今日で、三九三四日
ドンっと突き飛ばされて転んだ。
何が起こったのか分からなくて周囲を見渡す。
その日は、その年最大の寒波でいてつくような寒さが頬をかすめていた。道につもった雪を踏みしめながら少女は上機嫌で道を歩いていた。カバンにお土産で買ってもらったクマのぬいぐるみが入っていたからだ。お父さんと、お母さんと手をつないで、道の真ん中を歩いていた。
「通り魔だ!」
「逃げろ!」
突き飛ばされた衝撃で少女は雪にうもれる。道に転がったクマと目が合った。その先で、お母さんが倒れていた。
「おかあ、さん……?」
立ち上がって、駆け寄る。お母さんの体を起こそうと、伸ばした手に、べと、と生ぬるい感触がした。
見ると、真っ赤な血が、手にべっとりとついていた。
「おかあさん! おかあ、さん!」
動かないお母さんの身体を揺さぶる。腹部から、ドクドクと血が流れだしていた。
「おかあさん! おかあ、さん……!」
そこからは。あまり覚えていない。
救急車が来るころには、お母さんは冷たくなっていて、流れ出した血が、雪を赤く染めていた。
これが、お母さんとの、最期の思い出だ。