友人~ディア、フレンド~
「召雷・斑鳩っ!!」
空を舞う、青白い光。
そしてその直後…大地を揺るがす程の爆音が目の前で発生し、そのあまりの衝撃からしばしの間鼓膜が耳鳴りに支配される。
雷…いや、「雷属性の霊術」というのが正しいか。しかし、ここまで大きな規模のものは今まで見たことが無い。
まぁ、私が霊術とは疎遠な人生を生きてきたから、ということもあるのかも知れないが…とはいえ、そこを鑑みたとしてもこの威力には凄まじいものがある。
…そりゃ、皆が皆選りすぐりのエリートばかりだものな、この学校は。
「紗倉凛、診断結果…
威力、78。精度、43。速度、59…総合得点、180点です。」
そして、そんな激しい雷撃の中でも狂い無く診断が実行できる辺り…向こうの機械も、中々に相当なものらしい。
まぁ、一応電気式の機械では無いのだろうけど…にしたって、あんなにも派手な一撃をモロに喰らってビクともしないとは…こっちもこっちで、流石は宮代台だな、やれやれ。
「ふっふーん!!
どうだ!これが私の実力って奴よ!!」
「凄いよ凛ちゃん!総合3位だって!」
「しかも、威力だけなら堂々の1位…
やれやれ、君ってホントおっかないよねぇ。」
「ちょ!術の威力だけでそういうとこまで判断するのやめてくれない!ねぇ!?」
しかし、そんな凄まじい事実を前にしても尚…後ろに控えていた友達と楽しげな会話を交わす彼女。
…これが。
こんなものが、普通…か。こう言っては何だが、神格者って奴はどうにも常識のネジが飛んでるような気がしてならない。…無論、自分も含めて。、
「…おらそこ!さっさと交代しろぉ!
あと、今度授業中に喋りやがったら…分かってんな、あぁ?」
「ひ、ひぃーー!!すみませーん!!」
「え、えええーっと次の方ぁー!」
「…って、次の人って……」
…あ、皆の視線がこっちに。
そういえば、次って私の番だったっけ。五十音順で、紗倉さんって人が今終わった訳だから…あぁ、確かにどう考えても私ですよねぇ、次。
「…あ、私でーす。
はいはい、ちょっとどいてねーっと。」
そんな軽い絶望感を胸に、腰掛けていたベンチからゆっくりと立ち上がる私。腰に溜まっている若干の痺れからして…どうやら、随分と長くこの椅子に座り続けていたらしいな、私は。
未だおぼつかない足取りで目的地を目指し、人混みを縫って…
…と、そんな中私を呼びかける一つの声が。
「あ、あの、祠堂さん!」
「……?」
見れば、その人混みはどうやらさっき喋っていたあの集団だったらしくて。そしてその中には、ひょっこりと顔を出し、恥ずかしそうに顔を赤らめる…一人の少女の姿が。
「…えっと、そのぉ……」
「…………??」
…何だ、この間は?
まぁ、恥ずかしがってるってのは見てりゃ分かるんだけど…こう、クラスメイトなんだからもうちょっと気楽に話してもらっても…いいんじゃなくて?
「…お、祠堂さん!
次頑張ってね!私の記録なんか、どんどん抜いちゃっていいから!」
そして、そんなことだから…
別の方角から声をかけられ、私は結局そっちの方を向くことにした。
…彼女は…もしかして、さっきの雷の…紗倉さん、だったか?
私と同じ茶髪に、それを後ろで一つに纏めたスタンダードな髪型。そしてこのフラットな性格…
紗倉、紗倉、紗倉…よし、覚えたぞ、多分。
「おい、さっさとしろー!
…って、次祠堂じゃねぇか、早くしろー。」
「あぁ、怒られちゃったね。
ごめんごめん。ささ、行って行って!」
「……?
あ、ありがと、紗倉さん。」
と、その瞬間。
突然に生まれた、少しばかりの間。それが一体何を意味するのかは…
…当時の私は、まだ知らない。
「……………!!
こ、こちらこそぉーー!!!」
そんな彼女…紗倉に背中を強く押され、勢いそのままに私の試験…初期テストは、幕を開けたのであった。
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「一応、念の為に言っておくぞ、祠堂。」
「…はい?」
…さて、そんなこんなで私は、ここ「霊術試験場」のど真ん中へと足を踏み入れた訳だが…
そんな中、私に対してかけられた放送の声。その中身が何者なのかは…あのスピーカーの性能がいいのもあってか、嫌という程によく伝わって来て。
「いぃか。
…手加減は、するなよ?」
「へ、へい…
てか、別に手加減しようだとか…思って……ませんでした…し?」
…はい冗談です。
本当はまぁ、そりゃあ全力で程よく手加減するつもりでしたよ、ハイ。
だってさぁ…ただでさえ初日のゴタゴタで私という存在が目立ちに目立ってるのに、そこにこれ以上の拍車をかけるてしまうというのは…正直、避けたい所なのだ。
だって、見た?
あの私と話してる時の皆の表情…あれ、明らかに普通の友達とかクラスメイトに向ける目じゃ無かったって!いくら普通に取り繕ってたって、絶対心の中じゃ私のこと特別扱いしてるんだって!
そんな中で、気楽で対等な友達とか…
作れる気配すらしませんよ、ハイ。
「…おぉ、そうか。
じゃあ始めるぞー、よっと。」
で、そんな私のギリギリな否定に文句は付け無いまま、彼…基凌馬はやる気の無い感じな口調でスピーカーの向こうから掛け声を上げる。
…と、
「…おぉ……お?」
目の前に現れたのは、一つの人型の的。
表面には何やら得点らしき数字が書かれていて、しかし平面では無くしっかりとした立体。こんな細かい部分まで最新鋭とは…流石だな。
…で、この状況で私が何をすればいいのかというと…まぁ、端的に言えばあの的に向かって「攻撃」すればいいだけ、らしい。
事前に受けた説明からすると…まず、ここで開始のブザーが鳴るのを待つ。
そしてそのブザーが鳴った後…目の前の的に向かって、自分が今出せる最大限の火力を持った「霊術」をぶつける。今回の試験は、その際の威力、精度、攻撃までの速度を測って、現状の個々の能力を判断し今後のカリキュラムの参考にするのだそうだ。
ちなみに、私の足元にあるこの丸い円から出ていいのもブザーが鳴ってから。それまではここでじっとしておいて、霊気を練ったり詠唱を先にかけてしまうのも駄目。
見えずとも、そういった不正らしき行為はしっかりと見張られている…らしい。まぁ、そんなことを散々事前に念押しされてしまっている以上、こっちとしても不正に打って出る気にはなれないけど。
「…さて、準備はいぃか?」
「はぁ、いつでもどうぞ…」
さて、そんな最新鋭設備の中で始められるこの試験。
「お、始まるぞみんなー!」
「きゃー!頑張って祠堂さーん!!」
「頑張れー!!」
後方には、大きく貼られた透明な窓。その中には出番待ちの生徒達が集まっており、そこから浴びせられる期待の眼差しと熱い声援が…痛い、非常に痛い。
「じゃ、始めるぞ。
…カウント、スタート。」
ガチャリ、と重厚な音がして、私の心臓はギュッと締め付けられる。
あぁ、始まるのか…
今後の学生生活を決めるであろう、大事な試験が。ここで決まった実力によって、実技のクラス分けがなされ…そして時には、一年であろうとも上級生の中に入れられることもあるらしい。
つまり…ここであまりにも高い実力を示し過ぎると、結構まずいことになる。
…だって、いきなり先輩の輪の中に入れられる訳でしょ?気まずいじゃん、それって間違い無く!それに私、年上にはあんまり興味は…
「カウント、スタート。3、2…」
あぁあ!そんなこと言ってたらもう始まりそうなんですけど!?
やばい、やばいやばいやばい…!
どうすればいい!?
手加減する…にしたって、入試の時の記録と比べられてあれこれ言われそうだし…だからって本気を出し過ぎると、入試の時の記録からして恐らく学年トップクラスは確実。そしてそうなってしまえば、クラスの中での私の立ち位置が……!
「…1……」
…始まる。
もう、どうしようも無いか…ならせめて、潔く本気を出して…
…と、そんな時に耳を掠めた…一つの、声。
「…はっ!
……せいぜいやっておしまいなさいな、シドウさんっ!」
……………
…あぁ、そうか。
もし私がここで全力を出せば…
多分、彼女と同じクラスになる。そしてそうすれば…彼女とは、もしかしたら……!
「…あーあ。」
…そうだな。
なら、せいぜい……
「…テスト、スタート!!」
「やってやろうじゃ、ないのぉー!!」
瞬間…掌の上で生まれる、一筋の光。
それは、その一瞬にして手元を離れ…目の前に佇む、人形の元へ。
イメージ…そう、イメージだ。
既に頭の中で固まっているイメージを…霊気を介して、現実へと具現化する。
…思い浮かべるのは、ただ純粋な破壊の力。
それは、今までの人生で最も記憶に残っている破壊の形。そしてそれ故に…頭の中でそのイメージを固めるのも、至って簡単だった。
爆破…そう、爆破だ。圧倒的な破壊力と、スピードと、精度は…まぁ、あの一帯をまとめて爆破すれば問題無かろう。それに今更考えたって…もう、あれが掌を離れた時点で私にはどうしようも無い。
…強いて、言うのならば……
「来たれ、狂宴の業火……!
爆炎縋…レヴナント・クリムゾンっ!!」
この攻撃で…
周りに被害が出ないことを、祈るばかりだ。
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「…はぁ。」
「……ん?
どうしたんじゃ、まーたため息なんかついて?」
「……………
…なんで、だと思う?」
「そりゃ、まぁ…
…さっきの試験の結果が…イマイチだったから…とかか?」
「…………………
…はぁぁぁーーーー………」
「お、おいおい、そんなに大きくため息ついたら…
…セラ、お主って奴は…ただでさえ不幸に愛されているというのに、さらに不幸になりたいと申すか?」
「…………………
…いいや、教えたげる。
私が今…こんなにテンション下がってる訳。」
「おぉ、ようやくか…
…で、なんなんじゃ、その悩み事は?できることなら助けになるが…」
「………これ。」
「……?
これって…さっきの試験の結果か。やーっぱり試験がイマイチだったのか…
…って、あれ?」
「…………」
「これ…
……凄いではないか、セラ!!この項目、ぜーんぶ満点!満点じゃぞ!!」
「そう…なんだけどさ。
はは、ははは…」
「………?」
屋上というのは…こんなにも、空が綺麗に見えるものなのだな。
空の青さが…まるで、私に嫌味でも言っているかのように見える。肌を撫でる春風が…私に、無情な情けをかけてくるかのように感じる。
こんなにも、綺麗な世界。
なのに…なのに、世界って奴は……
…心次第で、見方次第で、どうにでも変わってしまうものなのだな。
「…で?
どうしてこの点数でテンションが下がることになるんじゃ?」
「……じゃ、問題。」
そんな素敵な屋上の上、広過ぎる面積の中でポツンと佇む二人の少女。
一人は、無気力に地面の上で仰向けになり…もう一人は、そんな少女の傍らにちょこんと座り込み、少女の顔を不思議そうに見つめている。
そんな彼女…楓に対して、右手を空に掲げて指を立てる少女、基私。
その指先をゆらゆらと揺らすと…その動きに合わせて楓の首が可愛く動くものだから、思わず少し和んでしまう。
でも…
たったそれだけでは、今の私からこの果てしない虚無感を取り除くことはできないらしくて。
「この屋上…どうして人が一人もいないんでしょーか?」
そう、この屋上…今の所、私達以外に人が一人もいない。
一応、ここは一般の生徒にもしっかり開放されている共通のスペースだ。そしてこの面積と、清々しい景色と風…こんなにベストな場所で昼食を取れるのなら、普通はもっと人が寄り付きそうなものなのだが。
しかし…今の所、ここにいるのは私達だけだ。
傍らに置かれた菓子パンの袋を虚しく見つめる私と…その中身であったパンに齧り付いて、はむはむと音を立てる楓。その二人だけでこの空間を占拠してしまうのは…どうにも、拭いきれない罪悪感がある。
「んー…?
わしが来た時には、もう誰もいなかったからのぉ…」
そんな現状に対し、しばらく辺りをくるくると見回した後、うーんと小首を傾げて考え込む楓。
…あぁ、今の私にとっては…あなたたけが救いです、獣耳の天使よ…
…と、そんな時に耳に入って来た一つの音。
ガチャ、というと…ドアを開ける音か。つまりこれは…これは……
「……ねー!さっきのテストもう散々でさぁーー!!」
「そう?私は結構よかったけど…」
…誰かが、来る。
あぁ、どうしてまた…
私がわざわざ、人目につかないようにするためにこんな辺境まで逃げて来たというのに…何故、運命というのは私に対して厳しいのだろう。
「お、誰か来たぞ!
よかったではないか、セラ!これで寂しく…」
「…あぁ、丁度いい…かな。
じゃ、正解発表ー。VTR、どぞー。」
そんな暗い空気を崩さない私に対して、ぱっと喜びを顕にする楓。その顔があんまり幸せそうなものだから…私の心は、さらにきつく締め付けられる。
そんな感情を和らげる為、とにかくまずは口を動かすことに。
そして、そんな私のふざけた口調から…予測されていた悲劇は、今再び幕を開ける。
「えぇっと、他に人は…」
「…あ、あそこ!
…あれ?でもあの格好…うちの制服じゃ無い、よねぇ?」
…さて、まず最初に彼女達が目をつけたのは…可愛い可愛い我が御神、楓だった。
そりゃまぁ、見た目が見た目だからな。
和服と言っていいのかよく分からない服装に、頭からちょこんと生えた二つの獣耳、そしてふさふさの尻尾…そんな生物が実在している時点で、本来なら腰を抜かして驚いたとて不思議は無い。
…のだが、ここは流石に宮代台。すぐに彼女の正体に気付いた彼女達は、その困惑に曇っていた表情にぱっと明るさを取り戻し、楓の元へと駆け寄ってゆく。
……そのすぐ後ろで横たわっている、私の存在には気付かないまま。
「はわわぁー!
ねぇ君、御神…だよねぇ?」
「…ん?
わしか?まぁ、そうじゃが…」
「え、嘘ー!可愛いー!!
ね、ちょっと触っても…」
…しっかし。
一度慣れられてしまうと、今度は逆に散々可愛がられてしまう…これはまぁ、今までの人生の中でも何度も目撃したことのある、いわゆるブラック一つのお約束なのだ。
なのだが…その度にいつも、心の奥でちょっと悔しくなってしまう自分がいる。
…全く、私だけのとは言わないけど…契約してんのは私だけなんだっての、楓ちゃんは。
「おぉ、よいぞよいぞー。
…って、ちょっと、それはくすぐったい…」
「わぁー!もふもふだよぉー!」
「あ、本当だー!柔らかー!」
…で、そういう相手に対してもガンガン攻めていってしまうのも…また、楓のいいところなのかも知れない。
馴れ馴れしい…のは向こうの方なのだから、ならばいっそこっちも馴れ馴れしくいこう…と。まぁ確かに、そっちの方が人生楽しく生きられるのかも知れないなぁ。
「…あ。
そういえば君…ご主人様は?」
「あぁ、そうそう。
屋上にいるんだったら…
………って……」
………あ。
遂に…彼女達の楽しげな視線が、私の方へと向けられた。
向けられて…しまった。
その瞬間、二人の内の一人の表情に何やら変化が。
瞳が見開かれ、驚きのあまりに口をポカンと開けて…でもそれも刹那、次の瞬間には隣にいた子の肩をバンバンと叩き、後ろを向いてひそひそ話を開始する。
「…え、え?
どしたのユイちゃん?急にこんな…」
「あの人だよ!あの人!!」
「あの人…って、あの寝転んでる人のこと?」
…てか、所々聞こえてるんですけどー。
何と言うか…本当はひっそりと話を進めたかったはずなのに、内一人がその意図を汲めずに大きな声で喋って、そしてそれに呼応するように二人目の方まで大きな声で…これが世に言う、負の連鎖って奴なのか?
「祠堂さんだよ!し・ど・う・さ・ん!!」
「祠堂って…
え、えぇぇぇぇーーー!!?」
…ほら、まーたそんな大きな声上げちゃって…
てか、私ってばもうそんなに有名人なのか?たった数時間前の出来事のせいで、気付けばもう学校中から注目の的とは…やれやれ、これだから人気者は辛いぜ。
そして…人気者の真の苦労は、ここからが本番で。
「…あ、あのぉーー!??
す、すすすすみませんでしたぁー!!」
「ちょ、ナナやめてって…
…もぉ!
あの、私の相方が失礼しましたぁ!それじゃあまたーー!!」
「へ?へぇ!?
待ってユイちゃん!手…そんな無理矢理引っ張らなくてもぉーー!!」
そんな、さながら結成したてのお笑いコンビかのようなやり取りを交した後…走る相方に手を引かれ、ズリズリと引きずられてゆく少女。
そしてその後…出口のドアの前でくるりとこちらを振り返り、ぺこりと一例。
そして未だ状況の理解が追いついていない相方を引きずったまま…二人は、私達の前を後にするのだった。
「おぉー、まったのー。」
そんな彼女達に対し…ドアが閉まっても尚、どこが柔らかい表情で手を振り続ける楓。
その笑顔の理由が一体どこにあるのかは分からないけれど…そんな幸せそうな笑顔させも、私を皮肉に嘲笑っているかのように見えて…思わず、頭を抱える。
…あぁ、もう、これだから……
「これだから、さっきの試験は…」
「手加減しとけばよかったー。
……と?」
…あれ?
何か…この感覚、ちょっと覚えが…
「お、神奈ではないか!
なんじゃお前、一体いつからそこにー?」
「…一応、さっきから。
あ、このパン…余っているのですが、食べますか?」
「おぉー!すまんな神奈!
いただきまーす!!はむっ!」
…あぁ、またか。
そんな感覚に体を突き動かされ、上体を起こして辺りを見回してみる…と、またまたお目当ての彼女はすぐそこにいて。
私の目の前で、菓子パンの袋をひらひらと揺らす黒髪少女。紫紺の瞳と不思議なまでの無表情がどこか幻想的で…そんな雰囲気も相まって、今日も彼女は美人さんなのであった。
しかしまた、なんたって彼女って奴は…知らない内に会話に参加して、知らない内にその中に溶け込んで…で、肝心の彼女の存在に気付くのは、結構後になってから…と。
…てか、本当にいままでどこにいたんだ?
「はい、あそこの影に。」
そんな心の声に呼応して、ビシッと私の後方へと指を差す神奈。…ホント、霊気だけじゃなくて心まで読めるのか、彼女は?
…で、そんな神奈が指差す方向を振り返って見れば…そこにあったのは、この屋上への唯一の入り口だった。
でも、何故そこを差すんだ?…はっ!もしかしてこれって、ここにいたと見せかけての外にいましたー、っていう引っ掛け的な?そういう奴なのか?
「影?
って…もしかして、あの後ろか?」
「はい、ご名答です。」
…はい、違いますよねー。
とすると、神奈がいたという場所は…多分、あの入り口のすぐ後ろだ。
確かに、あそこは入り口の部分だけ出っ張りになっていて、その後ろにちょっとしたスペースが残されている…
「…けど、なんてったってあんな狭っ苦しい場所に?」
「隠れてました。
ちょっと楽しかったですよ、探偵気分になれて。」
…えぇー……
じゃあ、もしかして…今楓が頬張ってるあのあんパンって…そういう雰囲気的な奴だったのか?よく見れば持ってる飲み物も白いパック入りの奴だし、まさか…
「名探偵、神奈っ!
…んー、なんかダサいような……」
…まぁ、多分そういうこと…なんだろうな、あのノリノリな雰囲気からして。
てか、そんな微妙に決めきれてない決めポーズなんかとってたら、そりゃいかにテンプレでお約束な台詞でもダサくなりますよ。
てかそもそも探偵じゃないしね、あなた。
「はぁ……
…で?その探偵さんへの依頼ってのは何だった訳?」
「…?
んー…何でしたっけ?」
…で、探偵じゃ無いくせにそういう所までど忘れしちゃう訳ですか、あなたは。
まぁ、どうせ神奈のことだ。誰に頼まれるでも無く、自分の独断でここまで来たのであろう。
でも、だとしたら神奈の目的って…
「…まさかあんた、私のことを慰めに来た…とか?」
「………
……………は?
…はぁ、確かにちょっとは優しい言葉もかけてやろうかなぁ、とは思ってましたけど…こんな漬けあがりに漬けあがっている奴にとって、果たしてそれが正しい判断なのでしょうか?」
デスヨネ、ハイ。
…にしても、相っ変わらずの毒舌だなぁ、おい。
まだ出会ってから3日も経ってはいないけど…その中だけでも、もう何度痛烈な皮肉を言われたことか。
彼女…もしかしてS?Sなのか!?
だとしたら…はっ!いけないヨダレが…
「…あー、まーたそんな変質者みたいな笑い方しちゃて。
あ、楓さん、口にパン屑が…」
「む…いやぁ、すまぬな神奈。
…しっかし、一体いつまでこんな穢らわしい顔を晒しておるつもりなのじゃ、こやつは?」
……そんなに酷い?
私って、どうにも感情が顔に出やすい節があるっぽいんだよなぁ。自覚は無いけど。
だって…そうでなきゃ、今までかけられて来た言葉とか視線に説明がつかないですもの。
あの時や、あの時や、あの時…あぁ、数え始めるとキリがないな、こりゃ。
「…あ、そういえば。」
そんな会話から数分。
しばらくの間しがない世間話が続いた後、唐突に神奈が何かを思い出したかのようにハッとした顔をする。
…一体何だ、と私達二人が視線を集めていると…神奈が懐から取り出したのは、一本の棒きれ、基ビジョン。
そこからおもむろに画面を表情させ、しばらくあれこれ操作した後…とある画面で操作を止め、私達の方にその画面を向ける。
そこに表示されていたのは…どうやら、さっきのテストの結果らしい。
「私、学年5位でした、ドヤァ。」
………………
……あぁ、さいですか。
ていうか、何もそれを私達に自慢しなくとも…もっとこう、自慢するならするで他に相応しい人が沢山…
「ちなみに、あなたが1位だったというのも聞いてます。」
まぁ、そりゃねぇ?
だって私、もうさっきの騒動だけで随分な人気者になっちゃったらしいからねぇ。とはいえ、人気になり過ぎてかえって避けられてる…なんて、悲しい人気者だけど。
「そして…
…あなたが、そのあまりの破壊力のせいで周囲の結界を壊してしまったことも…!」
………………
…そう、なのだ。
実は私、あの時発動させた術の破壊力が学校にとっても想定外のものだったらしくて…周りの機械やら壁もろとも、派手に破壊してしまったのだ。
あの施設に貼られていた結界は、日本でも最高クラスの硬度を誇るものだったらしい。
故に、普通ならば壊れることは無い。どんなに強い霊術を撃とうとも、どんなに派手に霊術を使ったとしても…あの結界が壊れるなんてことは、普通はありえないことらしい。
それが破壊できるとしたら…
「そしてそしてー!
あなたが破壊してしまった強化ガラスのせいで、その後ろに控えていた生徒に被害が出そうになってしまったことも!その後ろにちゃっかりスタンバってた私達が、仕方無く別の施設に移動になったことも!」
…そう。
私は、皆を危険に晒した。晒して…しまったのだ。
確かに、全力を出せとは言われた。
でも、だからって…周りの被害を鑑みないまま、後先考えずに霊術を撃つというのは…それが神格者にとってどれだけ愚かな行為であるか、この学校の生徒なら誰だって分かることだ。
そう、だから私は避けられてる。
皆を危険に晒したから、そしてこれからも…危険な目に遭わせられるかも知れないと、皆が察しているから。
だから、私は…
「そしてそしてそし…」
「…あの!」
そこで、思わず声を上げた。
目の前で力説する少女の肩を掴んで、合わせられない視線を無理矢理地面に押し付けて…感情が溢れそうになるのを、何とか堪えて。
「あんた…は……」
「………………
…自分のことを、怖がらないのかー。
ですか?」
…………本当に、心でも読めるのだろうか、彼女は。
でも、今回ばかりは読んでくれてよかったと思う。
だって、それは…私が口にするつもりだったその言葉は、自分で言うには少し恥ずかしいものだったから。
「…私は、気にしてませんよ?」
でも、彼女は…
「だって、あなたの中には…
…それだけの、力があるんですから。」
彼女は、他の人とは違った。
私のことを…私がどんな力を持っていて、あの場でどれだけの術を使ったのか…それが一番分かっている人は、他でも無い彼女のはずだ。
なのに…それでも彼女は、私のことを…
「…さ、もうお昼終わっちゃいますよ?
早く食べちゃわないと…って、あ。」
「もごもご…
…うむ、ごちそうさまでした、神奈!」
「……あー。
餌付けするのって、結構難しいんですね。」
「ん?何か言ったかの?」
「…いえ、何でも。」
私のに対して、普通に接してくれている。
危険な目に遭っておきながら、そんな危険を引き起こした張本人である私に…尚も彼女は、あのいつもの無表情な笑顔を向けてくるのだ。
そんなことを…そんなことをされてしまったら、私は……!
「…………………
…あー!もぉ悩むのお終いっ!
ほら楓!さっさと行くよ!!」
「へ?
いや、待つのじゃセラ!何もそんなに引っ張らなくてもぉー!!」
あぁ、何をらしくも無いことをしていたのだろうか、私という奴は。
悩んでたって…考えてたって、しょうがないじゃないか。
大事なのは、これからだ。これから先、私がどう皆に示しを付けて、よりを戻して、仲良くなって…そういうことを考える方が、よっぽどいつもの私らしいや。
「あ、そういえば午後って…
確か、御神の能力テストがらあるんでしたっけ。」
「んー?そうだっけ…
…あ、一応言っておくけど楓!あんたまで私みたいなことやらかしやがったら…」
「えぇー!?
だって、だって本気でやらねばならんのじゃろ!?それなのにどうして…どうして手加減なんかー!」
「…ふふ、大丈夫ですよ。
そりゃ、さっきみたいな固有霊術クラスのものは駄目ですけど…それ以外にも、速さとか精度とか、測る基準は沢山あるんですから。」
…そう、大事なのはこれから。
これから私がどう生きて、どんな壁にぶつかって、それをどんな風に壊してゆくのか…その第一歩が、恐らくは午後の測定にあるのだろう。
「…さ、行ってきなよ楓。
一応…それなりに、頑張ってきな。」
にこりと、笑いかけた。
傍らで半べそをかきながら抗議する楓に対して、自分でも理解できない程に…優しく、微笑む。
そんな私から…楓もまた、何かを感じ取ったのだろう。
「……うむ、分かった。
さーて!…それなりに、頑張ってくるとしようかの。」
肩をぐるぐると回し、準備万端の意思表示。
その姿が、あんまり微笑ましいものだから…溢れかけていた感情の波が、再び押し寄せてきて。
「……っ!
…さ、行くよ月詠さん!
次の授業遅れちゃうし!これ以上あいつに目付けられるのはごめんだし!」
その波をかき消す為に、私は目の前にいた少女の肩を引っ掴み…その体に顔を隠すようにして、ゆっくりと歩き出す。
そんな情けない私に、何も言わずに付き合ってくれる辺り…彼女、中々いい奴なのかも知れないな。
…やれやれ、本当に私は……
「…あの、流石にそれは馴れ馴れし過ぎるかと。
一応言っておきますけど、私に欲情したりしたらただじゃ置きませんからね?」
「…分かってるって。
……だから、もう行こ。」
「………………
…神奈、です。」
「……?」
「だから、私の名前!
苗字じゃ無くて…名前で読んでくれて、結構ですから。」
「……………!
………そっ…か。
…じゃあ、ありがと…神奈。」
「…………
はい。こちらこそ…千咲さん?」
私という奴は…
不幸続きの人生だけど…それでも何故だか、周りの人間にだけは恵まれているらしい。
「……友達、か。」
「…?どうかしました?」
「……………
……いや、何でもない…かな。」




