030話:願い
~勇者side~
少女はずっと泣き続けた。百年恨んでも、千年憎んでも、決して許すことの無いような相手に胸を借りながら涙を流し続けた。
ようやく泣き止んだ少女が顔をあげる。息も当たりそうな距離で少女が話し始める。
「私から故郷から何もかもまで奪ったあなたは私にこれ以上なにを求めるの?」
「許してくれなんて言わない。ただそばにいてくれ」
「行けるところなんてないわ。この首輪もあるしね」
「そうか。その首輪、名前なんだったかな」
「隷属の首輪よ。人を隷属させる、人族が作り上げた、忌々しい首輪よ」
「外せないのか?」
「外すつもり?今度は本当にあなたを絞め殺すわよ」
「構わない」
「変な男……」
少女はゆっくりと体を離した。
「明日、奴隷商のところに連れて行って。そこで外してもらえるはずだから」
俺は大きく頷いた。
◇◇◇
翌日、奴隷商の店に向かった。
「え?隷属の首輪を外されるのですか?」
「なんとなく趣味と合わなくてな」
「ですが魔族及び獣人奴隷に対する隷属の首輪の使用は義務化されていますし……」
奴隷商人は顔をしかめる。義務化されているのならどうしようもないか?外してやれないのか?
「ああ、ちょうどいいものがありましたよ」
そう言って店の奥に奴隷商人はなにかを取りに行った。
「これなんかどうでしょう。隷属の腕輪と呼ばれるものです」
「効果は全く同じなのか?」
「ええ、ですからこれなら問題はありません。いかがですか?」
「いくらだ」
「勇者様には良いお取引をさせて頂きましたのでただでお取り替え致しましょう」
「では隷属の腕輪に魔力を流し隷属形式を設定して下さい」
魔力を流し隷属の腕輪の設定を開く。
主人への暴行の禁止、命令への絶対服従などの項目を全てオフにして設定を終了しようとしたら、項目を選んでくださいと出た。仕方なく自由命令欄に一言、他者に対する無差別攻撃を禁止する、と打ち込み設定を終了した。
「終わられたようですね。では、隷属の首輪と隷属の腕輪を取り替えますので貸していただけますかな?」
奴隷商人に腕輪を渡し、首輪と腕輪を取り替えて貰う。
「勇者様の魔力を腕輪に流せば、再び条件を変更出来ますのでご安心ください」
それだけ聞いて俺達は奴隷商から家に帰った。
◇◇◇
「………この設定なに?」
目の前に座る少女が俺に尋ねる。
「なにか不満なところがあったか?」
「こんなのじゃなにも設定していないようなものじゃない!」
「そうなるように設定したからな。構わないと言っただろう」
少女は信じられないものを見たかのような顔をした。
「外しに行ったのに別のものに取り替えただけだったから、酷い設定にするつもりなのかと思ったのに……」
「そんなわけがないだろう。もう遅いし、明日も訓練があるから俺はもう寝るぞ」
昨日も今日もあったが光輝に連絡して休んでいるんだ。流石に3日も休むと何か問題でもあったのかと問い詰められる。それはまずいので今日はもう眠ろう。
◇◇◇
俺は息苦しさを感じて目を覚ました。
少女が俺に馬乗りになって首に手をかけている。少しずつ力が込められて息が出来なくなる。その目を俺は見つめるだけだ。殺されても文句なんて言えない、そう思っていた。それなのに彼女はその手を緩め、俺の寝ているベッドに潜り込んできた。
「キルネ」
「ん?」
「私の名前」
「そうか。おやすみ、キルネ」
「うん、おやすみ」
彼女にどんな心情の変化があったのかは分からない。でも、もし叶うのならば、布団に包まれながらも隣で震えているキルネを守ってあげたい。この時、俺は初めて異世界でやりたいと思えることを見つけた。




