91 リアーナのお茶会4
「なぜ邪魔をするんだ!」
サンドロは一旦大きく後ろへ下がると腰のベルトから短い棒状の魔術具を取り出し応援要請を扉へ向けて打ち出した。パッと明るい光が外へ飛び出すと真上に向かって飛んだのか、ボンッという爆発音と共に倉庫の外に光が飛び散った。
「クソッ、騎士団が来る。そいつを頼みます」
ゴドウィンはアーネストを振り返りそう言うとサンドロの腕を掴み倉庫から引きずり出した。私とアーネストも一緒に外へ出ると、サンドロ達がいるのとは反対側へ倉庫を背にしたまま騎士コースの建物のある方へ向かって走り出した。
「ゴドウィン離せ!あいつがリアーナに何かしたんだろ?リアーナはどこにいるんだ!」
後ろからサンドロが叫ぶ声が聞こえる。だがそれよりも急いで隠れなければいけないが流血している手が痛い。
私が片手を庇いながらアーネストについて行くと後ろに大きく土壁が作り出され、エミリオが私の姿を隠してくれている。
騎士コースの建物には今のところ人気は無いようだが念の為アーネストは、エミリオが作ってくれた壁の陰になる所を進み建物の後ろへ入っていった。
「リアーナ、ここへ来て座ってくれ」
人目が届かない場所に入るとアーネストが私を壁側に座らせる。
「すまない、こんな事になるなんて」
まるでアーネストが悪い事をしたように私に謝る。
アーネストは悪くないよ、大丈夫だよ。
私は身をかがめて彼の顔を覗き込むように見た。その瞬間、ガツッと後頭部にひんやりした物で衝撃を受けた。彼が氷の魔術を使って私の意識を奪ったのだろう。
結局、力わざかよ。だけどどうしてこんなに早くここに来たんだろう……
ズキッとした痛みで目が覚めた。
「うぅ……」
「リアーナ、気がついたか?」
申し訳無さそうなアーネストの顔が間近に見える。
「イタタッ……どうなったの?」
どうやらアーネストに抱きかかえられて運ばれているらしく、庭園を足早に移動している。
アーネストのマントにぐるぐる巻きにされ顔以外は晒されていない。
「あぁ、また私、裸に……見たの?」
恥ずかしさと腹立たしさで頬が熱くなりアーネストを睨む。
「私だけだ」
しれっと無表情に答えられ、恥ずかしくて身もだえる。
「くぅ〜もう!なんでこんな、イッ、タタ……」
「動くな、傷口が開く」
庭園から中庭に差し掛かった時、ローラが涙ぐみながら駆け寄ってきた。
「姫様ぁ!!」
一緒にいたのかヴィヴィアンが悲鳴をあげそうになる。
「きゃ……お姉さま!」
騒いではいけないと自制し、すぐさま人がいない方へ案内してくれる。皆は庭園から遠い教室へそれぞれ避難誘導されたようで、比較的近い位置にあるアーネストの部屋へ連れて行かれた。
中にあるソファに寝かされるとローラがすぐに寄り添いアーネストを見上げる。
「ポーションはありますか?」
教師用の部屋には備え付けてあるはずだ。執務机の引き出しから小瓶を取り出しすぐに私の頭にかけられ、ズキズキとした痛みが消えた。
「手にも傷がある」
それを聞いたローラが私に巻き付けていたマントをグイッと下げた。
「や、あっ!待って」
胸があらわになってしまい焦って隠そうとしたが巻きついたマントが邪魔で腕が中々動かせない。
「まぁ……お姉さま」
さっきまでの青い顔が嘘の様にヴィヴィアンが頬を赤らめて私の胸を見ている。
「わっ、ちょっと、アーネストはあっち行って!」
私に追い払われローラに睨みつけられアーネストは舌打ちしながら仕方なさそうに部屋から出ていった。
頭の傷が治ったので体を起こしてもらい巻きつけられていたマントを取った。全裸になった私に頬を赤らめていたヴィヴィアンが手の傷を見ると再び青ざめる。
ローラがそこにもポーションをかけてやっと傷を治した。
「困りましたね、着替えをご用意しなければいけません」
ドレスは完全に駄目になってしまっていたが、まさか着替えを取り寄せるまで裸のままで過ごすわけにはいかない。
「騎士コースに女性騎士用の予備がおいてあるからそれを借りてきて」
激しい訓練で汚れたり破れたりは日常茶飯事だ。あそこなら着替えはいくらでもある。
ローラが急ぎ取りに向かってくれた。その間にヴィヴィアンが私を落ち着けようと気遣い自らお茶を用意するために部屋の外へ出た。
「アーネスト様、お姉さまをお願い致します。すぐに戻りますから」
部屋の外で待っていたのか彼はすぐに中へ入ってきた。
手の傷を治した後、またマントを羽織って身体は隠しているが隣へ座られると恥ずかしくて顔が熱くなってしまう。
「一体どういうことだ?詳しく報告しなさい」
アーネストが苛立たしげに眉間にしわをよせる。厳しい目で見られてピリついた感じが伝わる。
「ハッキリとはわかりませんが、爆発音と煙があがり、皆を誘導するよう命じたあと現場に向かいました」
場所が教師用の部屋だったせいもあり騎士コースにいたときの報告事項を読み上げている時の事が頭をかすめる。婚約者というより、先生って感じだ。
「君が行くことは無かった。王女が真っ先に避難する事が最優先事項だ」
「申し訳ありません、ですが他にも王女と王子がおりましたから」
アーネストは大きくため息をつく。
「マクシーネ殿下とゲイル殿下か、それで?」
庭園の奥でマクシーネが一人でいて、男を目撃している可能性があること。一緒にいたはずのゲイルはいなかったこと、最初にオロギラスを目撃したとき、訓練場から庭園へ侵入してきていた事と倉庫が一棟だけ破損していたことを話した。
「わかった、あとの事は私に任せて君は招待客の方を頼む。まだ学院内に留まっているだろうがそろそろ不満の声が出ているだろう」
「帰らせるのですか?」
彼らの中に何か知っている、もしくは目撃した者が要るかもしれない。
「一応君から何か見聞きしたことがあれば名乗り出るよう通達しておいてくれ。軽く話は聞かなければいけないがこのままあれだけの人数を監視、尋問は出来ないからな」
今頃狭い教室にぎゅうぎゅうに押し込まれ文句を言うやつが出ているだろう。名簿はあるからそれと照らし合わせて身分が証明されたものは帰すことになる。
私は立ち上がり部屋から出るアーネストを見送ろうとドアまで行こうとすると後ろから抱きしめられた。
「うわっ、ちょっと……」
「頼む、少しだけだ。最近顔も見ていなかったからな……」
そう言って彼は私の髪に顔をうずめる。
緊急事態だっていうのに……何いってんだよ、もう……
肩とお腹に回された腕に触れるとポンポンと軽く叩いた。
「ほら、行かなきゃ。すぐにヴィヴィアンも戻ってくるわ」
「私とこうしているよりヴィヴィアンが気になるのか?」
なんの嫉妬だよ。
「もう、馬鹿なこと言わないで」
彼の腕中から抜け出そうと抵抗するとあっさりと解放され……たかと思うとくるりと回され今度は正面から抱きしめられた。
ぎゅっと抱きしめた後、そっと頬に触れるとくちびるを合わせてくる。一瞬後ろに下がろうとしたが腰に回された手をぐっと引き付けられ逃げないように力を込められている。
「ん……むぅ、もう長いよ。時間無いのわかってる?」
ちょっとしつこいアーネストから何とか逃れ、睨むと拗ねたような顔される。
「チッ、わかったよ。はぁ……」
実に嫌そうな顔で今度こそ私を解放するとドアに向かいガラっと開けた。
そこにヴィヴィアンとローラが驚いた顔でいかにも聞き耳を立てていた様子で立っていた。
「あら、もう行かれるのですか?」
ヴィヴィアンは嬉しそうな顔でアーネストに場所を開けた。ローラはボソリとなにか言うと彼は口を拭い立ち去った。
あぁ、今日はお化粧してたんだった。




