81 オロギラス 四匹目4
驚いて氷の壁を叩くのを止めて考えた。
私はアーネストが嫌いなの?
すると囲われていた氷がパッと消え四人が私を囲うように立っていた。
目の前には青ざめたアーネストがいて悲痛な表情で私を見ている。
「リアーナ、頼む。私が嫌いならそれでも構わない。君がそこまで嫌がるなら二度と会えなくてもいい。だが今だけは、呪いを解くまではここにいてくれ」
あまりに辛そうな彼を見ていると胸が苦しくなりコクリと頷いた。
「今だ!魔法陣を描く時間はあるか!?」
オスカリが叫ぶ。
「大丈夫です、ここに描いておきました」
エミリオがパッとシーツを広げ地面に置いた。
「気絶させてる時間は無い!姫様、そのままここに乗って!早く!」
ゴドウィンに急かされアーネストが私の指を掴んでシーツの上まで誘導する。
シーツは普通サイズで、私はそこへ小さく体を縮めてちょこんと座った。
「姫様、これを持って下さい。アーネスト様、魔法陣へ魔力を注ぐのを手伝って下さい」
エミリオに渡された小さな籠には四つの魔石が入っておりそれを握りしめると同時に魔法陣が光りだした。
アーネストとエミリオ二人でどんどんと魔力を込めていくと魔法陣は光を増し、魔石を握った手から光が溢れ出す。
何これ!?どうなるの?
「姫様、手を開いてはいけません!吸収しなければいけませんから!!」
エミリオの叫び通りぎゅっと握りしめていたが光はどんどん増していき、やがて熱い空気に身体が包まれると爆発音と共に意識が無くなった。
「クソ……一体なんだったんだ」
オスカリの声が聞こえ目を開いた。
「むぅ……どうなってるの?」
意識が戻りシーツの上に倒れ込んでいた私は身体を起こすとその場に座った。どうやら全員が一瞬意識を飛ばすほどの衝撃を受けたようだった。
「リアーナ!女に戻ってる!?」
アーネストが目の前にいて私を見て叫んだ。
「あ!ホントだ!戻ってる!」
身体を見ると二つの胸の膨らみがあり自分が女の身体に戻ったことがわかった。
「見ない間に随分たわわに成長していて兄様は感動したぞ」
隣にいるオスカリから嬉しそうな声をかけられハッとした。目の前にはアーネストがいるし、後ろにゴドウィンとエミリオがいるはずだ。
「キャーーー!!!」
四人の男性の前で素っ裸になってしまっていた私は悲鳴をあげるとその場に伏せた。
「全員後ろを向け!!」
アーネストが慌てて魔法陣が描いてあったシーツで私を覆った。
「おいおい、オレは兄で、王子だぞ」
「関係ない!誰もリアーナを見るな!!」
恥ずか死にそうになりながらシーツに包まれアーネストの怒鳴り声を聞いていた。
手持ちの冒険者風の服に着替えると少し気持ちを落ち着かせた。
最悪だ……全裸だよ全裸。なんで忘れてたんだろう、大猿から戻ると裸だって。
着替え終わり皆がいる所へ行くが少し気まずい。だが何よりひとまずお礼は言いたい。
「あの、皆様、ありがとうございます。お陰様で女の身体に戻れました」
裸を見られた恥ずかしさで頬がのぼせそうなほど熱くてそれを隠すように頭を下げた。
「姫様、お止め下さい。我々は護衛としての役目を果たしただけです。むしろ危険な目に合わせてしまい申し訳なかったと思っております」
エミリオが複雑そうに顔を曇らせている。
「元に戻れて良かったです。失敗してたらきっと王妃様から今度は蹴りをくらっても済まなかったでしょうから」
ゴドウィンが心底ホッとして笑顔を見せた。
「なぁリアーナ、こっちの魔石はどうする?」
オスカリがもう一つの魔石を取り出し血を拭き取りながら聞いてくる。
「どうしようかな」
身体が戻った事でこれ以上私には必要ではないけど。
「とにかく君が持っていたほうが良いんじゃないか?今は元に戻ったがポントゥスの説明とはかなり手順が違ったからな」
アーネストが魔石を受け取りそれを私に差し出してくれた。
「あ、ありが……とう……」
受け取るときに目があってしまい視線を反らした。
受け取った魔石をさっとポケットにしまうと難しそうな顔で小さな籠を見つめているエミリオのそばへ行った。
「何見てるの?」
それはオロギラスの四つの魔石を入れていた籠で、私が握っていたはずだがいつの間にか落としてしまっていたらしい。中には一つの大きな漆黒の魔石がコロリと入っている。
「ポントゥスからもらった資料とは色々な事が違いました。
呪いの解呪には一時間かかると説明がありましたが一瞬でしたし、魔石も吸収されると書いてありましたがこの様に残っております。しかもあの爆発」
「だがお陰で姫様を気絶させる手間が省けた」
ゴドウィンがエミリオから籠を取り上げカタカタと振って魔石を眺める。
「だが本当に呪いが解けたか疑問が残ります。早く王都に戻ってフルール殿下の診察を受けましょう」
私はゴドウィンから籠を受け取るともう一つのオロギラスの魔石と一緒のポケットに入れた。
全員の怪我をポーションで治し、体力も回復すると山を降りる為に移動を始めようとした。
「そう言えばリアーナの答えはどうなんだ?」
オスカリがニヤッとして聞いてくる。
「なんの事ですか?」
私はしらばっくれるとプイッと横を向いた。
このまま流してくれればいいのに、早く山を降りて国に帰らなきゃいけないんだし。
「だからアーネストが嫌いなのかって話だよ」
わかってるよ!察しが悪いのはゴドウィンと一緒だな!
ムカついてキッと睨みつけたがその横にいたアーネストと目があってしまった。
彼は淋しそうな顔でフッと笑いオスカリに早く下山しようと促した。
「オスカリ殿下、ここでハッキリさせて私が崖から足を滑らす事をお望みですか?」
どうやら彼は私が嫌っていると思ったようだ。
「あ、あの……」
彼になんと言えばいいか戸惑っているとゴドウィンが嬉しそうな声をあげた。
「お取り込み中申し訳ありませんがね、とにかく死物狂いで下山願えませんか」
ゴドウィンの視線を追い、顔をあげた空には大きく羽を広げた巨大な影がこちらへ旋回しながら降下しているのが見えた。
「ここは魔物の巣窟か!?死にたくなければ急げ!!」
オスカリがオロギラスの牙を背負い私の手を掴むと駆け出した。後ろから他の三人もそれぞれ最低限の荷物を手に下山する。
巨大な龍は悠々と高度を下げ確実に私達に近づいてくる。
後ろを振り返りつつ足を速めるが呪いから完全に回復出来ていないのか恐怖の為か膝がガクガクと震える。このままじゃ私の手を引いてくれているオスカリまで逃げ遅れてしまう。
「兄様、先に行って下さい!」
オスカリは振り返りもせず怒鳴ってくる。
「馬鹿!王族が逃げなきゃアイツらは逃げられないんだぞ!!」
護衛や騎士が王族より先に逃げるなんて有り得ない。
「それは分かってるけどもう足が、あっ!」
言ってるそばからグラついた足を滑らしてその場で転び、危うくオスカリ共々崖下へ転落するところだった。アーネストが駆け寄り私の足の具合をたしかめる。
「大丈夫か……捻ったか。ゴドウィン、リアーナを頼む。奴は私がここで食い止める」
そう言って立ち上がろうとする彼を引き止めた。
「駄目よそんなこと。それにどうせもう逃げ切れない」
私が転んだ場所はちょうど岩陰で少しの間、龍から姿を隠せている。
「今のうちにエミリオに魔術で空間を作ってもらってそこに隠れましょう」
「そんなの魔力の痕跡で直ぐに見つかる」
アーネストは反対するがもうすぐそばまで龍の羽音が聞こえる。
「いいから、エミリオ早く!」
岩と同化するように作られた空間に、急いで次々と中へ入ると入口を塞いだ。




