第三百九十五話 祐太VS皇帝ホロス
ホロスは想定していた限りの最悪じゃない。戦って感じた限りおそらく専用装備は5個か6個装備している。魂が見えるのは3つ。つまり専用装備を全て揃えているわけではないし、ストーリーが解放されている専用装備はシルバーまで。
正攻法でガンガン攻めてきて光属性を持っている。専用装備が全て揃っていて、ストーリーも俺よりも解放されてる。これが考えていた中で一番悪いパターンだったが、そうではない。
しかし、
それでも、
戦っていて分かってしまう。
こいつは今の俺が勝てる相手じゃない。
「お前がやったことは無駄だ。我が国の城が消滅したところで、俺がいる限り何度でも復活する。俺が強すぎて、他を狙うものは今までも何度かいた。しかしそんなものは無駄なのだ!」
それでもホロスははっきりと怒っている。戦槍による突きが目の前に100ほど現れる。それをなんとか全て受け止めきる。それと同時に再び同じ攻撃が来る。それを受け止め切っても何度も何度もはなってくる。
「俺が必ずその敵を殺し! 国を再興させる! 城程度消滅させたぐらいで調子に乗るなよ小僧!!! 何度でも何度でも俺がいる限り我が国には何もできん!!!!!」
侵略戦争だ。悪いのは俺だとわかってる。でもこの国が滅びかけていると言った米崎の言葉を俺は信じてる。だからまだ俺も正しいのだと思える。伊万里のためだけに戦っているわけじゃないのだと思える。この正しさとは大事だ。
争いにおいて自分に何の正義もないと思いながら戦うことは辛い。だから俺も自分の正しさにすがり、そして自分が助けたい人のために負けられない。
「そうかよ! だが俺も自分は正しいつもりだ! お前も自分の正しさを何よりも大事にしているんだよなホロス!」
体の中に潜ませている【倍加薬】の1つを使った。それによってホロスの連撃を受け止めると、俺は勝負を急いだ。時間をかけたところで自力では全てにおいてホロスが上だ。無駄にMPとSPを消費する気はない。
【時間停止】
その瞬間、世界のすべては停止する。俺本人と身につけている服装、装備、そして俺の周りの数センチ先までの範囲、それ以外は全て完全に動かなくなる。
ホロスがレベル1000を超えていたら、あるいはルビー級魔法護符まで持っていたら、【時間停止】にでも対抗できたかもしれない。しかしそこまで専用装備を揃えていないことは分かった。
おそらくだがレベルによるものなのではと思ってる。ルビー級専用装備になるとレベルがもっと上がらないと999に限りなく近づかないと、そもそも専用装備がガチャの中で解放されてないのではないか。
ホロスの生きた年数から考えて、いくらルビー級でもよほどガチャ運が悪くない限り、専用装備は全て揃って当たり前だ。それが見ているところ揃っていない。理由はそういうことなのではと考えていた。
真面目で実直な男。それでいて清濁併せ呑むよい皇帝だったそうだ。世界にあまり関わってこないセラスよりもホロスが死ねば世界は混乱すると言われているほどの名君。それでもここで死んでもらわなきゃならない。
寿命はもうそんなに残っていないと聞いた。あんたが死んだ後は、あんた以外の人間を悪く扱ったりはしないと誓うよ。
【全ての熱を消し去れ 我こそ炎帝 炎の王者 全ての熱は ただ我が前にひれ伏すべし】
言霊を繰り返す。
【絶火】
全ての熱を奪い去る刃がホロスの巨体を捉えて真っ二つにする。ホロスの体が右肩から左腰にかけて、完全に斬り伏せた。手応えは間違いない。意外なほど簡単にホロスを殺せた。実力差があっても、時間を止められたらどうにもならない。
「ドルティラノを殺した時に見せたから、ひょっとすると対抗手段を取られるかと思ったけど、さすがにこの短時間でそれはないか」
ホロスの体が消滅していくが、それと同時に俺は時間を止め続けることができなくて再び時間が動き始めた。
「恐ろしいことだな」
ずぶりと胸の真ん中を何かが通過していく。
「やはりお前“時間”を操っているな? いつもなら格下相手には色々やらせてやるのだが、お前は時間をかけてはいけない気がする。確実に——」
【時間停止】
再び時間が止まる。俺はホロスの戦槍を胸から抜いて逃げた。今のは効いた。
「くそ、俺の方が油断したか……」
あまりにドルティラノがあっさり殺せたことで、【時間停止】に自信を持ちすぎたか。人間は怖い。レベルが上がれば上がるほど、こちらが見せた技にきっちり対抗策を講じてくる。後ろを振り向くともう1人ホロスがいた。
俺は真っ二つにしたはずのホロスと、俺に戦槍を刺したホロスを見る。魂をよく観察すると、俺を刺した方のホロスには魂が宿っている。しかしもう一つの俺に斬られた方には魂がない。ホロスも自分をもう1つ作る魔法を持っていた。
しかも普通に見てただけじゃ、本物と一緒としか思えない。本物と同じぐらい動いていた。時間が止まる直前で入れ替わったか……。完全に真正面から戦うタイプだと聞いていたが、それだけではなかったようだ。
「まあ当然か……」
そんなやつが皇帝まで務まるわけがない。探索者や冒険者に出回っている情報は、大抵、表面的なものばかりである。昔のようにスポーツで戦っているのではないのだ。戦いが観客を入れて誰かに見られるわけじゃない。
敵の本当の情報など出回るわけもない。それに、ホロスの実力を引き出すほどの強者がおしゃべりである可能性は少ない。今なら確実に魂が宿ってる方にダメージを与えられる。それなのにダメージが大きすぎてスキルが唱えられない。
【時間停止】と【絶火】を同時に唱えることなど、万全状態でなければ無理だ。
「クソがっ」
「うん?」
時間をそれ以上止めていられなくて再び動き出した。俺の体内にはMPポーションとSPポーションも仕込んである。この戦いに向けてできるだけ大量に、体内にいろんなポーションを仕込んでいる。
それによってほとんど空になりかけてるMPを、MPポーションで回復させていく。
「状況から推察するに、止めていられる時間は精々1秒ほどか? それでも十分恐ろしい技だが、言っておいてやる。次にそれを唱えた時がお前の死ぬ時だ」
ホロスがしっかりと戦槍を構えてこちらを睨む。時間を止められることに気づいた様子なのに怯えた様子は微塵もなく、逆にこちらが脅された。ブラフだったらいいのだが、1度破られた以上、そうとも言い切れない。
目の前のホロスの肉体には今度は確実に魂が宿ってる。それは見間違えてない。ここでもう一度時間を止めたら、今度こそ確実に殺せる。そのはずだか怖い。どこにも隙がない。それに皇帝として鍛えてきた知恵と勇気、機転も利く。
もし【時間停止】使わずに戦おうとして、体内に仕込んである様々なポーションと体力増強剤。それら全てを注ぎ込んで勝てるか……。
「もうちょっと善戦できると思ってたよ。正直勝てそうにない」
それは本音だった。慎重に距離を取る。ホロスはまだ【時間停止】に対する対抗手段を持っている。そんな気がしてくる。できることならこのまま一気に押し込みたかったが、それは無理だと判断した。
仲間にも死んでほしくない。そしてこんなところで自分も死ぬわけにはいかない。
「そんなことを口にする割には、目が死んでない。それはなぜだ?」
「魅力値が高いからこの顔の性能がいいんだよ」
「くく、嘘が下手だな男前。今のは嘘であろう。まだお前はこの私に対して、この状況でも勝ち筋を残している。しかもそれはかなり太い勝ち筋だ。違うか?」
「そんなことを聞かれて答えるバカはいない」
「確かにな」
自分の城があんな風になったのに、ホロスは激情に駆られるわけでもなく、巨体でしっかり構えてきた。俺のような子供を相手に、それでも欠片も油断を見せない。探索者の目から見ても見事だと思った。
「お前のようなやつとは長く戦いたいが……。何か嫌な予感がする。桜魔のところにも余計の虫が入り込んでるようだ。長く苦しませる趣味もない。さっさと終わらせる!」
言葉と同時だった。ホロスの巨体が動き、刹那で俺の目の前まで迫った。戦槍が横殴りにふるわれた。羅刹で受け止めるが、羅刹は耐えられても俺が耐えられなかった。体が戦槍の柄に殴られて吹き飛ぶ。
これが正しい槍の使い方だって美鈴が言ってたな。
『槍って突いたり斬ったりより、棒として殴った方が早いんだよ』
地面に叩きつけられそれでも体が止まらない。
「逃がしはせん!!」
そこにさらにホロスが追い打ちをかけてくる。勝てる瞬間をよくわかっているやつだ。俺は気持ちでちょっとホロスに負けてる。どうやって勝てるかが見つけられない。ホロスが俺のなんとか庇った腕ごと首を横薙ぎに刎ねに来る。
「このタイミングはっ」
躱せない。どう考えても首が斬られることを回避できるタイミングじゃなかった。
【時間停止】
「ああ、もう、こんな止め方してたらすぐにMPが切れる!」
時間を止められることで、とりあえず時間を止めて逃げようという思考に陥ってる。しかし、しっかりタイミングを見て唱えないと、【絶火】との合わせ技は使えない。ここで唱えようとしても時間オーバーして唱えきれない。
何よりも時間を止めたのはいいが、
『次にそれを唱えた時がお前の死ぬ時だ』
ホロスの言葉が思い出される。目の前にいるやつもまた人形? いややっぱり魂があるぞ。でもホロスは自信たっぷりに口にしていた。あの言葉に嘘偽りがないなら、時間が動き出した瞬間、致死性の攻撃が来る。
心臓がドキドキしてくる。
心が焦ってる。
こんなに何もさせてもらえないと思った相手は初めてだった。
「落ち着け、落ち着くんだ」
俺は死んでも一度は生き返る。しかし、一度生き返ったら24時間は蘇りができなくなる。それに体の中に仕込んだ大量のポーションや体力増強薬も、死んだ瞬間に液体を包んでいる魔力が消えてしまい全部失ってしまう。
つまり一度死んで蘇っても俺は強くならない。蘇った俺は前より弱い。
「ちっ」
自分でもビビってしまったと思う。
【転移】
ホロスの脅しに負ける形で、俺は上空1キロに【転移】した。すぐに時間が動き始める。時間は稼ぎたいが消極的なのは良くない。心が負けてる。それだと例え向こうの方がレベルが下でも、負けてしまう。
ましてやホロスの方がレベルは上だ。だからって考えなしの一か八かが通用するとも思えない。何か思いつかないか。何かもっといい方法がないか。
「どうした小僧!!!」
でかい体で怒鳴ってきた。
「俺からそんなに逃げて怖いか!?」
ホロスが上にいる俺にまっすぐ向かってくる。話し合いをする気もないようだ。殺すと決めた相手に余計な手段を取らせないために、徹底的に攻撃の手を緩めない。ある意味俺がいつも信条としていることを相手にやられている。
ホロスの攻撃を受け止めるだけで精一杯だった。攻撃を止めることができている。戦い方の熟練度から言っても確実に向こうが上なのに、そのことの方が不思議なぐらいだった。俺がなんとかスキルを使おうとする。時間を止める。
しかし、
「その攻撃はもう何度も見てるな。他に俺に効果がありそうな手札を持っていないんだな? よくそれでこの皇帝に挑もうとしたな」
よく考えるとホロスだって時間なんて物を止めてくる俺が怖かったのかもしれない。でもその時はそんな考えが起きなくて、完全に全てにおいて上を行かれていることが恐怖だった。
時間停止など意味がないように言われて、自分でもそう思い込んだ。
身代わりにした人形以降、実際に【時間停止】に対して明確な対向手段を取られたわけでもないのに、あまりの隙のなさに、【時間停止】するたびに殺されるリスクを考えてしまう。落ち着けば【絶火】で勝てるはずなのだ。
しかしそのパターンを取るのに迷ってしまう。ダンジョンの中で戦ってきて一番怖いと思ってる。自分だけならまだいい。しかしみんなを巻き込んでる。俺の負けは、俺の負けだけじゃない。大将が負ければ全員負けだ。
そして俺が迷っている時だった。
【皇獅子よ 来たれ】
ホロスがこの戦いで初めて本気でスキルを唱えようとしている。上空に銀色に光る獅子が滞留した。その瞳がこちらを睨む。ホロスは攻撃することに淀みがない。全ての攻撃は次の攻撃につながっていて、俺はその対応だけに精一杯になる。
そして力ある言葉が叫ばれた。
【皇獅子塵滅破!!!】
まただ。【転移】して真横にいた。完全な間合い。これをされるとスピードだけでは躱せない。時間を止めるしかない。
【時間——】
言葉がそれ以上でなかった。MPが切れてる。何をしているポーションを供給……。そこから意識が吹き飛んだ。
声がする……。
「奇妙な技を使う小僧だった。危険だと感じさせるものは持っていたが、所詮は自力が違う。終わってみれば楽勝だ。早くドルティを生き返らせてやらねばな……」
つい先ほども聞いた声。そしてその相手が目を見開いた。相手が驚いているのを見ながらつぶやいた。
「……前のは紅麗様だからあんなに時間がかかったのか。意外と一瞬で自分でも驚くな」
「小僧。時間を止めた時も驚いたが、今も結構驚いているぞ。もう生き返ったのか?」
元気に5体満足で立っている自分がいた。装備も全て吹き飛ばされたはずなのに完全に元に戻っている。相手は自分が何か別のものでも間違えて攻撃してしまったのかとでも思っているようだ。
「そうだよ。でも無意味だ」
今生き返ったところで決定打にできるような手札は何も持っていなかった。相手も消耗はしているはずだから、ポーション類も復活していたらまた違うのだが、体の中を調べてみても、さすがにそれはないようだった。
死んだ瞬間に、体内に仕込んでいたものを全て放出してしまったようだ。
「よく理解しているではないか」
ホロスはそれでも慎重になってすぐには攻撃してこなかった。
「そうだ。お前と俺では自力が違いすぎる。だが小僧、光るものはあると認めてやろう。もう一度戦ってもお前が再び死ぬ結果になるだけだ。降伏するか? さすがに2度も3度も生き返るものでもあるまい」
俺はそれを否定しなかった。ホロスはこれほど便利なスキルや魔法をいくつも持っているやつも珍しいと思ってるんだろう。できれば部下にでもしたそうだ。ホロスの下ならそんなに扱いは悪くなさそうだが、負けを認められるわけもない。
「……勝ち筋は俺に残されてないみたいだ」
構えを取った。ここでホロスに手間取るようではローレライの考えの上はいけない。その思いだけだった。
「それでも負けは認めんか。とても良い顔をしているではないか。覚悟を決めているならば降伏などと、人の覚悟の侮辱をするのはやめておこう。惜しいが、次は確実に行く!」
ホロスの5mの巨体が近づいてきて、俺の体に槍が向かってくる。受け止めようとしていたが、【倍加薬】の効果が死んだことで切れてしまい、体内に仕込んである分ももうない。そうなると純粋にスピードで追いつけなくなる。
目の前に一気に100現れた攻撃の10が体に突き刺さる。なんとか時間停止がうまく決まれば、いいだけなんだ。それでもまだ勝てる希望はある。その思いで、
【時間停止】
バカの一つ覚えたみたいに時間を止めた。しかしホロスは止めた瞬間にどこにもいなかった。
「え?」
何が起こったと考えてすぐに気づく。何度も何度もこいつの目の前で使ったから、こちらの【時間停止】の気配を完全に掴まれてるんだ。だから【時間停止】するその一瞬前に【転移】で逃げられてる。
転移した先を探したいが1秒で転移先など特定できるわけがない。俺はまだそこまで【転移】を分かってない。
「ここまで差があるか。悔しいな……」
考えてる間に1秒が経過する。
すぐ後ろに気配が現れた。そしてスピードは向こうが上。今度は槍で殴ってきたわけじゃない。槍の刃が体に当たり、胴で薙ぎ払われた。体が上下に泣き別れになる。それを【念動力】と【超速再生】で復活させようとする。
「遅いぞ」
だが、下半身が蹴り飛ばされて遠くに飛んでいく。
それでも【超速再生】で下半身を復活させようとすれば、槍でさらに肩から下に斬り裂かれた。体が1/4ほどになる。
「ぐう」
これは本格的にまずい。ここまで差があるか。思っていたら頭を戦槍で貫かれた。
「ふむ、目の光が消えんから、まだ何かあるのかと思ったがさすがにもう終いか? いや、戦場での油断ほどつまらんものはない。未来ある子供よ。その未来を奪うのは心苦しいが、死ね」
本当にここで死ぬかと思った。まだ希望はあったけど、それはうまくいかなかったのだと思った。しかし、陽気な歌が聞こえる。
「鬼ーのパンツはいいパンツー!」
戦場でこんなバカな歌を歌うやつがいただろうか?
「強いぞー! 強いぞー!」
リーンがたまにすごくバカなことをやりだすことはあった。しかしどうも違う気がする。声が女じゃない。男だ。しかもここにリーンがいるとしたら意味がわからない。
「1000ねーん履いても破れないー! 強いぞー! 強いぞー! 履こう! 履こう! 鬼のパンツ!」
そいつはえらく上機嫌の声だった。俺は体が1/4になりながらも、気配を探った。こんな変な歌、歌いだすやつは仲間にはいない。そのはずなのだがマークさんの気配だ。
「そうか。ちょっと違ったけど俺の勝ちかな」
頭を貫かれてるくせに思考する自分を別の場所に置き、俺は喋った。
「なるほど、後詰めのアテがあったわけか。面倒な」
俺が一番期待してたことは、雷神様か千代さんだったのだけど、そうか、変な歌歌ってるけどマークさん強くなったんだな。巨鬼獣カオスオーガはもう終わったのか? でも少し気配が違う。
どうしてだ?
「どっこいしょ」
何かが飛んでこっちに向かってくる。ホロスの戦槍とぶつかり、そのままマークさんと思われるやつが何かを振り抜いた。ホロスの巨大な体が後ろに飛んだ。ホロスの体は空中で何とか静止した。俺の残された体が、
「おっと、お前までついて行くな」
マークさんと思われるのにそれよりも小さい手に俺の最後に残った腕が掴まれた。ホロスの戦槍が頭から抜け、それでようやく体の再生を開始させ始める。早く再生させないといけない。
不意打ちで行けたかもしれないけど、マークさんが強くなったからって、ホロスはこのレベル差で一人で戦えるやつじゃない。俺はなんとか素早く体を再生させる。ホロスもなぜかその間戻ってこなかったから、マークさんの方を見た。





