25 学院6
お茶会の準備が整い、セッティングをしてくれた女生徒達が静かに退出しようとしていた。
「お手伝いありがとうございます」
後ろ姿にそう声をかけると彼女達はバッと振り返ると頬を赤らめ叫びそうなのを我慢しているような顔をし、膝を軽く曲げ礼を取ると去っていった。
口元に手を当て立ち去るお嬢様達を見送り、綺麗にセッティングされたテーブルを見ていた。
準備を終えたのを確認したのか、補習を受けるらしいヴィヴィアンが他の三人と一緒に私が立っているテーブルの側にやって来た。
「リアーナ殿下、お隣に座ってもいいですよね」
潤んだ瞳で見上げられおねだり顔で小首を傾げる。その瞬間サロンの外にいた大勢の生徒達が口々にヴィヴィアンを咎めるような事を言い出した。
「先程から厚かましいですわ」
「無礼過ぎます」
「いくらリアーナ殿下がお優しいからって酷いですわ」
あまりに聞えよがしに言われヴィヴィアンがちょっとしょんぼりとして俯いた。
どちらもやり過ぎかな。
「ヴィヴィアン様、席は先生に聞かなければわかりません。ですけど貴方はまだコースを取り始めたばかりでしょう?ここのやり方は先輩方によく聞くといいわ。皆様優しいですから丁寧に教えて下さいますよ、ねぇ?」
部屋の外にいる人達にそう言ってニッコリ微笑むと皆がまぁ仕方ないわねぇって顔してヴィヴィアンの方を見た。
「私は殿下に教えて頂きたいです」
その一言で皆が一斉にカチンときた雰囲気をだした時、フランソワーズ先生がやって来た。
「随分と騒がしいですわね、私が許可したのは五名だけのはずですが?」
女生徒達をかき分けサロンへ入ってきたフランソワーズがあくまでも優雅さを保ちつつ少し眉間にシワを寄せた。
「先生、ここはサロン内ではありませんのでお茶会に参加している訳ではありません。あくまで見ているだけです」
キリッとした顔でいかにも正当な権利を主張するかのように女生徒達が言う。それを聞いたフランソワーズは美しく微笑んだ。
「……では、私はこれまでの補習の手順通りこの扉を閉めましょう」
「あぁ!先生お待ち下さい!」
「後で何でも言うことを聞きますから」
口々に何やら叫んでいる女生徒達をキッパリと締め出しフランソワーズは振り返った。
「さぁ、おまたせ致しました。これから二つのテーブルに別れて頂いて補習を受けて頂きます。
公平さを保つ為に協力を申し出て下さった方々も交えながら順番にお茶会を主催した側の歓待の作法を採点致しますからそのおつもりで」
それぞれ席を割り振られ指示通りの位置についた。どうやら補習を受ける者と|協力を申し出てくれた者は交互に配置されたようで当然ヴィヴィアンと私の席は隣ではなかった。というか同じテーブルでもなく少しホッとしてしまった。
あまり良く知らない者にあんな馴れ馴れしくされるのはあまり気分のいいものではない。向こうのテーブルから悲しそうな顔をしてこちらを見ているヴィヴィアンをなるべく視界に入れないように顔をそらすと補習開始の合図があった。
一つのテーブルに五名の生徒が席に付きそれぞれ先生が側でチェックを入れている。
先ずはこちらのテーブルにいた一人の生徒が主催者側としてお客様を迎えるという設定のもとテーブルをまわり顔見せをしつつ不備がないか、お客様は楽しんでいるか、時には話題を提供しながらお茶会を盛り上げていかなくてはいけない。
「ではマーガレット様、始めて下さい」
フランソワーズがチェックボードを手に頷いた。
マーガレットは少し緊張気味に笑顔を作ると先に向こう側のテーブルへ向かった。
「皆様、今日は私の招待をお受けいただいてありがとうございます」
軽い挨拶から始まりテーブルの上も確認していく。この補習は本格的なお茶会を再現しているため本当にお茶やお茶菓子が準備されて女中達も配置されている。
マーガレットは一人の生徒のお茶が無くなっている事に気づくとさり気なく女中に合図を送りおかわりを出した。それを見た先生がボードにチェックしているのがわかった。
お茶会は順調に進み、新しいドレスの話題も提供し場を盛り上げたあと次にこちらのテーブルへ移ろうとした時、一人の生徒がガチャリと音をたてカップを落とすと着ていた服へお茶を見事にぶちまけた。
「アァ、モウシワケアリマセン。ドウシマショウ」
完全に先生からの仕込みと分かる棒読みのセリフでハプニングを起こした生徒がマーガレットを見た。
「えぇっとぉ……代わりのカップを用意して、それから、テーブルを片付けてちょうだい……」
上手くいっていると安心していたのか突然のハプニングにマーガレットはオロオロとしていた。お茶会へ招待を受けた者がこれ程の失態を起こすことはそれほどいないだろうけど対処は学ぶべきだろう。
マーガレットは必死に女中に指示をだし、失敗したお客役の生徒が大袈裟に謝るなか、流石に処理に時間がかかりすぎたのかフランソワーズが合図すると控えていた女中がマーガレットへ近づく。
「お客様を別室へお連れしても宜しいですか?」
その一言でマーガレットは気づいた。真っ先にお客様の事を気にかけるべきだったと。
「お、お願いします」
少し落ち込みつつ指示を出し、テーブルも片付いたと確認したあと完全に落ち込みながらこちらのテーブルへやって来た。
「お騒がせして申し訳ございませんでした」
さっきのハプニングのせいで笑顔も作りきれず不本意な感じでマーガレットは補習を終えた。
怖すぎる、これを私もやるの?これなら騎士コースの走り込みの方がよっぽど楽だ。
そこからも二人がハプニングや手順の間違いなどの課題を仕掛けられつつ補習が進められていった。ここに呼ばれている五人は補習を受けるだけあってその動きはぎこちなく優雅とはほど遠いものだったがそれでも必死にお茶会を成立させようと奮闘していた。
「では次はヴィヴィアンさま」
呼ばれたヴィヴィアンはスッと立ち上がり優雅な足取りで位置についた。
あぁ……私が一番最後かぁ。
自分の順番が次に迫り少し緊張していた。
「私の婚約者に手を出したのはあなたの方でしょう!?」
突然仕込みの生徒が立ち上がると目の前の別の仕込みの生徒に声を荒げた。
「あら、私は別にあなた達の仲を裂こうとしているわけではないわ。少し、遊んで差し上げただけですわよ」
補習内容にしてはいささか下品な話でハプニングを起こしている感じがするが演技はなかなか上手いものだった。要するに招待客同士が喧嘩を始めたときの対処法を見てるのかな。フランソワーズ先生も複雑そうな顔をしている。
「あらまぁ、お二方少し落ち着いてくださいまし。ここでは人目がありますわ、お部屋を準備致しますのでそこへどうぞ」
ヴィヴィアンは素早く二人を宥めつつ女中へ目で合図した。
これは結構上手く処理出来ているんじゃないかと思っていると揉めている一人がキッとヴィヴィアンを睨んだ。
「ヴィヴィアンさまはどちらの味方ですの?彼は私と婚約していますのよ、それをあの女が!」
別室へ移動せずその場で決着をつけようとするかのように意見を求めた形だ。ヴィヴィアンはう〜んと悩んだあとニッコリと微笑んだ。
「私がもし婚約者に浮気されたのならそいつをカンデシラ山にいると言われている龍にでも食わせて新しい婚約者を探しますわ。そんな汚れた男はいりません」
一瞬の間のあとこの場にいた全ての女性がこっくりと頷いた。
その後は何事もなかったようにヴィヴィアンがこちらのテーブルへ来ると私の直ぐ傍に来た。
「殿下、この度は私のお茶会へお越しいただいてありがとうございます。私は殿下のお姿を見ているだけで幸せです。出来れば今度私のお屋敷へ遊びにいらしてください。我が国の特産の素晴らしい商品でリアーナ殿下をお美しく着飾らせて頂きたいですぅ」
ヴィヴィアンは私に集中砲火を浴びせるように話しかけ他の招待客をお座なりにしたまま補習を終えた。これはきっと追試だな。




