね!?」

「よろしくお願いします、シャドーレ様!!」

(相変わらず騒がしいですわね…)

そう思いつつ、この空気が懐かしい。

シャドーレは皆の顔を見渡しながら挨拶する。

「先ほど国王陛下から『クロス』の特別顧問という役職を賜りました、シャドーレにございますわ。不定期という形にはなりますが、再び貴方達と一緒に活動出来ることを嬉しく思っています。これからよろしくお願いしますね」

訓練所にシャドーレの美しい声が響く。

そして拍手が沸き起こる。

「シャドーレ様、よろしくお願い致します!!」

「帰ってきて下さってありがとうございます!!」

隊員達の元気な声を聞いて、シャドーレは嬉しそうに微笑む。

「皆、やる気は十分のようですわね…!」

そう言って長い槍を構えるシャドーレ。

「さあ、どこからでもかかって来なさい!遠慮は要りませんことよ!!」

「はいっ!!」

その言葉を皮切りに、シャドーレに向かっていく隊員達。

しかし、数分後には一人残らず地面に倒れていた。

「手加減が必要だったかしら…」

白魔術の適性を持つヒカル王が順番に回復魔法をかけていく中、シャドーレは少し反省するのだった。

別宅に落ち着いてからしばらく経ち、ヒカル王直々に『クロス』の特別顧問という役職を与えられたシャドーレ。

その月給は王宮に務める貴族と比べても遜色ない額であり、自分達の生活は勿論、ミノリ・アルバの実家を支援してもまだ余るほどです。

ヒカルはシャドーレの窮状を知った時から、彼女を援助する為の方法を考えていたのでした。

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