2.イセケン
投稿したものから内容を本来のものに変更しました。
最終回は頭の中で出来上がっているので、もう少し待っていただけると助かります。
全て書き終わってから投稿しようと思っています。
俺は宇宙空間の何処かに存在する異世界派遣~地球支部~に勤務している。異世界派遣、通称[イセケン]では多様な世界からの求めに応じてそれに見合った人材を勝手に派遣している。派遣方法はご存じの通り、異世界転移や転生が主だ。その他、転生後に無理矢理記憶を引き出す業務や俺TUEEEの手助けなどもろもろの雑務も行う。 また、近年本当は禁止されているが小説をなろうに投稿したりしている。上にバレると一応情報漏洩ということで簡単な処罰をくらうことになっている。また、職員が小説の中身を改変したりアレンジして新たな作品として投稿すると厳罰の対象になり最悪クビになる可能性がある。
そんな[イセケン]のなかで、この地球支部は規模は小さいくせに地球人の技術や能力が高いせいで近年急激に需要が増えかなりのブラック企業と化している。最近の転移や転生する際の対応が雑だったり、チャランポランだったり、間違えて違う人物や世界に送ってしまうのも連年続く徹夜作業によるミスやおかしな深夜テンションが原因である。
「そう言えば、先ほどのニートはどうなったんですか?」
「お前なー、ニートって決めつけんなよ何気失礼だろ
まぁ、アイツはお前の言う通りニートだったけど」
と言うと先輩は確かこの辺りに...と呟きながら四時圏空間になっているデスクの引き出しに手を突っ込みかき回した。
「あれー、この辺りにヤツに関する書類を入れたはずなんだか」
「無尽蔵に収納できるからって適当すぎますよ。」
「悪りい、悪りいでも内容は覚えてるぞ!」
そういう問題じゃないと思うのだが先輩は簡単な設定を他の仕事に目を通しながら話し始めた。
「あのゲームの原作はなろうに投稿した小説の一つなんだ
小説では女が主人公なんだがゲームではダブル主人公にしたらしい
なんでも男主人公のほうが冒険ものは受けがいいからとかで」
「うわぁ。彼、絶対男の方だと思ってましたよ
なにも知らないで飛ばされたんですね可哀想に...しかも、ギャルゲに転生したがってた人を
説明もなしに無理矢理女にするなんて先輩には血も涙も無いんですね」
先輩は頭をガリガリかくと
「しょうがねーだろっ!」と叫んだ。
残業続きの[イセケン]職員は少しのことで爆発するところがある。
「先の世界と既に契約結んじまってるんだよ! それに、ヤツの推しはその王女だったみたいだし結果オーライだろ」
「イヤイヤ、推しになれたって誰得って感じですよ
しかも、推しの中身が自分なんて二倍でダメージくらいますよ」
「そうかー? 好きなときに鏡みてムラムラ発散出来るぞ
それに代わりと言ってなんだが俺(猫)を助けたってことにしといたから初期ステータスやら能力値やら
いろいろ底上げ申請が楽に受理されたし
あと、最初から前世の記憶もちスタートでかなりチート仕様にしたんだがなー」
生まれた時から男の記憶もっている王女様とか可哀想すぎて笑えない。だが、もうやってしまったことはしょうがない。ニートには前向きな気持ちで頑張って生きて行ってもらうしかないだろう。
「それにしても自分を助けたなんて粋な嘘をつきましたね」
「まぁな、いろいろこじつけたほうがなんで自分がとか聞かれないし恩恵も付与しやすいしよ
何より本人も楽に受け取ってもらえるからな」
「確かに、無意識でしょうが地球人はタダより安いものはないと受け取ってくれない人がほとんどです」
「そうなんだよな~いちいち理由を求めてくるから面倒なんだよな」
そう、ハッキリ言ってしまうと派遣の選考基準はテキトーなのだ。外の人とはあまりが関わりがなくいなくなっても困らない人だとか、異世界に革命を起こしてくれそうな人だとか、どこでも図太く生きていけそうな人だとか。その時々で求められる人材は違うが、だいたいのことをクリアできていれば他は何でもいい。時間がないときは、転移穴を無作為に地球上に出現させてそこに落ちた人を派遣することもある。
「恩恵はこちら側にもメリットがあるから行ってるだけですしね」
「まったくだ」
この恩恵も、〔イセケン〕側からしたらなんてことはない。派遣した人たちに筋書き通りの運命を歩んでもらうか、もしくはさらに面白く発展させてもらいたいだけだ。それにこれは個人的な意見だが、チートを与えたほうが死ぬ確率は減るし、なんなら仕事も早く終わらせてくれる。決められた筋書きをある程度進めてもらうか、運命が完全に変わったことを確認できれば、そこで派遣した人たちの仕事は終わり。〔イセケン〕の管轄から外せるので、我々の仕事を減らすためにも是非ともチートは付与したい。そんな思惑があるのだが、悲しいことにそう易々といかないのが現状である。よって、〔イセケン〕では空前の『あなたに助けらて恩義感じちゃったの』ブームが巻き起こっている。
「まぁ、地球人の気持ちわからなくもねーけどよ...っとよし、終わり―
なろうに小説投稿してくるか
『ピッ』
うん?変な音しなかったか」
「気のせいですよ」
「そうか?」
「とうとう先輩は頭だけじゃなく耳までバカになったんですか?」
「お前はいつも一言余計なんだよ
まぁ、今回は気分がいいからな、許してやろう」
「気持ち悪いですね」
「今の俺は寛大だからな
どんな暴言でも受け流せる自信がある」
「どうしたんですかいきなり
先輩らしくないですよ」
そういうと、待ってましたと言わんばかりに先輩は俺の目の前に紙束を見せてきた。
「これ! ぜってー受けると思うんだよな」
「どこかの小説ですか」
「おうよ
これをなろうに投稿して書籍化を目指す!」
先輩は善は急げと何もない空間にドアを出現させて出ていこうとする。そんな先輩の背中に声をかける「情報漏洩ですよ先輩」が、聞こえたのかいなかったのか。先輩は「へいへい」と適当な返事をし、消えていった。
シーンとした部屋の中。俺はひとり書類のチェックをしながら、片手でICレコーダーの録音を止めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。