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3食目 開かれてしまった扉



「な……っ、な…………何故君がここに居るんだ!!!」



 生徒会室全体に響いたミゲルの叫びにシュトラールは面食らい、リリアナは頭を抱えた。 


 リリアナを見据え口をぱくぱくと動かすミゲル。

 表情だけを見れば怒りと動揺に見えるが、うっすらと頬に朱が差しているのに気がついた。


 同時に頭を過ぎる、いつかのミゲルとの雑談。


 

 あれは確か、彼が療養地の学術院にてとある平民の娘に負けてしまい嫌味をふっかけたら返り討ちにあったと言う話ではなかったか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『負けてない!首位に並ばれただけだ!!』


 喧嘩を売ったことは否定しないのか、と苦笑しつつも、話の続きを促した。


『それで、その優秀なお嬢さんと君はどうなったんだい?』


『それが、店仕事があるからと相手にもされなくて……。無理矢理引き止めたら、張り手を喰らった』


 その言葉に、頬杖をついていた肘がテーブルからずり落ちる。


『……え?町娘が?』


『あぁ』


『いや、別に身分で差別する気はないんだが。初対面で?』


『うん』


『国内でも有力な学者も務める学術院の広間で……本気の張り手?』


『とてもいい音が響いた』


『そ………れ、は、流石に君も驚いたろう』


『びっくりした。12年の人生の中で2番目にびっくりした出来事だった』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それはそうだろう。


 それ以外のコメントが一切しようのない話だったので記憶の隅に追いやってしまい、今の今まで忘れていたことをシュトラールは後悔した。



「あ、あー……どうやら既に面識があるようだけど。

ホストとして改めて紹介させてもらうよ」



 まずは、と固まっているミゲルの背中をシュトラールが軽く叩いて正気に戻す。


「まずミゲル、彼女は今学期より特待生として編入したリリアナ嬢だ。

当面は学内で不便のないよう私とアンジュが共に行動する予定になっている」


「あっ、あぁ……成る程。

学園長の決定と仰るなら受け入れよう」



 流石は生粋の公爵令息。

 思うところはあるだろうがそれを感じさせない笑みを浮かべ、リリアナ嬢に向き直ったミゲルだったが。



「……ふんっ」


「「ーっ!?」」



 リリアナ嬢の方はなんと、ミゲルを横目に見てからあからさまに顔を背けてしまった。


 びっくりして顔を見合わせた男二人だが、気を取り直して自己紹介を続ける。



「リリアナ嬢、彼はミゲルーーミゲル・クランペットだ。

学園長からあなたのサポートを任されたアンジェリカの兄君だよ」


「ーー……よろしくお願いします」



 一応ペコリと頭は下げたものの、大変不服そうなリリアナ。


 蔑むとまではいかないがしっかりと『嫌い』が滲む美少女の眼差しに、ミゲルの背筋にぞくりと何かが走る。



「きっ、君は、僕のことは覚えていないのか」


「えぇ、全く。

私、自分より有能な殿方にしか関心がありませんの」


「それは暗に覚えている証明にならないか!?」



 食い下がるミゲル、かわすリリアナ。


 これは面白いとしばし観察に回ったシュトラールだったが、すぐにそれを後悔する羽目になった。 


「一応あの時も名乗ったろう!?

そう言えば王都に戻ってきた頃に何通か文を出したが返事も来ていなかったと記憶しているが!」


「あら、こんなしがない町娘に天下の公爵令息様がですか?

人違いだと思いますよ」


「〜〜っ強情だな!

今改めて会ったのも縁なのだからこれを期に貴族の後ろ盾を得たいとは思わないのか……っ!?」



 焦れたミゲルがリリアナの肩を掴んでしまい人生2回目の張り手を喰らったのは、僅か3分後の事だった……。

 








 赤くなった頬に手を当てて茫然自失のミゲルを見下ろし、リリアナが片手で自身のツインテールを払う。



「一度対面してるしご自身の方が身分が高いから私が媚びへつらうとでも思いました?

お生憎様、私……男の庇護で宝物扱いされるより自身で宝を掴み取りに行きたいの」




    『可愛げない女でごめんあそばせ』




 はっとやたら格好いい笑い方で鼻を鳴らしたリリアナが立ち去り、ピシャリと閉まる扉。


 それを呆けて見送っていたシュトラールだったが、ハッとなり未だに倒れたままのミゲルの正面に駆け寄る。



「ミゲル、大丈夫かい!?

すぐに冷やしたほうが……、ミゲル?」



 あまりに様子がおかしいと顔を覗き込んで、後悔した。

 普段から鋭利なミゲルの瞳に、嫌に甘ったるい"何か"がしっかりと灯ってしまっている。



「殿下……いや、ラル。

僕はどうやらおかしくなってしまったようだ」



 『リリアナ嬢のことを思うと、胸の高鳴りが収まらない』



 熱に浮かされた其の言葉に、シュトラールは膝から崩れ落ちた。



(……っ!

とうとう開ききってしまったか……!)




 シュトラールがこれまで幾度かに分けて閉鎖を試みたミゲルの新たな扉は、この日。


 フラグのへし折りを狙ったリリアナの塩対応が鍵となり、完全に開いてしまったのだった。
















 一方其の頃、アンジェリカは。


 うっかり手を滑らせミゲルの気に入りの茶碗(シュトラールの手作り)を落して割ってしまった。




「あーっ!やっちゃいました……兄様とラルが帰ってきたら謝らないと」



 金継ぎしたら使えるかな、と散らばった破片を拾っていくその手がぴたりと止まった。



「ありゃ、面白い割れ方してこの破片ーーハート型になってる」





 もしかして、何かの啓示か?




 ……などと察する能力が、こののんびり屋にあるわけもなく。



「これ以上割れないように避けとこ。

さてと、記念すべき暁味噌でのお味噌汁の具は何にしましょうかね〜」




 まさか兄の未知なる扉が開かれたなどとはいず知らず、至高のみそ汁作りに思いを馳せるアンジェリカであった。






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