第四百二十二話 たった一つの殺意
伊万里の姿が、目の前にあった。俺と同じく髪の色が変わり、白銀の髪は、壊れかけた世界の中で美しく輝いた。そして瞳は、以前の日本人特有のものとは異なり、色素が抜け落ちたかのように淡く、透き通っている。
その瞳に覚悟が宿っていた。身に纏っているのは、俺が馴染みのある伊万里の金ピカの派手な甲冑ではない。白い生地に緻密な金の刺繍が施された法衣のような装束で、その表面を光の筋が走っているようにも見えた。
勇者らしく肩に羽織ったマントは、流れるようなラインを描いてギガノス大陸が完全に消失した大海の上で風になびいた。髪飾りは五弁の花びらを象っており、伊万里の持つ本来の可愛さがその部分にだけあるように見えた。
腰に差した大きめの剣は、鞘まで流麗な意匠が施されている。
以前の伊万里を知らない者が今の伊万里を見れば、神話に出てくる女神のような美しさに、心奪われたに違いない。神勇者と呼ばれる存在が放つ、周囲の環境にまで影響を与えそうな圧倒的なプレッシャー。
「結構待ったよ。祐太、ずいぶん時間がかかったんだね」
外見がこれほど変化したのなら、いっそ何もかもが変わっていれば楽だったのに。聞こえてきたのは、いつもの伊万里の声だった。しゃべりだすと、纏う雰囲気すら昔の彼女のままであるように思えてしまう。
俺は、軽く笑いながら答えた。そうすればこのまま元の日常に戻るんじゃないかと思った。
「ごめん。さすがに今のままじゃ戦いにならないと思って、ちょっと強くなりに行ってたんだ」
「簡単に、そんなに強くなるの? 私、ここまで来るのに結構苦労したんだけどな。祐太はすぐに追いついてきすぎだよ」
伊万里が年相応の女の子の顔をする。その中で俺は伊万里を見つめた。
「伊万里。他の人の話も聞かず、少し暴走気味だって聞いたよ」
「そうじゃないんだけどな。祐太から見て、私ってそんな風に見える?」
「どうだろうな。でも、少なくとも俺のことをずいぶんと心配してくれているのは伝わったよ」
語りかけながら、俺は右手を虚空に伸ばす。【黄泉孵りの卵】で神の力を宿したとしても、それを十全に振るうための武器がなければ意味がない。【黄泉孵りの卵】は武器を作るものではない。だから武器はないのかと思っていた。
しかし、心配は杞憂だった。この卵は、呼び出した魂に合わせ、その者——酒呑童子がかつて愛用していた専用武器の魂まで呼び戻す力を持っていた。俺の手にあった【炎帝・羅刹】と、酒呑童子が振るっていた【百鬼夜棍】。
二つの武器が混ざり合い、収束していく。そして、俺の右手に一本の刀が姿を現した。
【羅鬼】
酒呑童子のレベルが圧倒的に高いため、棍棒に近い形になるかと予想していたが、現れたのは紛れもない刀だった。
《羅鬼の見た目は、ちょっと意外だ》
《主様がすべてを制御するのです。ならば、主様にとって最も扱いやすい形になるのは必然でしょう》
ヨミが淡々と【意思疎通】を返してくる。刀と言うけれど驚くほど幅広で、刃渡りは羅刹の倍近くあるように見える。
鈍く光る刀身には、黒い炎が宿っている。決して消えることのない地獄の業火――触れたものすべてを灰になるまで焼き尽くす、呪いの炎……。
「祐太が幸せなら私はそれでいいと思うくらいには、心配してるよ。……今もね」
伊万里が、その手に一振りの剣を握り締めた。白銀の、目を焼くほどに清浄な輝きを放つ剣だ。
【エクスカリバー……ですね。機械神が創り出した、その時代における最強の勇者にのみ与えられる究極の『破壊装置』と言われています。それはガチャから出さずとも常に最強の勇者のそばにあると】
ヨミがその長い年月を生きてきた知識を披露する。最強の勇者は白蓮様だと思うが、あの神様はきっと機械神に死ぬほど嫌われてそうだし……。ガチャから出す必要すらない、称号に付随する専用装備。
【機械神に選ばれた証であり、『絶対切断』の権能を宿しています。その刃が通り過ぎた後は因果ごと断ち切られ、いかなる再生能力も無効化される。そして、悪神や女神に与する者に対する『絶対悪殺』の特性も備わっています】
【つまり?】
【掠りでもすれば、主様は死にます。肉体はおろか魂すらも残さない一撃となりますので、くれぐれもお気を付けください】
ヨミの話を聞きながら伊万里とも話す。ずいぶん器用なことができるようになったものだ。
「心配している相手を、殺すのか?」
「うん。でも、私も一緒に死んであげる」
「それは……どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ」
「理解できないまま戦うのは、避けたいんだけどな」
「それなら、私がローレライから教えられたことのすべてを、今から祐太に伝えてあげる。いい?」
その言葉が響いた直後だった。ヨミの声が、先ほどよりも鋭く脳内に響く。
【主様。東堂伊万里より、膨大な情報量の【意思疎通】が送信されています。戦闘中にこれほどの大容量を直接受け取れば、脳に深刻な過負荷が生じる恐れがあるため、一時停止しました。私の方で検閲・圧縮してから、主様に転送する形式を取ってもよろしいでしょうか?】
その提案を聞き、俺は改めてヨミの有用性を噛みしめる。【黄泉孵りの卵】には、単なる力だけでなく、膨大な知識に基づいた高度な戦闘サポート機能まで備わっているようだ。
【それでいい。『お前の話を聞く役割の俺』を用意するから、そこに流し込んでくれ。必要以上の検閲は不要だ。伊万里が俺に伝えたいことは、過不足なく受け取りたい】
【畏まりました。私はあくまでアイテム。主様の命令に従うまでです】
そうして、俺の意識の奥底へ伊万里の【意思疎通】が、執拗に送りつけられる大量のメールのように流れ込んできた。視界に浮かぶのは、白い僧衣を纏ったローレライという男。
出口のない聖勇国という檻の中に囚われてしまった伊万里の孤独。頼れる相手などどこにもおらず、彼女は自分を閉じ込めた張本人であるはずのローレライに頼るしかなかった。
結果としてどうしても伊万里はローレライと話すことが増えた。その中で、伊万里が幾度となく、執拗に聞かされた話がある。それは、
『六条祐太を殺さねばならない』
という言葉。
『あなたの愛する人は、殺さねばならない人なのです。彼を殺さねば、世界を壊したという消えない大過を彼に背負わせ、永遠に死ぬことすら許されずに生きていくことになる。六条祐太はそういう宿命の下に生まれており、これはもはや動かすことのできない決定事項なのです』
『バカじゃないの? そんなの私の知ったことじゃない。私は、たとえ世界がバラバラに壊れたとしても、祐太を殺したりなんて絶対にしない』
『おお、なんということだ。あなたは実に冷酷な人だ。愛する人の永遠の苦痛を、自分の一時的なエゴのために無視し続けるというのですか? 私の言葉が嘘ではないと勇者であるあなたはわかるはずだ!』
【勇者の特性ですね。勇者は邪悪な欺瞞に惑わされないよう、『虚実を見抜く』スキルを宿しています。機械神からの祝福を受けた極めて強力な権能であり、格上の存在が弄する策であっても、その言葉に宿る真実の重みまでは隠せません】
【じゃあ……あの言葉は事実ということか?】
今更、その事実に打ちのめされることはなかった。そんなことはずっと前から知っていたことだ。その答えを見つけるために、俺は日輪へ向かったのだから。そして、答えを得るための努力はもう一人の俺に託してある。
【左様にございます】
【あっさり認めるんだな】
【事実を判断し、道を選ぶのは主様の領分。アイテムである私が犯すべき領域ではありません】
【……それは、まあ確かにな】
それでも、桜千なら、もう少し甘い嘘を混ぜてくれただろうかと考えてしまうのは俺のわがままか。割り切っているこの心にでも、正論よりも温かな慰めが欲しくなることもある。
そんな俺の内心を察したのか、ヨミが言葉を継ぎ足した。
【ただ、主様。語られる内容が『真実』であっても、それが結末として『嘘』になるケースも存在します】
【真実が、嘘になる?】
【情報を与える発信者自身が、何者かに騙されている場合です。その場合、勇者のスキルは『発信者が本気でそう信じている』という事実を肯定してしまい、結果として誤った方向へ導く罠となり得ます】
【ローレライ自身が、より上位の存在に踊らされている、と……。確かに、あり得ない話じゃないな】
ただ、俺も理解している。ローレライの言葉は完全なデタラメではない。
紅麗様や白蓮様といった存在たちも、それは真実だと言っていたのだから。
俺はさらに、伊万里の記憶を見つめた。
『世界が崩壊する。これを「どうでもいい」と切り捨てるには、あまりに事態が大きすぎる。そうは思いませんか? 伊万里、あなたはもっと冷静になり、大局を見るべきだ』
『気安く名前を呼ばないで。だいたい、世界が壊れるなんて保証はどこにもない。それなら私は、壊れない方に賭けるわ』
『もし壊れてしまったら、誰が責任を取るのですか? 崩壊した後で戻せと言っても、壊れたものは戻らないのですよ。その時、あなたの愛する者の隣には、怨嗟に満ちた無の世界が広がっているだけだというのに』
『別に……それでもいい……。私は、それでもいいのっ!』
時間は無慈悲に過ぎ、伊万里の反論は次第に勢い失い、追い詰められていく。実際のところ、たった一人の人間のために世界全体を崩壊のリスクに晒すなど、狂気の沙汰だ。
俺自身そう思うし、伊万里だって現代日本で普通に生きてきた女の子なのだ。数え切れないほどの命が消えることを『それでもいい』と言い続けるのは、本来の伊万里の優しい心にはあまりにもつらいことだった。
【随分と陰湿で、虫唾の走るやり方ですね】
ヨミに表情があるならば、今はひどく眉根を寄せているに違いない。そんな声だった。
【言えてる。でも、ローレライも彼なりに世界を守ろうと必死だったのかもしれないな】
【そのような甘いお考えは困ります。主様は、ご自身を殺そうとする相手を、許すべきではありません】
【……それも、一理あるな】
思考を整理する。世界を犠牲にしてまで自分が生き長らえるべきだとは、微塵も思っていない。俺にはそんな価値はない。それは100も承知だ。それなら、いっそ死んだ方がマシだ。その結論は、ずっと前から持っている。
そしてその全てはもう一つの俺が確かめてくれるはずだ。
ただ、俺がこの場でしなければいけないことがある。それが、もし伊万里の背後に“嘘つきの神”がいて、俺の死後も伊万里を縛り続けるというのなら。世界を壊してでも、俺はその元凶を排除したかった。
『世界が崩壊した後も、六条祐太は生き続ける。ルルティエラ様の手によって、永遠に“生かされ”続けるのです。愛する者たちが自分のせいで死に絶えた世界で、独り。それでもなお、彼にその地獄を味わわせたいと?』
『そうならないように、すればいいんでしょ!』
『あなたはまだ、ダンジョンの理不尽さを理解していない。よもや、ルルティエラ様という絶対者に一瞬でも抗えると?』
『じゃあ私が祐太を助けるもん!』
『面白い。それはなかなか面白いジョークです。とても笑えますよ。たかが私一人が張った結界すら打ち破れぬあなたに、何ができるというのですか!』
『そんなの、知らない! でも、私は祐太を殺すなんてできないっ!』
伊万里の言葉が、明確に変わってきた。最初は『殺すこと自体が馬鹿げている』と端から相手にしていなかったのが、今は『自分には辛すぎてできない』という、個人の感情の問題にすり替わっている。
それは、伊万里の中で『俺を殺すことがやむを得ない手段である』という認識が、毒のように回ってしまった証拠だった。皮肉にも勇者のスキルが、ローレライの言葉を信じさせる手伝いになった。
【主様。この少女が勇者のスキルを過信し、誤解している可能性があるのなら、それを説いてあげるべきではないでしょうか。『あなたは騙されているのだ』と】
【……おそらく、それは無意味だよ。伊万里は俺よりずっと賢い。俺が気づくようなスキルの特性に、伊万里が気づかないはずがないんだ。伊万里にとって、俺を殺すことへの抵抗感は、自分が殺される以上の激痛だったはずなんだから】
【主様……】
これは自惚れではない。
伊万里は、何があっても俺への愛を捨てたりはしない。俺がそうであるように、伊万里もまたそうなのだ。伊万里だって必死に、俺を殺さずに済む方法を探し求めたはずだ。
その過程で、ローレライが勇者のスキルを利用している可能性を考慮しなかったはずがない。
【すべてを知った上でも、結論を覆せなかったと】
【おそらく、な。勇者のスキルは、俺たちが想像する以上に、残酷なまでに“正解”を突きつけるものなんだろう】
【……嘘と真実が、真の意味で見えていたというのですか。主様、どうか、お心を強くお持ちください】
常に冷静沈着なヨミだったが、その声には隠しきれない動揺が混じっていた。主人の幸福を第一にプログラムされた人工人格にとって、この事実は受け入れがたいものなのだろう。
『機械の心と侮らないでいただきたい』
人工人格……そんなことを考えていると、桜千にまた叱られそうだ。俺は最後まで、伊万里が送ってきた【意思疎通】をしっかりと見た。その間、伊万里は微動だにしなかった。
ただ、俺が伊万里の辿った地獄をすべて見届けるのを、静かに待っていた。
だから俺は、時間を止めたような静寂の中で、ゆっくりとそれを見た。
そして最後のページ。
『私が祐太を殺してあげるしかないんだ……』
その言葉を、彼女が絶望の果てに自らの意志として口にするのを、俺はこの目で確認した。
「……ちゃんと全部、確認できたよ」
しゃべりながら俺は背後の空間を歪ませ、十門の銃を構築した。マークさんの精密な銃撃特性と、酒呑童子の理不尽なまでの破壊力を融合させた、純然たる質量破壊兵器。門数が多すぎれば機動の邪魔になる。
ゆえに一番理想的な十の銃身は、鋭利でスマートな形状をしていながら、大地すら容易に貫通する威力を秘めている。ステータスには、その名が刻まれていた。
【十神】
武器といい称号といい、この段階に至るといちいち名前が大袈裟になるものだと、場違いな考えが頭をよぎる。
「そっか……。でも、それでも戦うんだよね?」
伊万里が静かに俺に確認してくると同時に、伊万里の背後にも何かが現れた。一つは黄金の翼を広げ、金髪碧眼を輝かせる者。二つは黒髪に三つの瞳を宿し、異質な威圧を放つ者。三つは水色の髪をたなびかせ、周囲に清浄な水を纏う者。
それぞれ三色の装束を纏った女たちの姿に、俺は強い既視感を感じた。
「……嫌なものを出してくるな」
「祐太が一番、殺されて納得のいく相手を選んであげただけだよ」
その姿は、クリスティーナ、ミカエラ、そして迦具夜そのものだった。それぞれが伊万里本人に匹敵する神気を放っている。だが、その瞳に意志がないのが見れば分かる。
「三人の力をそれほど引き出しておいて、よく抑え込めているな」
「彼女たちの感情は完全に消去してあるから。代わりに私が彼女たちを操るの。神勇者の専用スキル【絶対支配】――これを使えば、造作もないことだよ」
「……伊万里」
「祐太。大丈夫、私も後でちゃんと死んであげるから……一緒に行こう?」
これから始まるのは殺し合い。それでも伊万里は、日常の延長線上のように喋った。
「……少しだけ待ってくれるか」
「どうしたの?」
戦う直前だというのに、いつもの伊万里みたいに、素直に俺の言葉に耳を傾けた。
「この聖勇国の人たちが、俺たちの戦いに巻き込まれるのは、さすがに不憫だ。この調子だと、どれだけ世界を長持ちさせようとしても、もう手遅れなんだろう?」
「うん」
「なら、せめてできる限りの人間を【千年郷】に逃がしたい。それくらいは、いいだろ?」
この世界で知り合った冒険者ギルドのゼオンや、皇帝ホロス、ついでにバルガレオルの顔も思い出してやる。避難については事前に桜千にも用意しておくように話しておいた。正直とても気遣って戦える余裕はなかった。
今のこの体だからわかる。ギガノス大陸という巨大な大陸を失い、この世界はその喪失に耐えきれていない。美鈴たちがなんとか持ちこたえさせているが、本来そこまで強い世界ではない。
セラスが世界の管理者でありながらその役目をほとんど放棄してきたこともあり、このダメージは深刻なものになってる。そして何よりも大事な【中央管理球】を伊万里も守るつもりがない。
そこに俺たちというこの世界にすれば“行き過ぎた者たち”の戦いが始まれば、とても世界が持つとは思えなかった。
「無理だよ、祐太。祐太もその状態でいられる時間は、そんなに長くないんでしょ? 私も、この国の人間が一人残らず避難するのを待ってあげる余裕なんてないの。それに……正直、この世界の人たちがどうなろうと、私にはどうでもいいことだし」
「そういうのはダメだよ。後で伊万里が、きっと後悔する」
「……私もどうせ死ぬんだから、後悔なんてしないよ」
「伊万里、すぐに終わらせるから。いいだろ?」
伊万里は、かつてのように少しだけ唇を尖らせ、拗ねたような顔で俺を見た。そのあまりに幼く、懐かしい表情の理由を、俺は測りかねる。
「……早く終わるなら、いいよ」
伊万里が短く頷くのを確認し、俺はマジックボックスを開いた。取り出したのは、かつて鳴らそうとして果たせなかったルビー級アイテム。
【祝福の鐘】
俺はその鐘を、ありったけの祈りを込めて打ち鳴らした。
世界を震わせる澄んだ音が響き渡り、かつて日輪へ向かう直前に目にした、あの巨大な門が虚空に出現する。門が重々しく開くと、そこから目も眩むような光を纏った天照大御神が姿を現した。
以前に拝謁した時と同様、周囲の空気感が変わるほど厳粛な神気。これこそが、紛れもない大八洲の頂点に立つ神だ。
「再びの呼び出しに応じていただき、感謝いたします」
俺は空中でひざまずいた。
「よい。……随分と、不憫なことになっているようだな」
「はは……泣けてきますよ」
「……お婆様が悲しまれるな」
「ありがとうございました、とお伝えください」
「そうか……承知した。それで、願いは何だ?」
「この世界の人間を、すべて【千年郷】へ避難させることをお願いできますでしょうか?」
「ふむ……」
天照様はしばし沈黙し、俺の覚悟を計るように見つめた後、静かに告げた。
「よい。お前の願い、聞き届けてやろう。……受け入れる場所は、すでに用意されているのだな?」
「はい。俺の従者が、万全の態勢を整えてくれているはずです」
「出来の良い従者だ」
「俺にはもったいないほどです。……それと、できれば俺の仲間たちも、一緒にお願いします」
「そうか……では、その願いで相違ないのだな?」
「はい」
「六条祐太。お前のことも、私は忘れぬよ」
「ありがとうございます」
「では――」
【天照瞳よ。この世界のすべてを捉えよ】
神の一言とともに、天の上層に巨大な【瞳】が出現した。紅麗様のそれにも匹敵する、世界そのものを覆い尽くさんばかりの巨大な眼。それが冷徹に、かつ慈悲深く地上のすべてを映し出した。
【万物余すことなく、千年の都へと旅立て】
次の瞬間、聖勇国に満ちていた無数の気配が、一斉に、綺麗さっぱりと消失した。凄まじい神業だ。これこそが大八洲随一の神であり、太陽神。あまりの万能感に、いっそ助けてくれと縋りたくなる心を強引に抑え込む。
「願いを聞き届けていただき、ありがとうございました」
「……では、私はもう行くよ」
最後に、天照様は伊万里を憐れむように一瞥したが、何も語ることはなかった。神は、門の向こう側へと静かに帰還していった。
「……もう、いい?」
伊万里が、待ちかねたように声をかけてくる。
「ああ、いいよ」
【光移動】
【転移】
と刹那の猶予もなかった。
俺の【羅鬼】と、伊万里の【エクスカリバー】が激突し、爆発的な衝撃波が世界を揺らした。世界の崩壊を懸命に支えていた美鈴たちも、今はもういない。根本的な何かがきしむような音を立てて、世界が壊れ始めた。





