28 お茶会1
あぁ……疲れた。
屋敷へ向かう馬車の中、ダラリと力無く座り口もきかない私をゴドウィンが不思議そうに見てる。
「今日は騎士コースは取ってませんよね。どうしてそんなにお疲れで?」
事情をわかっているエミリオがヒソヒソと搔い摘んで話すとゴドウィンは腹を抱えて笑った。
「まさかあのお嬢様方の中で姫様の争奪戦があっただなんて!!見たかったぁ!!ヒャッヒャッヒャッ……!」
ゴドウィンが下品な笑いをひとしきり終えた頃屋敷にたどり着いた。馬車が到着しいつも通りゴドウィンが先に降りていったが笑い過ぎて多少グッタリとしていたのが何かあったと思ったのかローラが慌てて中を覗き込んできた。
「姫様!ご無事ですか!?何があったのです?」
ローラの問がまたツボにハマったのか、ゴドウィンがまた肩を震わせ笑いを堪えているようだが声が漏れてるんだよ!!
「私は多分大丈夫。それより母上に会える?」
大丈夫と言いながらも疲れた顔をしてしまっていたのかローラが心配気に後ろを振り返りつつ先ずは部屋へと連れて行かれ、着替えさせると長椅子へ座るように窓辺へ連れて行かれた。
「今冷たいタオルをお持ちしますわ」
長椅子に体を預けると少し気分がマシになってきた。ローラが冷たいタオルを額や頬にそっとあててくれ気が緩んだ。
「はぁ……ありがとう。後で母上と一緒の時に話すけど本当に大変だったの」
何度も今日の惨状を話す気になれず説明は一度に済まそうと母上からお呼びがかかるのを待っていた。
「では、お茶会の補習で女生徒達からの支持が獲られそうだとわかったのですね」
母上はギラリと目を光らせるとニヤリと笑った。
「いえ、そういうわけでは。それはきっとヴィヴィアンさまの苦し紛れの言い訳です」
自分の欲望に忠実に行動しつつ他者からの避難も回避したヴィヴィアンはある種やり手なのかもしれない。ヴィヴィアン……恐ろしい娘。
「何を言っているのです。明日はどれほどの人が集まるお茶会なのかヴィヴィアンという人物が何者なのか至急調べなければ、ブレイン」
「エミリオから聞いて既に調査をしておきました」
母上の時間があくまでの間で調査し終えていたのかブレインが資料を読み上げた。
「概要と致しましてはお茶会ですが調査を始めた時点で招待客は三十人を超えております。これはベルトナ国の貴族主催にしては異例の規模でまだ増えつつあるようです」
もうそれ個人のお茶会じゃなくない?
「はじめに招待されていた十人の貴族は殆どがベルトナ国の者でしたが今は国内の貴族からの問い合わせが殺到し断られる上位貴族もでているようです。リアーナ姫様がお身内以外の方のお茶会へ参加するのは初めてですからね」
身内が主催のお茶会はいつも少数で行われていたので、招待客もごく限られている人だけだったがヴィヴィアン主催のお茶会は違う。もしかしたらややこしい人物が紛れ込んでいるかもしれない。
だがいくらなんでも十人の招待客と思っていたお茶会の開催が明日に迫っている時点で三倍以上なんてとてもじゃないけど準備が追いつかないだろう。私のせいじゃないけど私のせいな気がして用意をしなければならないアチラの女中たちが少し気の毒になってきた。
「お母様、何かお手伝いしたほうがいいでしょうか?せめて茶菓子やお茶を差し入れてあげれば随分と助かると思うのですが」
急に上位貴族に出すお茶菓子が大量に必要になるなど想定外だろう。きっと今頃屋敷の者達がアチコチへ問い合わせをしているに違いない。
「そうね、ブレイン、あからさまに手を貸してはあちらにもプライドがあるでしょうからやんわりと、もしよければという形で申し入れておきなさい。リアーナが急遽お茶会へ行くと言い出しご迷惑をおかけしたという形を作って」
「承知致しました」
突然お誘いを受けたのは私の方だけど、そのせいで相次いだ問い合わせに対応し直ぐに参加者を受け入れたのはヴィヴィアンの懐の深さなのかもしれない。
「それから肝心のヴィヴィアンさまの素性ですが、ベルトナ国の上位貴族の娘で上に二人の兄がいる末子です。お父上のヴォルガンさまの領地は小さいながらも鉱山を有しかなりの財を成しておられるようです」
ブレインの報告を聞いて母上が腑に落ちたという顔をした。
「エスメラルダ商会の後ろ盾ね。通りで押しが強いはずだわ、あの男の娘ならリアーナが丸め込まれたのも頷けるわ」
母上はヴォルガンを知っているようで少し面倒くさそうにため息をついた。
「まぁ、近づいて来ているのが娘だし貴方には完璧な婚約者がいるから大丈夫でしょう」
それを聞いてエミリオがピクリと反応した。
これってあの事は報告していない感じ?ヴィヴィアンの話のついでに先に言ってくれていても良かったんだけど。
私は出来るだけ感情を消して冷静に口を開いた。
「母上、言いにくいのですがアーネストとは破婚になるかもしれません」
「はぁ!?破婚って……ありえないわ!何があったの?」
母上は本当に意外そうな顔をした事が私には驚きだった。あの引く手あまたのアーネストが私と婚約している事こそありえないと思えるのに。
「あちらの領主は私が王位につくことを望んでいないそうです。グランフェルト領はイスラ姉様の支持にまわるようですよ」
長子デズモンドがイスラと婚約しているのだから当たり前といえば当たり前だが。
「グランフェルトが向こうについてもアーネスト個人はこちらで構わないでしょ?彼個人の繋がりだって相当いるはずだし、最悪どちらが王位についてもグランフェルトは恩恵を受けることが出来るのだから」
騎士団での繋がりや文官としての繋がり、それに学院などで得た個人的な人も加えれば少なくはないだろう。
「問題はイスラ殿下の後ろ盾の大領地ジスカールブラドでしょう。グランフェルトがあちらにつかなければ婚約を解消される可能性がありますね」
ブレインが遠慮気味に私を見ながら続けた。
「グランフェルトとしてはリアーナ姫様よりもイスラ殿下を全力で王位につける必要があります。姫様はこれまで社交を控えていらっしゃいましたから賭けるには分が悪いと思われたのでしょう。領主としてはリアーナ殿下よりイスラ殿下を取ったということでしょう」
別に驚きは無かった。そもそも王位に興味は無かったし、アーネストとはここ数年関わりも減っていたし個人的に会うことも無くなって来ていたのだから。
「チッ!」
母上から舌打ちが聞こえた気がするけど気のせい……じゃなさそう。いつも淑女として振る舞いには気をつけるよう言われている身としてはちょっと驚き。
「話はわかりました。とにかくリアーナは明日のお茶会へ全力で挑み支持を得るように」
「ですが恐らく参加者の多くは未成年の女生徒ですよ、そこまで影響力は無いと思いますけど」
王位に向けての支持集めとしては必要無い層だ。
「あら、女生徒の力は馬鹿に出来ないのよ。流行の発信にも一役買うことだってあるあの子達の人気を集めるのはこの先の社交界に大きく影響を与えることにもなる。取り込んでおいて間違いないということは誰にでも分かることよ」
今の若い世代が学院を出れば次に行くのが社交界だということか。そう考えればその影響力は馬鹿に出来ない。
「わかりました。では失礼致します」
執務室から廊下へ出てそのドアが閉まる瞬間、母上が苛立たしげにブレインにこう言っているのが聞こえた。
「アーネストを呼んで」




