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調子が良かったので、2日連続で投稿です。
世界観を伝えるために過去編まだ続きます。
お付き合いお願い致します。
2017.06.20 誤字修正しました。
大人たちは森の奥に入って行く。ノイルは我が子の方を名残惜しそうにずっと見ていたが、ダンに首根っこを引っ張られて引きずられていた。
「マルク!すぐに戻ってくるから!すぐに戻ってくるからなぁ!」
マルクは小さく手を振るが周りの見習いたちに見られていることに気付き、恥ずかしくなって直ぐに手を引っ込めた。
「マルク、周りに気にせず手を振っててくれ。ノイルさんがいじけると後で俺たちがしんどくなるんだ。」
ダルクがマルクの肩に手を置いて生暖かい目でノイルを見ていた。マルクは言われた通り、再び父に向かって手を振った。それを見たノイルは大喜びでこちらに向かって両手を大きく振っている。ダンに引きずられたままだが。
「すいません。父さんがいつもご迷惑をかけているようで。あっ、あの、うちの父さんって普段どんな感じなんですか?」
「どんな感じ…うぅん、なかなか難しい質問だなぁ。いつもあんな感じって言えばあんな感じだしなぁ。いっつも家族のことばっかり話してるよ。やれマリアがどうの、やれノーラがどうのって。特に最近はお前のことばかりだったかな。」
ダルクが記憶を紐解くように話していく。マルクは今朝の嫁自慢中の父を思い出して残念に思った。そんなことを考えているのが顔に出ていたのだろう、ダルクが直ぐに言葉を続ける。
「あぁ、もちろん真面目に働くときは働いてるよ。普段はあんな感じだけど、真面目なときのノイルさんは凄いんだ。森の知識から歩き方、狩りの仕方に罠の張り方、獲物の見つけ方や捌き方、どれ一つ取っても一流の狩人だよ。実力だけだったらうちの父さんと同じくらいじゃないかな。ただ意識が家族に向きすぎててね。前の狩人衆の頭が引退したときにうちの父さんとノイルさんが次の頭候補に上がったんだ。でもノイルさん、"俺は先日生まれたばかりの可愛い息子のことを考えなければならないんだ。それなのにどうして狩人衆の事まで面倒見なきゃならないんだ"って言って全部うちの父さんに丸投げしちゃったんだよ。」
ハハハッとダルクが笑った。"ノイルさんみたいな人にそこまで愛されてるお前が少し羨ましいよ。まっ、うちの父さんも負けてないけどね。"と少しマルクに対抗意識を燃やしていた。
狩人の大人組皆、森の奥に入っていき姿が見えなくなった。ダルクがマルクを自分の横に立たせ、子供達を集める。
「それじゃ、紹介する。すでに知っている者もいるだろうがノイルさんのところのマルクだ。もうすぐ洗礼を受け、我々の仲間となる。今日は狩人がどんな仕事をしているか体験しに来てもらった。マルク、皆に挨拶を」
ダルクがマルクの背中を押し、一歩前に立たせる。
「マルクです。よろしくお願いします。」
マルクが挨拶すると前に立つ子供達が少し騒ついた。
「ノイルさんところの?」
「魔法好きのマルクだ。」
「魔法使いたいのマルクだ。」
「あぁ、ノイルさんの嫌がらせが蘇るぅ。」
「もっ、もう無理だよ、ノイルさん。これ以上獲物を持ってこないで。」
「俺、もうダメ、また吐きそう」
何人かトリップしてしまった。マルクが一体何事かと振り返りダルクを見上げる。ダルクも何かを思い出しているのであろう、顔を青くしながらマルクに説明する。
「ノイルさんはな、家族に何かあると決まって無心で仕事をするんだ。それはもう周りの様子や体力も考えずに際限無く。獲物の血抜きや解体、仕分けは子供組の仕事なんだがな、ここ最近ずっとそんな感じだったんだよ。特に3,4日前は近年で一番酷くて…。大人組も根を上げてついて行けないほどの量を狩ってしまったんだそれも一人で。それはもうとんでもない量でな、こんなペースで狩ってたら森の生き物たちがいなくなってしまうんではないかと心配するぐらいに。しかも無表情なんだよ。悪魔でも乗り移ったんじゃないかと思うほど、淡々とこなしてたんだよ。」
ダルクがブルっと震えた。
「それはまだ良かったんだ。皆、ノイルさんの事情、まぁつまりはお前のことだ。それも分かってたしな。問題は次の日だったんだよ。マルク、お前の体調が戻って狩人になるって言った日の翌日だよ。ノイルさん笑顔でな。それはもう本当にいい笑顔だったんだよ。機嫌も良くてな、子供達の血抜きや解体作業も手伝ってたんだよ。作業も完璧だった。そういった作業が完璧だとな、肉の質も良くなるんだよ。どんどん良質な肉を積み上げていったんだよ。笑顔で。」
マルクには何がおかしいのかわからなかった。マルクはまだ命を奪う行為を経験したことがない。だからこそ、その行為を他者から見てもいい顔だったと言わしめるほどの笑顔で行う異常さに気づくことはなかった。
「そりゃな、大物を仕留めたときや談笑しながら作業をするときもある。そんなときは俺たちだって笑ってるさ。でもな、虫も殺さないような笑顔で獲物を殺すんだ。それを見て父さんたちは引くし、子供達は泣き出すし。それはそれで別の悪魔が乗り移ったんだと思ったね。本当、大変だったんだよ。」
マルクはこの件を母マリアに報告することに決めた。さすがに家族のためとは言え、他の人に迷惑をかけていい訳がない。幼いマルクにもそのくらいのことはわかった。
(父さん、ごめんなさい。今日はご飯抜きになりそうだよ。)
ダルクがブルブルと顔を振って一発手を叩く。
「お前たち!戻ってこい!」
ぞろぞろと旅行に出かけていた少年たちの意識が戻ってくる。
「よし、全員戻ってきたな。マルク、お前はこれから狩人の見習いになるわけだ。見習いは俺たち大人組の弟子という扱いになる。だからこいつらはお前の兄弟子となる。こいつらのことは兄さんと呼ぶように。お前たちもまだ正式ではないが弟弟子として接するように。」
「はい!」
マルクを含めた見習いたちは大きな声で返事をした。
「では先ほど頭が言っていたように俺たちはここに残って大人組が仕留めた獲物の処理やカエル狩り、木の実、果物の採取だ。森の様子がおかしい。森の奥には入らないこと!いいな!分かったらそれぞれ班に分かれて作業を開始しろ、以上!」
ダルクが指示し終えると、15人程度いた見習いたちは3〜5人ずつに分かれて作業を開始する。ある者たちはかまどを作り、ある者たちは獲物の血や臓物を処理するため穴を掘っている。他にも辺りの木の実を取りに行ったりしている者もいた。そういえばカエル狩りとはどこでするのだろうとマルクが辺りを見渡すと、神木の裏に回ろうとしている者たちがいることに気がついた。恐らく神樹の裏に池があるのだろう。そんなことをマルクが考えているとダルクから話しかけられた。
「マルク。マルクはもう少し俺と話をしようか。まずは祝福だっけ。マルクは祝福が何か知っているのか?」
「ちゃんとは知りません。」
「神の祝福ってのは神様が俺たちに与えてくれる愛情の形の一つだ。その現れ方は一人一人違うことが多い。」
「ダルクさんにはどんな事が起きるんですか?」
「俺に与えられる祝福は祈りで捧げた供物が日持ちするっていう効果がある。まぁ、実際見せてあげるよ。」
ダルクはそういうと自分の腰袋から干し肉を出した。それを両手で包み込むと
「森の神よ、我に大いなる祝福を与え給え」
祝福のまじないを簡略して呟いた。するとスッと頬を撫でるように風が吹いた。ダルクが手に持っていた干し肉を見せると微かに光っているのが分かる。
「祝福の効果が出るとこんな風に祝福を得たものが光るんだ。俺のはまだそんな強い光じゃないが、教会の神官なんかがやるともっと強い光になる。勇者様や聖者様がやると光が強すぎてその光だけで魔物を退治出来るらしいぞ。」
"よし、これでノイルさんの言いつけも守ったし、次は狩りを体験してみるか"とダルクが立ち上がった。
その時、
ウォォォォォォォォォォォン
一つの遠吠えが鳴り響いた。
誤字脱字や読みにくい等あれば教えてください。
まだ始めたばかりなので感想もクソもないかと思いますが、感想もお願い致します。