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蛇の呪いをかけられたので解呪の為に全力で王位を目指します  作者: 蜜柑缶


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87 候補者

 エストリナ国といえばガルムが高級な絨毯や生地を仕入れている友好国だ。バルバロディア領としてもいつもお世話になっている。

 

「まぁ、エストリナの。よくいらっしゃいましたね」

 

 私とポーシャのやり取りと見てナザリオがハッハッハッと笑った。

 

「まぁ、そんなに固くならなくても大丈夫だよ。リアーナは王族だが私のような下位貴族にも気軽に接してくれるいいヤツなんだ」

 

 どこから出しているのかわからないような気持ちの悪い声でナザリオが男前風の顔でポーシャを見ている。

 

「それは素敵ですね。きっとナザリオ様が素晴らしい方だからですね」

 

 ナザリオを気持ち悪がらずにキチンと向き合うことができるポーシャはきっといい娘だね。

 

 

 経理コースの講義が終わり、ポーシャは次の教室へ向かった。ナザリオは爽やか風な顔で手を振りポーシャを見送った。

 

「はぁ〜カワイイなぁ〜」

 

 ポーシャの姿が見えなくなった途端ナザリオがいつものダラけた態度に戻るとうっとりとした顔をしている。

 

「ポーシャ様の気を引く為に私を使ったの?」

 

「たまには協力しろよ。いつもオレがこき使われてばっかりなんだから」

 

「もうっ、別に良いけど。ちゃんと誠実に接しなさいよ」

 

「当たり前だろ。はぁ……ポーシャ」

 

 ここまで入れ込んでるナザリオは初めてだ。いつもこっぴどく振られているのは見慣れているが今度は大丈夫なのだろうか?

 

 

 色ボケしているナザリオを連れヴィヴィアンと待ち合わせている食堂へ急いだ。

 お茶会はもうすぐだ。準備も大詰めを迎え明日には業者を入れてセッティングを始める予定だ。

 食堂に着くと数人の女生徒達が長テーブルを一台借りて資料を広げそれぞれチェックに勤しんでいた。

 

「食器は既に搬入済みですね。テーブルクロスは今日のはずですけど誰か確認しましたか?」

 

 ヴィヴィアンが端にいる女生徒に声をかけるとその娘はあっと小さく声を上げ資料を手にどこかへ向かった。

 

「ミア様も一緒に行って下さい」

 

 その娘だけでは頼りなかったのかヴィヴィアンはもう一人後を追わせた。

 

「ヴィヴィアン様、お花の業者が少し遅れてくると言っていますが学院の門を閉じる時刻は大丈夫なのですか?」

 

「えぇ、既にフランソワーズ先生に頼んで警備にも知らせてあります」

 

 ヴィヴィアンを中心にいよいよ大詰めの慌ただしさで緊張感が漂う。テキパキと事を進める彼女達は将来素晴らしい人材になるだろう。数人バルバロディア領地にスカウトしておいてもいいんじゃないかな?

 

「皆様、ご苦労さまです」

 

 近づき声をかけると女生徒達は一斉に振り返りパァッと顔を輝かせた。

 

「「「お姉さまぁ!!」」」

 

 何人かが駆け寄ろうとして数歩足を踏み出したがまるで見えない壁があるようにピタリと止まった。

 

 そっか、決まりがあるんだっけ。

 

 混乱を避けるため二人以上は私には近づけない。手前で作業していたヴィヴィアンとパトリシアが余裕の表情でチラリと女生徒達を振り返り悠々と私に近づいてきた。

 

 なんだかか悪役令嬢みたいだよ。

 

「お姉さま、経理コースの講義でしたよね。お疲れはでませんでしたか?」

 

 私のスケジュールを完全把握しているヴィヴィアンが椅子を勧めてくれたので素直にそれを受け資料の前に座る。するとすぐにお茶が用意され少し頬を染めた女生徒がすっと置いてくれた。

 この場合は近づいてもいいらしい。入れ替わるように別の女生徒が菓子を出してくれる。こういう場合に備えて順番を決めているのかな?

 

「会場や当日の準備などはだいたいおわっているのですが」

 

 私がパラパラと資料を捲って進捗状況を確認しているとヴィヴィアンが向こう側にいる女生徒に目で合図するとカッチリとした薄い本のようなものを手渡してきた。

 

「お姉さま、今回の招待客名簿です」

 

 少し心配そうに顔を曇らせているヴィヴィアンとパトリシア。周りの女生徒達も同じ様な感じだ。

 

 表紙をちゃんとつけた名簿を開くと高位から順に名前が乗っている。一番最初にあった名前は王女であるマクシーネだった。

 

「マクシーネ姉様が来るのね」

 

 現役の学院生だから希望すれば参加は可能だ。そしてその下を見ると弟で王子のゲイルの名があった。

 

「ゲイルまで!?どうして……あぁ、マクシーネ姉様の弟として招待したのね」

 

「はい。それと、まだ噂の段階なのですが……」

 

 ヴィヴィアンが私に顔を寄せると耳元で小声で囁く。

 

「マクシーネ殿下は御自分は候補を降りてゲイル殿下につくという話が出ています」

 

「なんっ……」

 

 思わず大きな声をあげそうになり自分で口を押えた。控えていたゴドウィンとサンドロには聞こえていないだろうが私の様子が変なことには気づいている。

 

「それ、どこ情報?母上からも聞いてないけど」

 

 ヴィヴィアンに耳打ちすると彼女は一層声を潜める。

 

「父経由とだけでお許し下さい。さっき入ったばかりの話です」

 

 ヴィヴィアンの父親はベルトナ国の有力な領主だからそれなりに情報網が広そうだ。案外他国からの方がエルデバレン国の内情が見えるのかもしれない。

 

 名簿には他にもイスラ関連の人もいたが目立つ人物は見当たらない。私はヴィヴィアンとパトリシアに後を任せ、一列に並ぶ他の……『リアーナ・リトルシスターズ』達に近づきひとり一人に感謝の意を表すると帰るために玄関へ向かった。もう呼び名を否定したいとか考えてる時間がないよ……

 

 

 馬車が屋敷へ到着すると足早に母上の執務室へ向かった。

 ドア前にいる護衛に目で合図するとすぐに部屋の中へ知らせてくれる。さっとドアが開き、ゴドウィンとエミリオだけを連れて母上とブレインの五人だけになった。

 

「母上、マクシーネ姉様が候補から降りるそうですがご存知でしたか?」

 

 執務机に肘を付きこめかみを指で押えながら母上は私を睨むように見た。

 

「お母様といいなさ……もういいわ。

 ヴィヴィアン様から聞いたのね。こちらにも今情報が入った所です。正確には候補から降りるのではなく、儀式は受けるけどゲイル殿下を推薦する方へ回るようです」

 

 ブレインが資料を手にその後を続ける。

 

「候補者は最終的に、イスラ殿下、マクシーネ殿下、リアーナ殿下、そしてゲイル殿下に絞られました。オスカリ殿下とアラスター殿下はそもそも婚約者がおりませんでしたから条件から外れておいででしたから」

 

 そうだ、オスカリはともかくアラスターの事を忘れてた。出来が悪くて身内からも国を混乱に陥れるわけにはいかないと止められていた兄だ。まぁ、気にしなくてもいいだろう。

 

「これを見て女性候補の中で唯一男性であるゲイル殿下を推す者も出ております。我が国は女王もいらっしゃいますがやはり男性が優位であることは否めません」

 

 ゲイルはまだ十歳なのに今回の事に巻き込まれているようだ。母親のテレーズ王妃にしてみれば生まれた順に王位継承権があるのではないと言われれば欲が出るものなのかも知れないが、ゲイルのためを思うなら今回は見送ったほうが良かっただろう。

 十番目の子で、小領地コルギナタが後ろ盾では力が弱すぎる。だが本当にマクシーネがゲイルを推す側に回るなら少しはチャンスがあるのかもしれない。

 

 母上は身体を起こし背筋を伸ばして大きく息を吐いた。

 

「貴方は随分ゲイル殿下を気に入っていたようだけど、お茶会ではあまり気を許さないように気をつけなさい」

 

「わかってはおりますがゲイルが何か企むとも思えません」

 

 まだ十歳のゲイルが自身で何かを仕掛けるには根が素直過ぎる。

 

「ゲイル殿下が貴方を慕っている事と今回の事は関係ありません。マクシーネ殿下が付く以上、リアーナの強敵になります。

 現段階ではイスラ殿下が多くの支持を集めてる。次点がリアーナ、その下がマクシーネ殿下とゲイル殿下です。ここが僅差だったのでお互いに何か取り引きがあったのでしょう。でなければ中領地のコリンズが小領地のコルギタナを支える側に回るなんて考えられませんからね」

 

 マクシーネの母親の後ろ盾のコリンズは最近領地運営が上手く行っていないようだからそこが関係しているのかも知れない。

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