罠へノ誘い
初投稿になります。
不定期になると思いますが温かい目で見守って下さい。
運命的な出会いであった。
私はそう信じているが、彼がどのように感じているかは分からない。
だが、今あのときのことを思い出しても、そうとしか例えようがない。私にとってはそれほどのーー運命という言葉を信じられるような出来事であったのだからーー。
陽光の届き難い狭い路地を彼女は走っていた。
そこは人通りも少なく、野良猫やカラスがゴミ箱を漁っていたのか、生ゴミが各所に散乱し、とても衛生的と呼べるような場所ではなかった。
まだ追ってくる。
ハアハアと息を荒らげながらも、思考は妙に落ち着いており、まるで他人事のようにそんなことを考えていた。
力はーーやはり使えない。
手に力を込めても、手のひらがぼんやりと光るのみで、この現在置かれた状況を打破できるようなものは期待できなかった。
そんな一瞬の隙を狙ってか、自分を追いかけていた火球が襲い掛かる。
「くっ…!」
身を翻しそれを避ける。
自分が先程までいた場所に、野球ボール大の火球が衝突し、小さな火柱が上がる。
今の自分の状態では、あんなものでも当たれば無事ではすまない。
火柱が収束し、再び火球となり、ゆらゆらと浮かび上がった。
まだ追いかけっこは終わらない。
言外にそう言われているようで、おそらくこの火球を操っているであろう人物を心の中で罵った。
見つからないように、このような場所に隠れていたが、失敗だったようだ。
たが、後悔しても仕方がない。今はこの路地を早く抜けて人通りの多い場所に出るしかない。流石に繁華街の近くまでは、人払いの術も効果が及ばないだろう。
彼女は決意を新たに走り出す。
しかし彼女が考えていることは、追跡者には筒抜けであった。
彼女がこの付近で隠れて居たのは3日。追跡者は1日目には既に彼女の居場所を捕捉し、2日目にこの付近の道を完璧に調査し、逃走ルートのシミュレートを行い、計画を補完。そして、3日目にして、彼女の捕獲作戦を決行した。
今のところ大きな計画の狂いはない。彼女は自分の計画通りに動いている。つまり彼女は袋のネズミであった。
今のルートを進んでいけば彼女の行く末は死である。
なぜなら今追いかけている火球が実に10個、この路地の出口には待ち構えている。
彼女が安心した瞬間にそれら全てが殺到する。
その様子を思い浮かべると、追跡者は心底楽しそうな笑顔を浮かべた。
ほんの一瞬だけ気をそらしたが、追跡者は再び意識を集中する。あと少しなのだ。ここまで来て計画を台無しにするわけにはいかない。
そう、あと少し。次の分岐路を越えれば後は一本道だ。
しかし、その分岐に差し掛かる直前で追跡者はイレギュラーに遭遇する。
人だ。
人払いの術が発動しているとはいえ、効果は万全ではなく、例外も存在する。そのため、術中に誰かが紛れ込んだ場合、発動者は感知できるようになっている。
しかし、先刻の僅かな油断で気付くのが遅れてしまったのだ。
心の中で舌打ちをする。せっかく上手く事を運べていたのに、こんなことで、昨日の苦労が台無しになるのは、とてもではないが許容できるものではない。
様々な思惑が頭のなかを駆け巡ったが、気を取りなおして火球の操作に集中する事にした。
いざとなれば、イレギュラーの記憶を操作してしまえばいい。 少々面倒だがどうせ彼女の身柄も回収しなければならないのだ。
イレギュラーのことは頭の片隅に追いやり、標的を見つめる。もはや追跡者の目には、自ら罠に飛び込む哀れな獲物のようにしか、映らなかった。
まだプロローグで、あらすじがネタバレになりますが、そういうものだと思って許して下さい。お願いします。




