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第三百九十七話 蠱惑蝶ベラミス

「世界で一番美しいのは誰!? それは私! 私こそが世界で最も美しい! 世界一の美貌を持ち、世界一美しい翅を持ち、世界一美しいボディを持つ! この世に私以上に美しい存在はおらず、あのセラス様ですら私の美しさにはかなわないわ~!」


 なんかすごいのがいるな……。


「セラス様はその力であらゆるものを屈服させるけど、私はそんな野蛮なことはしない! だって私の前に来るものは全て私の美しさに見惚れ、私の美しさに屈服する! マリカ! あなたもなかなか美しくってよ! でも私には勝てないわ~!」

「くそが……」

「だって私は美しいから~!!!!」


 面倒臭そうだな……。


「だって私は美しいから~らあ~~!!!!!!!!」


 何回も言いたかったのかな。


《摩莉佳さん、ここからなら聞こえますか?》


 蠱惑蝶ベラミスが棲むという花園はとても広く直径100㎞の円形の土地に花が咲き誇っている。大きさが非常にダンジョンの低層と似てる。美鈴たちはギガノス大陸の地下にも似たものがあったと言っていたから、偶然ではない気がする。


 そのあまりにも広大な空間に花が敷き詰められる光景は圧巻で、見た瞬間に魅了された。ベラミスが時間をかけて自分の支配する土地を、自分にふさわしい花園に変えていったのだ。


 その話は聖勇国では有名で【美華蝶(びかちょう)の園】と呼ばれてるらしい。その某小動物を思い出させるような美しい名前とは対照的に、そこから無事に外に出られたものはいないとすら言われていた。


《六条!? お前どうしてここに!?》


 摩莉佳さんの顔には苛立ちと、焦りとそしてベラミスを相手にすることへの疲れが見えた。俺は気配を探るのが得意だというベラミスに気づかれないように、摩莉佳さんがいると思われる場所から30㎞は離れていた。


 鳳凰の姿で空に滞空し、美しい花園を見下ろし、ベラミスと摩莉佳さんの姿は目視で確認する。ベラミスは確かに美しい蝶人だった。人型のモンスターで翅は大きく、繊細な模様が施されていて、光の加減でより美しく見えた。


 青、紫、金色の模様が美しく、その姿に確かに惹き込まれる。自信を持つだけの見た目は確かにしている。それでも行き過ぎていてちょっと苦手なタイプだ。そうは思うが美しいので惹かれるのも確かだ。


《みんなに光の精霊で連絡を入れてたんですが、摩莉佳さんだけ返事がなかったから心配で来たんです》

《それは悪かった》

《いや、いいんですけど大丈夫ですか?》

《大丈夫だ。光の精霊の返事がなかったのは、おそらく花園のせいだ。外から見えてはいるがこの花園の中は空間が歪んでいる。光の精霊はこの中には入ってきにくい。入ってきたとしてもベラミスの誘惑でおかしくなる。むしろ六条はどうやって【意思疎通】を届かせたんだ? 念波も難しいはずなんだが》

《【探索糸】です。花園にいる摩莉佳さんの近くにまで糸を伸ばしてそこから【意思疎通】を放ってるわけです》

《器用なことを……。だが良かった。外の情報が何も入らなくて心配してたんだ。六条、みんな無事か? マークは?》


 摩莉佳さんはやはりマークさんが一番気になるようだ。マークさんは死んだが、本当に死んだわけではない。言葉は考えて言わないとと考えていたら、さらに聞かれた。


《というか六条。まさかお前もう皇帝ホロスを倒したのか?》

《あ、いや、恐炎竜ドルティラノは始末したけどホロスには今の俺じゃ全く届きませんでした。今は別の人に戦いを変わってもらってます》

《他の人間……》

《はい。俺はこれから伊万里もセラスも相手にしなきゃいけないし、とにかく強くならないと話にならないんです。だから、ドルティラノとカオスオーガの【管理球】を先に手に入れることにしたんです》

《おお、ではマークはカオスオーガに勝ったのか?》

《ええ、ただちょっと落ち着いて聞いて欲しいんですが、マークさんは子供の鬼の姿をしていました。その姿でホロスに追い詰められかけていた俺を助けてくれました》

《ちっ、だとするとマークは死んだか》


 摩莉佳さんならこの言い方で正確に伝わると思ったが正解のようだ。10年間ずっと摩莉佳さんとともにマークさんは生きてきた。マークさんのことは俺が説明しなくても摩莉佳さんは、分かってるはずなのだ。


《マークめ。相手が思ったより弱かったか……、相手に同情してしまったな。どうせそんなところだろう》

《その辺は俺からはなんとも。ともかく子供の鬼が俺に『さっさと強くなってこい』と戦いを交代してくれました。あの鬼に任せて大丈夫ですかね?》


 鬼は一応俺たちの敵だったやつだ。多少の不安は覚えた。


《大丈夫だ。問題ない。あの鬼ならまあ心配はないんだ。マークはむしろあの鬼に何度か戦い方を教えてもらってるからな。戦うことだけに関してはあの鬼は信用していい。それに裏切らない契約もちゃんとしてる》

《よかった……》


 そう言ってもらえてようやくほっとした。自分の戦いを誰かに放り出してきた罪悪感があった。


《摩莉佳さん、相手に悟られないようにできるだけ離れているから、よく戦況が分からないんですけど、どんな感じですか?》

《少なくとも今すぐ死ぬような状況ではない。ただちょっと膠着している。どうもベラミスは積極的に戦うタイプではなくてな。先ほどからちゃんと姿を現さず自分がいかに美しいかをずっと演説して聞かせてくるだけなんだ》

《鬱陶しいですね。あ、摩莉佳さん。レベル775まであげることができます》

《うん? おお、それは助かる》


 摩莉佳さんが自分のレベルを戻していく。それでいてベラミスにはそれを悟られないように気配はできるだけ殺していた。ベラミスはレベル874で、相手がモンスターであることも考慮すると、勝てない相手ではなくなってきてる。


《手を貸しましょうか? それともモンスターでレベル差が100ぐらいだと助けなくても大丈夫でしょうか?》

《六条、お前は余計な先入観を持ってるな。まるでモンスターが弱いと言ってるように聞こえるぞ》

《事実です。あいつらにはガチャも専用装備もない。同じレベルぐらいなら圧倒的に有利だし、少しぐらい差があっても勝てる。違いますか?》

《モンスターはレベルによって人間と強さが変わるわけではないぞ。モンスターでも同レベルで人間が負ける時もある。生まれて間もないモンスターならレベルが上でも弱いということもあり得るが、基本的にはそこまで人との強さの違いはない。特にこういう人型は、とてもよく考えて動く。たまにバグのように強いものもいるしな》

《なるほど……》


 摩莉佳さんが言うならそうなんだろう。油断して得することなど何もない。こいつも全力を出さなきゃ勝てない相手。そう思って心を引き締めた。


《摩莉佳さん。俺は30㎞ほど離れてるんですが、俺から見てるとベラミスの位置は見えます。摩莉佳さんは今ベラミスを見失ってるんですよね?》

《ああ、見えてない。相手が近づくとわかるんだがな》

《それなら一度俺が見えているベラミスの場所に2人同時で攻撃してみますか? 場所はここです》


 俺は自分の方から見えるベラミスの位置情報を送った。


《……思ったよりも近いな》


 摩莉佳さんからだと300mほど離れた位置にベラミスがいる。探索者としては遠からず近からずの距離を保ち、摩莉佳さんの様子も見ていた。幻覚や魅了が得意らしいが、さすがに30㎞も離れている俺には効果がないようだ。


《摩莉佳さん。さっきよりも1mぐらいですけどベラミスに近づいてますよ》


 摩莉佳さんの方からベラミスに歩いて近づいたように見えた。


《本当か?》

《ええ、さっきよりもベラミスが近づいたというより摩莉佳さんが近づいたように見えます》

《……何か嫌な感じが近づいてくると思っていたが、私が自分で近づいてるのか。ゆっくりゆっくり近づかされて徐々に催眠導入を強くして、最後の最後、私がイラついてきたところで——》

《ブスリってところですかね》

《だろうな。まあそれで簡単にやられるつもりはないが……。六条、1人で決着をつけたかったところだが、お前がここまで来ているなら早く終わらせる方がいいだろう。お前のプランをやってみよう》


 こいつにはまだ【時間停止】からの【絶火】の俺のパターンは知られていない。そこに摩莉佳さんの攻撃が加われば、いくら幻覚が得意だと言っても俺たちの攻撃を防ぐことはできない。でも、少しだけ胸騒ぎ覚える。


 俺がいつも感じる探索者としての勘である。どうも自分が物事を簡単に考えすぎている気がした。皇帝ホロスと戦った経験から、敵も強いということは十分以上に分からされた。もう少し考えてから行動するべきだとも感じる。


 だが、俺は何に対して胸騒ぎを感じてる?


《六条、私がカウントする。ゼロのタイミングで同時にベラミスを攻撃しよう》


 敵に対して油断するなと先ほど自分に言い聞かせた。しかし、なんだかこう微妙にズレる感じがする。摩莉佳さんのカウントが進んでいく。10秒から始まり、


9


 俺は鳳凰に変身して羽ばたいた。


8


【鳳凰飛翔】で急激に美しい蝶人の姿が近づいた。はっきりとべラミスの姿が見えた。


7


 それでも殺すとなれば迷わない。幸い感情移入するほどの関わりもない。


6


 残り5秒から3秒に2秒から1秒になった瞬間、摩莉佳さんも動き出した。


《六条、離れすぎているぞ! それでは同時にならない!》

《大丈夫です。信じてそのまま行ってください》


【時間停止】の分があるから1秒分離れるのだ。俺の【時間停止】のことを摩莉佳さんは知らなかったので、俺の姿が離れていることに驚いたようだ。


《……信じるぞ》


 相手が幻影が得意だと考えると俺を信じるのは難しいと思う。それでも摩莉佳さんはそう言ってくれた。やはり何かおかしい。止まれ。何かおかしい。そして俺は予定通り、


【時間停止】


 からの【絶火】に入ろうとして、時間が止まった中、花園の花も全てその動きを停止する中でしっかりとベラミスを視界に納めた。美しい蝶の姿が見えるのに、その姿は明らかにおかしかった。


「これは……!?」


 目の前の俺がこれから斬ろうとしているベラミスがどう見ても、ベラミスじゃない。美しい翅もあの美しい輝きもない。同じように翼がある。しかしそれは“摩莉佳さん”だった。鳥人であり、マークさんの妻だ。


 摩莉佳さんも綺麗は綺麗なのだが、それは戦う女の美しさなのだ。姿形は整っていても、ベラミスの美しさとは全くベクトルの違うもの。


「どうして摩莉佳さんがいる?」


 戸惑いながらベラミスはどこにと周囲を探すと、同時攻撃をするためにこちらに近づいてくる摩莉佳さんの方を見た。それが先ほどまで摩莉佳さんだと思っていた存在だ。しかしそれこそが“ベラミス”だった。


 美しい羽根と美しい美貌。しかし先程まで見ていた美しさとから一段落ちる気がした。何か先ほどまで見てたものよりも美しくないと感じる。綺麗は綺麗なのだが……。


「そういうことか……」


 つまり驚くほど綺麗だと思わされていた。


 どうやって?


 あれほど距離が離れていたのにそんなに一瞬で“ルビー級”に幻覚を見せられるものか? でも確かにこの攻撃をする前に何か嫌な予感がした。そして止まった時間の中で摩莉佳さんとベラミスの位置が急に入れ替わった。


「今見てる光景が正解で間違いないよな?」


 それ以外考えられない。30㎞も離れていた俺に効果がある。一体どういう原理の幻覚だ? 時間を止めた瞬間に解けたということは仕掛けがあるのは間違いない。だが事実を見極める前に、時間を止め続けることができなかった。


 花園の花が揺れた。時間が動き出す。俺はとにかく目の前にいる摩莉佳さんを抱え上げて飛び上がった。


【湖月一閃】


 ベラミスから閃光が放たれた。湖に浮かぶ月を打ち抜く。そんなイメージの技なのだろうか。優雅に舞うような技だ。しかしその威力は桁外れに高く地面を穿っていく。その威力はどんどんと地中へと潜って行き、地面をくり抜いたようにぽっかりと1mほどの穴を、感じる限り100mは地中に開けた。


「あら……掠りもしなかった。ここまで完全に2人で避けた?」


 ベラミスが驚いている。あまりに驚いたのかその場に立って首をかしげている。そして俺を見上げてきた。長い睫毛の深い瞳と俺の瞳がバッチリと合う。しかし催眠を使う相手に目線を合わせるのは良くないかとすぐに逸らした。


 一方で、摩莉佳さんも俺に気づいた。


「六条? お前、いつの間にここに? 皇帝ホロスはもう倒したのか?」


 このくだりは先ほどにもあった。


「完全に俺がやられたってことか……」


 悔しくて眉間にしわが寄った。完全に催眠にかけられ摩莉佳さんと話しているはずが、ベラミスと会話していた。どうもそういうことのようだ。でも、摩莉佳さんでなければ分からないことも言っていた。


 ひょっとすると俺はベラミスと会話すらしてなくて、自分の中で作り出した摩莉佳さんとずっと喋ってたのかもしれない。それぐらいしかあの会話内容に合点が行かなかった。ともかく完全に思い込まされた。


 もし摩莉佳さんを【絶火】で斬ったりしたら、クミカを呼んで復活させてもらうしかなかった。そうなれば完全に作戦が破綻していた。


「摩莉佳さんすみません。俺が見たことを一気に送ります」


 ともかくホロスに続いてまたもや負けかけた。言い訳などなどどうでもいいから事実のまま、口で説明するのは時間がかかりすぎる。【意思疎通】で情報を圧縮して一気に摩莉佳さんに送った。


 さらに【意思疎通】でできるだけ高速でやり取りした。


《——危うく二人で死にかけたわけか》

《すみません》

《構わない。マーク以外の男と2人で死にかけるとは笑えんが、生きてるのだ。問題はない。六条、手伝いに来てくれたことには感謝するが、お前も年相応なところがあるのだな。正直まだまだ青い。反省するべきだ》

《すみません。摩莉佳さんはひょっとして催眠にかけられてなかったんですか?》

《言ったはずだ。私は催眠にはかなりの耐性がある。地面を見てみろ》


 そう言われて地面を見る。そしてそこに咲き誇る花を見た。どこか不安を起こさせるとても赤い花。血のように赤くて、美しい花。俺はそれを見て表情が歪んだ。


《【奈落の花】……》


 ゴールドアイテムであり、ゴールドエリアにあるとは聞いていたが、この場所にこんなに咲いてるのか。見る人に絶望を与え、自殺に追いやり、その死んだ人の精気を吸って余計に綺麗に咲くという花。


 あたり一面に咲いていて、一体どれほどの人間がここで死んだのかと思わされた。


《知ってるようだな。この強力な花と別系統の催眠花もここには植えられてる。この花園にある花は全て何かしらの催眠効果のある花ばかりだ。そして催眠花で魔法陣を組んで、敵に気付かれないように効果を高めている。わかるか?》


 精神波を塞ぐように気をつけて上空に瞳を用意し、空から眺めると確かに直径100㎞に及ぶ広大な範囲全てに、幾何学模様の魔法陣が描かれていた。俺はこれを空から見ることで完璧に視界で捉えてしまったわけか。


《鳳凰になって上空から見下ろしたのが余計に悪かったわけだ》

《ここに入り込んだ時点で出るのもかなり難しいぞ》

《これじゃ迷惑かけに来ただけですね……》

《六条。もう気にするな。それより私と手を繋いで離すな。離したらまた操られるぞ》

《分かりました》


 しっかり摩莉佳さんの手を握り込んだ。後でマークさんにばれたら殴られそうだ。


《まあ悪いことばかりではない。私の催眠耐性は誘惑的なもの以外には効果が薄くてな。正直、方向感覚まで狂わされて手を焼いていた。六条、催眠が完全に無効化されるという【時間停止】はまだ使えるか?》

《はい。それはMPが回復できる限り問題ないと思うけど、2度目からは警戒されて躱される可能性が出ます。止められる時間が1秒だから警戒されると【時間停止】だけじゃどうにもならなくなったりもします》

《それでも強力なスキルだ。助かる》


 そう言ってもらえてちょっとは名誉挽回できた気がした。


《ところで、摩莉佳さんの持つ催眠耐性ってどんな能力なんですか?》


 教えてもらって再現できる耐性なら、再現したかった。


《ああ、私も説明しておいた方がいいな。マークと私、夫婦2人で作り上げたスキルだ。スキル名【一途な誓約】という物だ》

《な、なんか俺じゃ絶対自分で使えなそうな能力だな……》

《くく、確かにお前じゃ無理だ。何しろ私とマークがお互い以外の人間に、心変わりしたらその時点でお互い死ぬ。そういうスキルだからな》

《俺も昔は使えたんだけどな》


 伊万里と2人で完結していたあの頃なら、確実に使えた自信がある。


《その誓いをスキルに組み込むことで、私とマーク2人が思い合う限り、外的要因で他の存在に心を奪われることはない。【奈落の花】のような死へ誘う催眠にも強くなる。ただ、方向感覚を狂わせてくるような催眠にもある程度効果はあるが誘惑系よりかなり質が落ちる》


 だから摩莉佳さんもペラミスとは戦いにくいのか。それでいてベラミスもきっと戦いあぐねていて、俺がうまく外側から催眠にかかってくれたから、俺を利用して摩莉佳さんを殺そうとした。それにしても、


「何をしてるんだ?」


【意思疎通】で加速して喋っていたとはいえ、ベラミスの次の行動が遅い気がした。


「……」


 ベラミスが俺を見ている。食い入るように見ているのがわかる。そのことでつい俺もベラミスを見てしまう。俺はベラミスの瞳を見つめた瞬間、心がざわめいた。美しいと言えばそれまでだが、その奥に潜む危険な魅力に気づく。


「これが美しさの頂点なのか……」


 と俺の口から思わず漏れた。ベラミスの瞳は、単なる視覚的な魅力だけでなく、まるで俺の心の奥底に直接触れてくるような感覚を抱かせる。魅了されないようにと必死になっても、何かに引き込まれそうになる。


「おい、魅了されかけてるぞ!」

「す、すみません」


 摩莉佳さんに言われて正気に戻る。慌てて首を振った。そしてもう絶対ベラミスを見ないように気をつけた。もう一度心を引き締め直す。超越者は例えどんな相手でも、絶対あなどってはいけない。全員が俺を殺しうる存在だ。


「自分で心をしっかり持ってくれよ。お前にも私のスキルが効果を発揮するが、私ほど完全ではない」

「え、ええ」

「あなた」


 ベラミスが俺に声をかけてきた。その声は天上の調べのように美しく響いた。思わずまた心が揺れる。なんと美しい声なんだ。全てどうでもいいから投げ捨てて彼女の元に走り出したい衝動にかられる。俺は自分に腹が立った。


 炎竜・垓の糸で自分の体内に潜り込ませて体中に広げた。


《すまん垓。俺が自分を見失わないように内側から燃やしてくれ》

《いいのか?》

《構わない》


 垓が熱を俺に一気に与える。体中がその内側から灼け焦げる痛みでなんとか馬鹿なことを考えることをやめられた。


「好きです」


 心を奪われないように気をつけて気をつけて、そして、


「うん?」


 何か変なことを言われた気がして俺は戸惑い、そして摩莉佳さんに確認を取る。


「こいつなんか今、変なこと言いませんでした?」

「お前また……」


 摩莉佳さんがなんかすごい蔑んだ顔で俺を見てる。


「や、やめてくださいよ摩莉佳さん。ゴミ虫を見るような目で見ないでください」


 俺はその場でなんとなく気まずくて一歩下がった。摩莉佳さんが嫌そうに手を離してくる。いやいや、そんなことして俺が催眠にかかったらどうする気だよ。しかしベラミスの美しい瞳は相変わらず俺をしっかり見てる。そして言ってきた。


「おお! おおおお! なんと美しい方! 私の心の中で今はっきりとズッキューン! という音がしましたわ! この私のハート打ち抜かれちゃいましたわ! ああ、どうか私にその名を呼ぶ許可をくださいまし! ベラミスはあなたに恋してしまいましたの!」


 ベラミスの美しい顔が朱色に染まった。


「おい、六条……お前正気なのか? まだ女の数が足りないのか?」

「いやいや、俺が悪いみたいな顔するのやめません?」

「いいや、私はお前にこの際はっきり言うぞ。お前こんな時にもう少し慎みを持て。ほら、私が聞いてやるから正直に言え。お前ルビー級ガチャから【媚薬】が出たんだな? 相手がかなり綺麗だからって、それをつい使ってしまったんだな?」

「や、やめてくださいよ。その本当にありそうなストーリー」

「いや、本当だろう。恐ろしいやつだ。女と見ればまさに見境なし。相手はモンスターなのに美しければそれでいいのか? その守備範囲の広さ。ある意味感心するぞ」


 俺は、俺という人間性に対する多大なる誤解が生まれたことに遺憾の意を表明した。

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― 新着の感想 ―
敵すら腰砕けになる美貌、まさに圧倒的ドハンサム 鬼の田中が「ジゴロ」と評価していたのは正しかったな
独占欲が強かった場合地雷になるけど大丈夫か?
わかってたけど、草
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