第八話 あの日
時は遡る。
あの日、桜色の都ではちょっとした騒ぎがあった。
王宮の敷地内に突如として魔法陣が出現し、その中から三人の人間が現れたのだ。
(ルーリは…一応私に気を遣って『転移』させてくれましたのね…)
シャドーレはすぐにここが桜色の都の王宮だと気付いた。マヤリィとジェイと一緒に、ルーリの『長距離転移』を受けた直後の話だ。
見れば、マヤリィだけでなくジェイも気を失っている。
(そういえば『転移』の直前にジェイ様は…)
シャドーレはルーリの言葉を思い出す。
『「念の為、お前には禁術をかける。今、我々と話したことを全て『忘却』するがいい」』
(…ということは、ジェイ様もしばらくお目覚めにはなれませんわね…)
考えている間に魔法陣は消え、その場には意識不明の二人とシャドーレが残された。
「一体どこから現れたんだ?」
「物凄く大きい魔法陣だったぞ」
「い、生きてるのか…?」
王宮の敷地内ということもあり、次々に人が集まってくる。
(私がどうにかしなければ…!)
シャドーレがそう思って立ち上がった時、
「おや?貴女は…シャドーレ様ではございませんか?」
横から聞き覚えのある声がした。
シャドーレが振り向くと、ひと目で黒魔術師と分かる格好をした男性が立っていた。
「やっぱりシャドーレ様だ!ほら、私です。貴女様の後を継いで『クロス』の副隊長となったウィリアムでございます!」
そう言ってお辞儀する男性を見て、シャドーレは目の前が明るくなった気がした。
「ウィリアム…!ちょうどいいところに来てくれましたわね…!今、私は色々あって困っていますの。協力して頂けるかしら」
「はい!勿論です!」
二人が話し始めたのを見て、集まっていた人々は離れていった。
「急な話で申し訳ありませんけれど、急ぎ国王陛下に取り次いでもらうことは出来るかしら?今は貴方だけが頼りですわ」
シャドーレの言葉を聞いたウィリアムは笑顔で頷いた。
「はい!シャドーレ様がお越しとあらば、国王陛下はすぐにでもお会いになられるでしょう。私について来て下さいませ!」
「ありがとう、ウィリアム」
「とんでもないです!貴女様のお役に立てるなんて光栄にございます。…えっと、そちらの方々はご無事ですか?」
ウィリアムは嬉しそうに笑った後、意識不明の二人を心配そうに見る。
「意識を失っているだけのようですね…。しかし、このままにはしておけませんし、今から合流する『クロス』の者に………あっ!おーい!こっちだ!!」
何をしている最中なのかは分からないが、ウィリアムの後を追って数人の黒魔術師がやって来た。
「あ、貴女は…シャドーレ様にございますか?」
「お会い出来て光栄です!」
『クロス』の者達は皆シャドーレに気付くと嬉しそうに駆け寄ってくる。
何しろ彼女は精鋭黒魔術師部隊の中でも抜きん出た実力の持ち主であり、女性でなければ間違いなく『クロス』の隊長に抜擢されていただろうと言われる人物である。隊員達は皆、強く美しい彼女に憧れているのだ。
「話は後だ。シャドーレ様は何か事情があって王宮に来られたらしい。お前達はこちらの方々を保護して差し上げろ。私はこれから国王陛下に報告しに行ってくる」
騒ぎ出す隊員達にウィリアムは指示を出した。
「シャドーレ様にとって大切な方々だと見受けられるゆえ、くれぐれも丁重にな」
「了解しました!」
「こちらはお任せ下さい!」
それを聞いてシャドーレは安心した。『クロス』には知っている者が多くいるし、自分の名を出せば二人のことを丁寧に扱ってくれるだろう。
「皆、助かりますわ。ウィリアムの言う通り、お二人は私にとって大切な存在です。よろしく頼みますわよ」
「はいっ!!」
そして、シャドーレは久々に桜色の都の国王ヒカルと顔を合わせることになった。
「突然のことで誠に申し訳ございません、陛下。謁見をお許し下さり、感謝致します」
「そう固くならないで下さい、シャドーレ。私は貴女に会えてとても嬉しいのですから」
国王のヒカルはまだ18歳。
桜色の都が誇る最上位黒魔術師シャドーレを前にして、緊張しているのは彼の方である。
「では、聞かせて頂きましょう。一体、貴女に何があったと言うのですか?流転の國に行かれたと聞いておりましたが…」
「はい。確かに私は流転の國の主様にお仕えしていました。しかし、最高権力者が代わったことにより方針も変わり、私は桜色の都に帰ることを決めたのです。そして…」
シャドーレは流転の國から追放された者二人を連れて帰国したことをヒカルに話した。勿論、名前は伏せてある。
「…成程。では、そのお二人は意識を失ったままなのですね?」
「はい。追放される直前に禁術をかけられ、命に別状はないのですが、いつ目覚めるか分からない状態なのですわ」
シャドーレの話を聞くと、ヒカル王は少し考えてからこう言った。
「…シャドーレ。貴女の帰国をレイヴンズクロフト家に知らせても良いですか?」
「っ…私の実家に連絡するとおっしゃるのですか…?」
ヒカルの提案にシャドーレは動揺した。
「畏れながら、国王陛下。私は20年近く前に家を追い出された人間にございます。それ以来、一度も連絡を取ったことはありませんし、父が私を許してくれるとは思えません」
それを聞いたヒカルは驚いたように言う。
「貴女はご存知なかったのですね…」
「えっ…」
「貴女の父君であられるレイヴンズクロフト伯爵は数ヶ月前にお亡くなりになりました。そして、現在は彼の妹の配偶者、つまり貴女の叔父君がレイヴンズクロフト家の当主となっています」
「そう…だったのですか…」
シャドーレは思いもよらない話に驚いたが、すぐに頭を切り替える。
「…では、連絡をお願い致しますわ、陛下。今なら、再びシャドーレ・メアリー・レイヴンズクロフトと名乗ることを許されるかもしれません」
それを聞いて、ヒカルは微笑んだ。
「了解しました。すぐに連絡を取りましょう」
「有り難きお言葉にございます、陛下。なんとお礼を申し上げたら良いか…」
「貴女はこの桜色の都にとって大切な御方なのです。貴女の為ならば、私は援助を惜しみません。どうか、安心なさって下さい」
ヒカルは国王とは思えない言葉でシャドーレを安心させた。
「…それにしても、貴女が自分のフルネームを口にするとは思いませんでした」
返事を待っている間もヒカルはシャドーレと一緒にいた。
「先ほどはどうすべきかを考えるのに精一杯で…失礼をお許し下さいませ、陛下」
「いいえ、貴女は失礼なことなど何ひとつしていませんよ」
ヒカルはそう言って微笑むと、唐突に語り始めた。
「あれは、数年前のことでした。王室の書庫で調べ物をしていた私は、偶然、過去に王立魔術学校の学生が書いたという黒魔術の研究論文を目にしたのです。後で聞いた話によれば、その論文はあまりに秀逸だった為に書籍化され、王室の書庫に収蔵されたとのことでした。…私には黒魔術の適性がありませんので読んだところで理解不能だと思ったのですが、それを書いた人物の名を見て読んでみようと思ったのです。そして、いざ読み始めると、それこそ魔法のように内容が頭の中に入ってきました。お陰で、使役するのは無理でも、そこで得た黒魔術の知識を元に少しだけ『クロス』の活動について理解出来るようになったのです。…さて、私の知識の幅を大きく広げてくれたその研究論文を書いた学生が誰か分かりますか?」
「いえ…」
シャドーレはとても疲れていたので、いきなり長々と語り始めたヒカル王の話の答えまで頭が回らなかった。しかし、彼は話し続ける。
「答えは、シャドーレ・メアリー・レイヴンズクロフト。貴女です。私はあの論文を読む前から『クロス』の副隊長に憧れていたのですよ」
そう言われて、ようやくシャドーレは思い出す。
「魔術学校の研究論文ですか…。そんなこともありましたわね…」
「ええ。桜色の都最難関の魔術学校を首席で卒業した貴女は代々の国王に仕えるとともに、この国の危機を救ってくれました。さらには黒魔術師部隊を作り上げ、副隊長として活躍していた。幼かった私はそれをただ見ているだけでした。私に黒魔術の適性があったらどんなによかったことか。貴女の勇姿を見ながら何度もそう思ったものです」
桜色の都にはシャドーレに憧れる者が沢山いるらしいが、ここにもいた。
「ヒカル様にそう言って頂けるなんて、本当に光栄なことにございますわ。けれど、私はそんな大それた人間ではありません。社交界が苦手な代わりに黒魔術が大好きなだけの地味な娘でした。だから、父は私を追い出したのでしょう」
シャドーレは一瞬寂しそうな顔をした後、
「でも、それはそれでよかったのですわ。『クロス』にいた頃の私は伯爵家の娘ではなく大勢の中の一人の黒魔術師。ドレスを着て舞うのは苦手ですけれど、軍服で魔術具を扱うのは好きですから。…私は、この生き方を選んでよかったと思います」
『クロス』の隊員達の顔を思い浮かべながら微笑んだ。
そんな彼女を見て、ヒカルは訊ねる。
「シャドーレ。ずっと聞きたかったことがあります」
急に畏まるヒカルに、シャドーレは首を傾げる。
「何でございましょうか?それは、私に答えられることですの?」
ドレスは苦手と言いつつ、その優美な雰囲気は貴族の令嬢そのもの。
地味な娘と卑下しつつ、その美貌は誰をも魅了してしまう。
ヒカルもまた例外ではなく、こうして話している間も、気付けば彼女に見とれている。
流転の國のルーリにも劣らぬ美女。それがシャドーレである。
「お伺いしますわ、陛下。私に聞きたいこととは、何でしょうか?」
「それは…貴女の御髪のことです」
ああ、そのことね。シャドーレは思わず苦笑する。
「やはり、陛下も不思議に思われますか?私の…女らしからぬ短い髪を」
今のシャドーレは当然だが流転の國から『転移』した時のまま。
短く刈り上げたプラチナブロンドの髪は、桜色の都の者から見れば女性の髪型とは思えない。
「確かに、女としては有り得ない髪型ですわよね。陛下が気にされるのも当然かと思いますわ」
触れちゃいけなかったかな…という顔をしているヒカルに対し、シャドーレは優しい声で語り出す。
「貴方様はご存知ないかと思いますが、黒魔術師部隊の副隊長を務めるようになってからも私はずっと長い髪を保っていましたのよ。桜色の都において、女性が髪を長く伸ばすのは当たり前のこと。私もその常識に従っておりましたわ」
そんなに前のことではないはずなのに、長い髪だった頃が随分と昔に感じられる。
「切る前は腰を超える長さでした。訓練中は常に纏めておりました。それが普通ですよね?…けれど『クロス』の隊員達に囲まれている間に、羨ましくなったのですわ」
「羨ましくなった…?貴女が、ですか…?」
「はい。短い髪で軽やかに動く男性が羨ましくなりました。彼等を見ていたら、自分の長い髪が厭わしくなったのです。なぜ女であるというだけで髪を伸ばさなければならないのだろうかと憤りを感じたくらいです」
『クロス』の中で女性はシャドーレただ一人。愚痴を言い合える存在もなく、髪を切りたいという思いは募るばかりだった。
「で、では…貴女は自分の意思で断髪したというのですか…?」
「はい。理髪店に行くわけにもいかないので『クロス』の宿舎で切りました。勿論、鋏を取ったのは素人でしたが」
シャドーレは微笑みを浮かべながら話を続ける。
「それ以来、髪を伸ばしたことはありません。もはやあの者は女ではないと言われても構わないと思ったのですわ。流転の國でも、このように短髪を維持しておりましたの」
「そうでしたか…」
さすがに呆れられるかと思いきや、ヒカルは思いがけないことを言う。
「…やはり貴女は私の憧れの女性です、シャドーレ」
「えっ…」
「初めて貴女を見た時、その髪型を不思議に思ったのは事実です。でも、短い髪の貴女は本当に魅力的で……私は見とれてしまいました」
ヒカルは僅かに頬を染める。
「しかもそれが不慮の事故などではなく貴女が望んでしていることだったとは…。自分の意思を貫く女性って素敵ですね」
「一体何のお話ですの?陛下…」
「出来たら長い髪の貴女も見たかったけれど、そんなことも忘れてしまうほど貴女のその姿は美しい。…なぜです?なぜ、貴女は私を惹きつけてやまないのでしょう?」
若き王はすっかりシャドーレに夢中になっている。
いや、そんなこと言われたって…というのが本音だが、相手は国王。適当にあしらうことは出来ない。
「陛下、困りますわ…。こういう時、私はなんと言ったら良いか分かりませんの」
すると、国王は素直に頭を下げた。
「ごめんなさい、シャドーレ。貴女を困らせるつもりはありませんでした。ただ私は…憧れの女性を前にして、黙っていられる男ではないみたいです。…この際、言ってしまいます。王妃になる気はありませんか?」
若き王は姿勢を正して熱い眼差しでシャドーレに迫る。
しかし、シャドーレには王妃になっている暇などない。
「まぁ、陛下からそのようなお言葉を頂けるなんて、私はこの国で一番幸せな女ですわね。…されど、私は36歳。貴方様と釣り合う年齢ではございませんわ」
シャドーレがそう言うと、ヒカルは少し冷静になったらしい。
「そ、そうですか…。そうですよね…。貴女から見たら私はまだ子供。こういう立場に置かれているだけで、まだまだ大人にはなれそうもありません…」
そう言いながらも、ヒカル王はシャドーレが真面目に返事をくれたことが嬉しかった。
出来たらこのままずっとシャドーレと話をしていたい。
レイヴンズクロフト家からの返事は明後日くらいに届くといいな…。
とか思ってたら、ドアをノックする音がした。
「陛下、失礼致します。レイヴンズクロフト伯爵夫人がいらっしゃいました。一刻も早くシャドーレ様に会いたいとのことで、ご本人が直接おいでになりました」
「…そうか」
「すぐにお通しします。よろしいですね?」
「分かった」
ヒカル王の短い返事を聞くと、すぐにドアが閉まる。
「私も大人になったら…もう少し威厳とやらが出てくるのかな…」
日頃から周囲の者に支えられる形でなんとか国王をやってるヒカル様は少し弱気。
そんな彼に、シャドーレは優しく言う。
「ヒカル様。畏れながら、貴方様はもう立派な大人でいらっしゃいますわよ?私がもう少し若ければ、貴方様のお言葉に応えられましたのに…。残念ですわ」
今の言葉を素直に解釈した国王は少し元気になった。年齢が年齢なら、貴女は王妃になってくれたんだね。
「シャドーレ、私のことを真剣に考えてくれてありがとう」
まだまだ純粋な18歳である。
そんなこんなで今はレイヴンズクロフト伯爵夫人と呼ばれている叔母が貴賓室に現れた。しかし、シャドーレとはほとんど面識がない。
「シャドーレにございます。この度は突然のことで誠に申し訳ありません」
そう言ってシャドーレが頭を下げると、伯爵夫人はその手を取った。
「ああ、シャドーレ…!会えて嬉しいわ!こんなに凛々しく美しい女性になっていたなんて…!もしかしたらと思っていたけれど、黒魔術師部隊のシャドーレ副隊長とは貴女のことだったのね。お兄様に聞くに聞けなくて、今まで貴女を迎えてあげられなかったことを許して頂戴」
『クロス』にいた頃はフルネームを名乗ることはしなかったから、最上位黒魔術師として少し有名になった後も『シャドーレ副隊長』と呼ばれるだけだった。父親は薄々気付いていただろうが、それでもシャドーレの話は一切しなかった。だから、叔母も黒魔術師を目指すといった姪と同一人物かどうか、確認出来なかったらしい。
「本当なら貴女のお婿さんがレイヴンズクロフト家を継ぐはずだったのよ。それなのに、私が至らなかったばかりに貴女につらい思いをさせてしまったわ。ごめんなさい、シャドーレ」
そう言いながら伯爵夫人は涙を拭う。
「いえ、お気になさらないで下さい。父はとても頑固でしたし、私も許してもらおうとは思っておりませんでしたので、今まで連絡を取ることもなかったのです。決して叔母様のせいではございませんわ」
シャドーレの言葉を聞いて、夫人はようやく笑顔を見せる。
「ありがとう、シャドーレ。私ね、さっき王室から連絡が来た時、本当に嬉しかったの。貴女に会えるなんて思っていなかったもの。…不謹慎だけれど、死んだお兄様に感謝しなきゃね」
「叔母様…それは…」
シャドーレは苦笑するが、それが彼女の本心らしい。
「今の貴女の状況については少し伺ったわ。流転の國から追放された魔術師の方々が危機的な状態でいらっしゃるとか」
「はい。魔術の影響で意識を失い、今は別の場所で休んでいらっしゃいます。いつ意識が戻るか定かではありませんが、とても大切な御方ですので何とかして救って差し上げたいのです」
それを聞くと、夫人は笑顔で頷いた。
「そういうことなら任せて頂戴。今は使っていないのだけど、王宮からそう遠くない場所にレイヴンズクロフト家の別宅があるのよ。それなりに広さもあるし、安心して過ごせると思うわ。すぐに邸の中を手入れさせるから、好きなように使って頂戴。…ね、そうしましょう?」
「よろしいのですか…?」
「ええ。私は貴女を助けたい一心でここに来たのですもの。貴女と貴女の大切な御方の為なら何でもするわ」
そんなわけで、伯爵夫人は予想以上に早くシャドーレの居場所を確保してくれた。
そして、邸の手入れが終わるまで、シャドーレは王宮に留まることになった。
「すぐに作業を始めさせて、出来るだけ早く貴女を迎えにくるわ。それまで少しだけ待っていてね」
「何から何までありがとうございます、叔母様」
「いいのよ、シャドーレ。今まで何もしてあげられなかったんだもの。これからはいつでも私を頼って頂戴ね」
畏まるシャドーレにそう言い残し、伯爵夫人は帰っていった。
「シャドーレ、貴女の部屋を用意させました。今夜はゆっくり休んで下さい」
夫人が帰ったのを見計らって、ヒカルが声をかける。
「先ほど『クロス』の副隊長が来て、保護しているお二方のことは引き続き万全の態勢で守らせて頂きますと言って帰りました。意識不明の状態ではあまり動かさない方が良いと思いますし、今日のところは彼等に任せましょう」
「はい。ありがとうございます、陛下」
シャドーレはその場に跪き頭を下げる。
「…それにしても、陛下に言伝を頼むとは礼儀がなっていませんわね。明日、叱って参ります」
少し怖い顔になるシャドーレだが、すっかり連絡係になっているヒカルは優しく宥める。
「まぁまぁ、彼等も貴女が帰ってきてくれて嬉しいのでしょう。大目に見てやって下さい」
そんな国王を見て、シャドーレは言う。
「陛下…貴方様は優しすぎますわ」
その夜、ようやく部屋に落ち着いたシャドーレは、今日の出来事を振り返り、肝心なことに気付く。
(流転の國から追放されたのがマヤリィ様だと陛下が知れば、大騒ぎになってしまいますわね…。マヤリィ様のお顔を知っているのは陛下と一部の者だけのはず。…今更ながら『クロス』が保護してくれて本当によかったですわ)
結局、その後もヒカル王が追放された者の正体を知ることはなかった。
あの日、ルーリに『長距離転移』で桜色の都に送られたシャドーレは転移先が王宮の敷地内であることに気付きます。
そこで再会した『クロス』の隊員ウィリアム、18歳の若き国王ヒカル、そしてレイヴンズクロフト伯爵夫人…。
桜色の都には、シャドーレを助けたいと思う者が沢山いるのです。