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童話シリーズ

おっきな絵本

 ジョージは三才の誕生日に本を買ってもらいました。ビニールにまかれたそれは彩り豊かで簡単な文字で書かれた王子様が悪い奴らからお姫様を助け出す物語でした。

 ただジョージは文字が読めませんし、絵本はジョージの両腕で持てないほど大きかったのでお母さんに読んでもらう必要がありました。お母さんの膝の上に乗って呼んでもらいお話に夢中になりました。何度も何度も読み聞かせてもらいました

 時にはお父さんに読み聞かせてもらったり、お話の途中で涎を垂らしながら寝てしまうこともありました。

 しばらくしてジョージは自分からお母さんと同じように声に出して本を読み始めました。もちろん誕生日に買ってもらった本をね。

 おっきい本を床に倒して、拙い声で文字を読んでいます。


「おうじさ。う~ん。おひめさ。たすけに、うまにのてたびでます」


 こんな調子です。でも両親も、本もジョージが成長する姿を微笑ましく見守っていました。




 さてジョージはすっかり簡単な文字が読めるようになりますと、お母さんに他の絵本を買ってもらうように頼みました。今度は『ジャックと豆の木』という本です。前の本はしばらく本棚でお休みしていました。別におっきい本は気にしませんでした。きっとまた手に取って読んでくれると。

 次第にジョージは体が大きくなり学校へ行くようになりました。本棚にはジョージの教材が並べられます。その中には絵本たちも一緒でした。

 おっきい本はいろいろ本をとっかえひっかえに読むジョージにやきもちを焼きました。実は絵本はあれから読んでもらえていないのです。他の『ジャックと豆の木』とかの絵本はたまに読まれてもらえるのにと不思議がっていました。

 実はこのおっきい本以外の本はジョージの両手に収まるほど小さいので手に取りやすかったのですが、やはり大きくなったジョージでもおっきい本は重く手に取りにくいのでなかなか読まれなかったのです。

 ひどいなあもっと僕を読んでほしいのに、置いて飾られるだけじゃ飾りじゃないかとおっきい本は思いますがどうしようもありません。そしておっきい本はどんどん端の方へと追いやられて行くのです。


 転機がやってきます。ジョージの弟が絵本を見たがっていたのです。ジョージの本たちは丁寧に扱ってもらったのできれいでした。ジョージは快く弟に本を貸しました。もう絵本なんかよりも漫画やテレビに夢中な年ごろなので、子供っぽい絵本はいらなくなったのです。

 おっきい本ももうジョージを当てにせずこの弟に読んでもらうことに期待しました。さあ物語を始めようと意気込んだものの弟は本を読んでくれません。

 本を横にしてそこにおもちゃの汽車を走らせて駅にしたり、積み木のように高く積み上げておもちゃのようにして遊んでいたのです。おっきい本は重たいので一番下に置かれていました。すると、上に積まれていた絵本たちがゆらゆらと揺れ始めるではありませんか。

 危ないとおっきい本は思いましたが手遅れでした。バサバサという音を立てて本たちは落ちていきました。弟はキャキャと笑っていましたが、本たちはページが折れたり傷がついたりすりむいたりとうめき声を上げていました。おっきい本は幸いにも無事でしたが自分がいつこんな目に合うかと思うと身震いしました。

 さえ、その時お母さんがやってきてバラバラになった本を直します。そしておっきい本を手に取るとそれを弟に読み聞かせ始めました。おっきい本はやれやれやっと本来のことができると安心しました。

 ですが弟はやんちゃでした。おっきい本のページを開いた途端に弟はびりっとページを破き始めたではありませんか。お母さんは弟を叱り、おっきい本を取り上げました。

 ジョージの弟が泣く声を聞きながらおっきい本は悲しくなりました。こんなボロボロじゃ捨てられちゃうと。おっきい本はしばらくして弟に破かれないように屋根裏部屋にしまわれました。

 屋根裏部屋は暑く、湿気がありおっきい本の中のページがふやけていき、表紙には埃が積もり始めました。こんなになるならいっそ捨ててしまってもらった方がましだと思いました。




 一体何年経ったころかに、お母さんが屋根裏部屋に上っておっきい本を下ろしてくれました。久しぶりにジョージの部屋に行きますと部屋は様変わりしていて、ベッドは大きく机には本棚のほかに見たこともない薄い金属のやつや手帳のようなものがケーブルにつながっていました。

 君たちは誰だいと聞くと、金属のものはノートパソコン、手帳はスマートフォンつまり携帯電話といいました。

 大きくなったジョージが机に座るとノートパソコンの上半分を持ち上げて動き出しました。そしてスマートフォンの丸い部分を親指で押すと同じように動き始めました。おっきい本はびっくりしました。

 ノートパソコンの画面には文字や映像がいっぱい並んでいました。自分よりも小さいはずなのにこんなにいっぱいできるなんて思ってもいませんでした。


「今や時代は僕たちだよ。ほら動画だって音楽だって見られるしこうして電子になった本を買うことだってできる」

「本は重くて買うにも時間がかかるしね、僕を使えばすぐになん百冊の本が読めるさ。文字だけなら動画や絵に比べて軽いし。ノートパソコンはそれでもおっきいけどね」


 おっきい本はもう自分たちはお払い箱なんだとわかりました。だって、机の下のゴミ袋にはさっきまで本棚に入っていた本が入れられていたのですから。すると、ジョージはおっきい本を手に取りパラパラとページをめくり始めました。大きくなったジョージにとっておっきい本はもう両手で持てるほどになっていたのです。

 そしてジョージの弟に破られたページを見てジョージはつぶやきます。


「マイクのやつ僕の思いでの絵本をこんなにしちゃって」

「ジョージ、捨てる本とか決まったの?それも捨てるの?」


 そうか僕も捨てられるんだとおっきい本は思いました。捨ててほしいと思っていたおっきい本ですがいざ捨てられるとなると、ページがゴワゴワと心苦しくなりました。


「捨てないよ。破れたページも読めるし、僕に子供ができたら読ませてあげるつもりさ。これは僕の思い出だからね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰にでも覚えのあるような、絵本達に対する人間の成長による変化。この、お話の様に実際感情があったのなら……と想像を膨らませやすかったてす。 絵本の様な文章で書かれていたため、どこか懐かしい感…
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