~第一章~2
「おい起きろ」
砂まみれになりながら抱きかかえた少女に声をかける男。
「んっんん・・」
少女は目を、ゆっくり開けた。
「ヌシは誰じゃ?」
「誰だは良いけど何で空から降って来たんだ?」
「そうじゃ兄様と喧嘩をしておったのじゃ」
砂の中で男に抱きかかえられたまま少女が指を立てると砂がゾゾゾとまるで周りに渦をまくように動き身にまとわりつくようにしていた砂がなくなった。
「魔法使いなのか?」
「ふんっ人間ごときが我のことを聞くか、まぁ良い教えてやろう我は魔族ムハーディ家につらなる第4女、クリスティーナ・ムハーディじゃ」
小さな体で胸を張りながら男を見上げるように不敵に笑う。
「可愛いな」
男が無邪気に力を振るう少女の頭に手をあてて撫でた。
「なっ」
少女は褐色の肌を少しピンクに染めながら男になすがままにされる。
「貴様、命はないと思えよ」
「そんな可愛い顔で言われてもな」
屈託の無い笑顔とは、このことだろう少女は悪意の欠片も持たぬ男にあきれ果てて溜息をついた。
□ □ □
「父さん?」
「ん?着いたか?」
「まだだけど、もう昼だよ?」
ハルがジークを起こすとチリチリと肌を突き刺すような日差しが幌車に差し込んでくる。
昼ご飯にしようと商人の男がニコニコと用意を始める。
「なんだか嬉しそうだな」
「そりゃ山賊に襲われることは覚悟してましたけど良い商品と共に心強い護衛が着いたのですから」
馬車に乗せるだけで高い護衛料金も発生しませんしと商人根性を見せる。
「なるほどな」
ジークは大笑いするとクシャクシャと僕の頭を撫でる。
これは父さんの癖みたいなもので母さんにも良くしている。
しかも、いつも綺麗な顔を崩さない冷静な母親が拾われた子猫のようになるのだった。
「父さん、もう子供じゃないんだから!」
「あはは、それもそうだな」
昼は塩漬けした肉を焚き火で焼いて真っ白なパンで挟んだものを出してくれた。
もぐっ
口のなかに柔らかなパンの食感と香ばしい香り、塩気を含んだ肉の味が広がった。
「美味しいっ」
「そりゃ貴族様御用達のパンに肉の塩漬けですからな」
商人の男は『うんうん』と頷きながら食材について説明をしてくれたのだった。
「良いのか?こんなもんを俺らに」
「なに、命を助けてもらったお礼と坊っちゃんの一人立ちの御祝いですよ」
男は、そう言うと命が助かり商品も傷ひとつないのだから安いものですよと笑っている。
そして街までの道を街道を馬車は走る。
◻ ◻ ◻
3日もすると森や草原、それに連なる山々の景色に僕は飽きてくる。
「ハル周りにだけは気をつけてろよ」
「うん、だけど何もないし」
あれから順調に旅路は進み遠くに街の景色が小さく見えてくると僕の心はドキドキしだしたのである。
早く近づいて来ないかなと見ていても一向に近づいてくる気配はないし馬車の速度は人が歩くよりも少し早い程度なのだから仕方ない。
地竜や飛空竜の亜種であるワイバーンなどもあるらしいけど滅多に庶民が使えるものじゃないと母親が持っていた本には書かれていたのだ。
「もうっ早く着かないかな」
「もうすぐさ」
数刻が経つと旅商人や幌車に乗り合って街道を走る馬車なんかが見えてくると街の外壁がそびえたつように迫ってくるのだ。
「大きい」
「ハルは街に来るのは初めてだったっけな」
アビルナルクという街は通称、国境のない貿易都市として存在する都市で、あらゆる品物が揃うと商人の男が言う。
ここの他にも海の貿易に使われる大都市や皇国や王国、それに法国が存在しているらしい。
「さて到着したけど何ですかな、この人の多さは」
門の前には立ち並ぶ人だかりが見えてくると商人は近くの門兵と思われる男に声をかける。
「あぁ、王国の勇者が姫君と共に街に来たんだが噂を聞き付けた人々が一目見ようとな、それに」
頭をかかえるように困ったように呟く。
「なんで同時期にソードマスターに賢者様がいらっしゃるんだ」
王国には水鏡で予言された勇者が存在する。
皇国には剣の天才と呼ばれるソードマスターが居る。
そして法国には知識の泉と呼ばれる賢者が居た。
「ほほぅ何かあったのですかな?」
「三国会合が近いせいもあるのかもな」
「なるほどぉ」
行列に並びながら順番を待って中に入る頃には夜になってしまい商人に礼をすると別れる。
「どうすっかな」
ジークは頭をかくとハルと宿を探しながら街を見て回る。
僕は夜なのに明るい街を物珍しいものを見ては驚いていたのだった。
冒険者が集まる安宿を探しては訪ねるがタイミングが悪く何処も満室で2人で立往生していると父さんとは慣れた野宿するしかないかなと僕は考えていた。
「はぁ、しょうがねぇ」
父さんは嫌そうな顔をすると僕の方を見る。
「これから行くとこは母さんには内緒だ」
クリスティーナも知ってるは知ってるんだけどとブツブツと言っている。
宿や庶民が暮らす街を抜けると街の中だというのに広大な広場にとたどり着き周りを見渡すと大きな屋敷がポツポツと建っており警護の兵と思われる人間に何度も呼び止められ質問されると父さんは懐から何やら見せると兵士は何事もなかったように歩きだしていく。
「ちぃっ言いにくいんだけどな今から行くところは、ある貴族で俺の知り合いのとこだ」
父さんの友人なんかには今まで会ったこともないし、それに少し驚いてしまう。
そのまま進むと古いが大きな屋敷へとたどり着き門についた呼び鈴を何度か鳴らし執事の男性に父さんが何かを言うと訝しそうな顔をして屋敷へと戻り自動で門が開いたのである。
そのまま今まで見たこともないような広い庭を歩き何度か屋敷を守る警護の兵に挨拶をすると背丈をゆうに越えるような扉が現れて開く。
「よぉアイシス大きくなったな」
「よくいらっしゃいましたオジサマ」
「街の宿は一杯でなスマンが息子と一晩泊めてもらえないか?」
「オジサマの頼みでしたら何でも」
柔らかそうな微笑みを返すと20代の中頃だろうか金髪の長い髪をなびかせた美しい女性がジークを見つめた。
(なるほど母さんには秘密ってこーいうことか)
でも母さんも知ってる人で母さんには秘密という大人の事情はおいておいて僕らは、ようやく一晩を明かす宿を見つけたのだった。
ここまで読んでいただいてありがとうございました