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奴隷愛護条例

作者: 大錦蔵

 短めですので、お暇なときに是非。

 よう、ちょっとばかし、俺様の愚痴に付き合ってくれねぇかな・・・・・・?


 何? メタボ体形の薄汚いおっさんの話を聞きたくないって?


 つれねぇな。まあ、聞こうが聞くまいが、話すがな。こっちは、暇で暇で仕方ないのさ。

 お前さん・・・・・・奴隷愛護条例って、ふざけた規則を知らねぇか?

 実は俺様は、二日前まで奴隷商を営んで・・・・・・って、おいおい何蔑んだ目をして後退りしてんだよ!? 俺様は堅気だから怖くねぇぞ!!

 

 話を戻す。まあその条例は、要約すると奴隷も生き物なので、虐待などせずに、大切に保護しましょう・・・・・というものだ。

 三か月前に制定されたものだ。ただの家畜同然の穀潰しに、仮の人権を与えるんだぜ・・・・・イかれたルールだと思わねえか?


 事の発端は、城下町で視察をしているこの国の女王様クソババアが、やつれた奴隷を見た時から始まる。

 その女王様クソババアは、世間知らずなのか大層驚いたそうな。

 『奴隷という階級の存在は、ご本や臣下からの話で存じておりましたけど、まさかここまで不当な扱いを受けていたなんて、思いもしませんでしたわ。

 こうしては、いられません。市民も奴隷の方々も、満足して暮らせるようしなければ』とほざいた奴は、すぐさま城に戻り、宰相と貴族達と会議。

 短時間で決議し、その条約のおふれを出した。

 その次の日には、早速奴隷愛護団体なんてものも設立されてる。


 え? 奴隷を愛護するなら、いっそ奴らに市民権を与え、自由にさせれば・・・・・・だって?

 わかっちゃいねえな。俺様がいるこの国の奴隷制は、何千年も前から確立されたものだ。

 この国の農業では二割・工業では三割・炭鉱業に至っては、六割もの従業員が、奴隷で構成されている。

 そいつらに一斉に市民権でも与えてみろ。

 今までただ同然の人件費が、バカみたいにかかってしまう。

 他のデメリットといえば、散々虐げられていた奴隷達が自由を手に入れたことで反旗を翻してしまうかもな。

 そうなったら、国は大混乱さ。

 つまりは、奴隷の労働力が惜しい経営者と非人道的な扱いは許さない団体が腑に落ちるよう折衷した案が、この条例。

 

 まぁ、そのルールってのが、酷くてな?

 

 例えば、奴隷商を営むには、特定の資格の取得が必須になる。

 俺様は慣れない勉強を徹夜でして、なんとか取ったよ。じゃなければ、国が販売行為を認めてくれねえ・・・・・・条例さえ無ければ、こんな面倒なことしなくていいのにな。

 資格を取ったからと言って、眠れる夜が来るとも限られねえ。

 奴隷の個人情報を始めとしたたっくさんの書類を、国に申請するために短期で処理しないといけねえ。

 俺様以外の奴隷商も皆、慣れない書き物で疲労しきっている。


 月に一度、団体の人が店に訪れ、奴隷達のカウンセリングをする。

 その日には、奴らが団体の野郎に妙な事を口走りしないか、肝が冷える。


 店にいる奴隷共には、例外なく日当たりのいい窓際に収容し、収容室には適度に換気し、清潔な麻の服と布団を一人一つずつ配布し、水洗トイレ(遮蔽用カーテン付)を用意し、澄んだ水と管理栄養士が推奨するバランスのいい食事を朝昼晩与え、病気や怪我にかかった者は、献身的に看病しなければならなくなったっ!


 条例制定前は、こんな優遇なんてありえなかった・・・・・・。奴隷共には、薄汚く湿気が多い地下室にぶち込めれば良かったし、使い古された布切れを投げられただけで御の字で、トイレは深く掘った穴で十分で、一日に一回だけ残飯と泥水を牢に押し付け、病気や怪我にかかった者は『処分』するだけで済んだんだ! 何様なんだあいつら・・・・・・!


 奴隷共に装着する首輪も一つ残らず変化する。

 それらは、前までは着けられた奴隷が奴隷の主の命に背けなくする魔法を掛けられているのだが、今では、奴隷の体温が極度に下がったり上がったりすると自動でそれからブザーがけたたましく鳴るという機能が追加された。

 奴隷共が疫病にかかった日には、奴隷収容室は爆音で満たされるだろう。


 ああ・・・・・・昔は良かった・・・・・・むしゃくしゃした時は、奴隷に難癖ついて鞭で引っ叩いたもんだ。楽しかったな・・・・・・もちろん今、そんな事すれば、ムショ行き。それどころか暴言をぶつけたり、セクハラすることすら国が許さねぇ。


 もちろんその条例は、売られた奴隷も対象内。

 前までは一日の五分の四程働かせるのが当たり前なのに、おふれがでた後は例外なく一日の四分の一の労働時間を超えたら条例違反。


 こっちは昼も夜も眠気と闘いながら仕事に励んでいるのに、あいつらときたら・・・・・・っ!!


 ボリューム満点のサンドイッチとオニオンスープを堪能している奴隷共を横目に、干し肉のみ齧っている給料日前日には、俺様は唐突に酷く惨めで虚しくなって発狂しそうになったっ!!


 最近では奴隷共は、俺達奴隷商人を自分達の使用人みたいに扱い始めたっ!!

 なんで家畜共に見下されなけりゃあならねえんだくそったれめっ!!


 ・・・・・・済まない・・・・・・愚痴言っているうちに気が立っちまったな。


 今日から二日前のことだ。

 奴隷商店の天井の雨漏り修復のため、金槌と板と釘を運んでいる時のことだ。

 食事中の一人の奴隷が、格子越しに俺様の足元に木製のスプーンをわざとらしく投げつけた。


 そいつ、その後なんて言ったと思う?

 『自分は、牢の中にいるから手が届かない。落としたスプーンを取ってくれ』ってさ。

 

 はらわた煮えくりながらも何とか耐えている俺様は、スプーンを拾うために屈んだんだ。

 周囲にいる奴隷達の口から、下品な笑いが零れるのを、俺様は聞き逃さなかった。


 俺様がスプーンに触れる寸前に、それをわざと落としたあいつは、それにむかって唾をかけた。

 すぐに終始眺めていた他の奴隷達全員が爆笑さ。完全にこっちをバカにしている。嘲笑っている。


 その瞬間、俺様は掴んでいる金槌の柄を強く握りしめた。

 もう、頭の中が真っ白になったのさ。



 んで、気づいたら、誰も何もしゃべらなくなった。

 代わりに、俺様の左右前後から、首輪のサイレンが、けたたましく何重にも重なるよう鳴った。




 長い愚痴に付き合ってもらって、悪いな。これでもうおしまいだ。


 まあ、さっき話した事件ことが、原因で、今や、俺様が檻に入ってるってわけさ・・・・・・。







 ・・・・・・・・・・・・もちろん、奴隷収容用じゃない方のな?

 

 


 

 

 


 

 



 ありがとうございました。

 作者別作品『なろうテンプレ展開は期待しないで』は、このような短編が複数あります。

 興味を持たれた方は、是非ご覧下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スプーンのくだり、私が奴隷の立場ならやるかもしれない…… 奴隷からしたらちょっとした仕返しなのでしょうが、奴隷商の気持ちもわかります。急にルールが変わったら気持ちが追いつきませんよね.……
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