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指名~モウ、カエラセテ~

「…はぁ……」


…どうして、こうなった……?


味気無い無機質な天井に向かって、私は虚しくため息を一つ。

あぁ、窓の外に映る景色はあんなにも晴れやかだというのに…まるで今の私は、この青空と並べられて尚その地味な白色から変わろうとしない、この教室の天井のようだな。ハハハ…


…なーんて訳の分からない例えをしてしまう程に、今日は本当に私にとって予想外のことが起こりすだ。しかもその一つ一つのスケールがやったらと大きいものだから…その度に私は、こうして憂鬱な気分に浸らなければならなくなる訳で。


とはいえまぁ、今回ばかりは普通喜ぶべき所なのかもしれない。

何せ自分が何かしらの被害を被った訳でも無く、私という人間が入学早々に何らかの悪印象を受けたことも…恐らくは、無いのだから。


…じゃあ、何が問題なのかって?


「ねぇねぇさっきの!

凄かったよ祠堂さん!」


……………


「ホントホント!

あ、祠堂さんってもしかして、何か格闘技とかやってたりするの?」


「えぇー!本当!!

…じゃあ、僕も習おうかなぁー!」


……そりゃ…まぁ……


「…もぉ、あんたかいくら頑張った所で、祠堂さんにはかないっこ無いわよ!」


「ははは、そりゃそうだよねぇー!」


「でもホント…」


「ええ、本当に…」


「「「凄かったです、祠堂さん!」」」



……これですよ、ハイ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


先程のいざこざも何だかんだで収束し、その後の入学式も恙無く終えまして…現在、再び教室の中。


一応、今は自分達の担任の教師を待つ時間…ということになっているのだが、まぁあいつが今日中に出貼ってくるのは…無理、だよね?


…だって、それは何より怪我を負わせた張本人である所の私が一番分かってますもの。多分右手首は関節がイカれて複雑骨折、頭の方も頭蓋骨には恐らく損傷あり、下手すればそっちもまた複雑骨折…こんな治り難い場所を二つも骨折してしまった以上、もう当分は教壇に立つことは愚か、私生活すらもままならない状況が続くだろう。

…へへ、ざまぁ。


「うわぁ…

どうしたの祠堂さん、そんな悪そうな顔してー?」


…へあっ!?

また顔に出でました!?しかも今回のは多分…相当なゲス顔だったと思うんだけど…


「えっ!?いや、その…」


「もー、玲奈ってば!

…こういう顔も、かっこいいじゃなーい!」


「…うん……

そう…かもね!」


「………?」


…どゆこと?

まぁ、事態が穏便に解決されたのなら…文句は無いんですけども。


にしたって、かっこいい…ねぇ。

っは!!もしかして今の私なら、その辺の可愛い子ちゃんをまとめてデートに誘うことだって…!


…という具合で簡単に気分を上げられるのなら…私だって、こうして憂鬱さに打ちひしがれることも無かったのだろうけど。



「…ハイハーイ、皆席についちゃってー!」


そんな私の心を入れ替えるように、教室の中に高く響き渡る女の声…と、扉を開ける大きな音。

その声に呼応するかのように、私の周りを囲んでいた生徒達は一斉に自分の席へと戻り、その楽しげな話し声も少しずつ収束してゆく。


…そんな現状に驚いて辺りを見渡せば…目の前にある教壇に、見知らぬ誰かが立っていた。


パッと見としては、20代前半辺りの若い女性。左脇腹に抱えているそれっぽいボードと、ジーンズのポケットに刺さった数本のペンから見ても…その姿は、まさしく女教師そのものであった。


…とするとまさか…奴の代わりか?

そんな噂が教室の中を放浪し始めて、辺りから小さくヒソヒソ話の声が聞こえてくるようになった。あ、学生のこういう噂好きな所って、いくら日本屈指のエリート校だろうと変わらないのね。何だか安心しました。


……でももし、奴の代わりだとしたら…彼女が私達の、新しい担任になるってことか?だとしたら今の所は大歓迎なんだけども…中身がどうであれ、あの暴力教師よりはマシでしょうし…胸も大っきいですし。


「ハーイ、皆ちゅうもーく!

私が今日から、この1年C組の担任をすることになったー…」


…ですよねぇ。


しかし、新しい担任かぁ…いい人じゃん、うんうん。明るそうで、生徒に優しくしてくれそうで、顔も可愛くて、スタイルも…中々に性欲をそそる感じで。まぁ少なくとも、あんなただの暴力やさぐれ男よりはよっぽど…


「…あの、先生。」


しかし、そんな理想的とも言えた担任変更に異を唱える者、約一名。


その声がした方向…私のすぐ後ろの席を見れば、真っ直ぐに手を挙げてこれまた真っ直ぐに先生に向かって視線を向ける…一人の、女の子の姿が。

おぉ、黒髪ロングでスタイルも私好み…あらあら、これまた私を惑わすかわい子ちゃんが増えたじゃないの、えぇ?



…で、そんなかわい子ちゃんは、その真っ直ぐな瞳で先生に尋ねた。


「…あの、先生。

失礼に当たるかもしれませんが…」


「んー?

いーよいーよ!なんなら実年齢と聞いちゃっても!内緒だけど!」


「では、先生…


…あなた……

……人じゃ、ありませんよね?」


………その、人智を超えた才能に恵まれた私達からしたって、これ以上無いほどに…随分と、ぶっ飛んだ内容を。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


厄災。


それがこの国にもたらしたのは、驚異的な数の死者と破壊による絶望…しかしてそれすらも上回る程の、圧倒的な希望と技術だった。


そんな中、厄災から生まれた技術は様々な体系を成し…交通機関や身近なものを始めとして、医療や軍事などの国益に関わる重大な部分までをも異様な早さで盛り立ててきた。


しかし、そんな繁忙に追われる日本の中で…密かに囁かれていた、一つの噂。


「…厄災が生んだのは、技術や金だけでは無い…


……厄災は、神を生んだのだ。」


神を生んだ…


それは厄災から数年しか経っておらず、復興作業を始めとしてまさしく発展途上の中にある日本にとっては、単なるお茶濁しにしかならないものだ…

……と、思われていた。


しかし、それは単なる噂では無かったのだ。厄災からおよそ5年後、日本で起こった一つの事件が、それを世界中に大きく裏付けることになる。


西暦2025年。その面積の半分以上が「東の終焉」によって失われた東京の中で、一つの組織が名を挙げた。

その名も「神格会」。それが今の日本における新政府の始まりにして…神の存在を「御神」という存在として世界に知らしめた、この神暦における大きな礎となった存在だ。



さて、それらが提唱した「御神」という存在…


その詳細は、実はまだ今の所よく分かっていない。

…というより、まだ解明途中といった方が正しいだろうか。元々ここ新都だって、その解明の為に作られた巨大な国家研究機関のようなものなのだから。


ただ、そんな中でも今分かっていることと言えば…神格会が上げている、三つの「御神定義」が有名だろうか。


一つ、御神とはすなわち心の現れ。

とある才能を持って生まれた人間が幼い頃に思い描いた心の形が、そのまま現実となって現れる。そしてそれは…彼ら自身と契約することにより初めて、一生共に生きることになる大切な仲間となるのだ。


二つ、御神とはすなわち力の現れ。

御神と契約を果たした人間には、特別な力が宿る。それはすなわち霊気…厄災後に発見された特殊な物質からエネルギーを得ることによって、思考を介して現実を書き換え…超常の力「霊術」として、行使することができるようになる…という訳だ。そしてそれは、無論契約した御神の方も同じことで。


三つ、神格とはすなわち真実の現れ。

御神を持った人間は、当然普通の人間とは違う。霊術と神格を自在に操り…その二つは、たった一人の人間に神にも等しい力と地位を与えてしまう。…そう、武力だ。

それこそ数人集まれば、旧世紀の国一つとならば余裕で相手できる程の…まさしく、圧倒的な力。それをどう使うのかは…ただ一人、神格者である本人自身に問われることとなるのだ。



…とまぁ、これが現実の新日本政府「神格会」が提唱する三つの定義…御神定義だ。


正直、馬鹿で田舎者な私にはよく分からない部分も多いのだが…とりあえず、御神というのが神格者に付き従う相棒みたいなものってこと。そしてそれを持っている人は、それこそ深夜アニメもびっくりのスーパーパワーが使えるようになるってこと。そしてその力をどう使うかは…まさしく、自分次第ってこと。

ざっとまとめるなら、まぁこんな所だろうか。


…で、ここ宮代台高校神格実技科もその神格者を育てる育生機関みたいなものって訳で。


勿論、ここにいるのは御神を従える資格を持った神格者だけ。それもここまでのエリート校となると…多分、かなりの実力者揃いなのだろう。実技演習で皆の力や御神を見るのが、私としても実はちょっと楽しみだったりする。


…そして、ここまで言うとさっきの暴力教師の言ったあの言葉…あれが別にそこまで理に叶ってない、単なる脅しだって線も少しばかり薄くなってくる。


「ここは言わば戦場…君達の持つ「神格」をただ活かすだけでは無く、君達自身の力を…その才能を「守る」ための力もきっちり養ってもらうことになる。」


…なるほど、戦場ねぇ。

ここに集まっているのが単なる平凡な学生だったのならまだしも、ここにいるのは皆が皆常人離れした神格者…そんな戦士達の集まる場所、すなわち戦場だって例えもまぁ…分からなくも無い。納得はしないけど。


でもまぁ、何にせよ危険なことに変わりは無いのだろう。


過ぎた力は、災いを呼ぶ。

そんなこと、ちょっとでも歴史を勉強していればすぐに分かる事実だ。それを身を持って示してくれた先人達がいる以上…私達とて、ただ楽しく友達と勉強するだけー、って訳には…当然、いかないのだろうな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


…で、話は戻りまして。


「……人じゃ、ありませんよね?」


その言葉に、辺りがざわつく。

人じゃ、無い…つまりはあれか?彼女はもしかして…


「………ふふーん……


……そう、そのとーりーー!!」


真っ直ぐな視線からはっきりと質問を告げた彼女に対して、しばらく口元に手を当てて考え込んだ彼女。しかしそれも一瞬のことで…すぐにその顔に明るい笑顔を取り戻し、両手を挙げて賞賛のポーズ。


…これで、お相手さんの承認も得た。

人では無いけど、人の見た目をした存在。そんなもの、この神格実技科なんて珍しいクラスに集まった人間からすれば…考えつくことなんて一つしか無くて。


そう、つまり彼女は…


「そう!私はこのクラスの担任…

…に当たる、竹崎凌馬先生のたった一人の御神!


その名もー…風牙!でーす!」


……御神、なのだ。


それが人の形をとっていた所で、あんなに楽しそうに喋っていた所で…私達神格者にとっては、それはもう当たり前のことなのだ。



「はっはっはー!いや凄いね君ー!

私、実は自分が神格だってこと、君達が卒業するまでは内緒にしとくつもりだったんだけどなぁー!」


…いや、なんだその要らんサプライズは。

まぁ確かに、それまで普通の人間だと思って接してきた人が実は人じゃありませんでしたー…なんて、これ以上に驚くことも無いんだろうけど。


「はい、まぁ…

…私、目にはちょっと自身があって…」


目に自身がある…だけで、果たして人と人そっくりの御神を見分けることなんてできるものなのだろうか?


御神とはすなわち心の現れ…というのが正しいならば、心が真に人間と同じ存在を欲していたのだとしたら…それってもう、常人にはもう人との見分けなんてつかないものだと思うのだけれど。


「へぇ…君、名前は?」


「はい…

…えっと、月詠神奈…です。」


月詠…ねぇ。


神様の名前を自分の苗字として語るとは…彼女のご先祖、一体どういう考えでその苗字を選んだのだろうか。それに彼自身、そんなに縁起のいい神様だった記憶も無いのだが…

神殺し、姉嫌い、夜の神…ただでさえ残ってる情報が少ないのに、それだけでももういい印象が感じられないんだよなぁ、月詠って神様は。


…おっと、勿論彼女は例外ですよ?だって可愛いですし。


「つくよみ…

あぁ、君か!このクラスにいるっていう霊視持ちちゃんって!」


…そしてそのかわい子ちゃん、どうやらただ可愛いだけということでも無いらしい。


「はい…まぁ。

そうです…けど…?」


霊視…

聞いたことがある。確か厄災後に産まれた子供のごく一部だけが持つ特性のようなもので、普通は見えないはずのの「霊気」の流れが見えるんだとか。でもそんな一見便利そうな力も、人によってはあまりに霊気が強く見え過ぎて私生活にまで影響が出てしまうこともあるんだとか。…そんなこんなで、霊視というのは世間では一種の「持病」として扱われることが多い。


…でも、実際に霊視を持った人を見るのは始めてだ。

確か、日本の中では20人もいないとか聞いたこともあるし…霊視という能力は実は結構珍しいものなのだろう。それがこんな身近に、それも今日からは同じ教室で一緒に過ごすクラスメイトになるなんて…なるほど、流石は宮代台といった所か。



「いやぁー、でも凄いねぇ今年の新入生は!

私のことを見破れる霊視ちゃん然り、あの凌馬を一種でボコボコにできちゃう暴力ちゃん然り!」


…ん?今なんか…

その暴力ちゃんって、私のことだよねぇ?何すかその名前!風評被害がヤバそうだからその名前はやめてぇ!!


…でもまぁ、そこだけを除けば私としても納得の一言だ。

宮代台高校…それはつまり、この日本中から集まった希代のエリート達が、一つの教室という空間の中で切磋琢磨し合い、青春という貴重な時間を過ごす共にということだ。それがどんなに凄いことか…今の私では、全く把握しきれたものでは無い。将来この中から一体何人の有名人が出で来るのか…そう考えると、この空間がいかに豪華なものなのかが改めて痛感させられる。


そしてその中で、実技だけでも一位をとってしまった私は…一体、このクラスの中でこれからどんな存在になってゆくのだろうか。



「うっとっとぉー、危うく話が脱線しちゃう所だったよ、危ない危ない。」


いやあの…何を話そうとしていたのかは知りませんけど、もう十分脱線してたと思いますよ、先生?


…って、あれ?

彼女ってあくまでも先生の御神なのであって、本当の先生では無いのか?だとしたら彼女は…私達にとって、一体どういう存在になるんだ?


「さあって、それじゃ皆さんに先生からの入学最初の贈り物だよーっと!」


そんなことを考える暇も無いままに、自称先生こと風牙は手に取った機械の一部を指先で景気良く叩く。…と、私のポケットの中で何やら細かい振動が。


無意識のまま、とりあえず自分のポケットから取り出したものは…何やら細っこい形をして、いくつかのボタンが付いた謎の機械。そしてこいつの正体は…この教室、いやこの日本で生きる人間ならば、もはや誰もがお世話になっている超便利アイテムで。


投影式携帯通信モジュール、通称「ビジョン」。

所謂旧世紀のスマートフォンに打って変わって登場したこいつは、霊気の研究によって生まれた高い光学投影技術を糧として誕生した携帯端末の一種だ。


こいつの凄い所と言えば…まぁ、要は画面が投影式になったことによる本体の携帯性の高さ…だろうか?

とはいえ、やることは旧世紀のスマートフォンとは殆ど変わらず。インターネットに接続して、情報の共有や他人とのコミュニケーション。後はゲームなどの娯楽機能など…と、中身自体はこの30年で殆ど進歩しちゃいない。それもこの日本という国の、霊気と御神の二つに対する異常なまでの力の入れ方が顕著に現れた結果なんだろうけど。


…で、そんなビジョンの画面を何気なく開いた私達の目に一番に入って来た情報というのが…恐らく、先程風牙が送ってきたのであろう一通のメールだ。


その内容は…

…無駄を省くなら、おおよそこんな感じで。


『神格実技科の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。


早速ではありますが、皆さんに実技演習に関する重要なお知らせがあります。

本校の西ブロックにあります訓練用模擬戦闘エリアを、神格実技科の皆さんに限り使用の許可を与えます。このエリアは、事前に貸し出しの申請を頂ければ規定の時間内までなら自由にご利用頂けます。


勿論、模擬戦にはいつくかのルールがありますし、常に厳しい監視の目は行き届いております…が、それでも構わないという場合は、時間とスケジュールの許す限りどれだけ使って頂いてもどんな使い方をして頂いても構いません。


加えて、監視カメラの映像を利用したプロの先生方による戦闘分析や、皆さんのご希望に合わせた46の戦場パターン変更、非御神戦闘を想定した無霊気状態による戦闘訓練などなど、様々なサービスもご用意しておりますので、気になった方は是非一度お試し下さい。


尚、模擬戦闘エリアご利用の手続きに関しましては、職員室近くの専門カウンターまでお越し下さい。


私立宮代台高等学校 副校長 堂馬慎二』



…つまりは、何だ……


この学校、神格実技科の連中同士ならば誰でも自由にケンカができる格闘場を持っている…と。そしてその格闘場、ちょっとした手続きさえ済んでしまえばスケジュールの許す限りいつでも利用が可能である…とな。


こりゃあ…いよいよ……


「ぶっ飛んでますなぁ、この学校…」


「そう、なんてったってそれがうちの売りだからねぇー!」


…………へ?

今の…聞こえたの?凄い小声だったと思うんだけど?ていうかそもそも本当に口に出したかどうかすら怪しい所なんですけど!?


と、そんな小言のつもりで言った言葉に容赦の無い返答をされて、思わず画面に向けていた視線をずらし、前方で仁王立ちする自称先生の方へと向ける。


腰に手を当て、顔に自慢げな表情を浮かべ…そして間違い無く、その視線は真っ直ぐにこちらへと向けられていて。


「…いやぁ、私って耳だけは良くってねぇー!昔から地獄耳だーってよく言われてたしー…

っと、また脱線しちゃった。とにかく!この件については見てもらった通り!ここから西ブロックまではちょーっと遠いけど…でもでも、遠慮はしない方がいいよー!


君達の先輩だってしょっちゅう使ってるし、何よりタダだからね!タダ!

こんな機会、卒業してからじゃ滅多に訪れないと思うよぉー!」


…それもそうだな。

確かに、ここまで本格的な戦闘訓練なんて、警察か自衛隊にでも入らない限り滅多にできるもんじゃ無い。そんなものが年中無料にして年中無休で使えるとなると…なるほど、流石は宮代台だ。



「…っと、じゃあ説明は以上かな。」


……なるほど、以上で。


……………

…って、はっ!!

これは!この流れはっ!!


この話の流れ、そしてこの昼前という絶妙な時間からして…多分、今日の授業はここまでといった所だろうか。まぁ、ろくに授業らしいこともしていないのに終わりなんて…学生としては、少しばかり不本意な所ではあるが。

でも、それ以上に…それ以上にぃ……


「ほんじゃ、今日はここまでぇー!

皆お疲れー!凌馬のせいで色々大変な一日になっちゃったと思うけど…明日からはちゃんとした授業が始まるんだから、家に帰ったらしっかり休んでおくこと!寄り道もおしゃべりも私的にはオールオッケーだけど、一応ほどほどにしておいてねぇー!」


おぉ…これは完全に終わる流れ…!

やったぁー!!私の高校生活初日、大変なことも色々とあったけど…とりあえず、終わりましたぁー!!


いやぁー!疲れたわー!ホンっとに色々と疲れたわー!


…あぁ、もう今日は帰ろ。

学園区のお店とか、クラスの友達とか…色々気になる要素もあるけど、とりあえず今日はそれぜーんぶ無しって流れで。帰りにコンビニでも寄って、適当に飲み物でも買って…帰って寝よう、うん。それがいいそれがいい。


「じゃ、この後訓練エリアの使用者を募集するんだけど…


……誰か、使う?」


あぁー、いいですんでそういうのは。

まぁ、そりゃあ確かに魅力的なお話ですし?他の神格者との訓練なんて貴重な体験、是非とも体験していきたい所ではあるんですけど…非常に、ひっじょーに心苦しいんですけれども?今回はちょっと遠慮させてもらって…

あ、観戦とかも無しでお願いしますね。もう疲れたんで、今日は真っ直ぐお家に帰りますんで、ハイ。


「はいっ!!!

先生っ!是非とも私がっ!!」


「おぉー!イイねイイねぇ!先生好きだよ、そういうの!」


…はぁ。

しっかし随分と積極的な人もいるもんだなぁ。にしたって、いくら何でもあそこまでしなくたって…机から身を乗り出して、一切のブレ無く真っ直ぐに手を挙げて…別にそこまでしなくたって、また後日ってことでいいじゃん、ねぇ?


まぁでも、ああいう人が一人はいないとクラスが成り立たないしね。そうじゃなきゃ、学級委員みたいな面倒な役職とか一生決まらなそうだし。


「………で?

お相手はどなたかな?…天ヶ瀬慧生さん?」


ま、何にしたって私にはもう関係無いんですけどね、ハイ。

私は今すぐにお暇しますんで、その随分と大仰な苗字の…天ヶ瀬さん、だっけ?本校初のデビュー戦、頑張ってねぇ。一応電車の中で応援しとくから、居眠りしながらでよければ。


…しっかし、天ヶ瀬…ねぇ……

確かに大仰で豪勢で、この学校の生徒としてはピッタリな苗字ではあるけど…この苗字、ちょっと聞き覚えがあるような…


確かええっと…大手の民間霊術研究機関、通称「神究」のトップに君臨してる…天ヶ瀬和博、だったか?

その男を始めとして、その天王寺一族は日本最高クラスのお金持ちって噂で…


「えぇ、私の…

今回の華のデビュー戦にて、無残なまでにボッコボコに破れ去ってもらう相手は…」


それでその和博の娘の名前が…確かケイナって名前だったはずだ。何回かテレビで見たことあるけど…確かお母さんがロシア人だとか何とかで……

…髪は綺麗な金髪で…ウェーブしてて…年は確か…私と…同じ…だった……


……はず………



…体を駆け抜ける、圧倒的なまでの悪寒。


おいおい、まさかまさかまさかまさかまさかぁ!!?

この状況で!こんな不運に見舞われて尚!私、まーた大変な面倒事押し付けられなきゃいけない訳ですか!?


いい!?今日の千咲さんはそりゃあそりゃあ疲れてるの!

最初はただ、初めて入るクラスに緊張していただけだったというのに…そこからの謎の美少女系お嬢様襲来、そしてまさかの土下座プレイ、そしてその先へ…行けたならまだよかったのだが、足の指先すらも舐められないままに残酷な暴力教師襲来、そしてそいつにクラスメイト全員の前で首を締められ…それでカッとなって、その暴力教師を圧倒。それでクラス中から凄まじい賞賛と質問の雨を浴びた後…ようやく、今に至るって訳だ。


それなのに…それなのにぃ……



「シドウさん…でしたっけ!

とにかく、勝負の相手はあなたでしてよ!!!」


まだろくに名前も覚えられてないのに、この気に入られっぷり…そしてこれから起こるであろう、それはそれは大変で面倒くさいであろう出来事の数々に敬意を評しまして…一言。


「……………………


……あぁもう…ホント………


…いい加減、楽させて下さぁぁぁいーーーーー!!!」

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