62 贈り物
「申し訳ございませんでした。父はあの通り強引で」
どうやら私とジェロームを二人にしたかったらしく最初から仕組んでいたらしい。
「意に沿わぬ事でもいつも言うことを聞いているのですか?」
長い廊下をゆっくりと歩きながらジェロームを見上げる。
「父はあぁ見えて結構話は通じますよ。本当に嫌がれば無理強いはしません。
ヴィヴィアンにもエルデバレン国へ留学しろと言っていましたが最終的に決めたのは彼女自身です。下見に行った先で運命の出逢いをしたと大騒ぎしていました」
あぁ、すってんころりんした夜会ね。
「ふふっ、可愛らしかったですよ、ヴィヴィアン」
当時を思い出し思わず笑うとジェロームが足を止め嬉しそうに私をのぞき込んだ。
「やっと本当に笑ってくれた」
予想外に顔が近づけられドキッとする。
「からかわないでよ」
恥ずかしさで少し口を尖らせてしまう。
「ハハハッ、ごめん。可愛かったから」
そう言われてまたドキッとする。
少し頬の熱さを感じながら再び歩きだし直ぐに部屋の前についた。まだローラは戻ってきそうにない。
「ではここで。お休みなさい」
別に部屋に一人でも構わない私はジェロームから手を離した。
「いいえ、それでは父の指示を守れませんから。護衛の者が戻るまではここにいます」
「嫌なことには従わなくてもいいのでしょう?」
「勿論そうです。私は望んでここにいる」
困ったな、このまま置いて中には入り辛い。
どうしようかと考えているとジェロームが部屋のとびらを開いた。
「どうぞ、お疲れでしょう?」
「中へは入れませんよ」
一緒に入るのかと思い慌てて一歩後ろへ下がった。
「私はこれでも紳士ですから、リアーナを悲しませるような事はしない」
なんだかアーネストに当て擦っている気がしないではない。
「別に何も悲しんでなんかいないわ」
そうは言ったが俯いてしまう。すると突然ポンポンと頭を軽く叩かれた。
「時には勇気を持って素直になる方が楽になると思うよ」
勇気を持ってって……どういうこと?
顔をあげてジェロームを見ているとゴドウィンとエミリオが駆けつけてきた。その後ろからローラも急ぎ足でやって来る。
「お待たせして申し訳ございませんでした。ジェローム様、ありがとうございました。もう結構です後は我々で警護いたします」
必死に駆けつけてくれた彼らを見るとジェロームはクスッと笑い「では」と言って去っていった。
部屋へ入るとどっと疲れが押し寄せた。
「口説かれていたのですか?」
ローラが着替えさせながら聞いてくる。
「別にそんな感じじゃない。でも何だか……妹扱い?」
確かアーネストより一つ年上だった。
「ヴィヴィアン様と結構離れていらっしゃいますものね」
年の離れた妹が可愛いのだろうな。私には兄妹という感覚はあまりよくわからないが弟のゲイルを見るような気持ちだろうか?
「それと姫様、これを渡されたのですが」
ローラがどう見ても高価そうな作りの木箱を差し出した。
「ヴォルガン様から姫様に贈り物だそうです」
う〜んと唸ってしまう。私はあまりこういうものは受け取ることがない。人によっては気軽に貰うのだろうけど何となく気が引ける。
「とりあえず見るだけでも」
ローラは自分が気になるのか蓋を開けるよう急かしてくる。
「そうね、見てからお返しするのが礼儀よね」
私も一応気になったのでそっと蓋を開けた。
「おぉ………もしかして姫様があまり贈り物を受け取らないとご存知でいらしたのでしょうか?」
そこには豪華に煌めく宝石たちがギッシリと詰まって……いるわけでなく、まさに採掘場から掘り出したばかりでまだ良い宝石が隠れているかどうかもわからない両手に乗るくらいの大きさの原石が一つ入っていた。一見ただの石のようだが一部ピンクの部分があり、これを上手く削り出せば売り物となるのだろう。
「凄い、これなんの宝石なのかしら?」
あまりというより全く詳しくない私はデコボコとした表面のそれを持ち上げると色々な角度から眺めた。
ローラは箱をテーブルに置くとニコニコと就寝の準備を始めた。私の着替えが済んだのでゴドウィンを部屋へ入れると明日からの打ち合わせを始めた。エミリオは外でドアを護っている。
「直ぐに王都アユーカスへ引き返すわ」
「準備は出来てます。アーネスト様との合流は?」
「明日とは言ってあるけど、それより私、イーデンバッシュの夜会で着るドレスってあるのかしら?」
原石を持ちながらローラを見た。
「急遽決まりましたからガルムに相談した所、ヴォルガン様に言えばいいと言われたのでそのようにしました」
「どうしてヴォルガン様に?初めてお会いしたのに」
不思議に思っているとゴドウィンが鼻で笑った。
「イーデンバッシュ国に行く姫様が満足にドレスも持ってないとなると、滞在したベルトナ国で用意出来なかったのかと言われるのが嫌なんですよ」
「自尊心を煽ったってこと?」
「急いでおりましたので姫様に確認せずにこちらで話を進めましたが、アユーカスの有名な店にヴォルガン様経由で依頼したところ既にアーネスト様がご注文済みでした」
うわぁ〜、その店ダブルで圧をかけられて今頃眠れない夜を過ごしていそう。
「ですけど流石に一日では無理なので出来上がりは三日後になります」
それでも何人か倒れてそう。
「じゃあ、その間にガルムの店の下見をしてもいいわね。カナルキーナ領はガルムだけに任せてもいいでしょう?」
ガルムは国境からここまで馬車で移動だ。明日には到着するだろうからそこから下見していくだろう。一応本命はカナルキーナ領という事なので王都は私が見て回ってもいいだろう。
話が決まり気が抜けてあくびをするとローラが持っていた原石を取り上げた。
「あっそれ貰ってもいいのかな?」
私が珍しく贈り物を欲しがったのでゴドウィンが少し驚いた顔をした。
「珍しいですね、気に入りましたか」
「だって何だか面白いわ。一見ピンク色の部分が多く見えるけど違う色の部分もあって」
私がヴォルガンからの贈り物を喜んでいるとゴドウィンが複雑そうな顔した。だけどいくら気に入らない相手でも物に罪はない。
自分で思っているよりも疲れていたのかその夜はぐっすりと眠った。
何度か目を覚ましたが起きる気になれず、うとうとと浅い眠りを重ねた。私があまりに起きてこないのを心配したのかローラがそっと天蓋を開け声をかけてくる。
「姫様、起きられますか?」
私の額に触れ首元でも確認する。
「熱は無いようですが、またダルい感じですか?」
「ん〜、大丈夫。朝食はここで食べるわ」
食欲はないが食べなければいけないだろう。
「もうお昼ですよ、今日はアユーカスへ移動するのは止めておきましょうか?」
どうやら眠りすぎたようだ。
私はダルい身体で無理矢理起き上がるとベッドから降りた。
「駄目よ、アーネストと約束してあるし、休むにしてもアユーカスまで行くわ。ここで世話になるわけにはいかない」
少しダルいだけで予定を変更したくない。フルール姉さま特製の薬を飲むとブルッと身体を震わせた。




