80 オロギラス 四匹目3
アーネストの後ろから近づいていった。
「リアーナ!今はこっちへ来るんじゃない!」
そう言われたって魔術が使えるアーネストと違って近寄らなきゃ私は攻撃出来ない。きっとまた危険だから近寄るなって事だろう。
私だって騎士コースにいたんだからね。
彼の声を無視してそのまま光蛇に飛びついた。奴がアーネストに気を取られ油断したすきをついたいいタイミングだった。
ガッチリと捕まえうねる奴の胴体をぐっと押さえ込む。いつもこうやればエミリオが魔術で掩護してくれる。
地面に押し付けるように押さえ込んだ状態で、エミリオがいる方を見て一瞬意味がわからなかった。
「リアーナ離れろ!そいつはアンフィスバエナだ!!」
双頭の蛇……まさか伝説の魔物なの!?
体の両端に頭を持つ伝説の魔物が光蛇の正体だったなんて。
これまであまりに目撃情報が少なくその詳しい生態も知られていないがこの姿ならそれも納得だ。きっと見た者の殆どが殺されて帰れなかったのだろう。
昔話にしか出てこないアンフィスバエナに驚いて固まってしまっていたがアーネストの声で我に返った。
「攻撃が来るぞ!!」
もう一方の頭の口から閃光が吐き出され私は素早く胴体から離れて岩陰に隠れた。どうやらこちらの顔は毒攻撃、あちらは閃光を放つ攻撃のようだ。
どちらの額にも魔石が確認できるため上手くいけば今回は二個回収できそうだ。きっといい値がつくだろう。
「リアーナ、タイミングを合わせろ!お前が引き付けてオレ達が攻撃を仕掛ける!」
オスカリが叫ぶとゴドウィンが待ったをかける。
「駄目です!姫様は毒消しが効かない!」
二匹目の時に毒を受け散々だった事を思い出し恐怖心がわきあがる。
でもここで逃げてたらずっと怯えながら生きなくちゃいけない。
私はギャーと叫んでゴドウィンに大丈夫だとアピールした。
「だから、何言ってるかわからないって!」
相変わらず察しの悪いゴドウィンに変わってアーネストが通訳してくれた。
「止めても無駄だろう、私が傍にいるから大丈夫だ!」
話している間にもアーネストは吹きかけられた毒霧を氷で固め防いでいる。
光蛇の魔術攻撃はどちらも連射は出来ないらしく、そのすきを埋めるように上手く交互に繰り出してくるようだ。だけど閃光の方は触れるだけでかなりのダメージを受ける為油断が出来ない。一発放たれた直後が狙い目だろう。
「いいか、合図を待てよ」
オスカリが仕切り、四人でそれぞれ身構える。
私は光蛇を挟んでアーネストの向かいの岩陰に潜み手に大きな岩を持って待機していた。万が一の時はこれで毒霧を少しでも避けてやる。
アーネストが自分の頭上に氷の矢を幾つも作り出し光蛇の両方の頭めがけて攻撃を始めた。こちら側の頭が彼に突っ込んでいきながら毒霧を吐く。それを待ち構えていたアーネストが霧を凍らせて避けると剣で頭部目がけて攻撃し右目を突き刺した。
「気をつけろ!」
光蛇がアーネストに攻撃を集中させようとしたのか、オスカリの叫びと同時に閃光がこちらに向かって放たれた。エミリオが分厚い土の壁を幾つも盾のように間につくったがそれを次々とぶち抜き攻撃が彼に迫る。
「行くぞゴドウィン!」
「殿下、遅いですよ!」
オスカリとゴドウィンが自分達の目の前の頭に一斉に斬りかかり攻撃の方向を反らせる。アーネストも自ら氷の壁を作り上手く避けた瞬間、合図が出された。
「今だリアーナ!」
私は飛び出すと右目を失った光蛇の頭に手にした岩を叩きつけそのまま抱え押さえつけた。口を開かないように地面に押し付け毒霧攻撃を防ぐ。
「シャーー!!」
反対側の頭が威嚇しているが直ぐには閃光を放てず、その間にアーネストが巨大な氷の矢を光蛇の胴に突き刺し地面に縫い留める。
光蛇は激しく体をうねらせ私を振り払おうとするが地面に突き刺さった氷の矢のせいで上手く暴れられずそれがかなわない。
もう一方の頭をゴドウィンとオスカリが攻撃している間にこっちの頭を始末しようと、アーネストが近づき鱗に覆われた胴体を剣で突き刺し真横に引き裂いた。するとオスカリの驚いた声が聞こえる。
「うわっ!コイツ自分で胴体を千切りやがった!」
光蛇はこのままでは殺られると思ったのか、アーネストが巨大な氷の矢を突き刺していた部分を自ら引きちぎり体を二つに分けた。
巨大で長い胴を持つ光蛇が一瞬にして二匹になってしまい、驚いた私は押えていた頭を逃しそうになった。
おっと危ない、とにかくこれを先に倒さなきゃ。
向こうの頭もそろそろ閃光を放てるようになる。そうなる前にこちらの始末を急ごうと再び押さえつけようとするが、自由になったこちらの光蛇が血まみれの体を私に巻き付かせてきた。
頭部近くを押えているから油断しなければ直接は毒霧は浴びにくいがそれでも危険は伴う。
こちらの光蛇はぐるりと私に巻き付いた体をギュッと締め付けてくる。手負いの奴の力は強力でギシッと骨がきしむ音と共に肋が折れた。
「ギャッ……」
痛さで悲鳴をあげたが更に絞めつけられ息が苦しくなり声も出せない。
「リアーナ!クソッ、行かせん!」
こちらの光蛇はそのまま私を引きずり転がるように逃げようとする。私は何とか足を突っ張り抵抗していると氷の壁に囲われた。
私が捕まっているため直接魔術を打ち込むのを躊躇しているようだ。だけどこのままじゃじわじわ絞め殺されるだけだ。
思い切って立ち上がろうと氷の壁に体を押し付けそれを支えに力をこめる。
痛い、痛い、痛ーい!
折れたであろう肋骨は身の毛がよだつほど痛むがこんなのフルールの治療に比べれば我慢できる!そう思う!!
なんとか立ち上がりアーネストへ顔を向けた。立ちあがっせいで口を押さえ込むことが出来なくなったが唯一残った奴の左目に爪を立てた。
「シャーーッ!!」
私だって痛いんだよ!
光蛇は見えない目で闇雲に毒霧を吐き出す。私は後ろに回っていたので直撃は避けれるがこのままじゃそのうち毒を浴びそうだ。
「リアーナ動くなよ!」
私の意図がわかったのかアーネストが構えると幾つもの氷の矢を頭上に作り出した。
うまく狙ってよ!
氷の壁にもたれて立つと足を踏ん張った。
ギラッと矢が光を反射しながら次々とこちらへ飛んでくる。目が見えない光蛇は避けることが出来ずされるがままに体に無数の矢を受けた。
それは見事に私を避けて光蛇だけを攻撃し、気がつけば穴だらけの体はだらりと私から剥がれていった。
はぁ〜怖かったぁ……
私がホッとして息を吐くとアーネストが駆け寄りニヤリと見上げた。
「そんなに信用してなかったのか?君に当てるはず無いだろ」
そんなこと言われたって怖いものは怖い、そう答えようとして自分が大猿の姿だったことに気がついた。
「そっちも上手く行ったようだな!」
オスカリが血まみれで嬉しそうに手にほじくり出したあっちの光蛇の魔石を握って駆け寄ってくる。
アーネストがそっちに気を取られたすきに私はその場から逃げようとした。
「姫様が逃げるぞエミリオ!」
こんな時だけ察しがいいゴドウィンが叫ぶと私の足が土の魔術で固められる。本当なら両足が固められる所だったろうけど折れた肋が痛くて一瞬出遅れ逆に片足だけは逃れた。
痛い痛い!でもこんな姿見られたくない!!
必死に自由な片足で固められた土を砕いて転がるように逃げ出した。
「アーネスト様、捕まえてください!」
驚いて振り返ったアーネストが私に向かって魔術を振るうことを躊躇う。
「やらなきゃリアーナが死ぬんだぞ!」
オスカリの叫びに我に返ったのか行く手を氷で阻まれ、囲われる。
ヤダヤダヤダ!これ退かせてよ!
「ギャーギャー!」
必死に氷壁を叩き抵抗する。
「姫様、急がなければ時間がありません!」
エミリオが叫んでいるがとにかくどこかへ逃げたい!
「リアーナ!頼む、言う事を聞いてくれ」
嫌だ、見ないで!アーネストは向こうへ行って!
なおも叫び続けると急にゴドウィンの声が聞こえた。
「姫様!アーネスト様の事がそんなに嫌いですか?」
……え?アーネストが嫌い?




