表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

8膳目 アンジェリカ、冷凍文化を開拓す

「ごげんようアンジェリカ嬢、朝から申し訳ないがこちらのレシピの"適宜"の意味を伺っても良いか?」


「適宜は適量と違って入れても入れなくても良い物に充てがわれる単語ですよ〜。

入れる前に味見してみて、ちょっとずつ足して好みのタイミングで止めると良いです」


 唐揚げに置けるレモン位のポジションです、とのことだ。唐揚げって何だ。


「煮物とやらのページにある"ひたひた"と"被るくらい"とは何が違うのだ……!」


「"ひたひた"が中の食材のギリギリ上くらいの水位、"被るくらい"は平らに整えた食材のラインから1〜2cm高いくらいだと覚えておくと便利ですよ」


 わざわざ鍋に私の魔術で出させた水を入れて実演して見せるアンジェリカ。その鍋はどこから出したんだい?


「塩でよく書かれている"ひとつまみ"と"少々"は?」


「使う指の違いですね。

ひとつまみが親指、人差し指、中指の3本指でつまんだ量。

少々は親指と人差し指の2本で摘んだ量です」


 後日試しに測ってみたらひとつまみが1g程度、少々は0.5gほどであった。こんな些細な違いでも味わいが変わるとは、料理とは奥が深い世界だ。


 それにしても、彼等はすっかり料理の楽しさにハマってしまったらしい。

 

 初日に食堂で料理をひっくり返していた姿の方が夢だったのではと疑ってしまうほどに、毎日のようにアンジュに教えを請いに訪れている様はまあ、微笑ましい。


 ーー……しかし、だ。


 壁掛けの時計を横目に見て、私は重たい腰を上げた。


「ピール、サブレ、それにビスコも、いい加減にアンジュを解放してくれないか」


「「「殿下!」」」


 3人の輪の中から肩を掴んでアンジュを己の胸元に抱き寄せる。

 私の機嫌を察し青ざめた彼らに反し、きょとんとした当の本人はと言えば『どうしたの?お腹空いた?』との反応だ。やれやれ。


「今日は初の魔力適性検査の日だろう。

皆、そろそろ支度をしないと間に合わないのではないかな?」


 検査は特殊な魔道具を用いて聖堂で行われるので、1年生は開始前に移動が必要なのだ。


      『だから、早く行け』


 そう視線で促してやると、3人ともささっと荷物をまとめて立ち上がる。


「さ、左様ですね。失礼いたしました!」


「「お邪魔致しました!!」」



 煙を巻き上げ爆速で走り去った彼等を見送り、アンジュは不可思議そうに私の顔と彼等の去った方向を交互に見比べていた。



「あぁに無碍にせんでも……」


「たとえ個人的なわだかまりは消えたとて、彼等は政治的にはダズルの派閥だ。

まだダズルは学園に入っていないからこそ、線引きはきちんとしないとね」












ーーーーーーーーーーーーー

 学園で使われている測定用魔道具は水晶型で、術者が込めた魔力に応じて適性のある力が顕現して目視できると言うものだ。


 顕現した魔力の派手さで概ねの魔力量も予測がつくが、軍が使う物に比べればその辺りの判定は雑な方だろう。


「次!シュトラール殿下!」


「はい」


「ラル、頑張れ〜」


 小声でアンジュから応援を貰って、つい上がった口角を誤魔化すように大きく息を吸う。

 私が翳した水晶から青色の炎が舞い上がり、周囲を揺らして天井ギリギリで消えた。


(大分抑えたつもりだったけれど危なかったな、当たらなくて良かった)


 ワッと歓声を上げた生徒たちの合間を通り、拍手しているアンジュの手を取った。


「次は君の番だね」


「はーい。私もラルと同じ炎系だったらいいなぁ」  


「はは、そればかりは調べてみないとね。

さぁ、行っておいで」


 きっと彼女の中では


 炎魔術≒熱を操れる→→→いつでも熱々のご飯!


 と言う式が出来上がっているに違いないが。


(同じ属性では、私が彼女から頼ってもらえる範囲が減ってしまうからね)


 ぜひとも違う属性で頼みますよ、創生神様。


 そう聖堂の像に私が祈った為かはわからないが、アンジュの込めた魔力は一瞬で聖堂内をすべて(※人以外)凍り付かせたのであった。


「ーー……は?」


 辺りから悲鳴が上がり、教師たちが大慌てで解凍を試みるが今季の1年生の担当には生憎炎使いが居ない。


「変な欲をかくものではないね……」


 自分の軽率な黒い欲望に後悔した私が凍りついた世界を正常に戻しきった頃、例のごとく妹のやらかしを聞きつけ怒鳴り込んできたミゲルの姿に最早笑うしかない我々だった。



「アンジューッ!!!」


「あら、兄様」


「あらじゃないが!お前と言う子はまた皆様方にご迷惑を……!

誠に申し訳無い!」   


「いいえ、今回のはこう言った強魔力の生徒に初めて魔力を使わせる際のリスクを軽んじていた学園側の落ち度でもありますから。

頭をお上げくださいミゲル様」


「そうですよ。騒ぎはすぐにシュトラール殿下が解決して下さったのだから大丈夫でしょう。

それにこれほどのお力、きちんと鍛錬を詰み使いこなせるようになった先が実に楽しみです」


 『アンジェリカ嬢の適性は氷、汎用性の高い良い属性ですな。貴方様はどんな方向に磨かれたいですかな?』と、魔術授業の主任に尋ねられたアンジュは天使のように可愛く笑った。


「冷凍食品を作りたいですねぇ」


 またまた知らない単語すぎて、今度は空気が凍りついた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ