035話:討伐
意識がどんどんはっきりしてくる。
手足の感覚が戻ってくる。
ソニアのことを考える。過去ソニアになにがあったのかを知るにつれて、殺してしまったことについて考えさせられる。あの人達にとってソニア・ジャスミンはとってかけがえのない人物だったのだろう。その人達はきっと悲しんでいるだろうなと。
だが、そんなこと知ったことじゃない!
現在進行形で足に剣が刺さっている。痛い、マジで痛い。酷いと自分でも思うが、そっちが今の俺にとっては重要だ。目の前にはオークジェネラルがいる。意識を失った時と全く同じように血を流している。ものすごい頭痛がするがどうやら夢はほんの一瞬で終わったようだ。夢から醒めたら死んでいましたとかシャレにもならないからな。
しかし、夢から醒めても警戒を緩めることはできない。棍棒を手放し、肩から大量の血を流していたとしてもその大きな身体で俺を押しつぶすだけで勝敗は決するのだ。こいつがいくら片腕しかない死にかけだろうとオーク3体を相手にしている立花さん、アザレア、カルミアの3人の元に向かえば全滅は避けられない。
俺の左足に刺さった剣のせいでまともに動けない。俺はこの剣を・・・引き抜くことにした。両足をしっかりと地面につけて姿勢を安定させる。両手で剣の柄を握り・・・引き抜く。歯を食いしばって声を出さないようにしていたが歯の隙間からはうめき声が溢れてくる。はっきり言ってソニアに胸を貫かれた時よりも痛い。あの時はどうやっても死ぬんだろうなと諦めが先行して痛みに苦しむことはなかった。
剣を引き抜くまで、1秒が1000秒のようにも感じた。きっと一瞬で引き抜くことができたのだろう。しかし、その一瞬は俺にはとてつもなく長く感じられた。凄まじい痛みと共にようやく剣を引き抜くことが出来た。血がどくどくと流れる。直ぐに血は止まったが剣が刺さった場所の近くは真っ黒に染まっている。《呪い》とやらの影響だろうか?傷が直ぐに塞がってくれたのは嬉しい。なにか後遺症がなければいいのだけれど。
俺は手に剣を握りオークジェネラルに向き合う。オークジェネラルはこちらを睨み付けてくる。一瞬の間をおいてオークジェネラルが捨て身のタックルをかましてくる。俺はそれを避けようともせず逆に向かって行く。俺ももう体力が少ない、ここで決めなければやがて殺されるだろう。こんな化け物と耐久勝負なんてできるか!相手が失血死するまでの時間なんて分からない!タックルをかましてきたオークジェネラルの真横を通り抜けその腹を斬り裂く。
直ぐにオークジェネラルの方へと振り返り警戒する。それが功を奏した。
「《がああああああ》」
瀕死のオークジェネラルが大きな断末魔をあげた。やったか!そう思ったが、それは断末魔ではなかった。オークジェネラルの足元の地面が盛り上がり無数の土の槍となってその周囲を埋め尽くす。どうにか避けようとするが1本の槍を左手に受け吹き飛ばされる。
地面を転がり土は口に入った。ボロボロになりながらも立ち上がりオークジェネラルを見る。土の槍はオークジェネラルを中心にして、半径10メートルを埋め尽くしていた。広範囲への魔法攻撃だったようだ。その中心に佇むオークジェネラルはこちらを向いて1本の土の槍を手に取る。そして、こちらへと狙いを定める 。オークジェネラルは片方の腕を肩から斬り落とされ、俺は右足に深い傷を受けて、更には左腕を動かすことも出来ない。
お互いに満身創痍の状態で己の意地だけで立っている。
「ぜえ、ぜえ」
息も苦しく呼吸さえおぼつかない。
オークジェネラルがその力の全てを使って最後の一撃を放った。当たれば確実に俺は死ぬ。ただ避けることにだけ集中する。槍が迫る風邪切り音しか聞こえない。
「うおおぉぉぉ!」
そして、俺は槍を・・・避けた。
数えきれない数の槍の真ん中で立つオークジェネラルはその巨体をゆっくりと傾けた。地面に倒れ込んだオークジェネラルが起き上がる様子は無い。力尽きたのだろうか?槍の間を進みオークジェネラルの元へと歩み寄る。もちろん警戒は怠らない。
オークジェネラルの胸に動きは無く呼吸も停止しているようだ。オークジェネラルは満面の笑みを浮かべながら死んでいる。こいつにとって俺との戦いは満足いくものだったのだろう。お互いの持てる力を十全に発揮しての戦いは確かに楽しいものだった。
立花さん達に加勢しなければならない。
こいつがもし意識を吹き返したりすれば大変なことになる。こいつが息をしていなかったとしてもトドメを確実にしておかなければならない。魔物の上位種には想像も出来ないような能力を持つものがいるそうだし。このオークジェネラルの戦いに敬意を払い、その首を一刀の元に斬り落とした。
俺は急いで立花さん達の元へと向かった。
......ソニアsideは斗賀君が見ていたものだったようです。




