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私にしては筆が進み、4時間程度で書きあがりました。
書いてて楽しかったです。
「あなた、今なんて言ったの?」
リリィは男に聞き直す。この男は今何と言ったのか。男の言葉を頭の中で何度も反復して繰り返す。マルクも同じだった。男の言った言葉が理解できない。
「あれ?言語を間違えましたか?ちゃんと人間の言葉で喋ったつもりだったんですけど…私はマギー・ナムレスです。どうやってこの森にやってきたかですが、申し訳ありませんが私には答えられません。私にもわからないのです。起きたらここに居たものですから。」
リリィはどこから突っ込んだらいいのか分からなくなった。とりあえず1つずつ指摘していく。
「あなた、真面目に答える気がないでしょ?」
リリィの指摘に飄々とする自称マギー。マルクはどこが問題なのか分からずリリィに小声で確認する。
「ねぇ、リリィ。今の答えのどこが不真面目なの?僕には普通に答えたようにしか聞こえなかったけど。」
リリィは謎の男から一切目をそらさない。マルクの問いにも答えようとしない。それほどまで目の前の男を警戒する必要があるということなのだろう。少年は一歩下がって小狼の邪魔だけはすまいとする。マルクが動くと男はマルクに視線を移した。マルクと男の視線が交わった瞬間、マルクは激しい動悸がした。男の眼から視線が外せなくなったのだ。マルクは体の隅々どころか心の中まで覗かれているような感覚に襲われる。マルクがあまりの悪寒に膝をついて胸を抑えた。それを見たリリィは今までマルクが聞いたことがないような大きな声で吠えた。
「マルクに何をしたの!?今すぐ止めなさい!」
男は"これは失礼しました"とリリィに視線を戻した。マルクを襲った不快感が消える。少年は顔を青くしてその原因を見つめる。
「次にこの子に何かしたらあなたを殺す。私の質問にまた嘘をついても殺す。逃げようとしても殺す。勿論私たちを襲ってきても返り討ちにして殺す。分かったら素直に答えなさい。あなたは誰?どうやってこの森に入ったの?」
「随分とその子が大切なんですね、ウォルフの子。森の神の眷属が一人の人間に肩入れするなんて珍しい。あなたたちは神木にしか興味がないと思っていましたが。いいでしょう、嘘は無しです。まず私の名前ですがあなたに答えるつもりはありません。私のことはマギーと呼んでください。そしてこの森にどうやって入ってきたかですが、これは本当に分からないのです。ですが安心してください。神木は勿論、あなた方に危害を加えるつもりもありません。むしろ、あなたが許してくれるなら今すぐにこの森か出ていって良いぐらいです。」
男はリリィの質問に両手を上げて答えた。だが男は自分を殺すと宣言する小狼に気に留めた様子もない。男は言葉を続ける。
「ただ1つ訂正しますと、あなたでは私は殺せない。理由はいくつかありますが、まず力が足りないのです。疑うなら試してみてもいいですよ?」
「…マルク、安心しなさい。私が守ってあげるから。だから私から離れないこと、いいわね?」
リリィがマルクにだけ聞こえるように呟いた。マルクはそれに頷く。男として女の子に守れるのは悔しいと思うマルクであったが、人であるマルクより守護狼であるリリィの方が強いのは事実なのだ。今マルクに出来ることはリリィの邪魔をしないこと、そして不用意に動いて男に行動のきっかけを与えないこと。その2つだけに少年は集中した。
「いやぁ、参りましたね。こちらも聞きたいことがあるのですが…こんなに警戒されるとお話ししにくいんですね。そうだ、座ってお話しませんか?」
「あなただけ勝手に座って話せばいいわ。」
リリィは男の提案を地面に踏みつける。マルクに何かをしでかしたこの男に隙を見せるわけにいかないという意思が目に見えるようだった。そんな小狼を他所に男は"ではお言葉に甘えて"と地面に座り込んだ。
「あなたの質問に答えていないところ申し訳ないのですが、こちらもいくつか質問させてください。その質問に答えていただけたら、あなた方が気になっていることを教えてあげましょう。まず、あなた方の関係は?なぜ森の守護者が一人の少年といるのですか?」
「なぜ私たちがその取引に応じないといけないの?あなたに一方的に質問に答えさせるという選択肢もあるのよ。」
「いいえ、あなた方は必ず質問に答えますよ。私が知っている情報をあなた方が欲しているから…例えば魔法使いについて…とかね?」
マギーの金髪に木漏れ日が当たってキラキラと不敵に輝く。とても美しい金色だが目の前にいる白色と黒色にはそれに見とれている余裕がなかった。そう、目の前の男は二人の最も知りたい情報を持っているかもしれないのだ。大狼が千年近く生きても出会うことがなかった存在。この世界には存在しないと言われている存在。そして自分たちが望むに望んだ存在。嘘かもしれないがその存在が目の前にいるかもしれないのだ。リリィは"欲望という名の希望"と"理性という名の怒り"の間で葛藤する。この男は今しがたマルクに正体不明の攻撃を仕掛けたのだ。リリィにとってマルクは大切な友人だ。またマルクに手を出されたらと思うとリリィはマギーの提案に乗れないでいた。そんな小狼に少年が話しかけた。
「リリィ、この提案に乗ろう。今、このチャンスを逃したら多分一生魔法使いに出会えない気がする。この人が本当のことを言っていたとしても、嘘をついていたとしても、僕はこの人の話を聞きたい。」
「でも!もしあなたに何かあったら!」
マルクは自分を心配する親友に向かって"そのときはそのときさ"とおちゃらけた。マルクは真顔になって目の前の男に顔を向ける。
「マギーさん、その提案受けます。あなたの質問に答えます。その代わり、僕たちに魔法使いについて教えてください。」
マギーは満足そうな顔をして"うんうん"と頷いた。マルクはその場に座る。リリィは少し納得できないような顔をしたがマルクが地面を叩いて自分の隣に促されたので、渋々マルクの隣に座った。ただいつでも金髪頭に襲い掛かれるようにお尻は地面に着けなかった。
「では一つ目の質問を。君たちの関係は?どうして神木の守護者と人間の少年が仲良く一緒にいるのですか?」
「答えられません。」
マギーの問いにマルクは回答を拒否した。リリィの質問にちゃんと答えなかった仕返しだ。その回答にマギーも"そう来たか"と笑った。自分が先に使った回答だ。駄目とは言えなかった。
「なかなか考えましたね。いいでしょう、二つ目の質問です。あなたは私の目線に反応しましたね?なぜですか?」
「分かりません。ただ体や心の中を覗かれているような感覚に襲われました。」
"これでいい、分からないことは分からないというのが正しい答えだ"とマルクは思った。特にウォルマトなどの賢い人ほど正直な回答を望む。相手が賢い人だと思って対応すべきだと考えたのだ。
「正直ですね。ではお嬢さん、次はあなたに質問です。あなたは随分と面白い力を持っているようですが、それは最近手に入れたものですか?それとも生まれた時から?」
リリィとマルクはギョッと驚く。この男は見てもいないはずのリリィの力に気が付いている。二人は顔を見合わせた。
「生まれた時からよ。どんな力かは教えない。」
マギーは"そうですか…"と顎に手を置く。しばらく考えこんで何か納得したように一人で頷いた。
「では最後に…あなたたちは恋人関係ですか?」
「違います」
「違うわ」
リリィとマルクは同時に否定した。その回答に自称魔法使いはニヤッと笑う。マルクとリリィは男の顔に不快そうな顔を向けた。
今回は会話回でした。会話回を書くのは大好きなんです。
ただ読者様から見て面白いのかな?と不安になります。
誤字脱字や読みにくい等あれば教えてください。
よろしくお願いします。
また感想、ブクマ、評価等もお願いいたします。




