029話:涙
~勇者side~
高かった日は沈み、月が昇ってきた。
ようやく少女は泣き止んで、ベッドから起き上がってきた。目は真っ赤になり、頬には涙の後も見える。
「あなた達が私の村を壊滅させたの?」
「そうだ」
そう答えた瞬間、少女は俺に馬乗りになり、何度も俺の顔を殴りつけてきた。しまいには両手を俺の首にかけて息ができないように圧迫してきた。朦朧とする意識の中で少女の首にかけられた首輪が少しずつ閉まるのを見た。ついには耐えられなくなったのか少女は俺の首から手を放した。すると首輪はまた元の形に戻った。俺達は二人とも肩で息をするように空気を求めた。
「もう帰る場所がない」
少女が言葉を漏らす。
「それがどんなにつらいことかあなたにわかる?」
俺は首を振った。
「あなたの、あなたのせいよ」
少女の手が俺の頬を打った。少女は涙を流していた。泣いて、泣いて、泣き続けていた。俺は肩に手をそっと置いた。少女はまるで悪魔にでも捕まったかのように震えだした。上官のもとでよほど酷い目に遭わされたのだろう。それでも俺は腕を背中へとまわした。
ギュッと少女の体を抱く。震えていた少女の震えは止まり、今度は嗚咽を漏らし始めた。
「お父さん……お母さん……」
少女は泣き続けた。俺は俺のせいで全てを失うことになったその少女に、胸を貸すことしかできなかった。




