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4食目 アンジェリカ、ばっちゃの教えに従う


 秋です。



 実りの季節です。



 生粋の料理好きにとってこよなく待ちわびたこの季節、アンジェリカはシュトラールに誘われて朝市を訪れていた。



 流石実りの季節。いつにも増して活気づいた中を、『はぐれないように』と言う大義名分を得たシュトラールに手を引かれながら歩く。

 一見お忍びデートな状況だが、アンジェリカの瞳はまさに狩人だった。



「さあさあ、朝採れのリンゴにぶどう。ひとカゴ600ゴルドだよ!

早いもん勝ちだ、買った買った!」


「リンゴの皮に浮かぶ斑点、きゅっとした裏のくぼみが若干茶色かかってまさに食べ頃……!

はい!ふたカゴずつください!!」


「あいよっ、お嬢さん目利きだな。

きっぷの良い別嬪さんにはサービスだ!」 


「おじさん最高です!ありがとうございます!!」




 買ったばかりのリンゴを布で磨いてピカピカに光らせている彼女の姿にくすりとシュトラールが笑みを零す。

 例の『冷凍食品』とやらの研究が行き詰まっている様子だったので気晴らしにと誘ったが、どうやら正解だったようだ。



「アンジュが楽しそうで私も嬉しいよ。

どれ、せっかくだし食材だけではなくあちらのパンや菓子の販売エリアにも行ってみないかい?」


「またまた〜、ラルったら何言うんです?

食べちゃったら競りという戦場に出遅れちゃうじゃないですか」




 おまけの青りんごとマスカットまで貰ってほくほくのアンジェリカが、僅かながらに婚約者と食べ歩きをしてみたいシュトラールの提案を笑い飛ばし。

 その眼光が次なる獲物を捉える。



「ラル!次は栗です、お一人様ひと袋だそうだから分かれて並びますよ!!」


「私も並ぶのかい!?」



 『当たり前ったい!』と返事が聞こえた頃には、アンジェリカは激戦に向かう御婦人の大群の中へと飛び込んでいて。



 彼女の期待と笑顔にめっぽう弱いシュトラールは、意を決して人生初の叩き売り現場に突撃したのであった。















ーーーーーーーーーーーー

 そんな朝市デートの翌週、クランペット邸の厨房にて。

 色々と買えた旬の食材を調理しながらもアンジェリカは悩んでいた。



 まずひとつ。

 魔法基礎の授業で魔法コントロールはかなり上達してきたのに、未だに食材の中心まで凍らせる方法が見つかっていないこと。


 2つめは、先日の朝市でアンジェリカ好みのきのこがひとっっっつも買えなかったことだ。

 いや、 『買えなかった』だけならばまだいい。


 そもそも売ってすら居なかったのだ。


 しいたけも!


 えのきも!


 舞茸も、しめじも、皆大好き国民的キャラクターとして一世を風靡したなめこさえ!

 くまなく市場を回ったにも関わらず無くて、藁にも縋る思いでシュトラールに聞いてみた結果がこちら。



『きのこ?たくさん売っているじゃないか。

マッシュルームにポルチーニ、トリュフや……あぁ、モリーユなんてものもあるみたいだね』


『…………そうじゃなか!!!』




 結局アンジェリカの渾身の叫びは、残念ながらシュトラールには届かなかった。


 しかも両親に聞いてみた所、これまで鰹節もどきやなんちゃって海苔の仕入れに一役買ってくれていた東の異国にさえ該当するきのこがないと言われて。

 可哀想なアンジェリカは心底絶望……など、するわけがなかった!




『いいかぁ陽菜、山ってのは神様が生き物にくださった恵みの宝庫だでなぁ。

正しい知識と山神さまへの敬意ば身につけて登らば、なんらかのお恵みをいただけるもんだ』



(任せてばっちゃ!

陽菜はきのこ汁の旨さばこっちにも広めたるったい!)



 まさかアンジェリカの前世のばっちゃ(祖母)も、孫娘が異界の貴族になってまできのこ狩りに勤しむことなど想像だにしていなかったに違いないが。



 それを唯一突っ込めるであろう親友の凛は今ーー彼女の隣には居ないので、仕方ない。



 翌日、『どんな世界でも山は山、見つかるまで探せば良い』と手製のもんぺにほっかむり姿で屋敷を出ようとしたアンジェリカに両親は卒倒し、ミゲルは全力で制止した。




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