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最初は過去篇は10話くらいの予定だったんです。

本当です。

でも書きたかったことの半分しか書けてません。

このままだと話が進められないので、ある程度書いたら本編に戻ろうかと悩んでいるところです。

どうも作者です。


2017.6.13 大狼の一人称に誤りがあったので修正しました。

 大狼の顔はマルクの母の怒った顔によく似ていた。その造形の話ではない。その醸し出す雰囲気がだ。思わずマルクは再度謝罪を口にする。


「ごめんなさい、お母さん」


「私は坊やの母ではないはずだが?」


マルクはまた呼び間違えた。余りにも似ているのだ。おたまを持ってニコニコ顔で腕組みをしているマリアの顔に。母親の怒った顔は種族の壁を超え、万物共通で恐ろしいようだ。目の前にいる母はどんな雷魔法を持っているのだろうか。あの大きな口から覗く鋭い牙が魔法の杖だろうか。マルクは唾を飲み込む。


「それで坊や、名前は何て言うんだい?」


「マルクよ!今日から私の下僕になったの!」


大狼は"なんでお前が答えるんだい"と呆れたようにリリィを見た。それを見てマルクは改めて自分で名乗る。


「マルクです。間も無くある洗礼式の後、狩人見習いになります。」


「ほう、随分と利発的な子だね。それで?小さなマルク。その小袋に入っている物は何だい?」


「これは僕の母さんが作ってくれた傷薬です。」


マルクは素直に答える。何がこの大狼の機嫌を損ねているか分からないのだ。下手に嘘をつく方が雷魔法のトリガーを引きかねない。


「お前の母がかい?ではその薬が何で出来ているか分かるかい?」


「いえ、知りません。」


「うむ、正直でよろしい。それはね、恐らく神木の葉と実をすり潰した物だろう。この匂いから推測すると、それをさらに煮詰めてるんだろうね。本来の葉や実に比べて随分と匂いが濃くなっている。」


大狼は"神木っていうのはあの大きな木のことだよ"と神木に向かって顎をクイッと上げる。


「この神木はねぇ、我が母が…って言って分かるかい?」


「森の神様ですよね?」


「そう、その神様がこの世界のどこかにあって世界の全体を守っている聖樹って呼ばれる樹の実をこの地に分け与えてくださって芽生えた樹なんだよ。だからこの樹には特別な力がある。」


「その力のおかげで外敵から実を守るために森の外からは見えないんですよね?本当に神様が植えた樹なんですね。」


「ほうほう!これは驚いた!こんなに小さな人間の子供がそのことを知ってるなんて!そう、それも力の一つだよ。」


大狼は大変嬉しそうに驚いた。それと同時に何だか大狼の待とう空気が緩む。


「この森に入った時にダンさん、えっと狩人の頭なんですがその方に教えてもらいました。」


「お前たちの頭であるダンは知っているよ。そうかい、お前の村では正しく伝わっているのか。こう言った話は大抵愚かな人間に都合よく改変されたりするからね。あぁ、話が逸れたね。神木と言われる樹は特殊な力を宿しているのはさっき話した通りだ。そういう力を宿しているとね、この樹を狙う愚か者どもがこの森に入ってくるんだよ。だから私たちはこの樹と森を守っているのさ。母の大切な樹の子だ、私たちにとっても大切な子だからね。さて、そんな大切な樹なんだが、この周辺では神木はこれ一本なんだよ。それがどういう意味か分かるかい?」


「この神木から葉や実を採って作らないといけないこの薬を僕が持っているのはおかしいということですね。」


「そうだ。そしてリリィが必死に私から隠そうとしているその小袋に入った木ノ実もね。私たちは神木に宿る力の匂いを嗅ぎ分けることができるし、万が一この森から持ち出せば私たちが気付かないはずがないんだよ。」


大狼はマルクとリリィに小袋を自分の前に置くように指示する。マルクは素直に置いたが、リリィが中々置かない。大狼が呆れて"後で返して上げるから"とリリィに告げてようやく、そして渋々置いた。大狼が小袋を開けるように言うので、マルクはそれに従って大狼の前に中身広げた。


「やはりどちらの袋からも神木の力の匂いがするね。はてさて、お前の親はこれをどうやって手に入れたんだろうねぇ。事と場合によってはお前の親を殺さなくてはならないかもしれないねぇ。それだけで済めばいいが、村ごと消す必要がある可能性も考えないと行けないねぇ。」


「母様!木の実はマルクの庭に生えている木から採ったものだそうよ!この森から持ち出した物ではないわ!」


大狼が剣呑な雰囲気を醸し出すと、慌ててリリィがマルクから得た情報を流す。リリィにとってマルクはせっかく手に入れた下僕と言う名の友人なのだ。年上の、そして自分を長の娘としか見ていない狼たちとは違う。新しく得た今までなかった関係。それを見す見す失う訳にはいかない。リリィは対等な友人を欲していた。それがどうして下僕になるのだ、とは思わなくはないがリリィにとっては何かきっかけが欲しかったのだろう。下僕と言いながら丁寧に質問には答えていたし、好物を手に入れると言う下心はあったものの都合の悪い事実を母親に隠そうともしていたことがそれを示している。


「庭に?本当かい?リリィ、お前はそれを見たのかい?」


「いえ、見ていません。」


母は子に"お前の証言は根拠がない"と一蹴した。そして"感情に流されるな"とも。リリィは何も言えなくなった。


「マルク、これは我らにとってとても大切な事なんだ。正直にお答え?お前の親はこれらをどうやって手に入れたんだい?」


「うちの家の裏に生えている木から採った木の実です。この薬もその木の葉っぱから。」


「じゃぁ、その木はどこから持ってきたんだい?」


「わかりません。僕が生まれた時にはすでにあったと聞いたことがあります。」


大狼はマルクにいくつか質問をしたが、どれもにわかには信じがたい内容だった。


「うぅん、困ったね。マルクの話が本当なら神木の若木が人間の村にあることになるねぇ。やはり見に行くしかないかねぇ。」


大狼がボソボソと独り言を言っていたが、マルクにはうまく聞き取ることができなかった。


「さて、そのことは少し置いておこうか。そういえば先ほど随分と二人仲良く話し込んで私のところに来ようとしていたみたいだが、何か用かい?」


「二人で魔法使いについて話してて。そしたらリリィが良いことを教えてあげるから貴方のところに行こうと。」


「ほう、魔法使いに興味があるのかい?人間にしては珍しいねぇ。ならリリィが聞かせたい話はあれだね。強き力の物語にまつわる話。なんだと思う?」


大狼がいやらしく笑いながらマルクを焦らす。マルクは何だろうと考えるがこれと言って思い当たることがない。ふと先ほど見た祠を思い出す。


「祠…」


何気なく少年はそれを口にする。"そういえば強き力の話に神様が悪魔に隠されてしまった祠があったなぁ"なんて考えていたら思わず口に出していた。それを聞いて大狼の口角がさらに上がる。


「そう、あの祠に関することさ。実はねぇ、あの物語に出てくる小さな祠とはあの神木の前にある祠のことなのさ。」


マルクは驚きのあまり口が開いたまま、閉じなくなってしまった。リリィはそれを見て"どう?凄いでしょ?"と言わんばかりに小さな胸を張っていた。"なんでリリィが胸を張るのさ"とマルクは心の中で思ったのだった。

誤字脱字や読みにくい等あれば教えてください

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