36 オロギラス 二匹目4
「ヤバイ!!居たっ!」
私はそう叫ぶと全身に寒気が走りキィーンと突き刺すような激しい頭痛に意識を奪われた。
気がつくと遠くで地響きのように岩が砕ける音がしていた。
ここどこだ?
また夢の中のように少しぼんやりした意識のなか身体を起こし周りを見たが誰もいなくて見覚えの無いところにいる。キョロキョロとしてゴドウィン達を探していると再びガラガラと音がし、少し先の方で岩が転がり落ちてきていた。
どうやら私は崖の途中に倒れていたらしく見上げると土煙が立ちのぼり激しく争う音が聞こえていた。
二人はあそこにいるのかな?
崖に掴まれそうな所は無かったので自分で山肌の土の部分をグーパンチで穴を開けながら登っていった。
やっと登りきった所はさっき見た尖った岩が並んで立っている場所で少し拓けた所だった。
「やっとお目覚めかよ!!早くアレをなんとかしろ!」
ゴドウィンが腕から血を流しながら立ち上がるところだった。
戦っている時は口が悪いなぁ。
「姫様!大丈夫ですか?お傍に行けず申し訳ございませんでした」
エミリオがすまなさそうにしているが彼も頭から流血していた。
私は大猿に変身したときに崖下に滑り落ちたようだ。意識が戻るまでの間に結構二人だけで戦っていたようだ。
ちょっと失敗だったな。良し、今から挽回しなくちゃ。
直ぐに風蛇を捕まえようと思ったが姿が見えない。キョロキョロとし探していると尖った岩の上から竜巻のような強風が吹き荒れグラつくと再び崖下へ落ちそうになった。
わ、わ、わわっ!
なんとか踏ん張り低い体制に身構えると素早く岩の近くに寄りそこに掴まると見上げた。風蛇は尖った岩に巻き付いてこちらに攻撃してきている。
コレがお気に入りなのかな?
どうやら自分の好きなように岩を削り居心地よく形を造った結果がこの尖った二本の岩らしい。高い所に巻き付いたままの攻撃にこちらから手出しし辛い。
私は尖った岩の根本をパンチで壊し始めた。強風吹き荒れる中どこにもいけなし、どちらにしてもあそこから降りてきてもらわないと倒せない。
ゴンゴンと岩をパンチし続けていると風が止んだ。魔術の攻撃は一度行うとしばらく使えないはずだから今のうちに壊せばいいだろう。
私がやっていることに気づいたエミリオも魔術で岩を抉り始めた。硬い石巌は魔術でもなかなか壊せないようだったが少し窪みが出来たところをエミリオが細長く深く穴を開けていくと次第にビシッっとヒビが入りだした。
お気に入りの場所を壊されかけていることに気づいたのか風蛇が上から勢いよく滑り降りてきた。
「シャーー!!」
噛みつこうと大きく口を開き私を目掛けて攻撃してくる。
「危ない!!避けろ!」
言われなくてもっ!
ゴドウィンの叫びと同時に後ろへ飛んだ。そこへ間一髪、風蛇がさっきまで私がいた場所でガキンッと牙がぶつかる音を立てて空を切る。直ぐに私が飛び退った方へ頭を向け続けざまに攻撃してくる。
それも躱し、ついでに風蛇の横っ面にパンチを浴びせた。攻撃を食らった勢いで地面に体ごとドンッと落ちた奴を捕らえる為に飛びつこうとした。
炎蛇の奴はこれで動きを封じて最後はやり込めたんだから今回もこの手でいけばいいだろうと思っていた。
「よせ!!」
ゴドウィンの叫びが聞こえ一瞬躊躇すると目の前を風蛇の尾が物凄い勢いで通り過ぎた。鼻面をかすり驚いて身構えると奴は一旦体制を整え鎌首を持ち上げる。
「油断するな!炎蛇より動きが素早いぞ!!」
種類によって多少性質が違うらしく戦い方も前とは変えなければいけないようだ。エミリオが土の魔術で捕らえようと動きを見定めているが前と違い洞窟の中では無いので奴の盾になる岩陰も多く上手くいかないようだ。
「ウギャーギャー!」
私は回り込んで追い込むからと伝えようとしたがギャーしか言えない。
「何言ってるかわからん!!」
ゴドウィンが奴に向かって何度か攻撃を仕掛けながら叫ぶ。
察しの悪いやつだな。
私はエミリオを見ながら風蛇の隠れている場所の後ろを指さした。
「回り込んで来るのですね、わかりました。お気をつけて!」
流石エミリオ、一発オッケーだよ。
私が回り込むスキを作るためにエミリオが少し強めの攻撃を風蛇の顔にぶつけた。奴が一瞬クラリとした所を素早く裏へ駆け込みとぐろを巻いた体を掴みあげ大きくぐるぐると振り回して勢いをつけると力一杯地面に叩きつけた。
前からの攻撃に気を取られていた風蛇はもろにダメージを受けてダラリと体から力が抜けたようになった。そこへ飛びつくと鎌首を捕らえ抱え込む。
「良し!そのまま逃がすな!!」
ゴドウィンが駆けつけ魔剣ビルギスタを奴の首元に突き刺した。ゴリッという骨が砕ける音と共に風蛇はビクリと体を震わせ動きを止めた。
終わった?
何度か抱え込んでいる奴の体を揺すったが全く動きはない。ゴドウィンも剣で他の場所を突き刺しているが反応が無い事を確認した。
「やったか?」
その言葉を聞いて力を緩め風蛇を離した。ゴドウィンは何か気になるのかまだ何度か剣を突き刺して首を傾げている。
「姫様、大丈夫でしたか?」
エミリオも駆けつけ心配そうに私を見上げた。私がコクリと頷くと安心したように彼は微笑んだ。
猿になってもエミリオの美麗さは伝わるねぇ。
「早く魔石を取り出しなさい」
エミリオがゴドウィンを急かした。
「わかってるんだが……」
ちょっと浮かれていたのかもしれない。予定より早く現場に到着し、予定より早く風蛇の居場所がわかり、上手く連携して倒せていたと。
ゴドウィンは何かスッキリしない顔をしていたがグッタリして動かない風蛇の頭部に近づき額の魔石をほじくり出そうしてその鼻面に手をかけた。
「シャーー!!」
突然、風蛇が口を大きく開けゴドウィンに牙をむいた。
危ないゴドウィン!!
私は咄嗟にゴドウィンと風蛇の間に手を突っ込む。奴がその牙を私の手に食い込ませると首をうねらせ深く咥え込んだ。
「ウギャーー!!」
痛さに悲鳴をあげるとエミリオが何かを叫びながら風蛇の体を土の魔術で地面に固め身動きできないようにした。ゴドウィンは素早く身を翻したかと思うと風蛇の首を斬り落とした。
私は風蛇の首ごとその場に倒れた。牙が食い込んだ腕がズキズキとし痛みは段々と増していく。もう片方の手で風蛇の口を開こうとするがなかなか上手くいかない。
「動くな!」
ゴドウィンが慌てた感じで近寄り咥えこんでいた口の端から顎の骨を外すように剣を差し込む。一回では外れずそこからどくどくと血が溢れてくる。
これ……誰の血だ……
流れ出る血にまみれゴドウィンが必死に私の腕から風蛇の牙を外したが、そこからまた血が溢れ目の前が暗くなった。




