貧乳がバレたので国外へ逃亡します!
私、シンシア・レティウスはボーデン王国の公爵令嬢である。今私は隣国であるハイデン帝国への船に揺られている。
何故私が愛するボーデン王国から出国しようとしているのかと言うと…話は遡る──
◆◆◆
私が10歳の時、婚約者であるボーデン王国の王太子であるマイティス様の一言から全ては始まったのだ。
「胸が大きな女性が好ましいな」
何気なく言ったマイティス様の言葉に幼い私は固まった。一歳年上の婚約者の彼は、巨乳好きであると判明したのだ。健気な私は勿論婚約者の好みの女性になりたいと思っていたが─…
レティウス公爵家は代々呪われたように…貧乳の一族であるのだ。母も、祖母も、叔母様達も、親戚一同も…全ての女性が貧乳である。
巨乳になることだけは不可能なのである!!
いいえ、運命は変えられるはずですわ…。そう思い、育乳に励みましたが、7年経過した現在も、私の胸は全く育たず、掌で包んで隠れてしまう程のまな板具合である。
そこで開発したのが超高性能厚底胸当てパッドである。触り心地も弾力も本物の胸そのものであり、服を脱がなければ貧乳だとは気づかれない代物である。
これさえ装着すれば、私も巨乳の仲間入り。マイティス様との仲も順調に進んでいた…はずでした。
しかし…
マイティス様と出かけた出先でいきなり賊に襲われ─…
「マイティス様っ!!危ないですわっ!!」
そう言って賊の刃からマイティス様を身を挺して守ろうと飛び出た際に…事件は起こったのだ。
賊の刃は私の胸元を切り裂いた。真っ赤な華が飛び散り…私は刃の露となるはずだったのに…切られたのはあろうことか私の超高性能厚底胸当てパッドだったのだ。
「っ!!!!」
切り裂かれたドレスの胸元から真っ二つにされて落ちた私の超高性能厚底胸当てパッド…それを凝視するマイティス様の驚愕の表情が忘れられませんわ──
幸いに賊はすぐに捕らえられ、マイティス様も私も命に別状はなかった。しかし…私はマイティス様に必死に隠していた真実を知られてしまったのだった。
「ああ、マイティス様。傷物になった私は貴方のお傍に居ることはできませんわ…──」
とか何とか言って、私はマイティス様から逃げたのだ。貧乳とバレたことで直接マイティス様から婚約破棄を言い渡され、冷たい目で見られることを恐れ、お父様に婚約破棄のことは任せて、マイティス様とその後会うことなく私は隣国の親戚の元へと旅立ったのだ。
そして今に至る。
「ああ、なんで私の胸はこんなに小さいのでしょうか…」
マイティス様好みの大きな胸に生まれたかった。揉んでも、栄養を十分摂っても、魔法をかけても全く育たない私の胸。
でも、そのお陰でマイティス様の命が守れたのだから…良しとしなければ。
今頃、傷物になった私とマイティス様の婚約破棄の手続きをお父様が行ってくれて、マイティス様の婚約者では無くなっているのでしょうね。
マイティス様は、今度こそ紛い物では無く、巨乳の色気が溢れる美しいご令嬢と縁を結ぶのだろう。
あの優しい眼差しで、見つめ。あの美しい声色で愛を囁くのだろう。
『シンシア、君のことを愛しているよ』
そう何度も言ってくれたように─…
両目から溢れてくる涙を拭いながら、遠く離れていく祖国を見つめ、私は心の中でマイティス様に別れを告げたのだった─…。
◆◆◆
「な、何故ですの…?」
ハイデン帝国の港に降り立った瞬間、目の前には金色の髪を靡かせ、宝石のような蒼い瞳で私を見つめる…祖国に居るはずの彼が立っていた。
「私の元から逃げようとするなんて…困った婚約者だね、シンシア。私が君を逃がすと思ったのかい?」
何故か少し怒ったようなオーラを纏う彼に、私は少し後ずさる。あら…おかしいですわね…─
「君の父上から、全く理解不能な提案をされたのだけど、婚約破棄なんて絶対にしないからね、シンシア。君を手放すはずないだろう?」
「っな…!!でもマイティス様、私は…!!」
貧乳なんです。そう言おうとした瞬間、唇を何か柔らかいものに覆われ、それ以上言葉を発することは出来なかった。
「んっ…──」
マイティス様に口付けをされていると気づいた時には、もう抱きしめられ離れられない状況だった。何回も口付けられやっと唇が離れたかと思うと、すぐ近くにマイティス様の綺麗なお顔があり、呆然とその蒼い瞳を見つめ返すしか出来なかった。
「シンシア。君を愛しているよ。君が賊に斬られた時に私の世界は終ってしまいそうだった。君が無事で心から神に感謝したというのに…簡単に私の目の前から消えようとして─…。もっと私の愛をわからせてあげなければいけないみたいだね。この腕の中に閉じ込めて、ずっと愛を囁いてあげようか?」
「ひぇっ!!?」
冗談を言っているような感じではなく本気の表情のマイティス様に私は間抜けな声しか上げれなかった。
一体何故…?
マイティス様は巨乳が好みでは…?
「マイティス様、私は、その…マイティス様のお好みの巨乳ではありません。ずっと…胸を盛って偽ってきたのです。レティウス公爵家は呪われたように貧乳しか生まれませんの。申し訳ございません。マイティス様をずっと騙してしまい…──」
処罰を受ける覚悟で真実を訴えると、マイティス様はきょとんとした表情になり、そしてふっと笑みを零した。
「シンシアはそんなことを私が気にすると思ったのかい?確かに君の気を引きたくて大きな胸が好きだと言ったけれど…、それは本音ではないよ」
「えっ!!?」
この数年間気にしていたことが一気に翻され、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「シンシアの胸ならば何でもいいよ。小さくても、大きくても、私は君の身体であればいくらでも愛することができるからね」
マイティス様の言葉に私の頬に涙が零れ落ちる。いいのかしら…それでは、ありのままの私で、マイティス様のお傍に居られるのかしら…──
「愛しているよ、シンシア。私の愛しい婚約者殿、早くボーデン王国へと帰ろうではないか」
「…はい、マイティス様!!」
まさか…ボーデン王国に帰った後に、マイティス様に寝台へ押し倒されるとは思ってもみなかった。
「ま、マイティス様…──?」
「君の可愛い胸も愛しているとわかってもらおうと思ってね。さあ、存分に愛を伝えよう」
「ま…待ってくださいませっ!!わかりました、わかりましたから──っ!!!!」
マイティス様の重すぎる愛が、この一件により解放され、砂糖よりも甘い溺愛が始まることを─…
この時の私は知る由も無かったのである。
END
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