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第四百八話 Side摩莉佳 神獣

Side摩莉佳

「小春! 小春!」

「桐山! いい加減にしろ! もう死んでる! それに生き返らせる方法はある!」

「何だそうなのか? 安心したぞ」


 ギガの不敵な声が聞こえてきて、空から隕石が落ちてくる。私たちの真上に落ちてきて、榊の死体と動揺している桐山を連れて飛んだ。スピードには自信がある。それでも躱しきれないほど空を埋め尽くす大量の隕石群だった。


「桐山! 自分で動け! 死にたいのか!」


 隕石が次々と落ちてきて、その中を2人を抱えて逃げる。2人の分だけどうしても速度が落ちる。


「何だ貴様ら? 急に手応えがなくなりすぎだぞ」


 綺麗な黒髪をした長身の男。ワイルドな顔立ちで私と同じく背中に翼があった。ギガは遊んでいた。私達ルビー級3人を相手に終始遊んでいた。退屈した日常に戦いという楽しみを見いだしているようだった。


「摩莉佳さん、私、私……」


 うつむいて起き上がろうとしない桐山がいた。ギガは当然こちらの状況などお構いなしで、攻撃の手も緩めてくれなかった。


【行け】


 地面から先端が尖った信じられないほどの土の柱が無数に伸び上がってくる。正気に戻らない桐山と榊の死体を抱えたまま、


「ぐう!」


 足に土の柱が突き刺さる。止まれば串刺しになるだけだ。私は足をすぐに切断してそのまま飛んだ。上級ポーションをマジックボックスから出して、2つの手が塞がっていたので、念動力で飲んだ。


「桐山。本当に放り捨てるぞ! 私はマークのような【超速再生】はない。傷つけば私まで死ぬんだぞ! 貴様も同じだろうが! 榊が死んだから全員で心中するのか!」

「ごめんなさい。分かってるんだけど私……」

「ふむ。サカキとかいう人間、殺してはまずかったか?」


 そんな必死の私達にギガの余裕な声が聞こえる。


「まあそこまで落ち込むな。我ともっと遊んでくれ。せっかく久しぶりに楽しいんだ」


 ギガはあまりにも余裕だった。


「ああ、もういい! 入れるぞ!」


 桐山があまりに動揺するので気を使ったが、付き合いきれない。榊の死体をマジックボックスの中に放り込んだ。これで私が死なない限り死体は保存できる。


「摩莉佳さん、小春が死んじゃった」


 涙に濡れた顔で桐山が言ってきた。


「桐山、ショックなのは理解する。だがギガが榊を殺したと言っても、殺し方は完璧ではない。魂がまだ残ってる。我々はルビー級だ。死体もある。頼むから動揺するな。ただでさえ相手が化け物なのだ。勝てるものも勝てなくなる!」

「でも……小春が死んだの私のせいで」

「お前のせいではない。相手が強いだけだ。勘違いするな。ダンジョンの中には自分より強い存在が腐るほどいるものだ」

「う、うん。それは分かってるけど……」

「それ以上ごちゃごちゃ言えば私がお前を殺すぞ!」

「ひうっ!」

「まだサカキは生き返らせられる! そう言ってるだろうが!」

「は、はい……」

「桐山。六条はかなり優勢に戦争を進めている。お前の男は大したものだよ。私たちは今この場で勝てなくてもいい。死ななければ、必ずお前の男が助けに来る」


 実際のところはそんな保証はない。六条は【管理球】を回らなければいけないし、自分がレベル999になることを何よりも優先させるはずだ。それに六条はガチャを回しに行く必要がある。


「そ、そっか、祐太か。祐太来てくれるよね」


 途端に桐山の雰囲気が変わる。


「それまでに私たちが3人とも死んでたらさすがに六条も助けきれんぞ」

「祐太、小春を復活できるかな?」

「それは大丈夫だと思うが……」


 私は少し元気を取り戻した桐山に高速で【意思疎通】を送った。


《桐山、よく聞け。ちゃんと聞かなかったら本当に榊が死ぬからな》

《……はい》

《今の状態は結構まずい。榊の死体は回収できても、魂を私では回収できない。お前はできるか?》

《……無理です。ごめんなさい》

《元から期待していない。ギガは先ほどから何かを確かめながら攻撃してくる。何があいつにとっての正解なのかそれもわかっていないようだ。つまりあいつは未熟なんだ。理解できるな?》

《……理解できます。あいつ私達の時は炎を使ってました。その前は雷でした。摩莉佳さんが来る前に急に土に変わって……小春がそれに対応できなかった私を見て……》

《もういい。反省はやめろ。それよりもギガはまだもっと強くなる余地を残している。そう考えるべきだろう。殺すなら今しかない。私たちは奴が自分を理解する前に仕留める。私が前に出る。お前は攻撃の準備をしろ》


 桐山の一撃の強さだけは、相当なものだと聞いたことがある。それが当たれば必ず相手は致命傷を負う。サファイア級ですらまともに食らったら一撃で死にかねない。それほど強力な一撃……。


《それはダメ。さっきもそれで私が狙われて小春が死んじゃったの!》

《知ってる。それでもやれ。それが出来ないならジリ貧で終わりだ。言っておくがギガの攻撃を私が全部止めるのは無理だからな。榊が止められなかったのなら私がやってもお前の方に攻撃が行く。そもそも、ギガの成長スピードは異常だ。お前も自分で何とかギガの攻撃を避けろ! いいな!?》

《……》


 少し桐山は考え込んだ。それでも私の言葉も理解できたのだろう。


《わかった。頑張ってみる。それと【広目天の筆】でブーストかけるからちょっと動かないで》

《時間があるか?》


 瞳に力が戻った。どうやら自分の中で榊の死から切り替えられたようだ。探索者とはそうでなくてはいけない。どんな時も冷静に……それができたやつですら死ぬし、できないやつはもっとすぐに死ぬ。


《大丈夫と思う。あいつ次の攻撃を何にするか悩みだすと、しばらく攻撃してこないの。なんか今悩んでるみたいだし、多分行けると思う》

《では頼む》


 桐山が【広目天の筆】を取り出した。


《強化内容は何がいい?》

《何でもいいのか?》

《何でもいいよ。マックスレベルに戻ったし全体アップでもできる》

《それなら全体強化で頼む》

《了解》


 ギガがまだ何もしてこない間に、桐山が私の体に大きく文字を書き込んだ。


【全強化】


 それと同時に体の中に力が溢れ出てくる。感覚的にレベルが50ぐらい上がったのではと思える。一瞬でレベル50の強化。これで六条のレベルアップも加わっていた。どうやらレベル907まで戻ることができたようだ。


 私はこれでマックスレベル。桐山もレベル873がマックスレベルで、そこまでは戻れている。しかし気がかりがある。先ほどからレベルアップができるようになったこと以外、外の情報が入ってきていなかった。


《摩莉佳さん。時間は3分だけだから気をつけてね》

《十分だ。それより攻撃準備だ。このレベルになっても精々機会は一度だけだ。全力を込めろよ》


 それに奇妙な感覚が続いている。ギガノス大陸の外からの気配が全くしない。ギガノス大陸がとても大きいものだから不思議なことではないが……私のレベルがマックスに戻り、さらに強化されたことで違和感が増した。


《了解》


 なんとか立ち直ってくれた。10年間ずっと苦楽を共にしてきた榊が死んだことを考えると、かなり早く立ち直ってくれたと見るべきか……。


「話し合いは終わったか?」


 ギガが尋ねてきた。どうも攻撃方針も決まっているようで、こちらの準備を待ってくれていたようだ。


「待っててくれるとは嬉しいな。女には優しいのか?」


 相当実力的には近づいた。それでもまだかなり向こうの方が強いのはわかる。それでも2人がかり。おまけに桐山は万能だ。そこまでの差はない。しかし救援はあまり期待できない。


 私たちがマックスレベルにまでなれたのだから、こちら側が数多くの勝利を収めたことがわかる。勝利した分だけこちら側はたくさんの手が空いてる。それでも助けに来ない。何か理由がある……。


「残念だが女だからといって特段優しくする気はない。お前たちは我が強くなるための最高の踏み台だから、簡単に壊れないように気をつけているだけだ」

「抜かせ」

「事実だぞ。そして喜べ。我は次の力で最終解に“たどり着いた”ぞ」


 ギガは凶悪な笑顔を浮かべた。戦うことが楽しくて仕方がない。そしてとても面白いおもちゃを手に入れたことに喜びが溢れ出ているようだ。


「ほう。どんな力を使うのか教えてもらってもいいか?」


 とても嫌な予感がした。ギガの言葉に全く嘘を感じなかった……こんなに早く、1回戦うだけでたどり着くものなのか……。


「いいぞ。さっき殺した女のような殺し方にはなってほしくないのでな。不慮の事故で死なないように教えておこう。次はな」


 ギガのワイルドな顔が一層歪んだ。口元が大きく裂けて人の顔ではなくなってくる。何かよほど楽しいのか普通に笑うだけでは我慢できなくて口がバカみたいに開いた。


「“全部”だ!!!」

「全部……」


 嫌な感じがした。全部と言われて思いつくことが一つだけあった。こいつ、まさかとは思うが……。


「意味がわからないか?」

「わからないな」

「不勉強なやつだ。我は人間の世界でたくさん学んだぞ。確か統合エネルギーだったかな?」


 最悪だ。おまけにこいつ……気配が大きくなろうとしている。レベルが上がろうとしている。レベル999なのに上がろうとしている。それぐらいどんどん気配が大きくなってきてる。


 エネルギーがほとばしって空気中でスパークを起こした。


「色々試すのは面倒になってきてな。なんとなくそっちの方がうまくいきそうな気がするから、全部まとめて使ってみようと思う」

「そうか……」


 本当に嫌になる。逃げられるなら逃げたい。風神と雷神がマックスレベルで2人がかり。それでなんとか戦いになったと思う。あるいはガチャを回した後の六条だったら勝ったかもしれない。


「その様子だと、どういう力かわかるのか?」

「知ったことか」


 私は空を飛ぶが、使える力は土属性だった。最初はどうもそれが使いにくくて、レベルを上げるのに苦労したが、それでも慣れればこれほど強い力はないと思うようになった。


【貫け】


 究極にまで圧縮した土のかたまりを300放つ。レールガンで放たれる弾丸。ここまでのレベルになれば、それをはるかに超えた威力がある。ランダムに一番避けにくいタイミングで、決して躱せないように!


 完全にレベルを上げられたら、本当に本当にまずい。マークの影響か私も土を弾丸にして放つことが好きだった。しかし、


「え?」


 ギガが私の攻撃を躱そうとしないから驚いた。


「ちょっと痛い」


 そんなことを言いながらギガの両手が消えた。弾丸で消し飛ばしたのならいいのだが、あまりに速く動くので見えないだけだった。私の放った弾丸を300。全て2つの手で受け止めた。手から本当にちょっとだけ血が流れた。


《桐山。答えなくていいから聞いておいてくれ。こいつこのタイミングで“進化”しようとしている。おそらく間違いない。レベル999のやつが進化する意味はわかるな? 本当の本当に命がけだ。一瞬でも油断するなよ》

《……》


 ギガは手に【神気】を集中させて受け止めた。


「さっき殺した女の分だろうか。あちらの方がレベルが低かったはずなのに、こんな風に上がるものなのだな。サカキが優秀だったからか? それに少し遅い気もするが、まあいい。ようやく超えたぞ」


 ギガは何か1人ごとをぶつぶつ呟いてる。思わず頭を下げたくなるような気配がギガから漂う。あらゆる形の違うエネルギーを統合し使用することを『統合エネルギーを使う』という。そしてそれが完璧だと【神気】になる。


 迦具夜も使えたと聞いたことはあるが、実用レベルではなかったらしい。それがこいつ、何気なく、ナチュラルに“レベル1000”を超えた瞬間に使いこなしているように見える。そうだ。なぜかギガは探索者の1つの頂点。


 レベル1000を何気なく。日常の中で超えたように、大抵のものが越えられない天井を突き破ったように見えた。おまけに神気……。


【神気】だけはかなり使い方が難しく、セラスですら使ったという情報はなかった。


 神になってから何百年も年を取ってようやく使えるようになるという力。まともに使うには真性の神になるしかないとすら言われる力。それを使ってる。いや、違う。何か違う。


「以前から、もう少しで越えられそうだと思っていたのだ」

「もう少しで越えられるものではないはずなのだがな……。しかし実際に超えているのを見ると、もう笑うしかないな。マークに出会えて幸運な女だと思っていたが、そうでもないらしい。こんな場所で神への進化を見るとはな」

「いいや、喜んでくれ人間。くく、遅れて女の声が聞こえてきたよ」


 ルルティエラからレベルアップのお知らせがようやく来たか? レベル1000を超える時はさすがに少しは感情を込めてあの機械の音声も流れるんだろうか。そんなどうでもいい考えが浮かぶほど私は動揺していた。


 ギガが“神獣に種族進化”しやがった。


 何レベルだ? レベル999。本来神になることができるもののレベル。しかし様々な理由でそれができなかった者たちがレベル999になる。モンスターのレベル999は、普通は神獣になる条件を満たすことができない。


 主人が神ではないなどの理由があるためだ。しかし何か条件が変わった。そして榊を殺したことで進化条件を満たした。いや、なにか違う。何かがおかしい。こんなレベルの上がり方はしないはずなのだ。


「思った以上に優秀な女だったのだな。確かサカキ・コハルという名前か。人間の名前なんて滅多に覚えていないが覚えておいてやろう。今までどうしても超えられなかったこの領域にようやくこれたぞ。さあもっと戦おう。今ならもっともっと強くなれる気がする」


 土埃が少しだけ舞う。何の音もしなかった。だが、長身のギガの姿が消えた。どこだ?


《しゃがめ!》


 誰の声?


 そう思ったがその言葉を信じるしかなかった。私は慌てて姿勢を低くする。そして離れた場所で音がした。激しくそして耳障りの音。金属のようなものがぶつかり合った音。音のした方を振り返る。桐山がいるはずの場所。


 ギガの喜ぶ声が聞こえた。


「おお! お前が祝いに来たか!?」


 桐山の前に巨大な男がいた。その巨大な槍とギガの黒くなった剣がぶつかりあっていた。受け止めると凄まじい衝撃波が起きた。止めたのか? 何というやつだ。しかし巨人の男の槍にひびが入った。私はその巨人に見覚えがあった。


「皇帝ホロス……」


 その巨大な姿は間違いなく、玲香の屋敷で開かれた作戦会議で見たホロスの映像と合致した。


「ホロス! 久しぶりではないか! 今までどうしていたんだ!? 会いに来ないから心配していたのだぞ!?」


 ホロスの姿にギガのテンションが上がる。10年来の親友に久しぶりに会えたような顔をしていた。


「お前に心配される筋合いはない。できることならお前の顔など二度と見たくもなかった。ずいぶんと小さくなったではないか。デカいままでは勝てないから、ついに人真似を始めたか?」


 話してる間に私の頭の中に【意思疎通】でホロスから連絡が入った。


《何をしている! さっさと逃げろ!》

《……いいのか?》

《よくなければ言わん。足元に【蘇生薬】が落ちている。それは、完全蘇生薬らしいから、死んだやつを生き返らせてとっとと消えろ》

《どうしてホロスが私たちを助けてくれるのだ?》


 六条は戦った相手を仲間にすることが多いが、それにしてもホロスは皇帝であり、仲間になるとは考えられなかった。仲間でもないものが助けてくれる。不可解で疑いの心が先に立った。


《こちらの事情だ。お前のところの仲間との交渉は終わっている。俺の残り少ない命を使ってお前たちを助ける。そのことでロクジョウの治世になれば我が国は安泰となる。それで良い》

《しかし、お前100%殺されるぞ?》

《桜魔が死んだのだ。自分の命に未練などない。残される俺の国が安泰であればそれで良い》


 信じるか信じないか一瞬悩む。しかし結論にはそんなに時間がかからなかった。というよりも納得しなければ、この状況下で桐山と榊を助けて、自分も助かる方法などなかった。


「すまない」

「必要ない言葉だ。俺は俺の利益のために動いているだけだ」


 ホロスが槍をかまえ、


《桐山、行くぞ! どう考えてもその方がいい!》

《う、うん、そうだよね》


 桐山も状況はホロス自身に聞いたのか、戦闘状態を解いて逃げに回ろうとした。


「させると思うか?」


 しかしギガの【神気】が今までと比べ物にならないレベルで体から放出された。それで私たちの体がすくみあがって、行動が遅れた。


「こんな楽しいのに逃がしてたまるか! 生き返らせる方法ができたか!? その妙な薬瓶、サカキを生き返らせることができるのか!? それならさっさとしてくれ! 待っててやるから早くしろ! もっともっともおおおおおおおおおおおおおおおおおおっとだ!!! もっと楽しみたいんだ!!!!!」


 ギガが大きく笑い出した。はっきりと声を出して、そして体の大きさが戻っていく。どんどんどんどん巨大化していき、そしてギガの超巨体が光り輝いた。


「さあ、贄となれ!!!」


 ギガは200mを超える超巨体のモンスター体で人語を叫んだ。ギガノス大陸中に響き渡るほどのすさまじい大音声だった。

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― 新着の感想 ―
美鈴は感覚が一般人のままって感じがする
もともと美鈴はメンタル弱々。逆にいえばもっとも普通の人。近しい者が死ねば崩れるのはここまで読んでいればだよね!って感じですので違和感無いけどなぁ?むしろここからどう踏ん張るのか楽しみです\(^-^)/
美鈴...お前
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