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 マルクたちが森に入って四半刻が経った。狩人たちはお互いの姿が確認できる様な距離を保ちつつ、森を歩き続けている。父親に抱き上げられているマルクは初めて入った森に興奮していた。この森にはシカやイノシシ、ウサギやキジなどが沢山いるらしい。ノイルがよく自慢気に自分の仕留めた獲物を持ち帰ってきていたのでそれらの生きた姿が見れるのかと思ったのだ。マルクはふと父親の顔を見た。周りの警戒を怠らず獲物を探す熟練の狩人がそこにはいた。マルクはまたしても今まで知らなかった父の顔を知ることとなった。なんとかっこいいのだろうかと子は父の偉大さに痺れた。


 マルクが父親の顔に見とれていると、先頭を歩くダンの方から笛の音が聞こえた。すると森を歩く狩人たちの動きに変化が起きた。狩人たちが走り出したのだ。マルクが辺りをキョロキョロと見渡しているとノイルが話しかけてきた。


「マルク、今から父さんも走る。目を閉じて舌を噛まないようにしっかりと口を閉じておけ。あと落ちないように父さんの首に抱きつくんだ。」


マルクは何があったのか聞きたかったが何も聞かずに黙って頷いた。マルクが父親の首に手を回し目を閉じた瞬間、体が大きく揺れた。今まで感じたことのないような風を感じる。まるで嵐の中を走っているようだった。最後にグッと下に引っ張られるような感覚の直後、ふわっとした感覚に襲われた。マルクには何が起きたのかまったくわからなかった。突然の浮遊感が無くなり重力が戻ってきた。


「マルク、もう目を開けていいぞ。」


ノイルに言われてマルクがゆっくりと目を開ける。強く目を瞑りすぎていたため周りの明るさに目が眩んだ。微かに見えるのは父の肩。次第に視界が鮮明になっていき、目に飛び込んできたのは思わず息を呑むほどの大きな、それはもう大きな一本の樹だった。


「すごい…」


それしか言葉が出なかった。マルクは大樹の存在感に圧倒され、息をするのも忘れそうになる。この樹はいったいどれだけ大きいのだろう。幹は大人が10人手を繋いでも回ることが出来ないだろう。所々に見える節はマルクの顔より大きく何とも堅そうだ。はるか上の方に見える葉は人が1人座ってもまだ有り余りそうだ。しかしそれよりも気になることがある。葉が生い茂った上の方がポツポツと光っているのだ。


「すごいだろう。」


ダンがマルクに話しかける。


「はい…この森にはこんな大きな樹があるなんて。村から見えなかったのに。」


「この樹は神木と言ってな、森の神が宿っているとされているんだ。この樹は森の外からは見えないようになっているんだ。村の言い伝えによるとこの樹はこの森を守る神様が自分の子供のように育てていた聖樹の実の一つがこの地で芽生えた物らしい。そのためかこの樹とこの樹を育てているこの森や土地は森の神の加護を与えられている。その力の一つとしてこの樹は外敵から守るが如く外から見えないように隠されているんだ。」


マルクがダンの話を聞いているとノイルが横から会話に入ってきた。


「おい!ダン!マルクから尊敬されようだなんて思うなよ!マルクの尊敬の眼差しは全て俺に向かうんだ!お前は息子のダルクにでも話しかけてろ!」


ノイルはダンに向かってあっかんべーをしている。


「いい大人が何をしている。それより森の様子についてが先だ。」


ダンはノイルのやっかみと自分から始めた話を棚に乗せて真面目な話をしだした。


「森に大物がいない。いるのは見習いどもに任せるようなウサギやネズミばかりだ。どうも様子がおかしい。ノイル、お前はどう思う。」


ノイルは真面目な顔になって答える。


「他所から狼でも入ってこの辺りを荒らしているか。それとも魔物が発生したか。神の加護があるこの森でそんなことがあるとは思えないが。」


「それはないだろう。現に神木も輝いたままだ、加護を失ったとは思えん。マルクには悪いがマルクはここに置いていく。私たちだけで奥に入ろう。」


「わかった、なら俺が」


「お前は連れていくぞ。」


ノイルが何か言おうとしたがダンが被せてきて何を言おうとしたか分からなかった。


「おい!俺は残るぞ!マルクを守ら」


「マルク、森の様子がいつもと違っておかしい。だが狩りに出て手ぶらで帰るわけに行かない。かと言って森の奥はお前を連れていくには少々危険だ。ここなら安全だ、だからここで待っていろ。」


ダンはノイルを無視する。


「ダン!マルクに何かあったらどうす」


「マルク、安心するがいい。他にも見習いを残す。そいつらに習って狩りの手伝いでもしてみたらいい。それに私のせがれも残していく。この森や狩りの話を聞いてみるのもいいだろう。ダルク!こちらに来い!」


ダンが大声で自分の息子を呼びつけた。20人ほどいる大人たちの中から一人青年が小走りでやってくる。


「なんだい?父さん」


まだ幼さが残るが整った顔の青年は自分の父親に駆け寄った。傍から見ても父親を尊敬しているのが分かる。用事を言い渡されるのが余程嬉しいようだ。


「森の様子をどう見る?」


ダンは端的に質問した。ダルクは真面目な顔をして少しの間考えると


「少しおかしい気がする。いつもならすでにイノシシぐらいは見つけていてもおかしくない。仮にイノシシがいなくてもキジくらいは仕留めていると思う。したばかりの糞があったからいないわけではない他所から狼が入った可能性も考えたけど神木の様子を見る限り森はまだ守られていると思う。」


と言った。ダンとノイルが言ったことをダルクが感じていたようだ。狩人の集団の中ではまだまだ若く見習い組と然程変わらない、元服したばかりのまだ15になろうかと言う青年は優秀な狩人の一人なのだろう。


「ただ気になることがあるんだ。イノシシやシカが慌てて逃げた様子がない。森の中を大きな何かが動いたから、そこを退いたと言う感じだと思う。その証拠に何本かの獣道を確認したけど全く荒れていなかったし、この辺りを縄張りにしている奴らが争った形跡もなかった。だけどその大きな何かは分からない。」


「ダン、やはりお前の息子は優秀だな。そうか、森の中で何かが動き回ったか。心当たりが無いわけではないが、まだそんな時期ではないはずだが…」


先ほどまで騒いでいた男がキリッとしていた。


「そうだな、お前の考えていることならこういったこともあり得る。時期に関しては確かにそうだが、今までだって早い時がなかったわけじゃない。それが今回は特別早いってだけかもしれない。」


ダンはノイルの変わり身にノータッチだ。いつものことなのだろう。マルクは父親に残念な視線を送る。


「ダルク、そこまで分かっているなら今お前に何が求められているかわかるな?」


「分かった。見習いたちは僕が面倒を見よう。マルクも一緒で良いんだね?マルクにはまず見習いたちがするカエル狩りでも見てて貰おうか。」


ダルクはマルクに笑顔を向けた。なんと爽やかで眩しい笑顔だろうか。心なしか神木の輝きが増したような気がする。


「マルク、ダルクは他のやつより神の加護が大きいんだ。そのお陰で祝福も少し強い。後で見せて貰えば良い。ダルク、うちの子を頼むぞ。もし怪我でもさせてみろ。お嫁にいけない体にしてやる。」


「分かってますよ、ノイルさん。見習いたちと同様危ないことはさせません。」


(ダルクさんは女の人だったのか。)


マルクがダルクの顔をボーッと見返していると、"僕は男だよ"と苦笑いをして否定した。


「皆の者、集まれ。」


再びダンが大きな声をあげて狩人衆を集める。ぞろぞろと狩人たちが集まりダンから大人組と子供組で別れて行動することを告げられる。大人組は皆、森の様子がおかしいことに気付いているようで納得していた。子供組も子供組で理由は分からないがダンの言うことに逆らうつもりはないらしい。ダンがそれほど優秀なリーダーだと言うことだろう。


 狩人たちは二手に別れて大人組にダンが、子供組にはダルクが指示をする。その様子を見て予定とは少し違ったが初めての狩り体験にマルクは少し心を踊らせるのであった。

誤字脱字や読みにくい等あれば教えてください。

まだ始めたばかりなので感想もクソもないかと思いますが、感想もお願い致します。

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