1食目 転生ヒロインは悪役令嬢とお近づきになりたくない
「ついにこの日が来ちゃったわね……」
チュートリアル画面で幾度と見た華やかな門構え。
液晶越しに見ていた時にはテンションが上がったものだが、今のリリアナにとってこれは地雷原へと続く死の門でしかない。
脳裏を過ぎるのは本来の入学式だった春の日に、阿修羅が如く怒り狂っていた悪役令嬢の姿だ。
「攻略対象とのフラグは王子2人以外軒並み折ってあるけど、あの悪役令嬢も要注意だわ。
極力関わらないようにしないと!」
目指すはノーマルエンドのみ!
フラグはまとめてカマドにポイよ!!
そう意気込むリリアナの前を、公爵家の馬車が颯爽と駆け抜けていった。
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一方こちら、アンジェリカやシュトラールの通う高位貴族向けの学習クラスの教室。
普段通りに席につくなり、二人の料理研究議論が始まった。
急速冷凍、中心温度帯、自由水と結合水。
漏れ聞こえる単語の意味はさっぱりだが、齢11の頃より我が国の食文化、並びに魔道具技術において革新的な発見と発明を重ねてきた実績のある二人だ。
だからきっとまた新たな素晴らしい『何か』を生み出そうとしているに違いないと、周りは皆聞き耳を立てつつ密かにワクワクしているのだ。
そんな中、出欠の為に現れた教師がもう一つ新たな好奇心の種をこのクラスへと連れてくる。
「おはようございます皆さん。
絶好の学習日和ですが、出欠確認の前に本日よりこちらの学舎に特待生として入学する生徒を一名ご紹介します」
『お入りなさい』と促され開かれる扉。
「はい、失礼いたします!」
ふわりと2つ結いにしたクリーム色の髪を揺らして現れた少女の愛らしさに生徒達はざわめき、アンジェリカは。
(今日は魔法の授業の時に冷気を圧縮して閉じ込められるような技術の前例がないか先生に聞いてみよーっと)
るんるんと内心鼻歌交じりで、冷凍食品の明るい未来に思いを馳せていた≒転入生にただの一欠片も関心が無い様子で、一応顔だけをヒロインが立つ壇上へと向けていた。
(何よあの虚無顔……、やっぱりヒロイン参戦はお気に召さないわけ?
やっぱり本人と王子たちへの接触は極力避けて反感買わないようにしましょ)
アンジェリカとしてはただ口元が緩まない様に口角をきゅっと締めて、先生に怒られないようただ真面目なフリをしていただけだったのだけど。
『いいかいアンジュ、料理のことを考えている時の君の笑顔はとても魅力的だ。
しかし、いずれ人々の上に立つ身として何かに真剣に向き合わねばならない場では凛とした表情を出来るようになってもらいたい』
『隙のない立ち居振る舞いと言うのはいざという時、自身や我が家の格を守る鎧となるからな。
間違っても外で誰彼構わず趣味話をしたりそのふやけた笑顔を向けてはいけないぞ』
『そう言うものなんですか〜。
郷に入っては郷に従えですね、練習してみます』
入学前にこのような会話が行われていただなんて、当人たち以外には知りようも無いわけで。
シュトラールとミゲルが公爵令嬢の最低ラインとして仕込んだその一見冷たく見える『アンジェリカ卵の殻モード』。
加えて現在のアンジェリカの脳内が冷凍食品開発以外なにも考える余地がない状態なこと。
更にはとどめのリリアナ側の『地雷、駄目、絶対』の違い。
三つの条件が重なってしまった今、ここに前世より同じ世界に転生した親友達の壮絶なすれ違い劇が始まった!
果たして彼等は平穏な学園生活を送ることが出来るのか?
ゲーム開始前にヒロイン本人によりフラグ10本中8本がへし折られた状態という前代未聞の最中。
新たな日常が始まった。




