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間も無く過去篇終わります。

 嵐の大軍は去っていった。その中の最も小さな嵐だけは名残惜しそうにずっとマルクを見ていた。マルクはそれに向かって小さく手を振る。それを見て小嵐は嬉しそうに尻ごと尻尾を振っていた。最終的に最大嵐に首根っこを咥えられ森の中に消えていった。


「そういえばお腹が減ったな。」


マルクはお日様がもう空の天辺を過ぎていることに気がついた。


「あっ、そういえばリリィに全部取られたんだった。今日は我慢かなぁ。」


森に入ってからの出来事を思い出す。何とまぁ、濃厚な朝だったのだろうか。春の早朝に父と初めて朝日を浴びたことから始まり、父の仕事場である森に初めて入った。森では狼たちに出会って怖い思いも痛い思いもしたけれど、村では余り盛り上がらない魔法使いの話で盛り上がれる友達が出来た。ふと、マルクは大事な事を思い出した。


「母さんに父さんのこと、言わなきゃ」


自分の父はカッコいい狩人でもあったが、ダメダメ親父でもあった。どんなに仕事が出来ても人に迷惑をかけてはいけないのだ。マルクは妙な正義感に燃えた。


 嵐たちが去っていき、一刻ほど経った。森の奥から狩人たちが帰って来た。幾ばくかの得物を捉えて来たようだ。鹿や猪を運んでくるのが見える。それを見た広場の子供たちは安堵のため息のつく。大人たちもそれを見て何かあったのだと察する。ダンは"何があったんだ?"と息子に視線を送る。視線に気がついた青年は父親に小走りで近づき、事の一連を説明した。


「そうか、守護狼が…よく皆を守ろうとした。不甲斐ないところがあっただろうが、反省はうちに帰ってからするがいい。まだお前は若い。これからさらに精進せよ。」


ダンがマルクに優しく話しかけた。ダルクは"はい"と答えただけでダンの元を離れた。そんな中、ダメ親父が可愛い息子に近づいて来た。


「マルク!無事だったか!?怪我は?」


「うん、無事だよ。ただ怪我は少しした。もう治ったところもあるけど。」


マルクは額に手を当てた。やはり傷が消えている。少年は少し痛む両肘両膝の打ち身に薬を塗っていなかったことを思い出した。少年が傷薬をつけるため、裾と袖を捲り上げて腰を下ろした。その様子を見ていたノイルはマルクの前に膝をついた。


「怖い思いを、痛い思いをしたみたいだな。大丈夫か?マルク。」


「うん、大丈夫。確かに怖かったし痛かったけど、それ以上に良いこともあったし凄いことも教えてもらったよ!」


マルクは昼までに起きた濃厚な体験をいくつか話した。


「そうか、あの祠が。それは父さんも知らなかったな。大狼は…他に何か言ってなかったか?」


ノイルの歯切れの悪い質問にマルクは母からもらった二つの小袋の中身の件を思い出した。だが何故だろう、父の様子を見て言うのを辞めてしまった。別に隠そうと思ったわけではなかった。もちろん意地悪をしてやろうと思ったわけでもない。きっと自分の父親は大狼が怒っていたことを伝えられてもきちんと理由を説明して大狼の怒りを鎮めるだろうと確信を持っていた。しかしマルクは言わなかった。特に理由はない。心が必要ないと自分に訴えかけたのだった。


 狩人たちは見習いたちが仕事ができる状態でないと判断して、生け捕った獲物をその場でテキパキと手際良く締め、解体しだした。森を出ることにしたのだ。大人たちはいつもと変わらないが、子供たちはお通夜状態だった。初めてのことでよほど疲れたのだろう、肉体的ではなく精神的であったが。マルクも森に入ったときと同じように父親に抱えられた。そして抱えられ歩きだした頃には父の肩に涎を垂らしそうなほど締まりの顔になっていた。ノイルはそんな息子を大切に丁寧に、そして宝物のように運んだ。実際にノイルにとってマルクやノーラは宝物で間違いないのだから不思議ではないが。


 一同が村に着く頃にはすっかり日が傾いていた。狩人たちは少ない収穫を分け合う。今回の収穫では今晩の夕食分くらいにしかならないだろう。マルクにも同様の量が配給された。マルクは"働いていないから"と受け取りを拒否しようとしたが"家族で分け合うのは当然だ、赤子であっても共に森に行ったのであれば配給する。それが我々のルールだ"と受け取り拒否は受け入れられなかった。さらにダンの後ろに控えていたダルクが自分の取り分をマルクに渡した。マルクが"えっ?"と驚くと青年は謝罪した。


「マルク、怖い思いをさせて悪かった。これは侘びの印だ。受け取ってくれ。ノイルさん、大事なお子さんに傷をつけてしまって申し訳有りません。またご指導お願いします。」


「マルク、受け取ってやれ。」


ノイルがマルクの肩に手を乗せて微笑んだ。


「ダルク、よく逃げ出さず兄弟を守った。ダンも言っていたがお前はまだ若い。これから経験を積んでいけば良い。だから気にするな。次の狩りではこの俺が大漁を約束しよう。そのときにでもまた色々教えてやる。」


凄腕は若者に約束した。青年は"ありがとうございます"と言うと父親と一緒に家に帰っていった。


「さぁ、マルク。俺たちも帰ろう。」


親子は帰路に着いた。




 家に着いたマルクたちはマリアとノーラに出向かれた。


「初めての狩りはどうだった?楽しかった?」


ノーラは土産話を要求した。マルクは母に着替えを手伝われながら、森であったことを話した。


「色々あってさ、あんまり狩り仕事は出来なかったんだ。でも喋る狼と出会ったよ!そのうちの一頭と友達になったんだ!その子からは下僕だって言われたけど。」


"何それ、変なの"と笑うノーラ。


「森に住む狼と言えば守護狼様ね?それは貴重な経験をしたわね。守護狼に会えるなんて年に一度の祈祷祭に村長と狩人長が森の奥に入って会えるぐらいなのよ?」


マリアは守護狼に会えるのがどこくらい珍しいことなのか説明する。マリアはマルクを着替えさせると今日の収穫を使って夕飯作る準備をし出した。母親が用意する食材を見てマルクとノーラは今日の夕食が何なのか話し合う。"シチューだと思うな!"、"グラタンじゃない?"なんて言い合いながら夕食を待っていた。


 結果として、マルクはノーラ秘蔵のお菓子を手に入れた。ホクホク顔で自分の前に置かれたシチューを見ていた。窓の外を見るとすっかり日も暮れて外は真っ暗だった。マリアが全員に夕飯を配膳し終わった。


「じゃあ、頂きましょう。」


「いただきます!」


マルクたちは手を合わせて食事の挨拶をする。そんなとき、


コンコン


扉がノックされた。マルクは何故か自分が呼ばれた気がした。


「誰だろう?僕が出るよ!」


少年は椅子を降り、扉を開けに行った。


「はぁい、どちら様ですか?」


マルクが扉を開けるとそこには女が立っていた。何とも艶やかで、妖美で、妖艶で、優艶で、官能的で、そしてセクシーだった。どんなに美しさと性を掻き立てる言葉を綴ってもその美しさを前には物足りなさを感じる。まだ精通も迎えていないマルクですら思わず見惚れるほどの美しさ。そこには世界の美しさが人の皮を被った存在がいた。女は美しく輝いていた。比喩でもなく本当に、実際に仄かに光を纏っていたのだ。まるで体全身が神の祝福を受けたように。だが問題はそこではなかった。女が裸なのだ。身に一切衣を纏っていない、生まれたままの姿。マルクは思わず扉を閉じた。そしてギギギッと音を立てながら首を後ろに向けた。目を見開き、口は顎が外れたのかと思うほど開いている。


「マルク?誰だったの?人が訪ねてきたのに扉を閉めたら失礼でしょ?」


ノーラが扉を開けた。ノーラは扉を閉じた。そしてギギギッと首を後ろに向けた。ノーラも目を見開き、口を限界まで開けていた。


「かっ、母さん!神様が立ってる!そこに!裸で!光ってる!」


ノーラは母親に見た物を伝えようとした。すると扉を掻く音が聞こえる。クゥーンという鳴き声と共に子犬が扉を開けてとおねだりしている音が聞こえた。マリアは何事かと扉を開けた。マリアは目を見開いた。だが子供たちのようにフリーズしなかったのは、人生経験の差なのか、それとも自分も負けじと美しさの化身であると自覚があったからなのか。


「一先ずお入りください。そのような格好で外に立たられると迷惑です。私の服を貸します、それをきてください。貴方が誰かはその後でじっくりの聞かせてもらいます。」


女は何も言わず、頷くとうちの中に入って来た。隣には小さな狼が居た。


「何を馬鹿面を晒しているの?私の下僕ならシャキッとしなさい。それ以上鼻の下を伸ばすと噛み付くわよ?」


リリィだった。

誤字脱字や読みにくい等あれば教えてください

よろしくお願いします。

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