008話:これは現実なんだよ
これ以上進みたくなかった。このままずっとここにいたかった。でもそれはできなかった。ここが現実なのだと理解してしまったから。
結局俺たちの足を動かしたのは、自分ではどうにもできない空腹感だった。当たり前だ、いきなり洞窟で目が覚めて何時間も歩き続けたのだ。お腹もすくだろう。仕方なく俺は立花さんに声をかけた。
「歩き続けたからお腹もすいた、ここには緑もあるし何か食べられるものがあるかもしれない」
「どうしてそんなに冷静でいられるの?外に出られた訳でもないのに」
立花さんはそう訪ねてきた。
「ここは確かに異世界だ。訳のわからないゴブリンみたいなやつもいた。オレンジ色に光り輝く巨大なクリスタルまである。それでも俺たちはここにいて俺はお腹もすいたし、水も飲みたい。ここには緑もあってそれが叶うかもしれない。だからやりたいことをやっているだけだ」
「そんなことが聞きたいんじゃない!」
立花さんが泣き叫ぶようにいった。
「普通おかしいと思うでしょう?光を放つ鉱石があって、化け物がいて、夢だと思うでしょう現実なんかじゃないって思うでしょう?」
立花さんは立ち上がって大声で叫ぶ。
「立花さ……」
俺の言葉が遮られる。
「これは夢だって言ってよ!現実なんかじゃないって言ってよ!」
立花さんが涙を流す。
「これは現実だよ、立花さん」
俺はそう言った。
「嘘、嘘よ」
そういってすがり付いてくる立花さんに
「これは現実だよ、立花さん」
俺はただそう繰り返した。俺にできるのはそんなことだけだった立花さんは座り込んでしまって立ち上がらない。
「先に進もう立花さん」
そう声をかけても反応しない。手を取って立ち上がらせると彼女は目尻に涙を浮かべていた。少し待つと少し怒ったかのような顔で
「思っていたよりもひどい人なのね。斗賀くんってもう少し優しい人かと思っていたわ」
なんてことを言ってきた。
「ごめんね。俺もあまり余裕がないんだ」
そう言って手を伸ばす、
「仕方ないからもう少しだけ一緒に頑張ってあげる」
立花さんは俺の手を取った。
「それじゃあ水場を探そうか」
そして、二人で水場を探すことにした。
2019/05/19 一部表現を変更しました。