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~第一章~1

1リロ=約1センチ

「どうしたハル」


「くっそぉぉ」


松葉杖をついた父親と思われる男と少年が木剣を交わらせている。

少年の歳は10歳を過ぎたころに見えるが、その歳にしては大人顔負けの剣筋を見せた。


松葉杖をつきながら片手で剣を受ける父親は、その斬撃を軽く受け流し一歩も動くことはない。

それが、この親子の実力差だろう。


「ハル~頑張れ~」


小さな村では、その光景は当たり前になっていて子供はハルと応援してくれている町娘のような恰好の少女の二人だけになってしまっていた。


他の大きな子達は小さな村から街に出稼ぎに行ったり過疎村となった村よりも稼ぎの良い仕事に就くために出て行ってしまったのだ。


男の払うような剣撃が少年の足元をすくいあげると勝負がついた。


「うーん?ハルは力がある分、それに頼りすぎだな」


「でも父さん強いから」


半泣きになりながら父親を見上げる少年の姿を微笑ましく見ながら村の人々は、それぞれの仕事に戻っていくのが日課になっている。


村の人々は知らない。

これが普通の戦いではなく、かなり上のレベルの交戦がされていたことを。


魔物も少なく襲われる可能性が低い村では騎士や冒険者の姿を見かけることが少ない。

これも、ある女性の力によるところが大きいのだが。


「こらヌシら朝飯も食わずに我を待たせすぎじゃ」


「すまんクリスティーナ」

「ごめん母さん」


美しい黒髪に透き通るような紫の両眼、少し褐色がかった肌の女性、それが男の妻であり少年の母親。


「おい、エリンは飯は食べたのか?」


ずっと朝の稽古を見ていた少女はフルフルと首を振るとクリスティーナは手で来いと合図をする。


家に入ると質素ながらも野菜を煮込んだ優しい味のスープとパンが用意されており、これが普通の庶民の食卓の光景であった。


「いただきま~~す」


手を合わせると勢いよく食べる男2人の光景を苦笑いで見る少女を横目にクリスティーナは食事をする。


「ねぇ、ハルは来年は、どうするの?」


この村では11歳になったら通常は外へと出稼ぎなどに出かけたりする歳なのだ。


「エリンは?」


「んー?私は姉さんが居るところで手伝いかなぁ」


エリンの姉は王国内にある貴族の館でメイドをしている。

それだって、しっかりとした身分などが必要なのではあるが、そんなところで働けるということは名誉である分、難しい。


それでもエリンの両親は元々は商人で、そのときのツテで働いている。

あるとき小麦相場で大損して借金はなんとか返したが故郷の村に帰って、のんびりと暮らしていた。


「それは良いね、僕はさ、、、」


横目で父親と母親をチラリと見ると言いにくそうに言った。


「冒険者になりたいかな」


冒険者とはれっきとした職業であり冒険者見習いになり依頼をこなし3年を生き抜いた者がなれる村の子供が憧れる職業である。


時にはトレジャーハンターとして一攫千金を狙い。


あるいは強敵である魔物と戦い打倒す。


その分、多くの子供が憧れる職業だが死ぬことも多い。


「ん?別に反対はしないぞ俺の子だし俺だって冒険者だったしな」


足を悪くするまでは父さんは冒険者、母さんは良くは知らないけど一緒に旅をしていたと話してくれた。


「ワシも反対はせんな」


クリスティーナも、そう言った。

強い魔力を感じられるほどの両目の透き通った紫の瞳。

瞳と髪は魔力を象徴する。


強い魔力は紫へと瞳を変化させ、髪を黒くしていく。


そんなことは過疎村の人達は知らないし、ただの美人な奥さんなのだがエリンの両親は知っていても、それに触れることはなかった。


「ほんとっ」


「あぁ、俺から一本でも取れたらな」

「ワシの魔法の講義が理解できたらな」


「え?」


それが無理なのはハルは知っていた。

魔法というものを初級ですら習得するのが困難なほど。

父親であるジークの剣の腕が一級品なことも。


「険しい道のりね」


エリンは複雑そうな顔で言うとハルは苦笑する。


「さて昼からは魔法の方じゃぞ」


「母さん仕事は?」


「そんなものヌシらが遊戯している間に終わらせたわ」


緑豊かな村では薬草が育ち動物が住む。

クリスティーナの仕事は薬草を摘みポーションを作る。

狩りや小さな畑を育て細々と暮らしていた村は今では良質なポーションの産地でありクリスティーナが作るポーションは評判となって今では特産になっている。


「うぅぅぅ頭使うのは苦手だぁ」


「あはは頑張れハル」


「もうエリンは気楽なんだから」


エリンも時間があるときはクリスティーナを手伝い魔法の授業を受ける。


日が暮れかかる頃までハルは頭を抱えながらテーブルで悩み続けていたのだった。


□ □ □


エリンは木陰で寝ているハルを覗き込むように顔を出す。


「おわっエリン」


「まーた顔を傷だらけにして頑張ってたんだね」


クリスティーナから預かって来たポーションをハルへと渡すと隣に座って僕の方をエリンは見ている。


「ねぇハルの目って、おばさんと違って薄い紫なんだね」


「父さんが言うには母さんの血が右眼だけに遺伝したんだって」


「へぇ」


綺麗だねと言うと茶色の瞳をキラキラと輝かしながら笑っている。

受け取ったポーションを一気に飲むと小さな傷や痣が嘘のように消えていく。


「もうそろそろ、おひるごはんだから呼んで来てって言われてたの忘れてたっ」


慌てたようにエリンは立ち上がると僕の手を引きながら村の方へと走り出した。

小さな丘に大きな木が一本立っていて、それは聖霊樹と呼ばれる大木。

それが、この村や周辺の森を守るように立っていた。


「母さん、ただいまー」


「おばさん、ただいまっきゃっ」


エリンが言葉を発するとクリスティーナが頭をつかんだ。


「ワシがオバさんに見えるというのかエーリーンー」


「だってぇハルのお母さんってことは、おば・・・ごめんなさいお姉さま」


「ふむ分かれば良いのだ」


母さんの言葉遣いは少し他の人に比べると偉そうなんだ。

ずっと続いてきたことだし本当に綺麗な女性であると村中で評判だし僕も、そう思う。

どこかのお姫様のようだって。


「おう、今帰ったぞって何してんだ?クリス」


「あぁコレがワシのことを、おばさんと呼ぶのでな」


「あ・・・あぁ、それは良いが離してやれ」


「ワシはオバさんか?ジーク」


そう言った父さんは困ったような顔をすると。


「世界で一番美しいのはお前だクリス、だけどエリンから見ればハルの母親だから普通は、おばさんだろうな」


「そういうものなのか」


恥ずかしいことを恥ずかし気もなく自信満々に告げる父親にも僕は思う所はあったけど母さんは困惑したように眉間に皺を寄せると父親は頭に手をあて優しく撫でている。


寄り添う2人は、とても良いと思うけど僕とエリンの前では少し遠慮してほしいなとエリンと顔を見合わせて呆れたように笑う。


「さて昼から出かけるぞハル」


「何処に?」


父さんが僕を何処かに連れて行くらしい。


「冒険者になるのだろう?」


「え、でも父さんから一本取ってからって」


「俺は足が不自由だが強いぞ?」


一生はかからなくても俺から一本取るなら竜人クラスにならないとなと真面目に言っている。


「まぁ冒険者になるには冒険者協会で登録して依頼をこなすが登録だけなら今でも出来るさ」


「ほんとっ!?」


こうして僕と父さんは冒険者が登録出来る街へと向かうために準備をする。

村から街までは馬車で2,3日、母さんのポーションと村で取れた作物を乗せた商人が連れて行ってくれるんだと言っていた。


荷物を載せて商人の小太りの男性に挨拶をすると僕と父さんは荷台に少し空いたスペースに座る。


「ほい、お前の分だ」


良く使い込まれた皮製の鞘に入った80リロほどの長さで僕の体でも使いやすそうなサイズである。


「ちょっと重い?」


「そりゃ木剣に比べればな」


少し抜くと手入れされていると思われる刃が太陽に照らされて僕の顔を照らす。


「俺が母さんと知り合ったときに使ってたやつだ業物じゃないが悪いもんじゃないぞ」


「へぇ」


それを鞘に納めると傍らに置いた。

父さんの武器は知っている僕にくれたソードと同じようなサイズだけど幅が広く刃には無数の魔法文字が書かれている魔法銀とミスリルで造られたドワーフ作の名刀。


たまに僕が見ていたのを知っていても何も言わなかったソレは父さんの友人の形見であった。


村を抜け1日が経ち何事もなく過ぎる。


「ほっほっほ、あの村は魔物もでないから楽ですな」


商人の男性がアゴヒゲを触りながら焚き火を見ているが父さんは周りを警戒するように魔法を使っているせいか僕の頬がビリビリしている。


「おいハル、日ごろの鍛錬を見せてみろ」


「うん」


僕は剣を取ると周りの気配を探る。


「殺すなよ盗賊だ」


「分かった」


その言葉に青ざめた様子の商人の後ろで剣を構える僕は探った気配から位置を計る。


(3、4、5、8人か)


奥に弓、前に剣士、真ん中が魔法師で中々良い連携をしているのが分かる。


「だっだいじょうぶですかっハル君だけで」


「どうかなぁ?結構やるみたいだけどな」


笑っているジークを見ながら汗を垂らしながら頭を抱えて伏せている。


(来るっ)


風切り音と共に数本の矢が僕を目がけて飛んできた。


「はっ!」


飛んできた弓と細かな位置を計算すると剣で払う。


(弓は3本、けど定石通りなら前衛が出てきて移動するかな)


「どりゃぁああああ」


大きな戦斧を振り下ろしてきた大柄な男性が振った斧を避けると地面へと突き刺さる。


「マジかよ、あの一撃を避けたっていうのか」


前衛は4人だが他の3人は突撃してくることはない。


「おい!援護しろ」


(魔法が来るっ)


火の球が森の奥でチラりと光ると向かってきて目の前で燃え広がる。


<シュッ>


火の奥から再び矢が飛んでくると後ろに飛んで避ける。


「ありゃりゃ不味いな」


ジークが、そう呟くと腰にかけた剣に手をかけた。


「かかりやがったなクソ野郎が」


突っ込んで来なかった前衛の3人が目の前に現れると空中で身動きできない僕へと剣を突き出すのが見える。


(んー?遅すぎない?)


その剣筋の1つ1つを見極めると体に当たらないように余裕を持って体を捻じるように後ろに一回転をして着地した。


「「「なっ!?」」」


驚く3人が次に動く前に剣の腹で1人また1人と強烈な一撃を入れる。


(これで3人片付いたと)


矢が飛んで来るが暗さにも慣れてきたし相手の矢が向かってくる方向も単純すぎた。


「氷の礫よ我が前に立ちふさがる者を打ち破れ」


手のひらを森に向けると気配がする方へと数十の氷の礫が現れると森に消える。


「「「うぎゃっ」」」


ドサッドサッと木から落ちる音が聞こえるが3つの音だけである。


すると仲間を置いて逃げ出す彼らをジークは追うなと合図すると3人は焚き火に戻り震える商人を父さんが大丈夫だからとなだめる。


朝早く目覚めると盗賊の気配はなくなっていた。

その間、父さんは起きていたのだが仲間が連れて逃げて行ったとアクビをしながら荷台に乗り込むと、うたた寝を始める。


森に魔物が出ないということは盗賊が住み着くには絶好の場所なのである。


こうして旅路は続いていく。







ここまで読んでいただき

ありがとうございました

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