プロローグ
その年、キルヴィス王国では例年よりも早く冬が訪れた。穀物の収穫が終わり、人々がささやかな祭りを楽しむ最中に雪が降り始めた。
喜ぶ子供たちはよそに、大人たちは灰色の空を見上げながら、今ある食糧で果たして冬を越えられるのかと不安げに眉を寄せた。
その年は冷夏の影響で作物の育ちが悪く、前年の3分の2程度しか収穫かなかった。
前年も決して豊作と呼べるほどの年ではなかった為、農村部の備蓄は十分ではなく、このままでは多くの村が飢餓に見舞われることが予想された。
農民達の訴えにより各地の領主は税を軽減し、飢饉の際に解放される領主所有の備蓄庫を解放した。
だが、備蓄庫の恩恵を受けることができたのは一部の人間だけだった。領都に近い村や町はともかく、領都から離れた村や町は半ば見捨てられたような状態だった。
収穫祭の最中に降り始めた雪は日を追うごとに勢いを増し、瞬く間に国中は雪で覆われた。
山沿いの村や、録に街道の整備されていない町は雪で閉ざされ、完全に外界との接触をたたれてしまった。
二月後には大陸の西側の国々は殆どが記録的な積雪に見舞われ、キルヴィス王国だけでなく、キルヴィス王国が加盟するデュラハム連合国全体で多くの餓死者、凍死者が出た。
そして、その四ヶ月後。
例年であればとっくに春になってもおかしくない時期になっても雪はやまなかった。