表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

1-15

仕事が忙しくて更新できませんでした。

申し訳ありませんでした。

 その日のマルクの成果はウシガエル三匹とウサギ一羽だった。見習いとしては上出来の収穫だ。特にウサギは見習いには捕まえるのが難しい。見習いに許されている神木の広場を中心とした狭い行動範囲では最大級の獲物だ。まだ弓矢を使うことも出来ず、簡単な罠を張ることしかできない8歳児には余程の運がなければ出会うことすら無理だろう。そう考えるとウサギを得ることが出来たマルクは神に愛されているのかもしれない。

……いや、嘘だ。マルクの収穫にはカラクリがある。ウシガエルを池で泥んこになりながら捕まえている間にリリィがウサギを追っていたのだ。リリィはマルクがウシガエルを捕まえた頃を見計らって、ウサギをマルクの方に誘導する。そしてマルクはウサギを罠にかけて捕まえるのだ。


「よし!これで晩御飯のおかずがゲットできた!ありがとうリリィ!」


狩人たちが仕留めた獲物は原則、持ち帰って均等に分けるのが村のしきたりだ。ただそれにも例外がある。見習いの収穫だ。大人たちは子供が仕留めた獲物にまで手を出すほど腕に困っていないと言う自負から、子供は自分の獲った物に関しては好きなだけ家に持ち帰っても良いとされている。マルクは今日仕留めたウサギを持って帰ることにした。


「マルク、あなたもっとスマートに狩れないの?そんなに体を汚して。私の下僕なら体を汚さずカエルぐらい獲りなさいよ。」


「無茶言わないでよ。カエルって獲るの意外と難しいんだよ。そりゃ、森の守護者であるリリィ様には動物に一声かければ簡単なことなんだろうけど。」


リリィの呆れ顔にマルクは軽口で返す。マルクは出会いの日のことを言っているのだ。あの日、狼たちは森の動物たちを狩人たちから遠ざけた。その力を使えば簡単に狩りなど出来るだろうと言っているのである。


「何度も言うけど、相手も必死に生きてるのよ?そんな私たちが死ねって言って死んでくれるはずないでしょ?私たちが出来るのは今いる場所から退いてもらったり、森の様子を伝えさせたりすることぐらいよ。」


リリィはそんなことは出来ないとキッパリと語る。


「大体ね、いくら私たちが森の上位種とはいえ命を差し出せって言って言うことを聞く動物がいるわけないでしょう。私たちだって我らの母に死ねと言われたとしても正当な理由がなければ拒否するわよ?貴方だって例えば自分たちの村長や領主に死ねって言われて死ぬ?死なないでしょ?」


「まぁ、そりゃそうだけど…」


「はいはい、もう終わり。取り敢えずあなたの仕事は手伝ったわ。これで木の実は頂きよ!」


リリィはルンルンでマルクの周りを走り回る。マルクも"分かってるよ"とリリィの顔を撫でた。




 マルクたちが神木の広場に戻ってくると、赤毛の少年が隣の茂みからザザッと鳥やらウサギやらを背負って出てきた。


「よう、マルク。それにリリィも。今戻りか?」


「ルド兄さん!うん、今戻ったとこだよ。」


「カエル3にウサギ1か、またリリィに手伝わせたな?」


赤毛の少年ルドルフは"またやったな?"と言わんばかりにマルクとリリィを交互に見る。ルドルフは12歳になったばかりだが弓と罠を巧みに使い、見習いらしからぬ成果を狩りに出る度にあげている。とても優秀な狩人になるだろうと周りの大人たちから一目置かれていた。マルクはそんなルドルフを尊敬していた。そして何よりもルドルフがマルクをとても大切にしてくれていたのだ。それはルドルフにとって初めての弟弟子であり、唯一の弟弟子であることも要因の一つだろう。赤毛の少年はマルクが初めての狩りに参加したときから兄としてマルクを引っ張っていた。マルクに手取り足取り狩人のイロハを伝えていった。ルドルフにとってマルクは決して優秀な弟ではなかった。だがルドルフは根気よくマルクに様々なことを教えていったのだ。そうしてマルクは狩人見習いとして今に至るのだった。


「マルク、余りにリリィに狩りを手伝わせるな。リリィはこの森の守護狼だぞ?ましてや大狼様のお姫様だぞ。やらないといけないことが沢山あるはずなんだから、余り手を煩わせるなよ。」


マルクはリリィが"やらないといけないことって何だろう?いつも食い意地を張ってるだけなんだけど…"なんて考えたが、尊敬する兄弟子がそう言うのだ。そうなのだろうと納得する。


「はい、分かってます。ごめんなさい、兄さん。」


「あら、私は良いのよ?暇潰しにもなるのだから。それに私が私であること自体が私の仕事よ。ルド、あなたが気にかけるほどのことじゃないわ」


リリィはルドルフに如何に自分が使命に縛られない自由な存在かをアピールする。現にリリィが大狼より任されているのはマルクの家にある神木の守護ではあるが、付きっ切りで見張る必要が無い。それほどまでに神木の若木は夫婦の愛を受けて成長していた。すでにマルク家の神木は自身の力で己のみならば外敵から身を隠せるだけの力を有しているようだった。その証拠にマルクたちの一家以外存在にすら気付いていないのだ。


「しかし、リリィ。それじゃマルクが成長しないだろ?それで困るのはマルクなんだ。こいつのためにも頼むよ。」


「それは大丈夫じゃないかしら?仮にも私の下僕よ?それにあなたがしっかりマルクの面倒を見てるんですもの。その証拠に泥んこになりながらとは言え、ウシガエルを三匹捉えたわ。ついこの間まで一匹捕まえられたら良い方だったのよ?充分な成長だと思うわよ?」


ルドルフはリリィの言葉に困ったような顔をして"程々にしてくれよ"と肩をすくめた。


「それで?マルク、そいつらはどうするんだ?」


「ウサギだけ貰おうと思ってます。残りは狩りの収穫として渡そうかと。」


「ちょうど俺もウサギを獲ったんだ。なら今日はウサギの捌き方でも教えてやるよ。」




 その後マルクはルドルフにウサギの捌き方を教えてもらおうとした。結論として、幼い子供には少し難しいようだった。そしてマルクはウサギを捕まえたのは失敗だったと思った。まだカエルやトカゲはマルクにも捌くことが出来た。そのグロテスクな姿からか、命を奪うことに対して罪悪感をあまり感じなかったのだ。自分たちが生きる為に仕方のないことだと割り切ることが出来た。しかし哺乳類、しかも愛らしい小動物の命が尊敬する兄の手で奪われるのを目の当たりにして、血の気が引いて体に力が入らなくなった。痙攣する元ウサギを見て足がすくんだ。赤毛の少年はマルクの様子を見て、"今日は辞めとこう"と殺したウサギを持ってマルクから離れていった。


「マルク?大丈夫?」


「うん…何とか…カエルとかが捌けたからウサギも出来るだろうって気にしてなかったんだけど…ちょっと僕にはショッキングだったよ。」


マルクはウサギの命が尽きる瞬間、彼と目が合っていた。その目を思い出し、余計に血の気が引く。


「命を奪うと言うことはああいうことよ。狩人として生きようと思うなら命を奪うことを重く、そして真剣に考えなさい。それが命を奪う者としての義務よ。」


「リリィは…他の動物を殺したことあるの?」


「もちろんあるわ。種類だけで言うなら私はあなたたち狩人の大人組より殺してるわよ。小さな虫から大きなクマまで、その森に住む者たち全ての命を奪ったことがあるんだから。まぁ、私がやったのはトドメを刺しただけで、狩りやら何やらは母様や他の狼たちがやったのだけど。それでも私が殺したのよ。それが私たち一族の掟よ。守るべき命の重みを知る為に守るべき命を奪うの。彼らは私に命の重みを教えるためだけに死んだの。私は彼らの命を奪ったことを忘れることは許されないのよ。あなたも私の下僕なら奪った命を忘れないことね。」


マルクはリリィの言葉を全て理解することはできなかった。だが命の重みを忘れてはいけないことだけは理解した。

誤字脱字や読みにくい等あれば教えてください。

よろしくお願いします。

またブックマーク等もお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ