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蛇の呪いをかけられたので解呪の為に全力で王位を目指します  作者: 蜜柑缶


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39 婚約者

 アーネストと私が正式に婚約したのは私が五才、アーネストが十二才の時だった。

 王女として生まれいずれは母上の里の領地で領主として生きていくことが決まっていた私は早くから婚姻相手を探すため、時々屋敷には近い年頃の男の子達が相性を見るために集められていた。

 身分は他領の領主の長男以外もしくは王都にいる上位貴族か他国の上位貴族でこちらへ入れる者と定められていた。

 

 私と近い年頃ということはみんな子供でしかも男の子。数人集まればすぐに走り回ったり無茶をしたりと屋敷の庭は賑わっていた。

 勿論子供だった私も大人達の企みなど知らず一緒に走りまわっていた。何日かおきに数人ずつ何度か入れ替わりで遊ぶ楽しい時間だったがそこにアーネストも来ていた。

 

 私はアーネストが来る日をいつもの楽しみにしていた。幼いながら既に出来上がっていた美麗な容姿に静かに立っている姿は他の男の子達と一線を画していた。

 

 ひとしきり暴れまわった子供達がおやつを食べながら休憩を取り始めるといつもアーネストは一人静かに抜け出しどこかへ消えていった。

 皆がワイワイ遊んでいるときも彼は付き合いはするがそれほど積極的には参加していなかった。

 ある日、私はこっそりと彼の跡をつけた。どこへ行くのか不思議に思っていると屋敷の奥にある部屋の中へ消えていった。

 

 そこは図書室だった。グランフェルトの領地にも図書室はあるだろうが王妃である母上の屋敷には珍しい本が沢山あったようだ。

 アーネストはそこで棚の前に静かに立ち本を選んでいく。脚立に上り一冊手に取ると机に丁寧に置き椅子に座り伸びた背筋でゆっくりと本のページをめくる。

 銀色に輝く髪をサラリと揺らしながら熱心に本に見入っているその姿に興味を持った私は近づくと彼の顔を覗き込んだ。

 

「退いてくれないか」

 

 彼はムッとしてそう言ったが王女としてきっちりと甘やかされて育てられていた私はそんな事は気にしなかった。

 

「どうしてここにいるの?何してるの?」

 

 鬱陶しそうな顔をしたアーネストだったが私が王女であることは認識していたのだろう。

 

「本を読んでいるんだ」

 

「なにが書いてあるの?」

 

 五才だった私はそろそろ字の勉強を始めたところだったが本を読めるほどではなかった。

 アーネストはため息をついたが丁寧に読みきかせ難しい所はわかりやすく解説してくれた。

 私は幼心にアーネストの本を読む横顔に見惚れ、その日からアーネストが来る度に、皆と走り回ったあと二人で図書室へ向かうことが楽しみになっていった。

 

 何度かアーネストと二人で図書室へ通うことが続くと他の男の子達が来ることは無くなり、彼と一日中過ごす日が増え私は楽しくてしかたがなかった。

 するとある日、母上からアーネストとの婚約が成立したことを告げられた。私は嬉しくて、数日後にやって来た彼に駆け寄り抱きつくと顔を見上げた。

 

「アーネストは私と結婚するんでしょ?」

 

 彼は顔をそらすとボソリとこぼした。

 

「父上がそう仰ったからな」

 

 表情のないその顔を見て不安になった。

 

「嫌なの?」

 

「リアーナはまだ小さいから」

 

 大人びていたアーネストは親達の事情を察して政略結婚という意味もある程度理解していたのだろう。不本意でも従わなければいけない事に対する不満が見て取れた。

 

「ごめんなさい、お母様に駄目だって言ってくる」

 

 アーネストが嫌がっているなら結婚は出来ないだろうと思い私は彼から離れ母上の元へ行こうとした。

 

「待って、駄目じゃない!」

 

 彼は慌てて私の手を掴んだ。

 

「嫌なんでしょう?」

 

 私は振り返ると確認した。

 

「い、嫌なわけじゃないんだ。ただリアーナは小さくて、本も一人で読めないし」

 

「ちゃんと本が読めればいいの?」

 

「そうだな、私と同じ様に色々な事が出来るようになればいい」

 

 それを聞いた私は嬉しくなってまたアーネストに抱きついた。

 

「アーネストと同じになるように頑張るよ、何でもアーネストより出来るようになる!」

 

 彼は仕方なさそうに私の頭を撫でていた。

 

 そこから数ヶ月はアーネストと毎日のように一緒に過ごした、彼が十三才になるまでは。

 

 

 

 学院へ通いだしたアーネストは前ほど頻繁に屋敷へ来ることは無くなった。騎士コースや経理コース、魔術コースを並行して取っていた為忙しくて来る暇がないというのが理由だった。

 私はアーネストが騎士コースを取ったと聞いた時から屋敷の護衛騎士たちの訓練に紛れ込むようになっていた。

 

 アーネストより強くならなきゃ!

 

 それが無謀なこととも知らず鍛錬を続け学院へ入ると迷わず騎士コースを取った。

 

 学院へ入ったばかりの頃、既に働き始めていたアーネストと時々身内の夜会にも参加するようになっていた。

 いつもアーネストがエスコートしてくれ夜会でみんなが彼に注目しているのが何だか新鮮で少し誇らしかった。

 私はまだ大人とは言い切れない感じだし、飛び抜けて美しいわけでも無かった為、この美麗な人が自分の婚約者なのがちょっと信じられない感じがしていた。

 

 ある夜会での事、いつも通りひと通り挨拶が済み少し疲れた私はアーネストに断りをいれると、女性用の休憩室へ向かった。そこで女中が淹れたお茶を飲もうとカップを手にすると小さな紙が折りたたまれて挟んであり開くとこう書かれてあった。

 

『アーネスト様がとある女性と秘密裏に会っている』

 

 ご丁寧にも場所まで書かれてあり私は急いでそこへ向かった。夜会が行われていた会場から少し離れた建物の隅に二つの寄り添う影が見えた。

 

 アーネストと他国の上位貴族の娘だった。

 

 彼女はアーネストの胸に顔を埋めたあとそっと彼を見上げた。彼はその細い肩に両手を添えると彼女を見下ろした。

 

 それだけ見ると私は直ぐに引き返しそのまま屋敷へ戻った。

 

 アーネストには大人の美しい恋人がいたのだ。

 

 

 

 ベッドで泣き伏せる私をローラが心配してくれたが何も言わなかった。後からアーネストが来てくれたが顔を会わすことは無かった。

 

 しばらくするとアーネストが騎士コースの先生になり毎日のように顔を会わせる事になった。あんなに会いたいと思っていた相手だがその頃には顔を見るのが苦痛でしか無かった。

 アーネストは私を他の生徒と区別することなく接し、訓練も厳しかった。私も必要以上に彼には近づかずしだいにアーネストの事をそれほど意識せずに過ごすようになっていった。

 時折またアーネストのエスコートで夜会にも行ったが彼を誇らしく思うこともなく淡々と政略結婚のパートナーという立場をこなしていた。

 

 そんなアーネストが今は何故か私の病状を気にしているかのように必死に叫んでいる……気がする。

 

 幻聴かな?

 

「フルール……姉様……」

 

「ん?良いようだな。喉を痛めたか、ならコレを飲んでおけ」

 

 渡された薬はスッゴイ味がしたが無理矢理飲み込んだ。

 

「うへぇ〜、また吐きそう」

 

 かすれながらも何とか小声で話せるようになり母上を呼んだ。

 

「お母様、まさかアーネストが来ているのですか?」

 

 母上はにっこりと微笑むと首を横に振る。

 

「気にしないでいいわ、気の所為でしょうから。少しは思い知ればいいのよ……」

 

 最後はボソリとドアの方を向いてブレインに目で合図したようだ。

 

 

 

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