第二話 転校生①
目が覚めた。息が荒く、心臓がまだバクバクしている。
見上げた天井がぼんやりと視界に広がる。
――夢……またあの夢だ。
中学の時の記憶が何度も僕を追い詰める。
声を失ったあの日のことが、心に重くのしかかる。
僕はベッドから起き上がり、制服に着替えた。
中学の頃のいじめをきっかけに、僕は声を出せなくなった。
誰とも話さない日々にももう慣れてしまった。
言葉がなくとも、日常はただ淡々と過ぎていく。
「行ってらっしゃい」
母は悲しげな眼でそういった。
僕が声を出せないことを、知っているから。
本当なら、元気に「行ってきます」って言いたかった……
外に出ると、少し曇った空が広がっていた。
歩き慣れた道をいつものように歩いて高校へと向かう。
学校にいても誰とも話すことはない。
僕にとってはそれが普通だ。
教室に入ると、みんなは一瞬僕に目を向けるが、すぐに何事も無かったかのように自分の世界へと戻っていく。
誰も僕に声をかけない。
僕ももう期待はしなくなった。
いじめも前より少なくなったけど、無視され続けるのもやっぱり辛い。孤独は変わらないままだ。
でも、この日は違った。
「おはよう!」
突然、明るい声が教室に響いた。
僕は驚いて顔を上げる。
そこ立っていたのは見たことのない女の子だった。
黒いポニーテールが揺れ、瞳が輝いている。
彼女は真っ直ぐ僕に歩み寄り、ためらうことなく話しかかてきた。