065話:ありがとう
俺はゆっくりと目を開けた。周りを見ると見慣れた天井だった。自分の部屋だ。扉が開いて、誰かが入ってくる。身を起こして確認すると
「おお!目が覚めたんだね、ソニアくん」
魔王様かよ!
「そんなに残念そうにしないでおくれよ」
悲しそうな顔を浮かべる魔王様。俺はただ疲れているだけだ。
「その可愛さなら世界征服できるであろうステラに起こしてもらいたかった気持ちは良く分かる」
俺はあんたの言っていることがわからない。
「目が覚めた時に隣でステラが手を握ってくれていたらどれだけ幸福なことだろうかと思うのも仕方がない」
だからなにを言っているんだ。魔王様の話を聞かされる。
「……ということだ」
5分ほどしてようやく魔王様は話すのをやめた。
俺は一言
「はい」
とだけ返した。
「ステラを助けてくれてありがとう」
魔王様は本当に優しい人だ。
「自然と体が動いただけですよ」
「……君は凄いな」
「そんなことはありませんよ」
「いいや、凄いさ。僕が認めるよ。それでね、実はステラが部屋から出てきてくれないんだ。行ってあげてくれないかい?」
きっと落ち込んでいるんだろう。行ってやろう。
「わかりました」
◇◇◇
「ステラ入ってもいい?」
ステラの部屋の前で確認を取るとカチャと扉の鍵が開かれた。
「ステラ、入るよ」
扉を開けて中に入る。鍵はかかっていなかった。ベッドの上に布団を被ったステラがいる。
「なにしに来たのよ」
ステラの声は震えていて、まるでずっと泣いていたかのようだ。
「ステラが泣いているんじゃないかと思って来たんだ」
「誰のせいよ!」
いきなり怒鳴られた。図星だったのかな?
「馬鹿みたいに優しくして、学園でも困ったことがあったらなんでも解決してくれる」
ステラは泣きながら話し始める。
「昨日だって私のことを庇って血だらけになっても笑って……そうやって守ってくれる。困らせてばっかりで、いつも迷惑ばかりかけているのに、どうして私を守ってくれるの?一緒にいてくれるの?」
布団に丸まっていたのは、いつもの元気なステラじゃなくて、ただ泣いている寂しそうな女の子だった。
俺はステラの肩に触れて、真っ直ぐその目を見る。綺麗な赤い瞳は涙に濡れていて、ただ俺のことをじっと見つめている。ステラは自分の気持ちをはっきりと伝えてくれた。だから俺も一度も言葉にして伝えたことの無い気持ちを伝えよう。
「俺はステラの笑っている顔が好きなんだ。 ステラといると毎日が新鮮で、一緒にいられるだけで楽しいんだ。だから、ステラ…… 」
恥ずかしくて顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。
「俺がステラの隣にいるのは、俺が一緒にいたいからだ」
「ソニア!」
ステラが俺の背中に手を回して抱きついてくる。
「ごめんね!ありがとう!助けてくれてありがとう」
大声で泣きながらありがとう、ありがとうと何度も伝えてくれた。大声で泣き続けて、しまいには眠ってしまった。起こさないようにゆっくりと抱き上げて、きちんとベッドの上に寝かしてあげる。なんだか俺も眠くなってそのまま布団に倒れ込む。ステラの可愛らしい寝顔を見ながら俺も眠りについた。
◇◇◇
目が覚めると目の前に幸せそうに眠っているソニアがいた。彼に抱きつきながら泣いて、そのまま眠ってしまったことを思い出して恥ずかしくなる。
彼が私に気持ちを伝えてくれて嬉しかった。女の子としての私が好きなのかは分からなかったけど、隣にいてくれる。
今はそれだけでいい。私はゆっくりと顔を近づけて彼の頬にキスをした。今はこれだけでいい。




