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蛇の呪いをかけられたので解呪の為に全力で王位を目指します  作者: 蜜柑缶


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48 夜会のエスコート5

 このまま放っておきたい気持ちも無くはない。エベリーナは私とゴドウィンの醜聞を広げたいみたいだが事実を見た目撃者はあの貴婦人以外にも数人いて今頃相手はアーネストだと言われているだろう。恥をかくのはエベリーナだ。

 チラリとアーネストを見ると完全に感情を隠した表情でエベリーナを見下ろしている。ここで何か言うつもりはないらしい。

 

「あぁ、それは私も先程耳にしましたよ。リアーナ殿下に部屋を用意してほしいと頼まれたのは私ですからね。殿下がゆっくりとご休憩することが出来るように静かな所を用意させていただき部屋の位置は誰にも言うなと釘を刺しておいたのですが、どうやら使用人の中に不届き者がいるようでご迷惑をお掛け致しました」

 

 思いかけずコーネリアスが私を庇うような発言をするとねっちょり視線をエベリーナに向けた。

 

「宜しければ誰からお聞きになったのかお教え願いませんか?色々な取引に関わる者として信用が落ちるような事柄は何を持ってしても阻止したいものですからな。まして相手は王族の方、私の事を貶めるような所業をした者にはそれなりの報いを受けさせなくては気が済みませんからね」

 

 ねっちょりの瞳の奥が一瞬ゾッとする怖さを含んだ気がしてゴドウィンの腕の陰に身を寄せると掴んでいた手の上に彼のガッシリした大きな手を重ねられた。その温度に少しホッとする。

 コーネリアスは長年エルデバレン王国で国内外問わず取り引きで財を成している男だ。やはりただの小男ではないようだ。

 

「わ、私はちょっと耳にしただけで、詳しくはあの者に……マーサ!こちらへ」

 

 コーネリアスからの思わぬ攻撃に怯んだエベリーナはキョロキョロとするとさっきの貴婦人マーサを見つけこちらへ来るよう合図をした。だが作戦が失敗しているマーサはそれに応じずくるりと背を向け逃走した。それを見たコーネリアスは近くにいた使用人の男に目で合図すると男は黙って人々の隙間を縫うようにすり抜けマーサの後を追ったようだ。

 

「コーネリアス様、そこまでなさらなくとも良いのでは?ただの噂ですよ」

 

 アーネストがエベリーナを庇うような発言をする。

 

「いえいえ、とんでもない。私が主催した夜会で殿下にあらぬ噂が立てられては申し訳ありませんからな」

 

「どの噂を耳にしたかは知りませんが誤解はすぐに解けるでしょう」

 

 コーネリアスはアーネストをジッと見るとニヤリとする。

 

「そのようですな。では騒ぎ立てるのはやめておきましょう、今回は」

 

 チラリとエベリーナを見やるとコーネリアスは私に慇懃に礼をとり去っていった。それを見送っているとアーネストがエベリーナに声をかけ私達に挨拶をし離れようとした。

 

「殿下はもうお帰りですよね。お気をつけて、ゆっくりと御身体を休めて下さい」

 

 アーネストがさっさと帰れと言わんばかりにちょっと睨んでくる。

 

「大丈夫ですわよ、殿下にはこんなに力強そうな護衛の方が付いていらっしゃるのですから」

 

 何とか態勢を整えたエベリーナが一層アーネストに身体を寄せて言った。

 

「そうですわね、では失礼いたします」

 

 彼らに背を向けるとゴドウィンを引っ張るように立ち去った。

 

「いいのですか?」

 

「何が?」

 

 ゴドウィンは私の耳元に口を寄せそっと囁やく。

 

「アーネスト様とお休みのキスをしなくていいのですか?」

 

「なっ!何を言っているの、そんな訳ないでしょ」

 

 一気に顔が熱くなり思わず叫びそうになって小声で答えると誰にも気づかれないようにエスコートの為に掴まっている腕でゴドウィンの腹に肘を勢いよくめり込ませた。

 

「グフッ!」

 

 油断していたのかきれいに決まりゴドウィンは痛みに耐えるために黙った。余計な口は塞ぐに限る。

 

「本当に仲がよろしく見えますわね、お姉さま」

 

 ついてきていたヴィヴィアンが可笑しそうにクスクス笑っている。

 

「アーネスト様も見てらっしゃいますよ」

 

 驚いて振り返ったがもう人にまぎれて姿は見えなかった。

 

 ま、いっか。

 

「今夜は助かったわ、ヴィヴィアン」

 

「いいえ、これくらいどうということはないですわ。私はこのままお姉さまとアーネスト様の噂を広めながら最後までおります」

 

 馬車まで見送りに来てくれた彼女にさっきのことを話すと少し怒っていたが逆に利用して行こうと張り切った。勿論、キスの事は言ってないけど。

 

「ヴィヴィアン様、噂の広がり方は程々にお願いします。その方があちらが広げる話と相まって混乱が広がり大きく長く続きますから」

 

 ゴドウィンが悪い顔でそう言うとヴィヴィアンもこっくり頷く。

 

「王都の話題をお姉さまが独占するのですね、わかりましたお任せ下さい」

 

 ちょっと心配だがその手の事が得意そうな彼女に丸投げで屋敷へ戻った。

 

 

 

 

 次の朝、夜会に顔を出しておいて学院へ行かないのはちょっとマズイかとベッドの上に起き上がった。

 ちょうどローラが部屋へやって来て私の朝の準備を始めたところだった。私が起きていることに気づくと天蓋のカーテンをそっと開け顔色を見てくる。

 

「おはようございます、姫様。ご気分は良いようですね」

 

 ホッとした顔を見せられこちらも安心した。ローラが大丈夫だというなら大丈夫だろう。

 

「おはよう、今日から学院へいけるわね」

 

 昨夜のことをヴィヴィアンに任せきりなことが気になる。

 

「はい、経理コースと帝王学コースだけの予定ですが、昼食をご一緒したいとヴィヴィアン様から伝言を頂いていたので了承の返事を出しておきました」

 

 流石ローラ!

 

「ありがとう、私もそのつもりだったの」

 

「あの後の昨夜の事が気になりますからね」

 

 私の仕度をしながらローラが難しい顔をする。確かにどうやって噂を広げていくのか、どう広まるのか気になるところだ。

 

「それにしてもお疲れの姫様に無理にあんな事をなさるなんて、本当に殿方というのは……」

 

 は?無理……あんな……

 

 忘れていた昨夜のアーネストとのアレが急に脳裏に浮かぶ。出来ることなら忘れたままでいたかった。

 何故かゴドウィンに対抗するかのように無理矢理というか不意打ちにされたアレはカウントに入れないといけないのだろうか?アレがファーストキスなの?恋愛話に疎くて縁がない私でももう少しムードがある感じで起こることだと思っていたが、所詮政略結婚が当たり前の王女という身だ。期待しすぎてはいけないか……

 

「ま、事故だと思って忘れるわ。ゴドウィンの時と同じよ」

 

 私の言葉をローラが驚いた顔をして聞いている。

 

「ゴドウィンと同じですか?」

 

「そうね、気にしないことにする」

 

「それはゴドウィンとアーネスト様が同じような……距離感というか、心の中に占めている割合が一緒というか」

 

「なんだか言ってる意味がわからないけど、ゴドウィンの方が身近にいるから……」

 

「まさかのアーネスト様よりゴドウィンが上ですか?!」

 

「存在感で言えばそうね、だって毎日顔を会わすんだから」

 

 アーネストなんて騎士コースに行っている時でも時々顔を遠くから見るくらいだった。

 

「ちょっと予想外の展開に動揺が……」

 

 ローラは顔を引きつらせ急いで私の仕度を済ませ朝食の準備をすると後を他の女中に任せ急用だと言って姿を消した。

 

 何か変なこと言ったっけ?

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