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9膳目 完璧王子は愛しの彼女に人間を辞めないでもらいたい

 もう皆様既にご存知だろうが、この世界にも冷蔵庫はある。

 魔石のついた荷台を使えば食材の保冷運搬も可能だ。

 更にアンジェリカが転生して以降は、彼女の要望を叶えるシュトラールがあれやこれやと料理関連の発明と文明開化を重ねてきた為に今やその点だけ見れば先進国であると言えるだろう。


 しかし、だ。

 そんな万能発明家ーーならぬ、万能婚約者シュトラールでも目的を果たせなかった技術がひとつあった。

 それが、食材の冷凍保存技術である。



「はぁっ!」


 アンジェリカがテーブルに並べられた様々なカットフルーツに冷気を浴びせると、ものの十数秒でパキパキと音を立て凍りついた。

 昨日属性が判明したばかりだとは思えない腕前だ。

 まだ半日の鍛錬だけであれだけのターゲットを正確に全面凍りつかせる事が出来るだなんて、天才かもしれない。

 しかし、アンジェリカ曰く『こうじゃないの!』とのことだ。


「綺麗に凍っているように見えるが……、何が駄目なんだい?」


「ちょっと見てて」


 アンジェリカは問いかけてきたシュトラールの前にまな板を出し、今しがた凍らせたばかりのマンゴーをナイフで切ってみせた。


 シャリッと言う音がした後、ナイフは綺麗にまな板まで落ちて。アンジェリカが少し刃先を動かせば、断面から柔らかいままの果肉が現れる。


「食材を凍らせて保存する目的は何よりもまず"鮮度の維持"!

それなのに芯が凍ってないんじゃ内側だけ美味しくなくなるし、なんなら腐っちゃうんですよ」


「あぁ、成る程ね……」


 力説するアンジェリカの指さす半冷凍マンゴーをぱくり。

 表面だけ薄く凍って歯ごたえがあり、内側はとろりと柔らかい果肉を楽しめる。

 レストラン等でパフォーマンスに出すには味も良いし華やかで良さそうだが、これが彼女の望むものでないことは理解した。


「もっとじっくり冷気を浴びせるか、氷の魔力で充満させた容器などに食材を入れて芯まで凍るまで待てば良いのでは?」


 ひょいと顔を覗かせたミゲルの言葉に、アンジェリカがわかってないなと人差し指を揺らす。


「美味しい食材を美味しいまま凍らせるには!

冷凍一瞬解凍じっくり!!」


 『はい、復唱!』と言われ、なぜか休日なのにクランペット邸にまたまた呼ばれてしまった三馬鹿と一緒に皆でアンジェリカに続いた。


「で、これは何の騒ぎです?」


「あぁ、いらっしゃいピール。実はね、先日の授業でアンジュの適性が氷だったと判明しただろう?」


「あぁ……そうでしたね。流石は名家と評判のクランペット家と言うべか、聖堂丸ごと凍りつくとは恐れ入りました。

自分は風属性でしたが、会場全域に行き渡る様な魔力量には程遠かったです」


 苦笑いしつつ三馬鹿①≒ピールが近場のリンゴを風で切り刻む。可愛らしい花形に飾り切りされたそれが皿にストンと落下した。


「「我々は電気でした。

2人で流れが逆らしくて同時に使うと面白いですよ」」


 手のひらを合わせて双子、ビスコとサブレが小さな電流を出すとそこにパチパチと火花が散った。


「3人とも、良い力に恵まれたようだね。

話を戻すが、アンジュは自身の魔法を使って新たな食材の保存技術を開発したいようなんだ」


 『ほー』と感心したように3人が視線を向けた先で、アンジェリカは用意した食材の氷具合を順々に確認している。


「ベリー系の小さくて水分比率が高めの食材なら今のやり方でも芯まで凍ってるけど、上から下へ凍りついてるから既に離水しててこれじゃあ溶かしてもジャムにしかならないな……」


 自由水がどうやら、結合水がこうだの。

 細胞を破壊しない冷凍にかけられる時間は何分までが限界か、冷凍出来たとして梱包は何を使えばよいかなど。


 またきっと新たな技術の開発に必要な事なのだろうと判断し、シュトラールはアンジェリカの独り言の内容を分かりやすくノートにまとめていく。


「もし実現出来たら我が国の食料自給率は格段に上がりそうではあるけれど……」


「う゛〜〜〜ん………!」


 やはり、食材の魅力を損なわないままに凍らせるというのは不可能に近いようだ。


「アンジュ、あまり根を詰めすぎずにね。

まずは学園で基礎的な面から学びを深めて、応用するのはそれからにしないかい?」


 ぽんと背中を叩かれ、半溶けの苺を生クリームにつけて食べながらウンウン唸っていたアンジェリカは納得したように頷いた。


「それもそうだねぇ。

何事も基礎基本はなにより大切だし。

順序を守って鍛錬を積めば、私自身がショックフリーザーになれる日も来る筈……!」


 青々と澄み渡る空を見上げ瞳を輝かせるアンジェリカは可愛い。


 可愛いーー……が。


(『ショックフリーザー』とはまた、アンジュの発明したい道具の名称かな?)


 それが何かは、シュトラールにはわからない。


 しかしながら、生き物ではないことは間違いないだろう。


 将来の伴侶たる女性には、ぜひとも人間のままでいてもらいたい。


 アンジェリカの人外化を断固として阻止すべく、シュトラールの目下の目標が異世界版ショックフリーザーの開発になり。


 なんだかんだで腐れ縁となった三馬鹿がその研究に巻き込まれる羽目になったことはーー、クランペット家と彼等だけの秘密なのであった。










「シュトラール殿下は苦労が絶えない方だな」


「「一度ご迷惑をおかけした我々が言えた立場ではないですよ」」


「はは、違いない。

……それにしても、前期からこれでは夏休み明けには更に殿下の気苦労が絶えなくなりそうだ」


 三馬鹿のリーダー、ピールの言葉に首をかしげる双子。

 そんな2人に、彼は先日訪れた港町で耳にした噂話を囁いた。


「なんでも夏明けから、ある平民の少女が特待生として入学するらしい。

その彼女の指南役として殿下とアンジェリカ嬢が任命されるのではないかと、学園の一部でも専らの噂だとさ」


 そうなんですか〜と、あまり興味が無さそうに双子が返していたその頃。


 実家の店裏でお握りを堪能していたリリアナが2回くしゃみをしたことを、アンジェリカはまだ知らない。







ーーーーーーーーーーーー

ここまでお読みいただきましてありがとうございます(◍•ᴗ•◍)

以上で2章まではおしまいです、次章からヒロイン参入編に入ります!



長らくお休みしていたのに読んでくださる方が居てくださって嬉しいです^^

感想、評価等いただけますとより励みになります(。・ω・。)ノ♡










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