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蛇の呪いをかけられたので解呪の為に全力で王位を目指します  作者: 蜜柑缶


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57 仲間

 私は驚きを隠しゆっくりと首を振った。

 

「いいえ、存じませんわ」

 

「長期休暇を申し出ているようですが」

 

 フランソワーズ先生は教師同士のやり取りの中で情報を得たようで、私が何も聞いていないことに少し驚いたようだ。

 

「そうですか。今から騎士コースへ向かうのでその時にでも尋ねてみます」

 

「あら、学院内で答えてくれるかしら。アーネストはお堅いですからね、うふふ」

 

「どういう意味ですか?」

 

「それは勿論学生である今の殿下には教師として節度を持って接していることですよ、ですけど……」

 

 フランソワーズ先生は手を伸ばすとそっとサファイヤのイヤリングに触れた。

 

「我慢の限界かしら」

 

 クスクスと笑い教室を出ていった。完全にアーネストからの贈り物だとわかっているようだ。

 深呼吸して少しこそばゆいような気持ちを落ち着けるとヴィヴィアンたちと一緒に廊下へ出た。

 

「私達はこれから準備を詰めていきます、お姉さまはお帰りですか?」

 

 ヴィヴィアンが隣の落ち着かない様子のパトリシアを抑えるように腕を掴みながら尋ねてきた。

 

「私はこれから騎士コースへ書類を提出しに……」

 

「お姉さま、それはアーネスト様からの贈り物ですよね?」

 

 我慢しきれなかったパトリシアがヴィヴィアンの静止を乗り越えてイヤリングを指差すと口を開いた。余計なことを言うなという感じでヴィヴィアンがキッと睨む。私は苦笑いをすると頷いた。

 

「えぇ、まぁ」

 

「やっぱりお二人は揺るぎないご関係なのですよね、ですから私は……」

 

 暴走しそうなパトリシアをヴィヴィアンががっしりつかむと私に行くように促した。

 

「お姉さま、こちらは大丈夫ですわ。ではまた」

 

 興奮したパトリシアを騎士コースとは反対方向へ引きずっていった。なんとも言えない気持ちで二人を見送り騎士コースのアーネストの部屋へ向かった。

 

「どうするか決めたのですか?」

 

 ゴドウィンが後ろからついてきながら尋ねる。昨日のやり取りは母上にも伝えてあり、どうするかは自分で決めるように言われている。そもそも私が騎士コースを取っていることにいい顔はしていなかった。

 

「決めてる」

 

 アーネストの部屋のドアをノックすると返事を待って中へ一人で入っていった。彼はチラリとこちらを見ると手にしていた書類を机の上の書類箱に入れた。

 

「決心したのか?」

 

 私が差し出した書類を受け取り内容に目を通した。

 

「はい、騎士コースは辞めます。お世話になりました」

 

 手から離れた退講届けを見ているとこの二年余りのことが思い浮かんだ。

 感傷的になるつもりは無かったが一つの目標が消え、夢が消えた。

 

 やってきたことに後悔は無いが寂しさと虚しさとが入り混じった複雑な気持ちがする。自信も無くなり気持ちが落ち込み何もやる気が起きないがそんなこと誰にも言えないし、言っている場合ではない。

 

 王位継承へ向けてやらなければいけないことが沢山ある。

 

「失礼……します」

 

 なんだか込み上げてくるものがあり急いで退出しようと背を向けた。

 

「待ちなさい」

 

 アーネストは立ち上がると机を回ってこちらへ近づく。昨日のこともあったので私は驚いて振り向き身構えようとするとさっと腕を取られそのまま抱き寄せられた。

 

「なっ……何を……」

 

 抵抗しようとすると優しく囁かれる。

 

「これまでよく頑張ったな」

 

 そっと抱きしめられポンポンと背を叩かれる。その声を聞いた途端不覚にも涙がこぼれた。

 

「うっ……は、離して」

 

 アーネストに慰められるのは恥ずかしくて腹が立つ。

 

「駄目だ」

 

 これまで聞いたことがない柔らかい優しい声にドキッとした。数ヶ月前にはあれ程厳しく叱られたというのに。

 

 さっきのフランソワーズ先生の言葉を思い出した。

 

「先生が生徒にこんなことしても良いと思ってるんですか?」

 

「もう君は私の生徒ではない。退講届けは受け取ったからな」

 

「だからってこんな」

 

 必死に抵抗して身体を離す。

 

「婚約しているのだから君に触れたって問題はない。もう成人したしな」

 

 平然と言い切る奴に心底ムカついてくる。

 

「だからって勝手に触るのは失礼です」

 

「傷ついている婚約者を前に抱きしめていいか許可を取るのは難しくないか?」

 

 クスッと笑って私の両肩に手を置いた。

 その瞬間、アーネストがエベリーナと密会していたときの様子を思い出した。見上げるエベリーナの両肩に手を添えたアーネストが彼女を見下ろす。

 

 ちょうど今の私達のようだった。

 

「いや!離して!!」

 

 ぐっと胸が苦しくなり彼の手を振り払うとそのまま教室を出た。ゴドウィンの慌てた顔が見えたが振り切るように廊下を走った。

 

「リアーナ!」

 

「姫様!」

 

 私を追って来たアーネストとゴドウィンが叫んでいたがそのまま廊下を曲がると目についた中庭へ入っていった。入り組んだ中をどんどん進む。

 中庭を通り過ぎると大きな庭園に繋がり、そこも突っ切ると騎士コースと庭園を区切る高い鉄柵が見えてきてそれ以上進むことを阻まれた。

 

 この柵の向こうは騎士コースで使う道具を置く倉庫がいくつかあり、隙間から訓練する生徒達と指導する先生が遠くに見えた。柵を握ってこれ以上進めないでいるとひょっこりナザリオがあらわれた。

 

「ここって、騎士コースの生徒同士の逢い引きの場所らしい」

 

 ナザリオは私の隣に立つとこちらを見ないで騎士コースの訓練を隙間から見ながら言った。

 私は肩で息をしながら同じ様に訓練を見ていたが前が滲んでよく見えない。ナザリオはこちらを見ないままハンカチを差し出した。黙って受け取り涙を拭う。

 

「どうせ落ちこぼれになるなら訓練サボってここで逢い引きしとけばよかった」

 

 拗ねたように口を尖らすナザリオがおかしくてちょっと笑ってしまった。

 

「ふふ、馬鹿なこと言って。誰と逢い引きするのよ」

 

「そりゃ、リアーナ以外の誰かだよ」

 

「なんで私以外なの?王女だから?可愛くないから?」

 

 別にナザリオに恋愛感情はないがちょっとムッとして聞いてみた。

 

「お前はなんて恐ろしいやつなんだ。お前は可愛いがそんな事出来るかよ、俺は命が惜しい」

 

 そう言った後、肩をポンポンと叩く。

 

「それにリアーナは仲間だからな」

 

 にっこり笑って私の手からハンカチを取ると鼻を拭いてくれる。

 

「こんなグズグズの顔じゃ人前に出られないぞ、王女殿下、もう泣くな」

 

 彼の顔を見ていると気が緩んだ。

 

「騎士コース、辞めてきた……」

 

 口にするとまた涙がこぼれた。

 

「そっか、俺と一緒のオチコボレだ」

 

「ナザリオは泣かなかったの?」

 

「む……一人でちょっと泣いた」

 

「言ってくれれば慰めてあげたのに、ごめん」

 

「いいよ、俺がリアーナを慰められたから。俺も救われた気がする」

 

 二人でふふっと笑い合うと物置の隙間から見える騎士コースの生徒達を見ていた。

 

「いいなぁ、羨ましい」

 

 きっとあの中からまた騎士団へ行く子が出てくる。

 

「俺はもうそこまで羨ましくない。だって次の目標が出来たからな」

 

 少し偉そうに胸を張る。

 

「なに?」

 

「俺、どこかの領地へ行こうかと思う。領主一族に仕えようかと。せっかく学院で資格取って頑張ってるのに生かせないのは嫌だし、王都で暮らすより安く済むだろ」

 

 ナザリオは下位貴族だが財産もなく後ろ盾もない。母親と二人だけの暮らしで物価が高い王都の暮らしは楽じゃないだろう。

 

「そっか」

 

 一瞬バルバロディアへ来るか聞こうかと思ったが止めた。私の所へは来たくないかも知れないし、私はバルバロディアへ行かないかも知れない。自分の身の振り方は自分で決めるだろう。

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