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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢ノート

作者: kio



 夢ノートというのをご存知だろうか。



 なんでもこれから先の夢を書き、その夢に向かって、いつ、どんなことをすればいいのか書いていくものらしい。


 例えば、プロ野球選手になりたい といった場合


  高校三年生 夏の甲子園で優勝し、ドラフト一位指名


 これを最終目標に、高校二年生ではスタメンでマウンドに立つ、とか高校一年生でレギュラーになる、とか実際はもっと細かいだろうけれど、まあ、そういう目標を立てていくそうだ。

 あとはその目標に向かって具体的に何をするか、今現在から考え、実際に行動をしていくことを書くらしい。



 『そんな夢ノートを今からでもつけなさい。小さな夢でも構いません』などと講釈を垂れている先生の話しを頭の片隅で聞きながら、はて? 私の夢とはなんぞい? とぼんやり考える。


 既に高校生になっているのだから、あまりにも大きな夢は今更無理だろう。

 じゃあ、小さな夢はどうだろうか。


 私はこれでも女子高生である。青い春を満喫するべく生きている存在だ。

 アオハルといば、恋だろう。一応、私も恋はしている。ならばその恋の成就を夢ノートとして書くか。


 私の恋、つまり好きな人は、佐々木(ささき)さんだ。


 佐々木さんはクラスの高嶺の花といった存在で、私は挨拶程度しか話したことはない。

 じゃあ佐々木さんのどこが好きかといわれれば、存在そのものが好きだと言える。


 例えば外見


 身長は女子としては高めの百七十センチで、手足もすらっと長く、モデルのような体型だ。肌は陶器のように白く、濡羽色の腰まで届く艶やかな髪が良く映えている。

 顔は小顔で鼻梁は少し高め。切れ長の目は、彼女が怜悧であることを一目で分からせる。顎から首筋にかけてのラインは引き締まっていて、どこか彫刻めいた妖しさがある。


 例えば内面


 彫刻なような美しさの外見ではあるけれど、人に冷たく当たることはない。むしろ明るく、誰とでも良く喋り、表情はコロコロと変わって、感情が豊かだ。

 どんなことも率先してやるタイプで、普通やりたがらないクラス委員の仕事も自主的にやっている。先生からよくノート回収だなんだと頼まれごとをされているけれど、嫌な顔一つ見たことがないし、まして愚痴なんて聞いたことはない。


 そんな佐々木さんのすべてが好きなのだが、どこか一つを上げろと言われれば、私はやはりその声が好きだと答える。


 彼女の声はとても美しい。


 透き通るような美しい声は、どんなに小さくともよく聞こえ、そんな声で朗読でもされようものならもう皆が虜である。


 現国はもちろん、何を言っているかわからない古文も、発音も全然違う英語でさえ、彼女の薄い唇から発せられる声は、しんと静まった森の奥にいるかのような雰囲気を与える。



 というわけで、佐々木さんのことが大好きな私は、思い立ったが吉日とばかりに、雑貨チェーン店で超ミニサイズのノートを買い、家に帰ったらすぐに夢ノートを書き始める。最初はやはり一緒に帰るところからがいいかな。



「六月四日(金)

 放課後、珍しく一人だった佐々木さんが、これまた珍しく一人の私に、せっかくだから一緒に帰ろうかと声をかけてくれる。しかも寄り道してスタバに一緒にいくことになる(やったね!)


 【購入品】

 私

  ダークモカ(クリーム)のショートとスコーン(チョコ)


 佐々木さん

  ソイラテのショート



六月六日(日)

 一緒に帰ったときに休みの日も遊ぼうかと佐々木さんが提案してくれ、日曜日にも遊ぶことになる。行き先は電車で二駅のショッピングモール。服やアクセを見て回り、今流行りの映画を見る。


 【購入品】

 私

  服:チェニックとショーパン

  アクセ:シンプルなクリップイヤリング


 佐々木さん

  服:購入なし

  アクセ:シンプルなクリップイヤリング(お揃いのものを勧めて購入)


 

六月十六日(水)

 久しぶりに放課後二人の予定が空いたので一緒に帰る。コンビニでお菓子を買い、駅前のベンチに腰掛け二人で食べながら、そろそろ期末だから勉強しないとねーなどと雑談。今週の日曜日に一緒に勉強しようと約束をする。


 【購入品】

 私

  バウムクーヘン


 佐々木さん

  どら焼き(モンブランホイップ)



六月二十日(日)

 約束通り二人で勉強会。場所はわ「あああああああごめんなさいいいいいいいいもうやえてええええええええええお願いしますお願いしますお願いしますもうやめてくださいいいいいいいい私が悪かったですお願いしますああああああああ」」


「なんで? 私の声が好きなんでしょ?」

「好きだけどおおおお! こんな羞恥プレイたえられないよおおおおお!!」


「そう? でも私は楽しいよ。続けていい?」

「やめてええええ!!」


 あああああああああくそおおおおおおなんでこんなの私は書いてんだよおおおおというかなんで学校にこんなのもってきてんのバカなの?ねえ私バカなの?授業の合間にみてニヤニヤしたいとか私バカなの?あまつさえ落とすってどゆこと?意味分かんないんだけどしかも佐々木さんに拾われて持ち主が私ってバレてるってどゆこと?まじで意味分かんない放課後ちょっと残ってよって声かけられてメチャクチャ喜んで蓋を開けてみればこの状態って意味分かんないしかも声が好きなら読んであげるねって佐々木さんやさしいじゃなくてなんでこんな羞恥プレイにああああでも声メチャクチャ好き。


「これ、いつ何をするどころか、何買うかまで書いていてすごい詳細だね。夢ノートってこんなだったっけ。記載量も多いけどいつまで書いてるの?」

「……クリスマスまで」


「クリスマス!? あははっ! そんな先までこのレベルで書いてるの? 面白すぎるんだけど!」


 あああ佐々木さん腹抱えって笑ってるよお。何たる羞恥。何たる屈辱。でも笑ってる佐々木さんすごくかわいい……。


「これ、始まりが私から声かけることになってるけど、高梨(たかなし)から話しかけないと始まらないでしょ。私はこの予定知らないんだから。もう六月三十日だよ」

「いや……だってこれ妄想みたいなものだし……」


「私と付き合うのが夢じゃないの? そのために書いたんでしょ?」

「まあそうなんだけど…」


「じゃあ行動しなきゃダメじゃん」


 ぐぅ……。それを行動に移せる人間が全人類のどれだけいると思ってんの……。


「高梨って結構面白いなって見てたけど、こんなに面白いとは思わなかったよ。ここまで緻密に動くのは無理だけどさ、まあいくつか付き合って上げてもいいよ」


 ……………え?


「そうだねえ……。来週の水曜日、一緒に帰ろうか」


 ………え?


「じゃあまた。面白かったよ。バイバイ」


 ……え?来週……。あ、佐々木さん帰っちゃった。バイバイ言えなかった……。

 って、あああ! ノート返してもらってないじゃん!


 はあ……。来週って七月になってるな。何書いてたっけ……。







七月七日(水)

 期末テスト最終日。午前中のみで終わるから午後に一緒に遊ぶ。ショッピングモールに行き、飾られている笹の葉に二人で短冊を書く


 【願い事】

 私

  佐々木さんと付き合えますように


 佐々木さん

  高梨と付き合えますように(実はここですでに両思い)


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