98 儀式2
「いやぁー!もう離して!無理無理無理無理っ!」
私は泣きわめきながら必死に抵抗していた。アーネストは青い顔をしながら私を抱き寄せ少しでも冷たさが軽減出来るようにしてくれているがそれでも滅茶苦茶冷たいし、冷たい!
「暴れるな!早く向こうへたどり着かなきゃ低体温になるぞ!」
抱えて必死に進んでくれている彼に気づくと私は暴れるのを止めた。水深は進むに連れてどんどん深くなり今では胸元に達している。
アーネストが抱き上げてくれていて私は足がついていないが泳ぐように手で水をかいて進むのに協力していた。
「ま、まだ、な、の?」
寒さで歯の根が合わずガチガチと音を鳴らす。
「恐らくあそこだろう」
アーネストが顎で指した先を見た途端ガボっと水に沈んだ。また一段と深くなったようでアーネストが慌てて私の顔を水の上に出してくれた。
「ゲホッゲホッ!もう!なんでこんな目に合わなきゃいけないの!」
結構な量の水を飲んでしまい咳き込むとまた冷たさに凍えた。
「君が王を目指すと言ったからだろ」
そう言われてぐっと黙った。本当は王になんかなりたくなかったけど呪いを解くためには仕方がなかった。一生蛇に怯えるなんて嫌だ。
黙ってしまった私を抱えたままアーネストが必死に向こう岸を目指してくれたお陰で何とか命を保ったまま階段を登りたどり着いた。
「だぁっ!何だコレは……はぁ、はぁ、リアーナ大丈夫か?」
鍛えているアーネストでさえ結構辛そうな清めを終えると床に敷かれていた分厚いマットの上に二人共倒れ込んだ。
「な、何とか……あっ」
当然、薄衣はピッタリと身体に張り付き完璧に形を浮き立たせている。パッと後ろを向いて身体を隠したがきっとお尻が透けてる。
「ではこちらへどうぞ」
再び現れた無感情な神官が私達に毛布を渡してくれると何処かへ案内してくれる。
「ここで湯に浸かり温まりましたら、あちらに着替えを用意してございます」
そう言われてまた放置された場所は丁度二人で入れるくらいの湯船がある場所だった。
お互い毛布を着ているとはいえまだまだ震えている。
「君が先に入れ」
青い顔で震えながらアーネストが譲ってくれているがきっとそんな事言ってる場合じゃない。
「婚約者だったら一緒でもいいでしょ。早く行きましょう」
顔をそらしている彼の腕を掴むと湯船に近づき毛布を取った。
「ほら早く」
彼の毛布も取りお湯の中へ引っ張り込む。抵抗を見せるアーネストを無理やり湯の中に一緒に座った。
「あっついけど……温かい」
遠慮がちだったアーネストもお湯の温かさに勝てず、肩まで浸かると二人とも体の中の冷たい空気を入れ替えるようにゆっくりと呼吸した。
「湯船がこんなに気持ち良いとはな」
ほわぁ〜っと息を吐きながらアーネストが頬を赤くする。湯の中は透ける薄衣で、お互いに見ないようにしているせいかちょっとぎこちない。
「普段は浸からないの?」
「あぁ、時間が勿体ないからもっぱらシャワーだけだ」
「へぇ〜、私は絶対に浸かる。ローラも身体を冷やすなってうるさいし」
「大切なお姫様だからな」
こちらを向いてニヤッと笑われちょっと恥ずかしい。
「仕方ないじゃない、小さい時から一緒だもん。家族同然」
そう言うとアーネストが急に言いにくそうにしながら口を開く。
「……さっき、ゴドウィンに何を言ったんだ?」
「さっきって……あぁ、アレは……内緒」
そう言うとムッとした顔をされた。でもこれって母上の個人的な話だからアーネストとはいえ簡単には言えない。
「先に上がるぞ」
機嫌を悪くしたままザバっと湯から出ると着替えが置いてある次の間にさっさと行ってしまった。やだ、カタチのいいお尻が張り付いてくっきりしてる。
もう少し温まってから出たかったが不機嫌そうだったアーネストをこのまま放置するのもなんだと思い湯から出た。
軽く着ているものを絞るとそろそろと次の間に向かう。中へ入ると少し、いやかなり驚きの光景が目に飛び込んだ。すぐの両サイドに衝立がありそこで着替えさせてくれるようだがその向こうに広がる景色はどう見ても一つの大きなベッドだ。ここ大事ね、一つの、だから。
衝立から出てきたアーネストも複雑そうな顔をしている。私はとにかく着替えを済まそうと衝立の中へ入っていった。濡れた身体を拭き、シンプルで透けていない普通の生地で出来た、ゆったりと寛げる感じのワンピースに着替えさせてもらうと衝立から出た。
部屋の中ほどにソファセットが用意されてありテーブルの上にはお茶と菓子が並べられている。先にソファに座っていたアーネストが私が近づくと立ち上がり向かいに座るよう促す。
「では私はこれで、御用の際はベルでお呼びください。食事は運んで参ります」
それだけ言って神官は下がっていった。
「これで今日はおしまいなの?」
力無くソファに倒れ込むと、はふぅ〜と息を吐く。
「何も指示は無かったからそうかもな。とりあえず身体を休めるといい」
「アーネストこそ、大変だったでしょう?ごめんね、暴れちゃって」
「いや、大丈夫だ」
……部屋の中は静かでなんだか会話が続かない。オロギラス討伐のために急接近していたがここ数年あまり会っていなかったせいか共通の話題が見当たらない。あるとすれば王位に関することになるので結局気まずい感じにしかならないだろう。
イスラに継がせたいアーネストにすれば私に協力して儀式を行うことも不本意だろうし。
朝から何も食べていなかった私は用意された菓子をひとつ食べると立ち上がった。
「やっぱり疲れたからちょっと寝る」
ベッドに向かうと毛布を頭から被った。彼も何も言わないしこのままじゃ気まずくて耐えられない。
物音がして目を覚まし起き上がると丁度夕食が運ばれてきた所だった。ちょっと寝過ぎたらしい。
テーブルに並べられた食事は簡単な物で、どうやら城から運ばれてくるものではなく神殿内で用意されたようだ。きっとマクシーネあたりがグチグチ文句を言ってそうだ。
「ふふっ」
思わず喚き散らすマクシーネを想像して笑ってしまう。
「どうした?」
「だってこの食事、マクシーネ姉様が文句言ってそう」
私の言葉にアーネストもふっと笑った。私達は騎士コースの訓練で簡易食になれているから平気だけどゲイルもきっとビックリしてるだろう。
「イスラ姉様もきっと驚くわね」
あの姉様が騎士コースにいたとは考えられない。きっと初めての体験だろう。
「イスラ殿下なら大丈夫だ。貧困層の者達が住んでいる地位域の事も考えていらっしゃったから恐らく質素な食事の事もご存知だろう。彼らに食事を配ったり仕事を与えたりする計画があると仰ってた」
アーネストが笑顔でイスラを褒める話しぶりにカチンとくる。
「イスラ姉様の方が王に相応しいって言いたいの?」
ムッとして言い返す。
「そういうつもりで言ったのではないが、君は自分の呪いを解きたくて王になろうとしているのだろう?」
アーネストが少し呆れたように言う。
「そりゃキッカケはそうだけど、だからといって王になったあと手を抜くつもりは無い。きちんと王として役目を果たすわ」
話を聞いたアーネストがムッとして私を見た。




