憧れの人
僕には好きな人がいる。
毎日は会われへんねんけど週に1、2回来るお姉様・・・
「こんにちはー。○○社の前川です!」
「来たー!」
「え?」
フロア全員の視線が僕に向く。
「あ、すいません」
「近藤くん、ちょっとハシャぎすぎ」
「七海さんを見てしまうと、つい・・・・」
「もう!だから名前で呼ばんとってって」
「いつでも『明人』って呼んでくれていいんですよ?」
「呼びません。ほら、早く仕事しなさい」
「えー、だって僕に会いに来たんでしょ?」
「大事な時間、そんなしょうもない事には使いません♪ じゃーね。」
「・・・行っちゃった・・・。」
彼女は前川七海さん。
僕より3歳年上でバリバリのキャリアウーマン☆
電車3駅分くらいの距離やねんけど・・・・なかなか会えないんですよね。
それに子供の僕なんて相手にはしてくれへんねやろなあ・・・。
あれ?いつも部長と喋ってんのに今日は違う人と話してる。
誰、なんやろ?この会社にあんな人居ったかな?
「近藤!ちゃんと仕事に集中しろ!」
「はーい。」
軽くデスクワークをして10分くらいしたら七海さんは出てきた。
「お疲れ様です!もう帰っちゃうんですか?」
「だってまだまだやる事あるんやもん。近藤くんと違って暇じゃないの。」
「僕だって毎日毎日暇じゃないですよ?七海さんが来る時は七海さんを
見ることに集中したくて手を抜くんです」
「私が居るから、仕事に集中してかっこよくしててもらいたい
もんやけどな。しかも、そんなん私が上の人に言ったら、即クビに
なっちゃうよー?」
「脅しですか?ひどいですねー」
そんな可愛い顔で脅されても、なんとも思わんけど。
「それより・・・誰やったんですか?あの人。」
「あぁ、今度ね一緒に仕事する事になったの。植田さん、やったはず。
ここの人間やのに知らんかったん?」
「自分の興味ある人と関わりのある最低限の人しか覚えない主義なんです」
「ふふっ・・・・会社員として、その発言はどうかと思うけど」
「その植田って人とめっちゃ仲良さそうにしてましたねー。」
「仲悪く仕事なんか出来ひんの!」
「・・・・あの人と付き合っちゃったりするんですか?」
「何をバカな事・・・あ、やきもち焼いたんや」
「え?」
「あら?図星?まー、頑張ってよ。じゃあね♪」
「・・・ん?どういういみっ・・・「お疲れ様でしたー!」-バタンッ!-
何なんよ、全く・・・」
その七海さんの意味ありげな発言が気になってそれから仕事が手につかんくて・・・
(いつものことやけど)
しかも次の日から七海さんはその新プロジェクトの為に毎日毎日僕の職場に来た。
僕はただ自分の仕事をしながらガラスの向こうの彼女を見る事しか出来んくて・・・
案を見て真剣な顔をしてたり、何か言われて笑ってたり、反論されて
ショゲたり泣きそうになったり・・・
色んな表情の七海さんを見て、僕は益々好きになってしまった。
そんなある日、夜遅くに忘れ物をしたのを思い出して会社に向かった。
もう結構な時間やのに、1つのフロアの電気が付いていた。
微妙に開いてるドアから中を覗いたら・・・七海さんが居った。
「なーなみ・・・・・」
「やめて下さい!」
あれ、一人じゃない?
「何なんですか?どっか行って下さい」
「何で?」
あれは、確か・・・・植田や。
何してんのやろ。
「訴えますよ?」
「もうこの職場には俺らしか居らんねんから観念しろって」
「ちょっ・・・痛い!」
七海サン・・・どうしよ・・・
助けに行きたいのに体が動かん・・・と思ってたら急に走り出して
しまって、ガシャンッ!と花瓶を割ってしまった。
「誰か居るんか?」
「ニャ、ニャーオン♪」
「何や、猫か・・・」
・・・助かった。そう思ったんと同時に影が重なる。
「何してるのかな?」
「ぇ、あ、あはは・・・・バレちゃった」
「近藤くん!」
のこのこと出て行く・・・・あぁ、情けない。
でも、こうなったら強気に出てみるか。
「いや、忘れ物取りに来たんですけどね。こんな時間やのにまだ電気
付いてる所があったから。警備の人の見落としかなー?と思って
来てみたんですけど・・・ところでお二人は?残業の割には楽しそう
ですけど」
「そうそう。楽しんでるから帰ってもらえるかな?」
「えー楽しいならせっかくやし僕も入れてほしいですねー」
「すまんなあ。これからすることは2人で楽しむもんやから」
チラッと七海さんの方を見ると、微かに震えてる気がする。
「あれ?でも七海さんすんごい怖がってる気がするんですけど。
さっき叫んでましたもんね?どうしました?」
「近藤くん・・・」
「これから起こる楽しい出来事に興奮しただけやろ。ご心配なく。」
「あー、興奮から来る震え、やと?しょうもないこと言いますね」
「は?」
「七海さんは僕の大好きな人なんですよ。チラッと仕事したくらいで
取らんといてもらえますか?」
「いつからお前のもんになったんや」
「僕が七海さんを好きになった時点で七海さんはもう僕のものですよ」
七海さんが涙目でコッチを見る・・・
こんな顔、させるなんて絶対許さへんし!
「帰れや!これ以上泣かせたら許さん。」
「ヒーロー気取りか?」
「はい、ヒーローですよ?七海さんは僕が守るから。僕、結構上の人に
気に入られてるんでね、植田さんでしたっけ?あなたの事なんて
告げ口したらどんな遠い所までも飛ばせますよ?何やったらブラジル
とかに野放しにしてあげましょうか?」
「・・・っ!まぁ、せいぜい頑張れば?じゃあな。」
「お疲れ様でーす♪」
勝った・・・のかな?
あ、七海さん!
「大丈夫ですか?何もされてないですか?掴まれた所、アザとか・・・・」
「・・・アホ」
「え?」
「下手したら近藤くんがブラジルに飛ばされるよ?あの人だって
なかなかの権力者なんやから」
「その時は七海サンも着いてきて下さいね」
「嫌や。私、外国で生きていける術ナイもん」
「えー、強制ですからね」
「「・・・・・・」」
この空気、どうするんや・・・
すると、
「近藤くん、ありがとう。本間に怖かった・・・」
そう言って後ろから抱きついてきた。
「七海さんじゃなかったら助けませんからね?」
「あのままあの人の思うがままになってたかもね」
「そんなん想像したくない!」
正面に向き直して、更にキツく抱き締めた。
「僕、七海さんが大好きです。」
「あれ?さっきのんが告白なんじゃないんや」
「さっき言うたんでは物足りんくらい大好きです。七海さんにとっては
僕なんてまだまだ子供かもやけど・・・」
「かもやけど?」
「いざとなったらちゃんと助けます」
「あれー?さっきだって本間は出て来る気配なかったのに?」
「行こうとしてましっ・・・・」
僕の強がりを遮るように、唇を重ねてきた。
そして、七海サンは少し俯いて、
「子供でもいい。頼りなくたっていい。私が何とかする。私だって
強くない。年上でも頼りないよ?近藤くんが思ってるよりずっとずっと・・・」
「・・・・・・」
「何か言ってよ。」
「返事がいまいち・・・」
「もぉ!・・・私も好き、やよ。近藤・・・ううん、明人くんのことが」
「!!!」
「ほら、言ったやろ?分かってよ。」
「今、名前・・・」
「・・・・サラッと流してよ。恥ずかしいわ」
照れてる七海さんがいつも以上に可愛すぎて、さっきよりも力いっぱい
抱き締めて、さっきよりも長くいっぱいキスをして、本間に幸せやった。
「近藤くん、ほんま思ってる以上に乙女っぽいな」
「嫌ですか?」
「ううん、それでいい」
「僕もサバサバしてる七海さんが大好きです。」
「何か言われ慣れてないから毎回毎回歯がゆいんですけど」
「好きです!大好きです!世界一愛してます!いや、銀河一かな・・・」
「もうっ・・・・」
「カーワーイイー!」
「・・・ほら、帰るで!」
「七海さんの家にー?」
「来るなら勝手に来ればええやん。・・・その代わり素泊まりな?」
「え!それはヒドいですよー!」
「あ、ドッグフードだけ買ったろか?」
「七海さんに飼われるのは光栄やけど、犬扱いしないでください!」
「ほい、お手。繋いで帰るで?」
「んー、ワンッ!喜んで!」
そんな感じで憧れだった七海さんと付き合える事に。
ずっと尻に敷かれちゃいそうで怖いんですが・・・
結局この後も豪華な手料理を振舞ってくれたので♪
まっ、これからも仲良くやっていきます☆